驚愕と任意性
[投稿日] 2014年01月08日 [最終更新日] 2017年02月08日
~福岡高裁昭和61年3月6日判決~
犯罪に手を付けたものの、犯人が途中で犯行をやめる場合があります。
そのきっかけは、警察が来たからとか、「悪かった」と反省したからとか、事件によってざまざまでしょう。
この犯行を中止したきっかけが、邪魔が入ったからなどではなく、自分の意思によるものであった場合、刑法は「中止犯」として、特別に刑の減軽を定めています(43条)。
今回紹介する事案では、犯罪をやめたきっかけが流血を見て驚愕したことである場合にも、自分の意思によるもの(任意性あり)だと評価できるかが争われました。
被告人Xは、「相手が死ぬかもしれないけれどそれでもかまわない」という認識(未必の故意)のもと、Aの頸部を果物ナイフで1回突き刺しました(このとき、2回、3回と追撃する意図はありませんでした)。
その直後、Aは口から多量の血を吐き出しました。
血は呼吸のたびになおも激しく流れ出し、苦しそうに顔をゆがめるA。
これを見たXは、驚愕すると同時に「大変なことをした」と思い、あわててタオルをAの頸部に当て、止血をして、電話で救急車の派遣と警察署への通報を依頼しました。
この後もXは、Aを励ましながら救急車の到着を待ち、到着後は消防署員とともにAを担架に乗せて車内に運び込みました。
さらに、ちょうどその頃駆けつけた警察官に「Aの首筋をナイフで刺した」と自分で告げ、現行犯逮捕されるに至ったのです。
原審は、中止犯の成立を認めず、単なる殺人未遂罪として処理。
これに対し弁護側は、事実誤認などを理由に控訴しました。
福岡高裁は、Xに中止犯の成立を認めました。
まず、判断にあたって、「自分の意思」で中止したというには、外部的な障害ではなく犯人の任意の意思、つまり内面がきっかけであるべきとの基準を示しました。
次に、Xが犯罪を中止するために行為したきっかけは、Aの多量の出血という外部的事実による驚愕であると認定します。
ここまでだと、外部的なものだからと中止犯が認められないようにも思えるのですが...
高裁は、流血などの外部的事実が引き金となった中止行為のすべてを、「外部的な障害をきっかけとするものだから」と中止犯から除くのは相当ではないと考えました。
そのうえで、中止したきっかけが外部的事実であっても、犯人がそれを見て必ずしも中止行為に出るとは限らない場合に、あえて中止行為に出たときには、任意の意思によるものとみるべきとし、Xの一連の行為を、流血を見たからといって当然になされるものではないと評価したのです。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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