脅迫・強要

「コレやって!」の言い方が大事。強要罪、脅迫罪になることも
脅迫罪・強要罪が他の罪と違っている要素は、「どう迫れば(言えば)脅迫と言えるか、強要と言えるか」という、或る意味微妙な要素を抱えていることではないでしょうか。この項では、脅迫罪と強要罪それぞれの成立の要件をみながら、その「脅迫・強要行為の成否」に焦点を当てていきます。
脅迫罪はどんな場合に成立するか脅迫罪とは、相手を畏怖させることにより成立する犯罪のことで、刑法222条に定められています。未遂罪は存在しません。金品を略取(強取)する目的で行う場合は恐喝罪や強盗罪が成立するため、脅迫罪とはなりません。刑罰は、最高で2年の懲役です。
脅迫罪においての脅迫は、人の生命、財産、身体、名誉、自由(通説によれば貞操や信念も含む)を対象に、それを害する旨の告知をすることにより成立します。相手が恐怖心を感じたかどうかは必須ではありません。
ではその告知の内容とは何かといえば、たとえば貞操の侵害、財産上の信用を落とす、または村八分にするなどが挙げられるでしょう。
脅迫の対象となる人物は、被害者本人か親族に限られるので、「お前の友だちを殺す」と言われた場合は脅迫になりません。なお、ストーカー規制法では「つきまとい行為」の刑事罰について「その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者」も対象としています。
脅迫の方法は、口頭や書面に限られず、相手方が知ることができれば成立し、たとえば態度だけでも成立し得ます。
その程度は、「一般人が畏怖するに足りる」ものであればよいので、「殺す」という、それ自体違法な行為を指す場合だけでなく、「何をするかわからんぞ」などと暗に加害行為をすることを言う場合でも成立します。では「お前の不正を告発するぞ」と言った場合はどうでしょうか。告発自体は必ずしも違法な行為ではありませんが、単に畏怖させる目的であれば脅迫罪は成立すると判示した判例があります。逆に害悪の告知に当たらないと判断された例に「君には厳烈な審判が下されるであろう」とか「人民政府ができた暁には人民裁判によって断頭台上に裁かれる」と告げた場合などです。
では「俺の仲間は沢山いてそいつ等も君をやっつけるのだと相当意気込んでおる」はどうでしょうか。アウトです。
近時の裁判から、適用例・非適用例を挙げてみましょう。
【適用例(1)】ごく短時間に続けざまに被害者に向けられた一連の発言を意図的に分断し、一部の発言は脅迫行為に該当しないと判断した原判決は、論理則・経験則等に照らして明らかに不合理であり、その生命、身体等に危害を加える旨の害悪の告知として全体を一体のものと捉えることが相当であるとされた事例。(平成24年9月27日/東京高等裁判所判決)
【適用例(2)】インターネット掲示板に、文化センターにおいて開催予定であった講座について、「文化センターを血で染め上げる」とか「教室に灯油をぶちまき、火をつける」などと書き込んだ事案につき、同講座の講師に対する脅迫罪が成立するとされた事例。(平成20年5月19日東京高等裁判所判決)
【適用しなかった例】隣室の女性に対する脅迫事件について、被害者の女性の供述が信用できないとして無罪が言い渡された事例。(平成13年3月1日札幌地方裁判所判決)
強要罪とは?「要求」のしかた、状況がポイント脅迫罪に対し、強要罪とは、刑法223条で規定された犯罪で、権利の行使を妨害し、義務のないことを強制することで成立します。この犯罪に対応する刑罰は最高で3年の懲役です。
強要罪が成立するのは、たとえばどんなケースでしょうか。典型例からいえば、いわゆる「押し売り」です。また、建設業者が、宅地開発を許可しない県庁の課長の腕を掴んで、無理やり公印を押させたことが強要罪に該当した例があります。あるいは、周囲を取り囲み、謝罪文を書かせる行為。脅迫により質問への回答を無理強いする行為、使用者が労働者に解雇か一身上の都合での退職を選べと選択を迫り、退職願(「会社都合」ではなく「一身上の都合」)を書かせた例もあります。
これらから浮かんでくるのは、「権利の行使を妨害したか」、「そうする義務はないのにそうするよう迫ったか」ということになるでしょう。
店員にクレームをつけ、土下座を強要した。最近マスコミを通し「土下座●●」などとして有名になり模倣が相次いだことがありますが、これも立派な強要罪です。また、いわゆる製品クレーム行為は、暴力団の新たな資金源獲得の手口としても使われるようになり、警察は注目しています。
結果が発生しなかった時害悪を告知したが結果が発生しなかった。この場合は、まずは強要罪ではなく、先ほどの脅迫罪が考えられますが、しかし発生しなかったので脅迫罪は成立しません。この場合は刑法223条3項により強要罪の未遂が成立するといわれています。
また、害悪を告知して人の財物等を強取した場合は236条により強盗罪が成立すると言われます。自殺を強要する行為は自殺教唆罪が成立するが程度によっては殺人罪が成立します。こうした各々の罪と罪との関係は、素人の我々には判別が難しいのが実情ですが、いざというときは弁護士に相談するのが基本です。
脅迫、強要で逮捕されたときにとるべき適切な行動脅迫罪や強要罪は、ほとんどが脅迫を受けた本人や家族からの被害届によって立件されるといわれています。ですから、そもそも脅迫を受けた本人が恐怖に陥らなければ、事件に発展せずにそのまま見過ごされること多いのです。
逆に、本人は冗談で言ったつもりでも「脅迫された」と言われた側が感じて被害届を出せば、事件として立件される可能性があります。
逮捕されてしまうと、約半数が起訴を受けます。起訴されるとそのほとんどが有罪判決を受けてしまいます。ですから、起訴になるか、不起訴になるかの分岐点が最も重要な場面といえるでしょう。ただ、起訴のうちの約半数が書類だけの簡略的な手続で起訴され、懲役などでなく罰金刑を受けます。この場合、罰金刑の言い渡し後すぐに身柄は釈放されますが、その時点で前科がついてしまうことになります。
脅迫罪には必ず被害者がいますので、その被害者から慰謝料請求をされることもあります。事件の内容にもよりますが、余程悪質なものでなければ慰謝料相場は1~10万円程度です。
裁判の際の考慮要素として重要なのが、被害者との示談です。しかし、被害者は一度脅迫を受けているのですから、簡単に示談に応じてくれるのは難しいでしょう。ただ、そうした努力を続けることは、量刑上も決して無駄ではありません。弁護士にきちんと相談し、努力をし続ける姿勢が大切です。
脅迫罪は具体的な証拠が出てきづらい場合が多く、言った言わないの水掛け論になる可能性もあります。そのため、加害者、被害者両人の供述一つ一つが重要な証拠になってきます。警察官の誘導的な質問に引っ掛かって、決して言ってもいないことを「言った」と自白してはいけません。
脅迫の発生件数は,平成12年に1年間で倍以上の件数に達し(2,047件)、それ以降おおむね増加傾向にありましたが,21年に減少した後,24年に大きく増加し,26年も増加しました(3,738件)。検挙率も,認知件数が急増する一方で大きく低下しましたが,16年前後からおおむね上昇傾向にあります。(犯罪白書平成27年版)
脅迫・強要を得意としている弁護士
関根 翔 弁護士 東京都
池袋副都心法律事務所トップへ
死ね死ねとLINEが来た。警察に相談した方がよい?