殺人の実行行為と故意
[投稿日] 2014年04月14日 [最終更新日] 2017年02月08日
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
~最高裁平成16年1月20日判決~
被害者に直接害を加えて殺害するのではなく、被害者に死ねと強要することで何らかの行動に出させ、死亡結果を発生させようとした場合、この加害者の行為が「人を殺す行為」とまでいえるかどうかは判断が難しいところです。
死ねと言われた被害者側に、全く死ぬ気がなかったとしたらなおさらですよね。
今回の事案では、車ごと海中に転落するよう命じて実行させたならば、たとえ被害者が死ぬ気がなく、車から脱出するつもりでいたとしても、殺人の実行行為といえるかが争われました。
被告人Xは、偽装結婚を交わした女性A(当時27歳)を被保険者とする保険金を入手しようと企みます。
そこで、自分を極度に恐れていたAに対し、事故死に見せかけて自殺せよと、暴行や脅迫を交えながら執拗に迫りました。
平成12年1月中旬の午前2時過ぎ頃、ある漁港で、XはAに車ごと海に飛び込んで自殺しろと命令しました。
ちなみに、この時の水温は約11度、岸壁から海面までは約1.9m、水深約3.7mという状況でした。
Aは自殺を決意してはいませんでしたが、命令に従って車ごと海に飛び込んだ上で、車から脱出し、Xの前から姿を隠す以外に助かる方法はないと考えました。
そしてAはこの考え通りに行動し、水没する車から脱出して死亡を免れたのです。
原審はXに殺人未遂罪(刑法203条)の成立を認めました。
これに対し弁護人は、車で海に飛び込んだのはA自らの自由意思によるものだから、それを指示したXの行為は、殺人罪の実行行為とはいえず、また、自殺させようと考えていたにすぎないから、自殺関与の故意しかなく、殺人罪の故意があるとはいえないと主張して控訴しました。
最高裁はXの行為を殺人罪の実行行為と認定し、殺人未遂罪を成立させました。
Xが、犯行前日にも、自分を恐れて服従していたAに本件行為を執拗に強要していたことや、それに対して猶予を哀願するAに翌日の実行を確約させたという事情から、本件犯行当時、Aに車ごと海中に飛び込む以外に選択の余地を与えない精神状態に陥らせていたと認定しました。
そして、こうした状態のAに対し、本件のような死亡の現実的危険性が高い行為をさせたのだから、Xは殺人罪の実行行為をしたといえると断じたのです。
また、AにXの命令に応じて自殺する気がなかった点はXの予想と違っていましたが、Aに対し死亡の現実的危険性の高い行為を強いたこと自体はXも認識していた以上、殺人罪の故意はあるとしました。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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