電子契約導入時の注意点は?法的なリスクと対処法
[投稿日] 2020年12月25日 [最終更新日] 2020年12月25日
危機管理を得意としている弁護士
電子契約はその高い利便性のため、企業の法務担当者から近年注目されている分野の一つです。
特に最近は新型コロナウイルスの影響拡大によるテレワーク推進の流れも相まって、電子契約に対する注目度はいっそう高まりを見せています。
電子契約が便利であることは事実ですが、実際に導入する際には、電子契約のリスクにも留意が必要です。
この記事では、企業が電子契約を導入する際に、注意すべきリスクと対処法を中心に解説します。
電子契約は、従来の紙の契約書が抱える問題点を、さまざまな面から解決できるものとして注目されています。
電子契約導入の具体的なメリットは、以下のとおりです。
電子契約は、オンライン上で締結プロセスが完了します。
従来の契約実務では、クロージングは対面式で行うのが一般的でした。
しかし電子契約であれば、両当事者が一堂に会して契約締結を行う必要はなく、移動などのコストを削減できます。
新型コロナウイルス感染症の影響が懸念されている昨今の状況にも、電子契約の非対面性はマッチしやすいといえるでしょう。
さらに、電子契約サービスを通じた電子契約の締結プロセスは、非常に簡易な操作によって行うことができます。
そのため、契約交渉から締結までのタイムラグを最小化して、迅速な契約締結を実現することが可能です。
電子契約には、オンライン上での契約管理が容易であるというメリットもあります。
従来の紙の契約書の場合、契約書を保管する場所の確保が必要のため、オフィススペースの浪費が問題になっていました。
また、紙の契約書には検索機能がないので、特に分量の多い契約書の場合、どこに何が書いてあるか探すのが大変です。
電子契約であれば、オンライン上に保存容量を確保しておきさえすれば、物理的な契約書の保管スペースは必要ありません。
また、検索機能を用いた横断的なサーチも可能なので、契約の内容管理の利便性も大幅に向上しています。
電子契約には、印紙税がかからないという特長もあります。
従来の紙の契約書は、印紙税法に基づき、契約書の内容に応じた印紙税が課されていました。
これに対して電子契約は、印紙税法にいう「文書」に該当しないため、印紙税は非課税です。
特に金額の大きな取引を取り扱う企業の場合、印紙税のコストがかさむケースも多いため、電子契約導入のメリットは大きいでしょう。
2. 電子契約を導入するリスクとは?電子契約には多くのメリットがある一方で、導入時には紙の契約書とは異なる新たなリスクが発生します。
電子契約を導入する企業としては、以下のリスクに適切に対処することが必要です。
電子契約は非対面で行われるため、相手がどのように契約締結プロセスを進めているのかを直接確認することができません。
特に、契約締結権限を与えられている人がきちんとプロセスに関与しているかどうかは、契約締結の有効性に直接影響を及ぼします。
電子契約を締結する企業としては、相手から契約の有効性を蒸し返されることがないように、後述する方法などを用いて、相手からエビデンスを取得しておくことが大切です。
電子契約は電子ファイルであるがゆえに、常に情報漏洩のリスクと隣り合わせです。
情報漏洩のよくあるケースとしては、以下のパターンが挙げられます。
①担当者のミスにより、無関係の第三者にファイルを送信してしまう
メールの送付先を間違えるなどして、無関係の第三者にファイルを送信してしまうのは、情報漏洩の典型的なパターンといえます。
従業員個人の意識・注意深さの問題もありますが、企業としてもシステマティックな対応が求められます。
②案件に関係ない従業員が不正にファイルを持ち出してしまう
契約の内容は企業にとって重要な機密情報なので、関係ない人に利用されることは絶対に避けなければなりません。
そうであるにもかかわらず、電子契約のファイルに案件とは関係ない従業員がアクセスできる状態になっていると、不正利用のリスクが高まってしまいます。
③サイバー攻撃を受けてファイルデータが流出してしまう
電子契約が電子ファイルである以上、コンピュータウイルスなどによるサイバー攻撃に対して警戒すべきことは言うまでもありません。
電子契約を導入する際には、全社的に情報セキュリティ対策を強化することが必要です。
電子契約を初めて導入する場合、電子契約の取扱いについて新しい社内ルールを設ける必要があります。
たとえば、
・どの契約を電子契約の対象にするか
・契約締結権限を誰に与えるか
・締結の承認プロセスをどうするか
・電子契約の保管方法
・セキュリティに関するルール
など、決めておかなければならないことは数多く存在します。
こうした複雑なルールを法的に整合性が取れた形で作成し、かつ社内で承認を取るためには、時間的・経済的コストが一定程度かかることは不可避でしょう。
3. 企業が電子契約のリスクを軽減する方法電子契約に特有のリスクを軽減するために、導入を検討する企業は、以下の方法などを用いて、自社のオペレーションに悪影響が生じないかを注意深く確認することをお勧めいたします。
3-1. 相手方の契約締結権限をしっかり確認する電子契約は非対面で締結プロセスが見えにくい分、相手方の契約締結権限の確認を徹底することが大切です。
契約締結権限を確認する方法としては、電子証明書を用いることが一般的です。
電子契約に用いる電子証明書は、電子契約サービスのパッケージに含まれていることもあるので、詳しくは電子契約サービスの提供業者に確認しましょう。
従業員の人為的ミスによる電子契約の情報漏洩リスクを防ぐには、アクセス権とパスワードの設定が有効です。
電子契約を保管するフォルダにアクセス権を設定して、案件に関与するメンバーしかファイルにアクセスできないようにすれば、電子契約のデータにタッチする人数自体が抑えられるため、必然的に情報漏洩リスクは減少します。
さらに、万が一第三者にファイルが渡ってしまった場合でも、適切なパスワードが設定されていれば、受領者は中身を確認することができません。
このように、人為的ミスによる情報漏洩リスクに対しては、システム上の対策を二重・三重に施すことをお勧めいたします。
3-3. ウイルス対策ソフト導入の徹底によるセキュリティ強化サイバー攻撃対策としては、ウイルス対策ソフトの導入を徹底しましょう。
もしシステムの一部でもウイルス対策ソフトの導入が漏れていたり、バージョンが古くなっていたりすると、その隙から情報漏洩が発生してしまうおそれがあります。
そのため、企業のシステム全体についてウイルス対策が万全かどうか、今一度チェックしておきましょう。
電子契約に関するシステム・社内制度を導入する際には、法律その他の観点からの慎重な検討が不可欠です。
自社だけで検討するとどうしても漏れが生じてしまいますし、既存業務の対応をしながらでは、検討に長い時間がかかってしまいます。
弁護士に電子契約導入に関する相談をすれば、電子契約に関して想定されるリスクへの対処法をさまざまな観点から提案してくれます。
また、短期間で集中して検討を進めることにより、迅速な電子契約の導入が実現できる可能性が高まります。
電子契約の導入を検討している企業担当者の方は、一度弁護士にご相談ください。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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