株式譲渡契約書の主要条項を解説|M&Aの契約交渉時の注意点
[投稿日] 2021年01月20日 [最終更新日] 2021年01月20日
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奈良万葉法律事務所株式譲渡によるM&Aを行う際には、株式譲渡契約書の内容がきわめて重要になります。
取引によって生じるリスクを想定したうえで、自社にとって過度な負担が課されていないかの点を中心に、株式譲渡契約書の内容を十分にチェックすることが大切です。
この記事では、株式譲渡契約書の主要条項や、契約交渉時における売主・買主それぞれの留意事項などについて解説します。
1. 株式譲渡M&Aにおける契約書の主要条項株式譲渡M&Aの契約書における主な条項を、項目ごとに解説します。
1-1. 株式数・代金・支払方法などの基本事項「どの株式をいくらで売買するか」ということは、株式譲渡契約書においてもっとも基本的な事項です。
株式譲渡契約書でも、以下の事項については、当事者の想定と齟齬がないようにチェックしたうえで記載しておきましょう。
・株式の銘柄
・株式数
・種類株式の場合はその内容
・譲渡価格
・譲渡代金の支払い方法
など
株式譲渡の取引を法的に有効な形で完結させるためには、売主側の協力が必要になりますので、その手続きについて株式譲渡契約書に書き込んでおきます。
主には、譲渡制限株式の場合の譲渡承認に関する手続きや、株主名簿の名義変更の手続きが挙げられます。
1-3. 株式譲渡の実行前提条件株式譲渡M&Aの取引条件は、デューデリジェンスの結果などを踏まえたうえで、ある基準時点における会社の価値を参照して決定されます。
もしも基準時点以降に状況が変わったことによって、会社の価値が下落するなどした場合には、取引の前提が変わってきてしまいます。
そのため、株式譲渡の実行に関する前提条件を設定して、すべての前提条件を満たした場合のみ、株式譲渡が実行される旨の条項が規定される場合があります。
実行前提条件の規定は、売主・買主間のリスク分散の問題に関わるため、どのような内容が規定されるかは契約交渉次第です。
なお、上記とは別に、株式譲渡M&Aによって経営権が移転することに関連して、会社に関する基本的な書類(株式譲渡に関する意思決定の取締役会議事録、代表印、通帳、現取締役の辞任届など)の引き渡しも実行前提条件として規定されるのが通常です。
1-4. 表明・保証表明・保証も、実行前提条件と同じく、売主・買主間のリスク分散に関する規定として位置づけられます。
表明保証の規定においては、主に売主から買主に対して、ある一定の基準時における会社の状態などについて、記載内容のとおりで間違いない旨の表明・保証が行われます。
そして、表明保証の内容に間違いがあったことが後日判明した場合には、売主は買主に対して、表明保証の齟齬によって生じた損害を賠償しなければなりません。
表明保証の内容は、株式譲渡M&Aに伴い生じ得る各リスクについて、売主がどこまで責任を負うことができるのかなどの観点を踏まえつつ、契約交渉によって決定されます。
実行前提条件と同じく、売主・買主間の交渉力が色濃く反映される条項といえるでしょう。
売主から買主に株式が譲渡された途端に、売主が発行会社と競合する事業を同じ地域で始めてしまっては、発行会社のシェアが奪われてしまい、会社価値が毀損されることにもなりかねません。
そのため株式譲渡契約書では、売主に対して、一定の範囲で競業避止義務を課すケースがあります。
競業避止義務の範囲は、以下の要素によって規定されます。
・対象事業の範囲
・対象地域の範囲
・存続期間
・競業避止義務を負う者の範囲
競業避止義務の範囲が広ければ広いほど売主不利・買主有利となり、逆に狭ければ狭いほど売主有利・買主不利となります。
そのため、どの程度の競業避止義務が設定されるかについても、契約交渉におけるポイントの一つといえます。
どちらかの契約違反によって株式譲渡M&Aが頓挫したり、譲渡実行後に買主が損害を被ったりした場合に備えて、損害賠償に関する事項も株式譲渡契約書に規定されます。
民法上は、故意・過失によって相手方に損害を与えた側が、相手方に対して相当因果関係の範囲内で損害を賠償するというのが原則的なルールです。
株式譲渡契約書でも、この民法のルールをそのまま規定するのがスタンダードになっています。
ただし、契約交渉の結果によっては、
・損害賠償義務を重過失がある場合に限定する
・損害賠償の上限を設ける
・違約金条項を設ける
などの調整が行われることもあります。
1-7. 契約解除に関する事項表明保証に対する重大な違反などがあった場合には、損害賠償に加えて、契約の解除を認める規定が盛り込まれるのが通常です。
1-8. その他雑則的な事項上記以外に、以下の条項などが雑則的に規定されます。
・秘密保持義務
・権利義務の譲渡禁止
・契約の変更に関する事項
・協議事項
・準拠法
・専属的合意管轄
株式譲渡M&Aの契約交渉においては、売主・買主がそれぞれの立場を踏まえて要望を出し合い、妥協点を探っていくことになります。
契約交渉時における、売主側・買主側のそれぞれの留意点は、おおむね以下のとおりです。
2-1-1. 無理な表明保証をしないように注意する
売主側としては、表明保証違反による責任を負うことがもっとも大きなリスクとなります。
したがって、表明保証の範囲をできるだけ限定するに越したことはありません。
株式譲渡契約書における表明保証規定の中で、範囲が広すぎるもの、売主が把握・コントロールすることが困難なものなどについては、合理的な理由を説明したうえで拒絶しましょう。
2-1-2. 競業避止義務の範囲が広がりすぎないようにする
売主としては、これまで行ってきたビジネスの延長線上で、次のビジネスを始めたいというニーズもあるでしょう。
そのため、競業避止義務の範囲をできるだけ狭くすることも重大な関心事になります。
事業内容・地域・期間などの観点から、売主が今後展開することが予想されるビジネスが極力阻害されないような競業避止義務の範囲を提案しましょう。
2-2. 買主側の留意点2-2-1. 取引の前提となる重要事項は前提条件・表明保証でカバー
買主側としては、株式譲渡の条件を取り決めた時点と比べて、実行時点における会社の財務状況などが悪化しないことが何よりも重要です。
万が一状況が変化した場合に備えて、取引の前提となる重要事項については、売主に対して変動のリスクを負わせるように、実行前提条件や表明保証の規定を充実させておきましょう。
2-2-2. 問題発生時は損害賠償・契約解除ができるようにしておく
売主の契約違反によって買主に損害が生じた場合には、損害賠償や契約解除によって損害を回復できるようにしておかなければなりません。
特に損害賠償の範囲については、過失要件や金額の上限などによって制限されることがあるので、自社に生じ得る損害を十分カバーできる内容になっているかをよく確認することが大切です。
3. まとめ株式譲渡M&Aの契約交渉では、売主・買主間のリスク分散の観点が重要になります。
したがって、株式譲渡M&Aを行う際には、自社が不当に大きなリスクを負うことになっていないかについて、弁護士に相談しながら契約書の文言を精査することが大切です。
M&Aの契約交渉に臨む企業担当者の方は、契約書のレビューや交渉の方針などについて、事前に一度弁護士にご相談ください。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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