横領

自分が持っていても人の物はヒトのモノ。横領してはいけない
ここでは、横領罪について説明します。マスコミの報道では、何億も使い込んだ某組合の役員とか、借金を繰り返しては少額を横領して返済に充てているうちに何年も気付かれなかったため、数千万円に膨らんでしまったという某市役所の経理課長とか、そうした「派手な」横領事件が目立ちますが、これよりずいぶん小規模の横領が、実際には横領罪のほとんどを占めていると思われます。
横領罪とは横領罪は、自己の占有する他人の物を横領することを内容とする犯罪です。刑法252条から255条までに規定されています。この罪の刑罰は、単純横領で懲役最長5年、253条に定める業務上横領は、懲役最長10年、そして254条に定める遺失物横領罪は懲役最長1年です。
この犯罪の類型は以下の3つに分かれます。
- 単純横領罪
いま自分の手中にある(占有している)、本来他人に属している物を横領する罪。業務上横領罪との比較から単純横領罪と呼ばれることもあります。他人の物を委託関係に基づいて占有する者のみが犯すことのできる意味で「身分犯」のひとつとされます。 - 業務上横領罪
業務上占有している他人の物を横領すると、業務上横領罪が成立します。占有が業務であることで刑が加重される罪です。窃盗罪とは違い、罰金刑はありません。 - 遺失物等横領罪
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領すると、遺失物等横領罪となります。「拾得物横領罪」とか「占有離脱物横領罪」とも言います。
横領では、窃盗罪のケースと違い、事実的な所持だけでなく「法律的な支配」も占有に含まれます。具体的には、預金に対する預金者、登記済みの建物の登記名義人にも占有が認められます。つまり、ここでいう占有とは、横領行為をなしうる立場にあることを意味しています。例えば、不動産所有権の登記名義人である者は、たとえ実体として他人に帰属する物であっても、他人に売却して所有権移転登記手続をすることができます。したがって、不動産所有権の登記名義人はその不動産について「占有をしている」と呼ぶのです。
横領をどんな意思の行為かと考えると、所有者を排除する意思とその物の実益を自分のものにする意思ととらえられます。
(1)横領の意思が肯定された事例:被告人口座に振り込み入金された後に、同口座から現金を引き出す作為及び同口座から自己のためにする自動引き落とし等がなされることを放置した不作為が、横領の意思を伴う行為であると認定された事例。(平成14年12月6日名古屋高等裁判所判決)
(2)横領の意思が否定れた事例:組合理事長が、保管金を自己の住宅金融公庫に対する月賦償還金の支払に充てても、自己が右組合に対して有する立替金債権と対等額で相殺する意思であったときは、不法領得の意思がなかったものというべきであるとされた事例。(昭和47年2月19日高松地方裁判所判決)
業務上横領の実態をもう少し詳しく見てみましょう。
従業員による不正の中で最も多いものの一つが業務上横領です。大企業の従業員による多額の横領が報道されたりしますが、中小企業における横領のほうが、表沙汰にされないものの数としては多いのが現状のようです。
- 営業担当の従業員が、顧客等から回収した金銭を未回収に見せかけ使い込んでいた。
- 架空の請求書をねつ造し、その資金を使い込んでいた。
- 領収書の金額を改ざんし、または領収書自体をねつ造し会社資金を着服していた。
- 経理担当の従業員が、会社の預金口座から自分の口座に勝手に振り込んでいた。
- 小口現金を管理している者が出金伝票をねつ造し着服していた。
- 集金担当の従業員が、顧客から預かった金銭を使い込んでいた。
業務上横領を防ぐ方法の有力な1つは、「横領が起きにくい環境」を作ることだと言われます。
横領は秘密裡に行われる性質のものであることや、特に中小企業の場合は担当者を1人に任せていることが多いので、監視が行き届かず、横領の発見が遅れ、発見したいときにはとても返済できる金額ではないほど多額になっているという場合があります。
従業員の横領が中小企業に多いのは、職務が分担されず、一人に権限が集中していることに原因があります。つまり、一人ですべてを行うため、他者によるチェックが入らないので他者に気づかれることなく犯行に及んでしまうことが原因となってしまうのです。これを解消するためには、社内で互いに牽制するようなチェックがなされる体制、すなわち職務を分掌する体制が必要となります。
経理の金銭管理、在庫の管理においては、上司等によるチェックが随時なされる体制等を構築するようにしましょう。
また、営業担当については、受注の過少申請や架空の経費の請求を防止するため、稟議体制を確立し、上司及び他部署等の事前チェックを得るという体制を構築すべきです。
ここでは、業務上横領を例に、告訴から裁判へと進むプロセスを紹介します。
横領等が発覚した場合、横領の実体を把握するため、本当に横領等を行ったのか客観的な証拠を収集する必要があります。本人を自宅待機させる等して本人がタッチできない状態で調査をする必要があるでしょう。
一方で金額が多額になっている場合は従業員から任意に返却されるのは難しいでしょう。また、行方をくらまして逃亡することも考えられるので、被害金の回収及び従業員への制裁が難しくなることもあり得ます。さらに、警察に相談しても、業務上横領や背任等は会社の内部の問題であるとして、被害届や告訴の受理がなされることは、実際には難しいのが現状です。確実な告訴の受理のためには、捜査機関が捜査を開始できる程度に犯罪としての証拠の収集が必要ですので、捜査活動に精通した弁護士を通じて告訴状を提出するのが適切といえます。
横領がバレた!罪を軽くするためにできることは横領行為が会社の上層部にわかってしまった場合は、隠さずに、ありのままのことをすべて話すのが、事態を最悪にしない第一歩です。そのうえで、大至急弁償の方法と計画を具体的に立てて約束しましょう。
金額と会社の心証次第では、告訴されずに寛大な措置で許してもらえる可能性がかなりあります。仮に逮捕・起訴に至ったとしても、発覚後に誠意ある行動をとったかどうかは、情状酌量におおいに影響しますから、無駄な努力などではありません。
以下に、近時の裁判から執行猶予が認められた横領罪の実例を掲げます。
【実例(1)】他人所有の不動産の登記名義人が、その所有者に無断で同不動産につき第三者名義の抵当権設定の仮登記をした行為について横領罪の成立を認めたが、被告人が現在病気療養中であることなどを考慮して執行を猶予した事例。(平成20年3月14日大阪地方裁判所判決)
【実例(2)】農協の幹部職員が玄米を横流しした事案で、犯行の発覚後、被害が回復していること、犯行が被告人ら自身が経済的利得を直接得ることを目的としたものではないことなどを考慮して執行を猶予した事例。(平成28年7月14日秋田地方裁判所判決)
【実例(3)】中小企業の災害補償共済事業等を行う財団法人の理事長等の立場にあった被告人が、共犯者と共謀等して、同法人から多額の金員を横領した業務上横領、同法人に多額の損害を与えた背任、参議院議員及び労働政務次官に対し賄賂を交付した贈賄の事案について、私欲に基づかない犯行であること、損害を回復させたこと等を考慮して、懲役3年・執行猶予5年を言い渡した事例。(平成14年3月26日東京地方裁判所判決)
横領(遺失物等横領を含む)の発生件数は,平成16年に10万4,412件を記録した後,減少し続け,25年は3万1,257件件(前年比3,571件(10.3%)減)でした。コンプライアンス教育と実践が進む中、先述した「横領が起きにくい環境」作りに、企業が努めてきた成果とも言えるかもしれません。
横領を得意としている弁護士
関根 翔 弁護士 東京都
池袋副都心法律事務所種村 求 弁護士 神奈川県
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横領してしまいました