逮捕・勾留

逮捕・勾留されたらどうなる?場所や状況、期限などについて
逮捕とは、捜査機関が被疑者の逃亡及び罪証隠滅を防止するため強制的に身柄を拘束する行為をいい、勾留とは、裁判所による、被疑者もしくは被告人を刑事施設や代用刑事施設に拘禁する旨の処分をいいます。定められた場所にいることを強制する意味では類似する制度ですが、その主体も目的も場面も微妙に異なります。ここでは、被疑者が逮捕されてから裁判にかけられる過程で割り当てられるそれぞれの役割を確認して、理解を深めます。
逮捕についての基礎知識逮捕は、検挙とも呼ばれます。 現行法上、逮捕による身柄の拘束時間は原則として警察で48時間・検察で24時間の最大72時間です。
逮捕の目的については、法律上は、先にも述べたように罪証隠滅の恐れ、もしくは逃亡のおそれがある場合における被疑者の身柄の確保にありますが、捜査員の主観においては被疑者の取調べが主な目的であり、また、マスメディアで取り上げられるような著名な事件では、見せしめを狙った逮捕や、権力に逆らう人物を弾圧目的で逮捕する例も見られるといわれることもあります。
通常の逮捕のパターンを説明しましょう。通常逮捕とは、事前に裁判官から発付された令状(逮捕状)に基づいて、被疑者を逮捕すること(令状主義といいます)を指します(憲法33条、刑訴法199条1項)。これが逮捕の原則的な法的形態となります(緊急逮捕、現行犯逮捕が必要な場合に例外的な方法が認められています)。
検察官又は司法警察員から逮捕状の請求があったときは、裁判官が逮捕の理由と逮捕の必要を審査して、逮捕状を発付するか、請求を却下するか判断します。ただし、軽微な事件については、被疑者が住居不定の場合又は正当な理由がなく任意出頭の求めに応じない場合に限ります。裁判官は、必要であれば、請求者を裁判所に呼び出して説明させることもできます。ただ実際には、呼び出しもなく請求通り逮捕が認められることがほとんどです。
逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければなりません(刑訴法201条1項)が、例外の方法もあります。
逮捕された被疑者は、起訴される前の段階であることから、あくまで刑事上の事実認定や法律上の取り扱いにおいて無罪を推定されている立場にあります。
逮捕後には、被疑者が違法な物品を施設内にもちこまないように、拘置所や留置場で身体検査がおこなわれます。
逮捕には同一の犯罪事実については、逮捕は1回しか許されないというのが、刑事訴訟における原則となっています(再逮捕・再勾留禁止の原則)。同一の被疑事実か否かは、案件ごとに難しい判断が求められます。
勾留は、逮捕後、起訴されて裁判を受け、判決に至るまでの間に被疑者・被告人の身柄を拘束する制度です。以下に述べるように必ず逮捕の後に勾留へ移行するわけではありませんが、勾留に移行するケースが多いこともたしかです。
被疑者の勾留の要件は、すべて刑事訴訟法に定められており、(1)犯罪の嫌疑、(2)勾留の理由、(3)勾留の必要性です。犯罪の嫌疑とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由だとされ、また勾留の理由には、被疑者が定まった住居を有しない、被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある場合です。そして勾留の必要性があるというためには、嫌疑及び勾留の理由があっても、被疑者を勾留することにより得られる利益とこれにより生まれる不利益とを比較して、均衡を害しない場合にのみ許される、とされます。理屈でいえばこれだけですが、個別には、これも大変難しい判断が求められます。
被疑者の勾留は、先に適法な逮捕がされている場合にのみ認められます(逮捕前置主義)。
手続きとしては、検察官が、「勾留請求書」を作成の上、裁判官に提出して請求します。これを受けて裁判官は、被疑者に対して被勾留質問を行い、勾留状を発付します。勾留状を発付しないときは、釈放命令を発し、被疑者は釈放されます。
被疑者に対する勾留の期間は、勾留請求の日から10日間です。裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、さらに10日間を限度に勾留期間を延長することができます。「やむを得ない事由」とは、事件が複雑困難であったり、証拠収集の遅延又は困難等により、勾留期間を延長して更に捜査をするのでなければ起訴又は不起訴の決定をすることが困難な場合をいいます。ただ、1回の延長期間は10日でも、回数に制限はありませんので、たまに「乱用ではないか」と問題になることがあります。
勾留中に行われること被疑者段階での勾留中は、検察の手により、取り調べが行われます。取り調べの目的は、検察が、その被疑者を起訴する(裁判にかける)かどうか、またどのような罪で起訴するかを決めるためです。
被疑者は、取り調べを受ける以外は、部屋に滞在する生活を送ります。食事、睡眠はもちろん、差し入れてもらった本を読むこともできます。
勾留中は、接見交通が許され、立会人なしに接見し、書類や物の授受をすることができます。しかし、逃亡し又は罪証を隠滅するのではないかと疑われる理由があると裁判所が認めたときは、弁護人等以外の者との接見を禁じたり、授受される物を検閲し差し押さえたりできます(食べ物を除く)。実際の接見等禁止では、公訴提起前まで、その後は決定がなされた後の次の公判期日までと期限を区切って発令されるのが通例です。
被疑者が起訴されたら、被疑者は被告人に変わります。勾留が続く場合、ここからは被告人として勾留されることになります。
被告人の勾留の要件は、被疑者の勾留と変わりません。しかし、期間はずっと長くなります。被疑者段階と同じ罪で起訴されたときは、そのまま手続なしで被告人の勾留(2か月)が始まります。ただ、勾留されていない被疑者が起訴された場合には、勾留を相当と裁判所が認めれば、職権で被告人の勾留をすることができます。もっとも、在宅の被疑者が起訴された場合は、起訴後も在宅のままで審理が行われることになりますから、裁判所が勾留に切り替えることは、通常はありません。
勾留期間は2か月と決められていますが、勾留期間を1か月ごとに更新することができ、更新の回数は、1回に限られますが、次の場合には制限がありません。
- 死刑、無期、1年以上の懲役・禁錮にあたる罪が問われているとき
- 常習として3年以上の懲役・禁錮にあたる罪が問われているとき
- 被告人が証拠を隠滅しそうなとき
- 被告人の氏名又は住居が分からないとき
被告人と弁護人は勾留理由を開示するよう請求することができ、開示内容に納得できなければ、準抗告という手続きをとって勾留の取消しや変更を求めることができます。ただ、いま問われている犯罪の嫌疑がないという理由では申し立てられません。
被告人が病気になり入院する必要が生じた場合には勾留が執行停止されます。
通常、勾留された期間は、有罪の判決が言い渡される際に、確定した懲役・禁錮機関から差し引かれます(未決勾留日数の算出)。
何か月も勾留された揚句、裁判で無罪になったとき、被告人の失われた時間はどうなるのでしょうか。もちろん何も取り戻されることはありません。ただ、刑事補償法の規定により、1日につき1,000円から12,500円の範囲で金銭の補償を受けることができるだけです。しかも自分から請求しなければいけません。冤罪だった場合は、まさに踏んだり蹴ったりだといえます。
逮捕・勾留を得意としている弁護士
永田 充 弁護士 東京都
野中・瓦林法律事務所山口 達也 弁護士 兵庫県
みなと元町法律事務所小原 望 弁護士 大阪府
小原・古川法律特許事務所トップへ
公然わいせつについて