摂食障害と責任
[投稿日] 2014年01月08日 [最終更新日] 2017年02月08日
犯罪・刑事事件を得意としている弁護士
~大阪高裁昭和59年3月27日判決~
ストレスや誤ったダイエットなどが原因で、摂食障害を起こす女性は多く存在します。
こうした摂食障害は、刑事事件の責任能力にどのような影響を及ぼすと考えられているのでしょうか。
被告人X(当時33歳程度の女性)は、高校2年生の頃から食品類の万引きを繰り返しており、今回の審理はそのうち2件の窃盗((1)食料品46点・約1万8000円相当の万引き、(2)食料品33点・約1万1000円相当の万引き((1)の後1か月足らずで発覚) 刑法235条)に関するものです。
ちなみに、本件の2年ほど前から、Xは経済状況に問題がないのに頻繁(週に1度ほど)に万引きするようになり、本件の半年前には別の窃盗事件(食料品36点・約1万1000円相当)で執行猶予付の有罪判決を受けています。
本件(1)の万引きはこの有罪判決の2か月後に発生したものでした。
また、Xは「窃盗は初めてだ」「出来心だ」などと釈明して警察官に許してもらった経験が何度かあり、本件の他にも起訴されていない万引き窃盗が数件発覚しています。
Xは高校生頃に拒食症に罹患し、そのころから家族に隠れて盗み食いを繰り返し、過食しては食後に嘔吐する生活を続けていました。
万引きが頻繁になった時期は、過食・嘔吐が一段と激しくなった時期と符合していて、Xの前科前歴はすべて食料品の窃盗に関するものです。
1審は、Xに限定責任能力(責任能力が不十分なので刑を減軽する)を認めたため、弁護人らはXの責任無能力(責任能力がなく無罪)を主張して控訴しました。
2審判決のために行われた鑑定では、
- Xは摂食障害の最重症例である。
- 摂食障害患者の食料品窃盗は、食行動異常と同様全くの衝動的行為であって、Xの行為はまさにそれにあたる。一般の常習性窃盗とは明らかに区別される病態である。
- Xは行為当時、一般常識的には窃盗が犯罪行為であることは認識していながら、摂食障害のために、食品窃取を含め食行動に関しては自分の行動を制御する能力をほぼ完全に失っていたと考えられる。
と認定しました。
大阪高裁は1審判決を破棄し、Xを無罪としました。
鑑定を大幅に取り入れ、本件各犯行当時、一応Xに物事の善悪を認識する能力はあったものの、摂食障害の重症者であったために、食行動に限ってはその認識どおりに行為する能力を完全に失っていたと考えたのです。
そして、本件万引きは「食物入手行為」という食行動の一環である以上、Xはこれを心神喪失の状態で行ったと認定しました。
なお、Xが本件各犯行時に計画的に行動していること、犯行発覚後に素直に謝ること、知能が正常であることなどは、鑑定で「摂食障害の衝動的行為を否定するものではない」と指摘してあったため、裁判所もこれを踏襲しています。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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