暴行・傷害

暴行と傷害の違いや罪の重さは?ケガをしたかどうかがポイント
ここでは暴行罪と傷害罪について取り上げます。暴行も傷害も似た行為、または一つながりの行為ととらえるのが、我々の素朴な印象ですが、罪としての両者は明確に区別されます。以下では、そうしたことを中心に述べていきます。
暴行罪と傷害罪についての基本知識暴行罪は、刑法208条に規定されていて、通常、暴行は加えたが人を傷害するまでではなかったときに適用されます。
傷害罪は、人の身体を害する傷害行為を内容とする犯罪であり、刑法204条から208条の2までに規定されています。
前述のように、暴行罪は暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときに成立し、人の身体を傷害するに至ったときは傷害罪(狭義の傷害罪、刑法204条)として処断されます。暴行罪の最高刑は2年の懲役です。
暴行罪の「暴行」とは、人の身体に向けた有形力の行使、典型的には殴る、蹴るなどの場合が当たりますが、その範囲はかなり広いとされます。
判例は、「髪の毛を根元から切る」、「洋服を引っ張る」、「お清めだといって食塩をかける」、農薬散布、室内で日本刀を振り回すなどを暴行としています。しかし、つばを吐きかけるなどのように、傷害の危険が全くない場合まで暴行として捉えてよいのかどうかについては争いがあります。楽器を鳴らしてもうろうとさせた場合に暴行と認定された例もあります。催眠術などはどうでしょうか。学説は対立しています。
有形力の行使という以上被害者の身体に現実に接触する必要があるでしょうか。実は、暴行罪には未遂を処罰する規定はありません。必要説に立つと、人を狙って石を投げたがたまたま当たらなかった場合には罰する方法がありません。それがたまたま当たらなかったとしても暴行罪の既遂として処罰ですべきと考えれば、身体的接触不必要説に立って暴行罪を適用することになります。
暴行の結果傷害を負わせれば傷害罪になるとしたら、思いがけず死んでしまった場合はどうでしょうか。その場合は傷害致死罪に問われます。もちろん、死亡の結果を意図した場合には最初から殺人罪にあたることになります。
その行為が正当業務行為(刑法35条)に当たるときには違法性が阻却されるので犯罪にはなりません。ですからボクシングは「殴る(蹴る)」をやっても、スポーツという正当業務行為として処罰しません。
傷害罪の未遂を処罰する規定はありません。したがって、傷害の意図をもって行為をした結果傷害が発生しなかった場合、犯罪不成立と考えることも可能ですが、判例・通説は、暴行や脅迫を手段として用いた場合には暴行罪や脅迫罪が成立するとしています(大審院昭和4年2月4日判決)。一方、それらの行為によらず、無形力の行使である場合には、傷害の故意があっても犯罪不成立となります。
「傷害」とはどのような行為を意味するのかについて、身体の完全性を害することであるとする説と、生理機能や健康状態を害することであるとする説が対立しています。判例は女性の頭髪を根元から切った事件に関して、直ちに健康状態の悪化をもたらすものではないと述べて傷害罪を否定し暴行罪の成立を認めたものがあります(ただし明治45年と古い判決です)。どちらの説に立った場合でも、めまいや吐き気を生じさせたときや、長い時間失神させたときには傷害と考えられるでしょう。
暴行罪・傷害罪ともにその客体(被害者)が「人」であることはいうまでもありません。ただ、行為者以外の他人を意味しますので、リストカットなどの自傷行為を行っても傷害として処罰されることはありません。
では胎児は暴行罪・傷害罪の対象になるでしょうか。胎児に対する傷害は堕胎罪には該当しないし、さらに傷害罪の客体でもないとすると、胎児の身体が保護されないことになってしまいますが、学説は対立したままであり、裁判例はありません。
被害者の同意があった場合はどうでしょうか。学説には諸説ありますが、友達に頼まれてピアスの穴を耳に開けたときなどは、正当行為とされて傷害罪は不成立、ということになるでしょう。ただ、同意の目的次第では傷害と認定される可能性があります。昭和55年11月13日最高裁決定は、保険金を詐取する目的で仲間と共謀して交通事故を起こし仲間に傷害を与えた事件で、保険金を詐取するという違法な目的のための同意は社会的に相当とはいえないので、傷害罪が成立するとしました。
暴行がなくても傷害罪になるのはどんな場合かふつう傷害の事件では、暴行によって生じるが、暴行によらない傷害罪は成立するのでしょうか。
まず、暴行といえるか否かで問題になる場合があることは、先述しました。楽器を鳴らしてもうろうとさせた場合や催眠術をかけた場合、などです。
ここでは、通常暴行とはいえない行為をした結果、体を弱らせたようなケースを想定します。裁判所が肯定した判例としては、嫌がらせ電話をかけ続けて精神を衰弱させた事件や、性病を感染させた事件、目覚まし時計のアラーム音、などがあります。
犯罪被害に共通することが多いですが、次のとおり必要なことを整理しましたので、参考にして下さい。
- まずは、被害者の安全確保が第一です。屋内であれば施錠を、屋外であれば通行人やコンビニ、交番等に助けを求めるなどすること。
- 安全を確保した上で、なるべく現場の近くですぐに警察に110番通報する。被害現場には証拠が残っていることがあるので、警察官が来るまでそのまま待つ。
- 警察官が来たら、落ち着いて、犯人の様子や被害状況等を話す。
- 病院へ行って診てもらう。
- 被害届を出す。暴行・傷害は親告罪ではないので告訴は不要ですが、警察がすぐに動くためにも被害届は必須です。起きてしまった犯罪はきちんと罰することで、以後の犯罪発生を抑制することが重要です。泣き寝入りは絶対にしないこと。
被疑者にされてしまった場合も、他の犯罪と同様、やるべきことはほぼ共通しています。
- 抵抗して心証を悪くするより、まずは警察の勾留に応じます。
- 弁護士についてもらうよう要請します。傷害罪には、被疑者の段階から国選弁護人の制度を利用できます。
- 弁護士にはすべてを話しましょう。そのうえで黙秘も含め対策を相談します。
- 冤罪であった(やってなかった)場合は、強い意志をもって「やってない」と断言します。妥協的な自供などは絶対にしてはいけません。やったことは間違いないのであれば、ありのままにやったことを伝えます。
- やったことは間違いない場合、「傷つける意思」(故意)は最初から最後までなかったとか、最初はなかったが或る時期に何か意思が働いたというときは、そのように、そんな意思があった実感がないのであれば「なかった」と、正確に話します。暴行罪・傷害罪の成立には故意が要件の一つとなるので、重要な場面です。
- また、行為に及ぶまでのきっかけが被害者側にもあるのであれば、正確に話しましょう。
- 被害者に対して申し訳ないことをしたと思うなら、弁護士に伝えつつ、捜査官にもていねいに伝えましょう。直接会ってお詫びすることができないいまは、自分以外の人がどう伝えるかが重要なのです。
裁判に至り、刑罰の重さを決める際に、情状が酌量されるかどうかは、実質的には大変重要な場面といえます。
裁判例で認められた情状を列挙してみましょう(順不同)。
- 反省と謝罪の気持ち。
- 家族も含めた償いの意志。
- 見舞金などの実行。
- 被告人の境遇。
- 被告人に前科がないこと。
- 更生への意志と家族の協力。
- 傷害の意志を持つに至った経緯(被害者の挑発など)
傷害の件数は、平成12年に急増しました。15年まで増加した(36,568件)後、減少傾向にありましたが、24年に増加し、26年はわずかに減少しました(26,653件)。暴行の件数は、19年まで増加し、20年以降やや減少しましたが、24年に増加し、26年は(32,372件)で、両者は必ずしも同様の推移を示していません。
暴行・傷害を得意としている弁護士
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傷害をおこしたのですが被害者の意見だけで作成された慰謝料が妥当なのかしりたいです