刑事裁判(告訴・告発・控訴・再審)

いつか関わることがあるかも…刑事裁判について学んでおこう
この項は、刑事裁判とは何か、刑事裁判、特に第一審の刑事裁判の流れはどのようなものかについて、おおまかな理解をすることを目指します。個別の罪のにおける流れやポイントなどについては、個々の項を参照してください。
刑罰の目的は何でしょうか。殺人、放火、強盗、窃盗などの犯罪は、国民の生命、身体、財産、生活の平穏、社会公共の秩序といった、国民や社会、国家の重要な利益を侵すものです。しかし、犯罪の被害を受けた人が、直接犯人に報復したのでは、かえって社会の秩序が乱れてしまいます。そこで、国が、このような犯罪を犯した者に対して刑罰を科すことにより、これらの重要な利益を守っているのです。それが刑事裁判の意義といえます。
被告人の権利被告人は、弁護士を弁護人として選任することができ、自分で弁護人を選任することができない場合には、国に弁護人の選任を求めることもできます(国選弁護人)。
刑事裁判では、被告人が無実の罪で処罰されることのないよう、被告人にさまざまな権利が保障されています。上記の弁護人を選任する権利もその1つですが、そのほか、法廷では、話したくないことは話す必要はなく、話さなかったということだけで不利な扱いを受けない権利(黙秘権)も保障されています。
証拠による裁判刑事裁判で最も重要な原則は、被告人が有罪かどうか、あるいはどのような刑にするかは、法廷で適法に調べられた証拠によってのみ判断されるということです。証拠以外の、例えば、マスコミの報道やうわさなどによって判断することは許されません。また、被告人・弁護人は、証人などの証拠の適格性や信用性を争う機会を保障されます。
有罪か無罪か証拠によって、被告人が犯人であることが確信できれば被告人は有罪とされますが、このような確信に至らない場合(被告人が有罪であることに合理的な疑いが残る場合)には、被告人は有罪とはされず、無罪にしなければいけません(疑わしきは被告人の利益に)。
有罪の裁判が確定すれば、刑が執行されます。
事件発生(→告訴・告発)→警察の捜査(任意捜査→逮捕・取調べ→勾留)→検察による捜査→起訴(不起訴)
被害者などから告訴・告発を受けて、または単に事件の通報を受けて、警察の捜査は始まります。
次に警察は被疑者を任意で、または最初から逮捕して取調べを行い、その結果をもって検察官へ事件送致をします。ここでいったん警察の仕事は終わります。
送致を受けた検察は、検察の独自の権限で捜査を行い、起訴か不起訴かを決定します。
起訴までのおおまかなプロセスは以上の通りですが、いろいろな段階に応じてそれぞれ厳格なルールがあります。
犯罪の捜査では、警察官や検察官が被疑者を「逮捕」したり、住居などを「捜索」し、証拠品の「差押え」をしたりすることもあります。逮捕や捜索・差押えも、国民の身体の自由、住居、財産に対する制限ですので、これらを行うには、裁判官の令状(逮捕状、捜索差押許可状など)が必要であり、警察官や検察官の独断ではできません。
検察官は、犯罪の捜査を行い、捜査によって集めた資料(証拠)に基づき、犯人だと考える人を起訴します。
また、法廷での審理に立ち会って、証人尋問など証拠により犯罪を証明するための活動(立証活動)を行います。
検察官は、法廷で、起訴した事実(犯罪事実)を証明する責任を負う立場にあります。
被疑者や被告人は、弁護士を弁護人として選任することができ、一定の場合には、国に弁護人の選任を求めることもできます(国選弁護人)。
刑事裁判の流れ~冒頭手続から判決まで起訴がされて刑事裁判が始まった後の流れは、概ね以下のとおりです。
(公判前整理手続→)冒頭手続(人定質問→人定質問)→ 証拠調べ手続(冒頭陳述→証拠調べ→被告人質問)→弁論手続(論告求刑→弁論)→評議・評決→判決
裁判所は、起訴状に書かれた犯罪を被告人が犯したのかどうか(有罪かどうか)、犯罪を犯したと認められる場合にはどのような刑にするか(「量刑」といいます。)を判断します。
裁判は、公開の法廷で行われます。法廷で行われる刑事裁判の審理及び判決の手続を「公判」といい、公判を行う日を「公判期日」といいます。
争点を明らかにする法廷では、検察官が起訴状を読み上げた後、裁判所が被告人に対し、被告人が犯した犯罪行為であるとして起訴状に書かれている事実についての言い分を尋ねます。この場合、被告人は、「起訴状に書かれた事実は間違いない」と事実を認めることもあります。逆に、「起訴状に書かれた犯罪行為は一切行っていない」と起訴状に書かれた事実のすべてを争うこともありますし、その一部を争うこともあります。
このように、検察官の主張と、被告人側の言い分を聞くことによって、どこに争いがあるのか(争点は何か)が明らかになります。
次に、裁判所は、争点について判断するのに必要な証拠を調べます。
まず、検察官が、証拠によって証明しようとする事実を主張します(冒頭陳述)。ここで、どの証拠でどのような事実を証明しようとしているのか、それが争点との関係でどのような意味を持つのかが明らかにされます。
被告人が有罪であることは検察官が証明する責任を負っていますが、弁護人が、被告人に有利な事情(被告人にいわゆるアリバイがあることや、被害者との間で示談が成立していることなど)を示す証拠を出すこともあります。
裁判所は、これらの証拠を見たり、聞いたりして、事実を認定し、争点について判断をしていくのです。
法廷での裁判の前に行う手続:公判前整理手続
公判前整理手続について説明します。これは、最初の公判期日の前に、裁判所、検察官、弁護人が、争点を明確にした上、これを判断するための証拠を整理し、審理計画を立てることを目的とする手続です。
この手続は、裁判員制度が施行される際にほぼ同時に導入されました。裁判員の負担を考えると、大量の証拠書類を読んでもらうことや、長時間にわたる詳細な証人尋問の内容を理解してもらうのは大変です。そこで、裁判員裁判では、法廷での審理を見聞きするだけで争点に対する判断ができるような審理をしなければなりません。そのためには、何よりも、争点を明確なものとし、証拠を犯罪事実及び重要な情状事実の解明に必要なものに整理することが必要です。
裁判所は、検察官や弁護人の主張を踏まえて、争点の整理や証拠の採否を行い、具体的な審理計画を策定します。
冒頭手続
・検察官が起訴状を朗読。
・被告人側の言い分を聞く。
証拠取調べ
・検察官が証拠によって証明しようとする。
弁論手続
・検察官・弁護人の意見を聞く。
証拠の取調べが終わると、検察官と弁護人は、証拠に基づいて、被告人が有罪かどうか、刑の重さなどについて意見を述べます。いわば、それぞれの立場からの意見の総まとめといったところです。その後、被告人も、事件について最終的な意見を述べます。これで、法廷での手続が終わります。
判決宣告
・判決を宣告する
裁判所は、法廷で取り調べた証拠に基づいて、被告人が有罪かどうか、有罪の場合にはどのような刑にするかについて議論をして(これを「評議」といいます。)、結論を決めます。そして、法廷で最終的な結論(判決)を宣告します。
さて、第一審の判決は有罪に終わりました。その内容に納得がいかない場合には控訴し、それでもだめなら、狭き門にはなりますが、理由によっては上告することができます。ここでは控訴の手続について手順を追って説明します。
- 控訴の申立て
控訴は、第一審判決の日から2週間以内に申立てをする必要があります。 - 控訴審の弁護士
控訴の申立ては、ご本人、第一審を担当した弁護士ができます。 - 控訴審の裁判
控訴の裁判は、まず、控訴した側が、判断、手続きの間違いや刑が重すぎることなど、第一審判決が見直されるべき理由を主張する書面(控訴趣意書)を作成・提出し、控訴審の審理が始まります。 - 裁判にかかる日数
この提出期限からおおよそ1か月半程先に控訴審の1回目の裁判が始まり、結局控訴してから控訴審の判決まで、通常、3か月程かかります。 - 控訴の判決について
検察官が控訴したのでなければ、第一審の判決より刑が重くなることはありません。 - 上告について
控訴審判決に不服の場合は、上告することができます。ただし、控訴審判決が憲法違反または判例違反を理由とする場合のみ、権利として申し立てることが可能(刑事訴訟法405条)で、そのほかに最高裁判所の職権による原判決破棄を求めて上告することができますが、実際にはこちらのほうを期待して上告がなされる場合が多いといわれています。
最後に、再審についておおまかな理解をしましょう。再審は、刑事訴訟法435条に定められています。
- 証拠となった証言・証拠書類などが、虚偽であったり偽造・変造されたものであったことが証明されたとき。
- 有罪判決を受けた者を誣告した罪が確定判決により証明されたとき。
- 判決の証拠となった裁判が、確定裁判によって変更されたとき。
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権侵害で有罪となった場合、その権利が無効となったとき。
- 有罪判決を受けた者の利益となる、新たな証拠が発見されたとき。
- 証拠書類の作成に関与した司法官憲(たとえば検察官)が、その事件について職務上の罪を犯したことが確定判決によって証明されたとき。
再審開始をした場合は刑の執行を停止することができると規定され、また死刑判決に対する再審開始時には刑の執行停止も同時に下されます。実際には、死刑判決に対する再審請求中は法務省は死刑執行を避ける傾向があるといわれます。延命の意図から再審を請求し続けていると明言する弁護士もいるほどです。しかし、再審の請求における死刑執行停止はあくまで慣例であり、死刑が執行されることもあります。
「刑事裁判」の項の終わりに当たって
不幸にして犯罪や刑事事件に出遭ってしまったときは、どんなケースでも、なるべく弁護士に相談しながら、自分で自分を守る気概を持って、裁判に臨みましょう。あなたが間違っていないなら、法は必ずあなたの味方になるはずです。そして信頼する仲間が支援してくれるはずです。
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