株式譲渡M&Aにおける法務デューデリジェンスのチェックポイントを解説
[投稿日] 2021年02月17日 [最終更新日] 2021年02月17日
M&A・アライアンスを得意としている弁護士
株式譲渡M&Aを成功に導くためには、各種のデューデリジェンスを適切に行うことが必要不可欠です。
特に法務デューデリジェンスは、株式譲渡M&Aから生じる法的なリスクをコントロールするために、きわめて重要なプロセスとなっています。
今回は、株式譲渡M&Aにおける法務デューデリジェンスの概要やチェックポイントについて詳しく解説します。
目次 |
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株式譲渡M&Aを実行する前には、対象会社を買収することについて法的な問題がないかをチェックするために、買主側によって「法務デューデリジェンス」が行われます。
1-1. 法務デューデリジェンスの概要・目的株式譲渡M&Aは非常に金額の大きな取引になるうえ、一度取引を実行してしまうと、元の状態に戻すことはきわめて困難です。
もし対象会社に隠れた法的な問題があった場合には、買主が対象会社の運営を引き継ぐに当たって、思わぬリスクを抱えることになってしまいます。
このような事態を防ぐために、株式譲渡M&Aを実行する前の段階で、買主側が法的な観点から対象会社を徹底的に調査するのが「法務デューデリジェンス」です。
1-2. 法務デューデリジェンスが実施されるタイミングは?法務デューデリジェンスが実施されるのは、売主・買主間で株式譲渡M&Aに関する基本合意書が締結された後、かつ最終合意書が締結される前です。
法務デューデリジェンスには大きなコストと時間がかかるため、基本合意書の締結によって買主候補が1社に絞られた段階で行われます。
1-3. 法務デューデリジェンスに要する期間は?法務デューデリジェンスは、対象会社の規模にもよりますが、おおむね1か月から2か月の期間をかけて行われます。
取引に関するトラブルを防止するため、十分なリスクの洗い出しが必要なので、ある程度の期間をかけて実施されるのが一般的です。
2. 株式譲渡M&Aにおける法務デューデリジェンスの実施方法は?株式譲渡M&Aにおける法務デューデリジェンスは、主に書類のチェック、現地調査、マネジメント・インタビューなどの方法により行われます。
2-1. 契約書類・社内規程などのチェック契約書類や社内規程のチェックは、法務デューデリジェンスの中でもメインの作業となります。
対象会社が保有する契約書類・社内規程その他の資料をすべて開示してもらい、その中から法的に問題がありそうなポイントを、弁護士を中心とした人海戦術で洗い出します。
工場・店舗・オフィスなどに対する現地調査も実施されるのが一般的です。
現場の状況を確認したり、責任者に対するインタビューを行ったりして、書類上だけではわかりにくい対象会社のオペレーションの実態を調査します。
対象会社の経営層(マネジメント)に対するインタビューも、法務デューデリジェンスの中で重要な要素を占めます。
書類のチェックや現地調査の中で浮上した疑問点を解消することのほか、経営理念や事業の特性などについての理解を深め、買収後の事業運営に役立てることも重要なポイントです。
株式譲渡M&Aにおける法務デューデリジェンスで確認すべき主な事項は、以下のとおりです。
3-1. 契約に関する事項契約上、対象会社がどのような権利を持ち、どのような義務を負っているかは、株式譲渡M&Aの取引においてもっとも重要な要素の一つです。
法務デューデリジェンスの中で、対象会社が関係するすべての契約を詳細にチェックし、法的な問題がないかを確認します。
契約関係の中で特に重要とされているポイントが「COC条項(Change of Control)」の有無です。
COC条項とは、対象会社の支配権に変更があった場合に、相手方に契約の解除権を与えることなどを内容とする契約上の規定を意味します。
もし重要な契約においてCOC条項が含まれていると、株式譲渡M&Aが実行された後でその契約が解除され、買主が不測の損害を被ってしまうことにもなりかねません。
そのため、COC条項の存在が法務デューデリジェンスにおいて確認された場合には、そのリスクについて精査が行われます。
対象会社の資産・負債は貸借対照表によって確認できますが、その法的な背景を精査することも重要です。
特に資産については、登記上所有権を有しているか、担保権の設定状況、知的財産権の有効性、債権の回収可能性など、法的なチェックポイントが数多く存在します。
このような点を、法務デューデリジェンスを通じて検討し、貸借対照表だけではわからない真の財務状況を明らかにします。
対象会社が違法なオペレーションを行っていたり、必要な許認可を取得していなかったりするケースもあり得ます。
この場合、株式譲渡M&Aの実行後に巨額のペナルティが課される、社会的な評判が下がるなどの影響が生じ、対象会社の価値が毀損されてしまうことになりかねません。
そのため法務デューデリジェンスでは、対象会社が関連するあらゆる法令との関係で、遵法性に関する調査・検討が行われます。
3-4. 紛争(訴訟など)に関する事項対象会社が第三者との間で訴訟などの紛争を抱えている場合、請求する側・される側のどちらであっても、紛争の結果について不確実性が生じます。
よって、対象会社が紛争を抱えている場合には、法務デューデリジェンスを通じてその結果についての見通しを分析し、そもそも買収をすることが適切などうか、買収価格をどのように設定するかの精査を行うことが必要です。
3-5. 株主に関する事項株式譲渡M&Aでは、買主が対象会社の支配権を得られるだけの株式譲渡が行われます。
買収対象となる株式数を決定するためには、株主構成に関する正しい認識を前提とする必要があります。
さらに、そもそも売主が法的に有効な株主であるかという点についても、取引の前提として確認することが必要です。
このように、対象会社の株主に関する法的な状況についても、法務デューデリジェンスにおける基本的かつ重要なチェックポイントになります。
3-6. 労務に関する事項対象会社の事業を株式譲渡M&Aの実行後も円滑に運営していくためには、対象会社の従業員の協力が必要不可欠です。
そのため、対象会社が従業員との間で労務紛争を抱えていないか、株式譲渡M&Aをきっかけとして従業員が反旗を翻す動きが生じていないかなどの情報を、法務デューデリジェンスを通じて得ておく必要があります。
また、未払い残業代や不当解雇などの問題が恒常的に生じている場合、後に従業員から金銭的な請求を受ける可能性もありますので、法務デューデリジェンスを通じてリスク分析を行っておくことが大切です。
4. 株式譲渡M&Aの法務デューデリジェンスは弁護士にご相談くださいこれまで解説したように、株式譲渡M&Aの法務デューデリジェンスでは、対象会社に関する情報を隅々まで、法的な観点からチェックする必要があります。
株式譲渡M&Aに関するリスクを適切にコントロールできるような法務デューデリジェンスを実施するには、弁護士の知識・経験・マンパワーが必要不可欠です。
株式譲渡M&Aの取引を成功に導くためにも、契約交渉の初期段階から早めに弁護士に相談し、法務デューデリジェンスを含めた全体的な見通しを立てておくことをお勧めいたします。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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