殺人犯が被害者の死を26年隠蔽!20年で時効の損害賠償請求権を主張できる?
[投稿日] 2015年04月15日 [最終更新日] 2017年02月08日
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
最高裁平成21年4月28日判決
民事裁判上、不法行為に対する損害賠償請求権は、不法行為から20年が経過すれば時効によって消滅すると定められています(民法724条)。
しかし、被害者遺族が、不法行為の存在(被害者の死)を20年以上知らずにいた場合、この期間内に損害賠償請求などできるはずもありません。
果たして、損害賠償請求権はどうなるのでしょうか?
足立区立小学校で警備員をしていたYは、昭和53年8月14日、同小学校の女性教員Aを殺害し、遺体を自宅の床下に埋めました。
殺害の発覚を防ぐため、Yは自宅の周囲をブロック塀やアルミ製の目隠し等で囲んだり、サーチライトや赤外線防犯カメラを設置したりなどして、自宅での生活を続けます。
この間、Aの両親は、行方不明になったAの捜索願を出して方々を捜しましたが、手掛かりを掴むことはできませんでした。
ところが、事件から約26年が経過した平成16年8月21日、自宅が土地区画整理事業の施行区域になり明渡しが決まったYが、Aの遺体発見は必至と考え自首に踏み切ります。
Yの自宅床下からは白骨死体が発見され、同年9月29日、DNA鑑定によりAの遺体であると確認されました。
Aの相続人Xらは、これでやっとAの死を知ることができたのです。
Xらは、平成17年4月11日、Yに対して不法行為責任(同709条)に基づく損害賠償の訴えを起こしました。
これに対しYが時効を主張したため、Xらは、A殺害から訴え提起までに20年以上経過しているものの、YがAの遺体を隠匿するなどXらの権利行使を妨げていた事情があると反論。
信義則(権利行使は信義に従い誠実に行われるべきという法理。同1条2項)、権利濫用の法理(権利の濫用は許されないとする法理。同1条3項)、また、正義・衡平の原理からも時効は成立させるべきでないと主張しました。
原審は、Xらの主張を認容。
民法160条は「相続財産に関しては、相続人確定時より6か月の間は時効が完成しない」旨規定しているため、たとえ相続人の確定に20年超の時間がかかったとしても、相続人確定後6か月のうちに被害者本人の取得すべき損害賠償請求権を行使したなど「特段の事情」がある場合は、損害賠償請求権について時効の効果は生じないと示しました。
そのうえで、相続人確定から6か月以内に損害賠償の訴えを提起しているXらには上記「特段の事情」があり、Aの取得すべき損害賠償請求権は消滅しないと判断しています。
Yはこれを不服として上告しましたが、最高裁も原審判断を是認しました。
相続人確定が遅れた原因は、被害者の相続人が被害者死亡の事実を知り得ない状況をことさらに作出した加害者にあるのだから、相続人の権利行使を認めず、加害者に損害賠償義務を免れさせれば著しく正義・公平の理念に反すると判断。
本件におけるXらの保護の必要性を汲む結果となりました。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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