被害者の人数に関する認識のずれ
[投稿日] 2014年01月08日 [最終更新日] 2017年02月08日
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
齋藤 健博 弁護士 東京都
銀座さいとう法律事務所山本 友也 弁護士 神奈川県
やまもと総合法律事務所~東京高裁昭和38年6月27日判決~
「1人だと思って攻撃を加えたところ、そこにいたのは2人だった」という場合、犯人は何人分の責任を負うべきなのでしょうか?
被告人Xは、酩酊状態で車を運転し、長男Bを背負って歩いていたAに衝突させ、両者を引きずりました。
Xには「Aを車体の下に引っ掛けているかもしれないし、この状態で進行すればAを死なせるかもしれない」という認識がありましたが、事故現場から逃走したかったため、これを認容して加速・進行し、AとBを約300m引きずって死亡させました。
積極的に「殺してやろう」と思っていなくとも、「これをしたら死ぬかもしれないけれど、それでもいい」という認識・認容がある場合、それは過失で死なせたのではなく、故意で死なせたとみなされます(未必の故意)。
したがって、XにはAに対する未必の故意があったことは疑いありません。
では、Bに対してはどうなのでしょうか。
犯行時のXは、「そこにいるのはAだけ」と認識していたため、Aに対する殺意しかありませんでしたが、現実に発生した事実はAとBの死であり、結果とXの内心が食い違っています。
この点、原審はXがBの存在を認識していたといえる証拠はないとしながらも、Bに対しても殺意を認定しました。
これは、裁判で罪を検討する際、犯罪を「行為」「因果関係」「結果」という構成要素ごとに分けて考えるためです。
今回の場合、Xは、
- 狙った客体(A)に攻撃し (=行為)、
- それによって (=因果関係)
- 死亡結果(A・B)を起こした (=結果)。
このうち、Xの認識と食い違ったのは(3)結果の人数のみで、その他はすべてXの故意通りに進んでいます。
A殺害とB殺害はどちらも同じ殺人罪ですし、事実とXの認識に違いがあるといっても、それは具体的事実(生じた結果の「数」)であり、(3)結果の範囲を超えてはいません。
ならば、本件のように客体の「数」についての認識がずれていた場合は、犯意まで否定しなくとも、単に結果評価の「回数」を増やせば対応できると判断されたのです。
以上から、Bに対しても殺人の故意を認めてよいとしました。
これに対し弁護側は、事実認定に誤りがあるとして控訴しました。
東京高裁は控訴を棄却。
たとえ犯人が全く意識していなかった客体であっても、殺害する意思をもって「人」に暴行を加え、それによって殺害結果を起こした以上は、この結果についても殺人既遂の罪責を負うべきだとし、原審判断を支持しました。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
問題は解決しましたか?
弁護士を検索して問い合わせる
弁護士Q&Aに質問を投稿する
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
宇都宮 貴士 弁護士 千葉県
松戸法律事務所岡 直幸 弁護士 福岡県
ゆくはし総合法律事務所トップへ
詐欺2020年12月08日
報道によると、持続化給付金の不正受給について、福岡県において初の逮捕者が出...
水野 遼 弁護士
水野FUKUOKA法律事務所逮捕・勾留2020年11月20日
最近,有名人がひき逃げで逮捕されるというニュースが続きました。 先月(10...
木野 達夫 弁護士
宝塚花のみち法律事務所犯罪・刑事事件2020年11月06日
コロナ救済策として出された「持続化給付金」 これを騙し取ったとして逮捕され...
福富 裕明 弁護士
東京FAIRWAY法律事務所