詐欺

詐欺の手口は多種多様かつ巧妙。知っておきたい傾向と対策
詐欺に関する法規範は、ローマ法にまで遡るとまで言われるほど、古い歴史ある「罪」のひとつです。ここでは、詐欺罪がどのような場合に成立する罪なのか理解したうえで、いま最も問題になっている振り込め詐欺に焦点を当てて、巧妙な手口と防止策について理解を深めます。最後に詐欺罪のタイプには振り込め詐欺のほかにどのようなものがあるかについて概観していきます。
詐欺の定義詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする罪のことで、卑近な例を挙げれば無銭飲食や無銭宿泊を行うとか、無賃乗車するなど、本来有償で受ける待遇やサービスを不法に受ける場合などもこれに当たります(刑法246条)。詐欺罪は未遂も罰せられます(250条)。
また、詐欺罪や詐欺利得罪のほか、準詐欺罪(刑法248条)や電子計算機使用詐欺罪(246条の2)も広い意味で詐欺罪に含まれます。
単に「騙した」だけの場合や精神的利益などの財産以外の利益が侵害された場合には詐欺罪は成立しません。そのため、民法で規定される「詐欺」(96条など)とは異なり、ましてや社会一般でいう詐欺とは概念が違うと考えた方がいいでしょう。
詐欺も刑法上の罪ですから、まず「欺罔行為又は詐欺行為」がなされ、次に被害者が錯誤に陥り、自分の意思で財産を処分してしまう(犯人に渡してしまうなど)ことにより財産が移転されてしまうなどの構成要件に該当する必要があります。そしてそこまでの経緯全体に因果関係が認められ、また、犯人に故意があったと認められてはじめて、罪が成立するのです。
より巧みに進化している振り込め詐欺の手口振り込め詐欺は、電話や郵便などの通信手段で相手をだまし、金銭の振り込みを要求する犯罪行為です。面識のない不特定多数の者に対し、電話その他の手段により対面することなく被害者をだまし、現金などを振り込ませたりする詐欺の一種です。
振り込め詐欺の被害総額は年々増加し、平成26年には375億円に達しています。これは窃盗の被害総額の三倍以上となっています。
その手口は、初期の素朴なものに代わり、複数人が電話に出る形で脅すものが主流となり、また駅員、警察官、弁護士などの役割分担をして被害のドラマを演じる「劇団型」の詐欺が増加して来ました。
なりすまし詐欺
縁者や警察などを装い交通事故や傷害事件、暴行事件、医療事故を起こしてしまった、などを理由に、訪問や指定された場所へ呼び出し金やカードなどを手渡しさせる手口。
架空請求詐欺
有料サイトの利用料金やテレホンサービスなどの架空の事実を口実とした料金を請求する手口。
融資保証金詐欺
実際には存在しない融資案件の文書等を送付するなどして、融資を申し込んできた者に対し、保証金等を名目に現金を預金口座等に振り込ませるなどの方法によりだまし取る手口。
還付金詐欺
税務署や区役所等を名乗り、ATMに行かせ、携帯電話で還付手続きを指示するふりをし、実は犯人の口座にお金を振り込ませる手口。
犯人にはどのような傾向があるでしょうか。最近は組織化が進み、役割が細分化されて末端のメンバーを逮捕できても、犯行グループの上層部や主犯格の摘発ができないケースが増えています。また、「出し子」や「受け子」などの末端の役割を演じる者には低年齢化が進んでいると指摘されています。
被害者のほうはどうでしょうか。共通する特徴としては、あまり働いておらず自分自身で生活を支えるほどの賃金を得ていない者が大多数を占めていることが挙げられます。
振り込め詐欺にだまされないために心がけておくこと国や自治体レベルでは、携帯電話不正利用防止法が平成17年に制定され、携帯電話を利用した詐欺の防止が図られ、また金融機関では、詐欺に利用された口座の利用停止や強制解約の要請に応じるようになり、また一回の振込み上限額の設定、ATMでの巨額での振込防止など、取り組みが進みつつあります。さらに平成19年にはいわゆる振り込め詐欺救済法が成立して振り込め詐欺等の犯人の口座を凍結して、被害金を被害者に返還する制度が施行されました。電話会話自動的録音器を貸し出す東京都の試みや、X線検査で現金の封入を確認する日本郵便の試み、そしていわゆる名簿業者の逮捕など、取り締まりの強化も進んでいます。平成28年6月には、詐欺の通信傍受を可能とする通信傍受法の改正が公布されました。
こうした国の対策強化とは別に、市民レベルでどのような対策が考えられるでしょうか。以下に例示する方法は、いずれも実施が困難なものではありません。このような対策を通して、「絶対引っかからない」ように徹底を図ることが必要です。
- 家族の中で電話での呼び掛け方や合言葉を決めておく。
- 離れて暮らしている家族の携帯電話番号や勤務先の電話番号、友人の連絡先などを把握しておき、いつでも確実に連絡が取れるようにしておく。
- 高齢者の場合は、常に留守番電話にセットし、電話がかかってきても電話に出ない。
- 事情があっていつもとは違う番号から電話して来た時は一度切って、元の電話番号にかけ直す。
- ナンバーディスプレイ機能を活用する。
- ATM利用限度額を引き下げる。
- 可能であれば、クレジットカードのキャッシング枠を0円に設定しておく。
- 警察や検察庁、裁判所が戸別訪問や電話で個人情報やマイナンバー(個人番号)を聞き出したり、戸別訪問やATMコーナーで預金通帳やキャッシュカード、クレジットカード、現金、預金証書、印鑑、払い戻し請求書、本人確認書類、マイナンバーカードを預かったり、調査することは絶対にないことを常に意識しておく(家族に意識を徹底させる)。
- 電話の相手が指定する番号には電話しない。
- 同居している家族宛てに代金引換郵便が届いた場合は、受け取りを保留にし、確認した上で受け取り、心当たりがない場合は受け取り拒否をする。同様に、届いた代金引換郵便が注文品であるか不明な場合、全く心当たりがない場合は受け取り拒否をする。
振り込み詐欺のほかにも、詐欺には様々な手口があります。いずれも、何らかの手段で心のスキやあいまいな意思表示につけいって巧妙にだまし取るものといえます。ここでは、「警察庁犯罪手口資料取扱細則」に掲げられている詐欺罪の手法を列挙しますので参考にして下さい。
- 売りつけ詐欺:物品等の販売を口実として金品を騙し取る。
- 買い受け詐欺:物品等の買い受けを口実として金品を騙し取る。
- 借用詐欺:借用を口実として金品を騙し取る。
- 不動産利用詐欺:不動産の運用利用を口実として金品を騙し取る。
- 有価証券等利用詐欺:真正な有価証券等を利用して金品を騙し取る。
- 無銭詐欺:払う代金がないのに宿泊、飲食、乗車等をして利益を得る。
- 募集詐欺:募集を口実に金品を騙し取る。
- 職権詐欺:身分を詐称し、検査や捜査などを装い、押収などを口実に金品を騙し取る。
- 両替・釣銭詐欺:両替を依頼したり商品の代金を支払ったりするように装い、両替金や釣銭を騙し取る。
- 留守宅詐欺:留守宅を訪問し、口実を設けて当該家の家人から金品を騙し取る。
- 保険金詐欺:保険金を受け取る資格を偽り、保険金を騙し取る。
- 横取り詐欺:金品を受け取る権利のある者を装い、金品を騙し取る。
- 受託詐欺:口実を設けて受託し、金品を騙し取る。
- その他:霊能力や超能力などを称する献金勧誘や販売、振り込め詐欺、結婚詐欺など。
詐欺の発生件数は、平成17年に昭和35年以降で最多の8万5,596件を記録した後、平成18年から減少に転じましたが、近年やや増加傾向にあり、26年は4万1,523件(前年比3,221件(8.4%)増)でした。その中で、振り込め詐欺(恐喝)の被害総額の増加に伴い、特殊詐欺全体としての被害総額は、約562億円にまで増加(前年比15.6%増)し、振り込め詐欺が被害額を一手に押し上げているといえます。ますます巧妙化していく手口に対して、さらに効果ある対策が望まれます。
詐欺を得意としている弁護士
齋藤 健博 弁護士 東京都
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