原因において自由な行為
[投稿日] 2016年06月14日 [最終更新日] 2017年02月08日
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
山本 友也 弁護士 神奈川県
やまもと総合法律事務所齋藤 健博 弁護士 東京都
銀座さいとう法律事務所~名古屋高裁昭和31年4月19日判決~
わが国の刑法は、犯行時に判断能力が著しく欠けている状態なら心神耗弱として刑を減軽したり(刑法39条2項)、判断能力がない状態なら無罪とします(同条1項)。
これは、皆さんなんとなくご存知でしょう。
では、こう考えたことはありませんか?
―酒や麻薬の与える危険性を承知の上で摂取して、判断能力が低下していたなら、その状態で犯罪を犯しても減刑されるのは変じゃない?と...
今回は、このような犯罪に対応する、「原因において自由な行為」を紹介します。
犯行時には心神喪失で判断能力に欠ける不自由な状態でも、「その原因となる行為(たとえば薬物投与)時には自由であった」ことを根拠に、完全な責任を問うべきだとする理論です。
以下の事案でも、被告人が犯行時に心神喪失にあったことを理由に無罪とされるかが問題となりました。
被告人Xは、もともと医療機関の治療を受けるほどのヒロポン(覚醒剤の一種)中毒でした。一旦ヒロポンの使用をやめたものの、忍耐力に乏しかったXは家出の末、姉Aの嫁ぎ先に転がり込みます。その地で覚醒剤原料として規制対象となっている塩酸エフェドリンを入手し、水溶液にして自分で注射しました。
なお、この際、Xには誰かを殺そうという意思はありませんでしたが、薬物の影響で精神的不安に陥り、持っている短刀で他人に何らかの危害を加える危険性があると自覚していました。薬物注射は、その考えを振り切った上での行為だったのです。
これによって幻覚・妄想を起こし、自分と一家が世間から怨まれて復讐されると思い込み、生甲斐を見失ったX。
Xはまず、身近におり、日頃最も敬愛するAを殺して自分も死のうと決意し、同女の部屋に這い入りました。
そして、就寝中のAの頭部や背部などを持っていた短刀で数回突き刺したところ、Aは胸部の貫通した刺し傷が主因で死亡しました。
鑑定書によれば、Xは犯行時に心神喪失状態でした。
原審は、心神耗弱者が行った殺人罪(同199条)として処理しました。
弁護側はこれを不服とし、心神喪失により無罪であると主張して控訴しました。
高裁は、原判決を破棄し、傷害致死罪(同205条)と判断。
本件Xは、塩酸エフェドリンを注射する前に、薬物による幻覚・妄想が原因となって他人に暴行を加えるかもしれないと予想しながら、あえてこれを容認して注射をし、案の定、懸念していたとおりの事態によってAを死なせたもので、暴行の「未必の故意」が成立すると考えました。
ちなみに、未必の故意とは、犯罪が現実のものになりうると認識できていたのに、たとえ実現しようと構わない、と行為者が考えていた場合に認められる故意です。
まとめると、薬物注射の時点では、殺人まで予測できていたわけではないので、殺人の故意は認められないものの、人に危害を加えるという暴行に関しては予測していたことから、暴行の「未必の故意」があったというのです。
以上のことから、Xの一連の行為を、故意に人に暴行を加え、過失によって死なせたと評価し、傷害致死罪を成立させました。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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