懲役・禁錮(刑務所・仮釈放)

どちらも刑務所に入る刑罰、「懲役」と「禁錮」は何が違う?
ここでは懲役と禁錮を取り上げます。これらはともに「自由刑」と呼ばれます。自由刑とは、要するに身体の自由を束縛される刑罰、という意味です。刑罰にはほかに生命刑(死刑)、身体刑(鞭打ち刑など。現代社会にはふつうない)、名誉刑(公民権はく奪など。日本にはない)、財産刑(罰金、科料、没収)があります。懲役と禁錮は、もうひとつの拘留と合わせ、身体を束縛する刑ですから、死刑を除けば最も重い刑罰といえます。
懲役と禁錮について懲役とは、受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰のことです(刑法12条2項)。これに対し、禁錮とは、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰を指します(刑法13条)。また同様のいわゆる「自由刑」と呼ばれる刑罰には、もうひとつ、拘留があります。
懲役は、有期懲役と無期懲役に分類され、有期懲役は原則として1ヶ月以上20年以下の期間が指定されますので(同法12条1項)、たとえばある条文において「2年以上の有期懲役に処する」と刑の最短の方(短期)のみが規定されている場合には、「2年以上20年以下」を意味するのです。
懲役刑の内容としては、炊事・洗濯など刑務所運営のための作業である経理作業と、財団法人矯正協会が国に材料を提供し靴・家具などを製作させたり、民間企業と刑務作業契約をして民間企業の製品を製作させたりする生産作業の2種類があります。生産作業の中でも民間企業の製品を製作させる行為はILO条約が禁止する強制労働に当たるとの批判があります。作業を行った受刑者に対しては、作業報奨金が支払われます。釈放の際に、それまでたまった作業報奨金が支給されます。ただ、あくまで刑罰の内容であって労働の対価とは考えられていないものの、出所直後の生活基盤となる資金でもあることから、矯正効果の向上や再犯防止の観点から増額を期待する意見もあります。
どういう罪を犯した時に禁錮となるのか禁錮には、無期禁錮と有期禁錮とがあります。無期禁錮は、死刑、無期懲役に次いで重い刑であるとされます。日本では内乱罪、並びに爆発物使用罪(爆発物取締罰則1条)及び爆発物使用未遂罪(爆発物取締罰則2条)にのみ定められている、非常に稀な刑罰なのです。これに対し有期禁錮は、原則として1ヶ月以上20年以下となっていますので、懲役と同様に、ある条文において「2年以上の有期禁錮に処する」などと書かれている場合、「2年以上20年以内」を意味します。
懲役との違いについてですが、懲役では「所定の作業」を行わなければならないのに対して、禁錮ではただ拘置(監禁)することのみが定められている点が違っています。ただ、禁錮は独房の中で強制労働が無いといっても就寝時以外は一日中正座をしていなければなりません。常に看守に監視され、不用意に動くと厳しく指導されますから、状態としては無期懲役より厳しいとする意見もあるほどです(願い出により労働できる場合があります)。
懲役と禁錮は、適用をどう使い分けているのでしょうか。ひとつの犯罪について懲役と禁錮との両方が刑罰として定められている場合は、禁錮の方が懲役よりも比較的軽い位置付けとされていると思われます。ですから、そのような認識を元に、実際には裁判官が相応しい方を選ぶわけですが、両方の罰が全ての罪に併存しているわけではなく、たとえば傷害、傷害致死、殺人などに「禁錮」の規定はありません。ただ、既述の「労働」を願い出るケースが実際には多く、両者の差が縮まっているともいえるでしょう。
実際の適用では、禁錮刑の95パーセント程度が執行を猶予されており、実刑判決の割合は低く、実刑判決でも大半は3年以下であり、3年超は年間数件程度であると言われています。
期間終了までに出られる制度…仮釈放とは懲役にも禁錮にも、仮釈放という制度があります。法律上、刑期の3分の1を経過することが仮釈放の期間的な条件となっており(刑法28条)、最短ではその期間の経過後に出所することもあり得るものとされていますが、近年においては、刑期の長短にかかわらず、実際には受刑態度が良好な場合であっても、刑期の7割以上経過した後でなければ、仮釈放が認められない事例が多いと言われています。ちなみに無期懲役にも仮釈放される場合があります(ただ実際にはハードルは相当に高く、「無期懲役になっても大人しくしていれば10年で必ず自由になれる」といった風説は、事実に反しています)。
なお、平成27年版の犯罪白書によれば、平成26年の仮釈放率は全体で56.5%でした。
仮釈放が許可されるための条件については、刑法28条が「改悛の状があるとき」と規定していますが、具体的には法務省令である「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」28条の基準を満たす状態を指すものとされており、その28条には「仮釈放を許す処分は、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない」と規定されています。
また、同規則18条では「仮釈放の審理にあたっては、犯罪又は非行の内容、動機及び原因並びにこれらについての審理対象者の認識及び心情、共犯者の状況、被害者等の状況、審理対象者の性格、経歴、心身の状況、家庭環境及び交友関係、矯正施設における処遇の経過及び審理対象者の生活態度、帰住予定地の生活環境、審理対象者に係る引受人の状況、釈放後の生活の計画、その他審理のために必要な事項」をそれぞれ調査すべき旨が規定されているのです。これだけのチェックを経ないと仮釈放にはなりません。
仮釈放中の処遇ですが、日本では、仮釈放中の者は残りの刑の期間について保護観察に付される残刑期間主義が採られており、無期懲役の受刑者は、残りの刑期も無期であるから、仮釈放が認められた場合でも、恩赦などの措置がない限り、一生涯観察処分となり、定められた遵守事項を守らなかったり、犯罪を犯したりした場合には、仮釈放が取り消されて刑務所に戻されることとなります。
もう一つの自由刑、「拘留」拘留とは、自由刑の一種であり、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である。同音の「勾留」とは全く別の概念ですので注意が必要です。
拘留は、1日以上30日未満(最長29日)の範囲で科される。同種の刑罰である禁錮より短期間です。しかし、禁錮と違って執行猶予を付すことはできないので、必ず「実刑」となります。刑法の規定上は「罰金より軽い刑」とされています。なお、懲役刑と違って作業はありませんが、禁錮刑と同様、受刑者が作業を行いたいの旨の申出をした場合には、刑事施設の長は、作業を行うことを許すことができます。
法定刑に拘留がある主な罪は、公然わいせつ罪、暴行罪、侮辱罪、軽犯罪法違反の罪、民事訴訟法193条違反(証人不出頭)の罪、酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律4条違反(酩酊者の公衆迷惑行為)の罪、など、各種法令の軽微な違反に対する罰則規定に多いとされます。
科刑状況の実態ですが、ここ数年は確定した判決数が10件に満たない状態が続いています。ほとんど稼働していないといっていいでしょう。
犯罪白書平成27年版によれば、26年の懲役と禁錮の総数は50,128件、死刑2件でした。
その推移をみると、平成11年に60,341件であったのが16年の78,338件まで増加し、17年から減少に転じ、現在に至っています。刑法犯罪の推移とほぼ動きを同じくしているといえます。
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改名(下の名前だけ)について刑務所に服役していたことが【正当事由】にどこまで適応されるのか