実行行為と責任能力
[投稿日] 2014年01月08日 [最終更新日] 2017年02月08日
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
山本 友也 弁護士 神奈川県
やまもと総合法律事務所~長崎地裁平成4年1月14日判決~
年末年始はお酒を飲む機会が多かった方もおられるのではないでしょうか?ただ、お酒も楽しいお酒ばかりとは限りません。酔って暴れて罪を犯してしまう危険性もあります。
刑法は39条2項で、心神耗弱者の行為につき刑を減軽すると定めています。
たとえば、深酒をすれば著しく判断能力が落ちて、善悪の判断ができない状態になりますから、心神耗弱者となり、責任能力に欠けると評価されるわけです。
では、徐々に心神耗弱状態に陥った場合はどうでしょう?
単純に「心神耗弱者だから減刑」と評価してよいのでしょうか。
被告人X(77歳)は妻A(72歳)と2人で年金生活を送っていました。
Xが焼酎を飲み始めたところ、AがXの簡易保険(受取人A)の生存剰余金を下ろすと執拗に言い張ったため、Xはこれに立腹して焼酎を生で飲み続けました。
3時間ほど経った頃、Aがまだしつこく剰余金の引き出しを主張したため、XはAの頭部・顔面等を手拳で殴打します。しかし、Aは主張を変えません。
Xは腹立ちまぎれに焼酎を飲んで酩酊の度を強め、さらに数回、Aの頭部・顔面等を殴打し、背部等を足蹴にした上、Aを居間に向かって押し倒しました。
居間でうつ伏せに倒れたAをなおも叩こうと同間に向かったとき、Xは敷居につまずき、アルミサッシガラス戸に頭を強打。
一層激昂したXは、Aの背部・臀部等を足で踏み付け、肩叩き棒で頭部等を滅多打ちするなどの暴行を加えて、Aを外傷性ショックにより死亡させました。
検察側はXを、傷害致死罪(刑法205条)として起訴しました。
これに対して弁護側は、「Xは多量飲酒により、Aに致命傷を与えた最終段階においては心神耗弱の状態にあったから、刑の減軽をすべきである」と刑法39条2項の適用を主張しました。
長崎地裁は、Xの飲酒量は酩酊に十分で、Xは犯行の初期には単純酩酊でも、その後、犯行の中核的行為に至った段階では複雑酩酊の状態になっていたと認定。
Xは犯行途中から、是非善悪の判断能力・それに従う行為能力がともに著しく減退した、「心神耗弱」状態であったと示したのです。
しかし、本件は同一機会に同一意思が発動したものであって、実行行為はある程度続けて行われたものです。
犯行開始時のXは心神耗弱下になく、責任能力にも問題はありませんでした。
それが犯行開始後、さらに自分で飲酒を続けたために、実行行為の途中で複雑酩酊に陥り、心神耗弱状態となったに過ぎないのだから、Xが受けるべき非難の度合い(つまり責任)は減っておらず、実質的に減刑する必要もないと判断に至りました。
以上より、結局は刑法39条2項を適用せず、傷害致死罪の成立を認めました。
ただし、刑は軽くなりませんでしたが、その執行について、Xには計画性がなく、犯行途中に陥った複雑酩酊の影響で犯行がエスカレートしたことや、自責の念の強さ、初犯で高齢であること等が考慮され、懲役3年執行猶予3年と、執行猶予が付されました。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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