【弁護士に聞く】痴漢えん罪を回避するための対処法
[投稿日] 2019年03月15日 [最終更新日] 2019年03月15日
性犯罪を得意としている弁護士
山本 友也 弁護士 神奈川県
やまもと総合法律事務所岡 直幸 弁護士 福岡県
ゆくはし総合法律事務所痴漢をしていないのに、痴漢の犯人に仕立て上げられてしまうことで、人生が破綻してしまうケースが少なくありません。
そこで、痴漢えん罪を回避するための対処法について、ワールド法律事務所の渡邉祐介弁護士にお話を伺いました。

(ワールド法律会計事務所)
弁護士になる前は、IT企業のサラリーマンという異色の経歴の持ち主。相談者の主張や立場を深く理解し、親身になって寄り添う姿勢が、法律の狭間で苦しむ方から高い評価を得ている。
――痴漢の濡れ衣を着せられたらまずやるべきことはなんですか。

渡邉 弁護士
電車の中でやってもいないのに「痴漢だ!」と腕を掴まれるようなケースですよね。
難しいところで、ここは弁護士によってアドバイスや対処法が異なりますが、大ざっぱに分けると、「逃げろ派」と「両手を上げて何にも触らず手の付着物を鑑定してもらえ派」に分かれるように思います。
――それぞれどういう対処法なのでしょう。

渡邉 弁護士
「逃げろ派」は、痴漢ですと言われたらとにかくその場から逃げてしまうことを推奨しています。
こうしたアドバイスをする方は、弁護士でもまだ多いです。
それに対して「手を上げて何も触らず手の付着物を鑑定してもらえ派」は、痴漢の濡れ衣を着せられた瞬間に、「やっていないから調べてもらってください」と言って両手を上げ続けるべきだと主張しています。
最近は、捜査のひとつとして警察が被疑者の手に被害者の衣服の繊維等が付着していないかを鑑定するために、手のひら検査を行うことが一般的なのです。
触られたと主張している女性の触られた箇所の繊維が、被疑者の手についているかどうかを検査するので、もし触っていなければ繊維が検出されないはずなのです。そうなると、女性が触られたと主張していたとしても、それは単なる濡れ衣ではないか、ということになるのです。
――逃げろ派のメリット・デメリットを教えてください。

渡邉 弁護士
逃げる場合のメリットは、駅員とのやり取りや警察での事情聴取など、煩わしい手続きをしなくて済む点です。
そのまま駅員室に向かえば、最低でも数時間は拘束されてしまうのです。
また、最大のメリットとも言いうる点としては、逃げ切ればそのままトラブルから解放されるという点です。
逃げるということは、つまりはバックレてしまうわけですが、逃げろ派の理由としては、濡れ衣による刑事手続きに付き合わされるくらいなら、バックレてでもその不利益を避けたほうがよい、逃げ切ってしまえば勝ちだ、というところにあるのです。
デメリットは、警察が捜査を行って万が一あなたの元にたどり着いた時、「なんで逃げたの?」と犯行を疑われてしまう点です。
やってなければ逃げる必要はなかったと勘ぐられる可能性があります。
また、逃げる途中で捕まってしまった場合などは、逃亡のおそれがあるという判断をされやすくなってしまうでしょう。
逃げるにもリスクもあるということですね。
――では「手を上げろ派」のメリット・デメリットはなんですか。

渡邉 弁護士
メリットは、しっかりと疑いを晴らすことができる可能性が高いという点です。
本当にやっていないのであれば、手から相手の女性の衣服などの繊維はまず検出されないはずです。
繊維がついていないのに痴漢をしていたこと考えることは非常に困難なので、濡れ衣が晴れる可能性が高いのです。
デメリットは、繊維を鑑定してもらうまでの間の事情聴取や取り調べのために自由を奪われてしまう点のほか、そのまま逮捕されてしまう可能性が高いことです。
逮捕されれば、その後に勾留という手続きで10日間、延長されると最大20日間、身柄を拘束されたままになってしまう可能性もあります。
――ではどの方法がベストだと考えますか。

渡邉 弁護士
痴漢の濡れ衣の対処法に、今のところ正解はありません。どの方法も一長一短です。
ただ、いつでも呼ぶことができるような弁護士の知り合いを作っておくことは、有効かもしれません。
濡れ衣を着せられた瞬間に弁護士を呼ぶことで、何よりも現場でどうしていいかわからない不安な心理状態の中で、その場の対応もしてもらえますし、適切な対策をアドバイスを受けられます。
安心感も得られるでしょう。
今は「痴漢冤罪ヘルプコール付弁護士費用保険」という保険があって、加入者はアプリをダウンロードして痴漢の濡れ衣を着せられた瞬間に、ボタンを押すことで弁護士に連絡が取れるというサービスなども提供されています。
そういうものを使えば、いつでも弁護士を呼べるという点では対策になると思います。
一旦逮捕されてしまうとその後が大変になってしまいます。
駅員室に入ってしまうと私人による現行犯逮捕と評価されてしまうこともあるので、呼べるようであれば弁護士を呼んだことを伝えた上で、駅員の方にはその場で待ってもらうなどして、駅員室には行かずに、警察が来ても、あくまで弁護士との任意同行という形をとった上で手のひらの繊維鑑定をすることができればベストかもしれません。
- 痴漢の濡れ衣を着せられたら「逃げる」もしくは「手を上げる」ことを推奨する弁護士が多い
- どちらも一長一短なので、メリット・デメリットを理解しておくべき
- 常に連絡が取れる弁護士がいると、濡れ衣を着せられた際に駆けつけてもらえる
――痴漢の濡れ衣を着せられた時にやってはいけないことはありますか。

渡邉 弁護士
絶対にしてはならないのは、言い合いをする中でもみ合いになるなどして、被害を主張している女性に触れてしまうことです。
「やった」「やってない」の水掛け論になって、言い合いがエスカレートし、もみ合いになってしまい、手に繊維がついてしまうとその繊維が「痴漢の証拠」になってしまう可能性があります。
だから、痴漢の濡れ衣を着せられた場合は、当事者同士でやり取りはしないほうがいいでしょう。
――相手の女性に名前を知られるようなことは避けるべきですか。

渡邉 弁護士
電車の中で当事者同士でやり取りをするのは避けましょう。
逃げてしまう場合には、知らせる必要はありませんし、知らせないまま逃げるべきです。
――相手の女性がインターネットなどに個人情報とともに痴漢されたなどのデマを書き込んだ場合はどうすればいいですか。

渡邉 弁護士
個人を特定する情報とともに社会的な地位を貶めるような行為をすると、「名誉毀損罪」に問われる可能性があります。
民事裁判での損害賠償請求だけでなく、刑事罰に問うこと可能です。
痴漢がえん罪だったとしても、実際にやっていたとしても、インターネットなどに個人情報とともに「痴漢をされた」と書き込むことは名誉毀損になります。そうなった場合は、しかるべき対応をしたほうがよいでしょう。
- 痴漢の濡れ衣を着せられたら相手の女性には絶対触ってはいけない
- 相手の女性には名前を教えない
- 相手の女性がインターネットなどに個人情報を書き込んだら名誉毀損に問える可能性がある
――弁護士に依頼したら痴漢えん罪を無罪にすることはできますか。

渡邉 弁護士
本当にやっていないのであれば、弁護士に依頼して無罪を主張することは不可能ではありません。
今は、昔よりも「被害者の供述」だけで起訴されることが減っています。
昔は被害者が「この人に痴漢されました」というだけでも、起訴されてしまっていました。
でも今は防犯カメラですとか、先ほどの手に付着した繊維などの客観的証拠に基づいて判断されることが増えてきました。
とは言っても弁護士が入ったからと言って、えん罪を必ず無罪にできるわけではなく、被害者の供述に信用性があると判断されてしまって、「供述重視」で判断されてしまうと、無罪にすることが難しくなる場合もあります。
――どのように無罪を勝ち取るのですか。

渡邉 弁護士
そもそもその人が痴漢をしていたのかどうかは、警察にも裁判官にも、検察官にも被害者にもわかりません。
被疑者本人以外でわかるのは、存在するとしたら神様くらいだと思います。
だから、裁判官は法廷に提出された証拠で判断するしかなく、また、証拠から判断しなければなりません。
自分の持っている証拠をどのように裁判官に見せていくのか、また検察が提示した証拠がいかに価値がないかを主張していけるかが重要となります。
- 本当にやっていないのであれば弁護士に依頼することで無罪になる可能性もある
- 今は被害者の供述だけで起訴しないことも増えてきた
- 裁判では証拠が重要なので、自分の証拠の正当性、相手の証拠の価値の無さを主張していく
――逮捕されたらどのような取り調べがあるのですか。

渡邉 弁護士
逮捕されると、留置場に入れられますし、閉ざされた空間での取り調べもあります。
本当はやってないのに「やっただろう」と言われ続けて、だんだんと自分に自信が持てなくなり、やってないのに「やった」と錯覚してしまうことが少なくないんです。
すぐに楽になりたいからとやってもいないのに「やった」と言ったり、自由になるためにやっていないのに示談金を支払ったりすることもあります。
実際に、初日には「絶対にやっていません」と言い切っていた方が、2日目、3日目と日が経つにつれて焦燥しきって自信がなくなってしまう姿を何度も見てきました。
そこで罪を認めると起訴される可能性があります。
――弁護士に依頼することで、どう変わりますか。

渡邉 弁護士
留置場では、被疑者の方の家族など一般の方は、限られた時間帯に、しかも1日に15分~20分しか面会することができません。
しかも、一般面会は1日に1回しかできません。
面会に行った日に、別の人がすでに面会をしていると、後になった人は面会できません。
また、一般面会では警察官が立ち会って、話を聞いているのです。
これに対して、弁護士の場合は、留置場での身柄拘束期間中、24時間いつでも、何回でも、弁護士接見が可能です。
たくさん話ができるだけで被疑者となった方本人の心強さは比べ物になりません。
被疑者の方本人は中にいると何もできないのですが、弁護士は、証拠集めなど行うことができます。
状況に応じて適切なアドバイスができますし、すぐに初動対応を始められます。
とにかく早い段階でご相談いただくことが大切です。
――駅員等に身柄を拘束されたら、そのまま警察に逮捕されてしまうのですか。

渡邉 弁護士
痴漢えん罪の場合は、逮捕されるケースが多いです。
「逃げろ派」の方は、駅員室に連れて行かれると逮捕されるから「逃げろ」と言っているのです。
100%逮捕されるかというと必ずしもそうでもなくて、被害者の女性が言っていることが、駅員さんが聞いても不自然であるようなときなどは、警察に逮捕されないケースもなくはありません。
ケースバイケースですが、100%ではないとはいえ、逮捕される可能性は極めて高いと言えるでしょう。
- 逮捕後に入ることになる留置場は閉鎖された空間で、やっていないのにやったと自供してしまうケースも少なくない
- 弁護士に依頼することで、孤独が解消できるし、証拠集めなどの初期対応をしてもらえる
- 駅員に拘束されると警察に逮捕される可能性が高い
――痴漢えん罪を回避するために日頃から気をつけるべきことはありますか。

渡邉 弁護士
満員電車に乗らないこと、が何よりですが首都圏や都市部等で勤務をしていれば、満員電車に乗らざるを得ないケースは多いと思います。
まずは満員電車では女性の近くには立たないことが有効と言えますね。
手を上げているだけであっても、他の部分を擦り付けられた、などと手以外の箇所で痴漢行為をしたと言われかねないので、近寄らないのが何よりです。
痴漢の濡れ衣を着せられてしまった時に、素早く対応できるように弁護士とのパイプを作っておくのも一つの手段と言えます。
――弁護士を呼ぶことで有利になったケースはありますか。

渡邉 弁護士
痴漢事件ではなく、傷害事件で警察に逮捕された方が、警察に私の名前を出して警察経由で私を呼んだのですが、警察の方は電話口で私が顧問弁護士を務めているということを確認すると、警察官が顧問弁護士の方がついているのなら、ということですぐに釈放したことがありました。
通常であればそのまま身柄を拘束され続けるところですが、弁護士という確かな存在がつくことで、不必要な身柄の拘束を避けることができるケースもあります。
- 満員電車は避ける
- 女性の側には立たない
- 弁護士とのパイプを作る
- 弁護士を呼ぶことで信頼されやすくなる
痴漢えん罪は、弁護士に依頼することで無罪にできる可能性もあります。
痴漢の濡れ衣を着せられたら、逃げる、手を上げるなどの対応とともに、弁護士に相談することを視野に入れられるとよいでしょう。
万が一逮捕されてしまったら、できるだけ早い段階で弁護士に相談をし、接見してもらうことが大切です。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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