養育費の相場って?決め方から、金額を増やす方法まで徹底解説
[投稿日] 2017年10月27日 [最終更新日] 2017年12月12日
未成年の子供がいる夫婦が離婚することになった場合、気になるのが「養育費」です。
言葉自体は、ドラマや小説などで一度は聞いたことがあるかと思います。
ですが、実際にどんなものなのかは知らないことが多いようです。
確かに、養育費の金額をどうやって決めたらいいのか、どうやって受け渡ししたらいいのかなど、具体的なところはわかりません…。
では、養育費というのはどのようなものなのか、養育費はどのようにして決められるのか、どの程度の金額を養育費として支払わなければならないのか、どの程度の金額が支払われるのか、養育費を決めるにあたっては、どのような事情が養育費の増減に考慮されるのかなど、養育費をめぐるあらゆる問題についてお伝えします。
目次 |
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まずは養育費とはそもそも何なのか、というところをご説明します。
1-1 養育費の定義
離婚に当たっての養育費とは、簡単に言えば、離婚後に同居しない方の親が、離婚後に子どもの養育のために支払うお金のことです。
まず、前提として親権というものを理解しておく必要があります。
夫婦の間に未成年の子供がいる場合、両親は、子供の財産を管理したり、子供の身体の保護や成長を守ったり、子供の精神の発達に関する教育(監護教育)をしたりする権利と義務があり、それらを総称したものが「親権」です。
夫婦は、共同して親権を行使することとされています(民法818条)。
親権のうち「監護教育」については、当然そのための費用がかかりますが、これも夫婦が共同して負担することになります。
ところが、夫婦が離婚する場合、夫婦の双方が子供に親権を行使することはできなくなります。
そのため夫婦のいずれか一方を親権者としなければなりません(民法819条)。これを親権者の指定といいます。
さらに「子の監護に要する費用の分担」も定めなければなりません。この「この監護に要する費用」が養育費というものです。
このように、夫婦が離婚するにあたっては、そのいずれか一方を子供の親権者としなければなりません。
一般的には、親権者は子供と同居をすることになります。
しかし、親権者とならなかった方も、離婚したからといって親子関係がなくなるわけではありません。
そこで、民法877条は、直系血族などに相互に扶助義務のあることを定めています。
この規定によって、親は未成年の子供に対して扶助義務持っています。
また、子は親に対して扶養料の請求をすることもできます。
つまり養育費とは、離婚するまでは夫婦で負担していた監護に関する費用です。
離婚した場合には、それぞれが、子供に対して自分と同じ生活程度を保障する義務(生活保持義務)を負うことから、養育費を分担するというものなのです。
1-2 養育費の対象になるのはどんな内容?
養育費が使われる対象目的にはどういうものがあるのでしょうか。
基本的には、衣食住のための費用、教育費、医療費などの子供にかかってくるすべての費用がその対象となります。
ただ、衣食住の費用や教育費といっても、それぞれの夫婦の生活環境や経済的事情によって変動があるものです。
例えば、子供について高校まで卒業すればよいと考えている親もいるでしょうし、大学は出なければならないと考えている親もいるでしょう。
また、両親共に医者である場合には、子供を医大に進学させたいと考えている場合もあるでしょう。それぞれの考え方によって、入学金や授業料が異なってくるのはもちろんのこと、塾や予備校の費用もあるかもしれません。
結局のところ、生活の水準によってその内容にも変動があるということになります。
養育費を定める場合に、例えば、ある夫婦が離婚をして妻が子供の親権者となった場合に、単に「夫は妻に対して、毎月○万円の養育費を支払う」という決め方をすることもあります。
ただ、学費や医療費などでまとまったお金が必要なことがあるので、できれば毎月支払う養育費とは別に教育費を定めておくとよいでしょう。
例えば次のような内容です。
「小学校に入学する際に○万円、中学校に入学する際に○万円、高校に入学する際に○万円、大学に入学する際に入学金の半額、その授業料の半額を支払う」
「月額○万円以上の治療費が発生した場合には、その半額を支払う」
これらの費用は、特別出費として離婚後に請求をすることもできるのですが、当初から詳細に決めておけば揉める心配がありません。
1-3 養育費は子供のためのもの
例えば、不倫をした側が親権者となったとき、不倫をされた側が養育費を支払うことになりますが、そんなのは納得がいかない、ということがあります。
しかし、養育費はあくまでも子供のための費用です。
そして、それぞれの生活程度に応じて負担する必要があります。したがって、その算定にあたって、夫婦の離婚理由が斟酌される余地はありません。
また、同様の理由によって、親権者とならなかった親には、子供との面会交流権が認められますが、これが実現されないことも養育費とは関係がありません。
受け取る側も、この原則をしっかりと守る必要があります。
例えば、毎月養育費を受け取った親権者が、その金銭を自分の遊びに使ってしまったということがありました。
このことが発覚し、もう一方の親が訴え出たことで、結果的には親権者の変更ということになったのです。
1-4 支払方法に決まりはあるの?
養育費の支払方法は当事者の合意で定められるもので、特段このような方法でなければならないというものはありません。
現金の手渡しとしてもいいですし、銀行振込みとすることもできます。
また、銀行振込みであっても、子供名義の口座に振込み入金をするのか、親権者の口座に振込み入金をするのか、いずれでもかまいません。
さらに、夫婦に持ち家がある場合、親権者となる親にその持ち家を譲渡するという方法もあります。
この持ち家譲渡は、離婚に伴う財産分与として行われることが通常ですが、例えば、預貯金が3000万円あり、持ち家が5000万円であった場合、相当な財産分与額は合計の8000万円の2分の1の4000万円です。親権者に対して持ち家(5000万円)を譲渡した場合、財産分与を超える額の1000万円を養育費の一括払いとすることもできます。
1-5 どれくらいの頻度で支払うもの?一括払いも可能?
毎月一定額を支払うという方法でも、半年に一度、年に一度決められた日に、半年分または1年分を一括して支払うという方法でもかまいません。
さらに、離婚と同時にすべての金額を一括して受領するという方法もあります。
1-6 養育費は何歳まで必要?
養育費については、子どもが成年に達すれば支払う必要がないものと誤解されている方も多いのではないでしょうか。
しかし、養育費は、心身共に未成熟で、自立した生活(ことに経済的生活)をすることのできない「未成熟子」に対して支払われるものです。
これは必ずしも「未成年者」と一致するものではありません。
成年に達した後でも養育費を支払うことがありますし、成年に達していなくても養育費を支払わない場合もあります。
具体例を見てみましょう。
大学進学率が高い現代では、多くの場合、大学を卒業する年齢である「22歳」を養育費支払の終期とすることもあります。
大学に進学しない場合には20歳までとするというように特約をつけることもあります。
逆に、子供が既に高校を卒業して働いているというような場合には、「未成熟子」ということにはなりませんから、養育費の支払いなしとする合意をすることもあります。
さらに、子供が知的障害者だとか、身体障害者である場合には、やはり「未成熟子」として、子供の年齢にかかわらず、養育費が発生することになるでしょう。
1-7 養育費に税金はかかる?
養育費には、所得税や贈与税がかかるのでしょうか?
結論をいえば、所得税も贈与税もかかりません。
所得税については、所得税法9条1項15号の規定に、養育費については所得税がかからないとあります。
贈与税については、相続税法21条の3第1項2号が「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に贈与税はかからないことを規定しています。
「通常必要と認められるもの」ですから、養育費を預貯金として、株式の買入代金や家屋の購入代金とした場合には、贈与税が課されることになります(国税庁通達)。
1-8 養育費を払っていれば扶養控除できる?
通常の夫婦であれば、両親のどちらかが子どもに対する扶養控除を受けることができます。
では、離婚して親権者にならなかった場合はどうなるでしょうか?
親権者でなくても、養育費を支払っているのであれば、扶養控除の対象となります。
ただし、親権者側で扶養控除の手続きをしている場合はできません。
扶養控除の対象となる条件には、「納税者と生計を一にしていること」というものがあります。これは、同居を意味するものではありません。同居をしていない場合であっても、常に生活費や教育費、療養費が支払われている場合には「納税者と生計を一にしている」と言えます。
ただ、「常に」という要件がありますから、養育費を一括して支払った場合には「常に」という要件に該当せず、扶養控除の対象外となります。
1-9 公的な手当も別途活用しよう
親権者の経済収入に応じて、公的な扶助を受けられることがあります。
このような公的扶助手当は、養育費の算定とは無関係で、公的扶助があるからといって、養育費が増減することはありません。
逆にいえば、離婚によって母子家庭や父子家庭となって公的扶助を受けても、養育費には何の影響もないのですから、活用すべきです。
そこで、どのような公的扶助があるのかを説明していきましょう。
児童手当すべての0歳以上から中学卒業まで(15歳に達した日以降最初の3月31日まで)の子供に対して支給される手当です。ただ、所得によっては金額が低くなります。
児童扶養手当児童扶養手当法で定められている手当で、ひとり親の子どもに支給される手当です。その子供が18歳に達した日以降の最初の3月31日までの子供が対象です。
具体的には、9月1日が誕生日の子供であれば翌年の3月31日まで、2月1日が誕生日であればその年の3月31日までです。
この児童手当を受けることのできる期間は、親権者となった親が、働いていないとか、求職活動をしていないような場合には、手当を受け始めてから5年、児童扶養手当支給要件に該当してから原則7年の期限があります。
この手当は、生活補助という意味を有しますから、所得制限があり、全部支給の場合には児童一人のときには42,290円、一部支給の場合には児童一人のときは42,280円から9980円の範囲で所得に応じて変動します。
これは、東京都の名称で、一人親家庭への支援制度で、児童一人について月額1万3500円が支給されています。
全ての地方公共団体にある制度ではありませんし、あるとしても名称や支給要件・支給金額が異なりますので、それぞれの市区町村にお問い合わせください。
精神または身体に障害を有する20歳未満の児童の保護者に支給されます。離婚をして父子家庭・母子家庭となった際に、子供に障害があれば、その障害の程度により、1級の場合には月額5万1450円、2級の場合には月額3万4270円が支給されますが、所得制限があります。また、上記の児童扶養手当との併給も大丈夫です。
住宅手当地方公共団体によっては、母子家庭・父子家庭に対して、住宅手当や家賃補助を行っています。地方公共団体によって、そのような制度があるのか、あるとしてその名称は何というのか、支給要件・支給金額が異なりますので、それぞれの市区町村にお問合せをしてください。
医療費助成制度地方公共団体によっては、母子家庭・父子家庭に対して、18歳未満の子供について医療費が減免される制度です。地方公共団体によって、そのような制度があるのか、あるとしてその名称は何というのか、支給要件・支給金額が異なりますので、それぞれの市区町村にお問合せをしてください。
また、母子家庭や父子家庭に限定されているものではありませんが、地方公共団体によっては、乳幼児や義務教育就学児について医療費が助成される制度があります。これも、それぞれの市区町村にお問合せをしてください。
母子家庭の場合、所得控除がなされることがあります。離婚後単身で生活をしていて、子供がいてその子供の所得が38万円以下の場合には、所得税27万円、住民税26万円が控除額となります。また、その場合に母親の所得が500万円以下である場合には「特定の寡婦」として、所得税35万円、住民税30万円が控除額となります。
第2章 養育費の決め方では実際、養育費はどうやって決めたらいいのでしょうか?
できるだけ多くもらいたいところですが、元ダンナにも生活があるし…
養育費には一定の基準はありますがケースバイケースとなります。
2-1 基本は話し合い
基本的には夫婦で話し合いをして、納得のいく結論を出すのがベストだといえます。
この場合には、親権者を決定し、養育費の金額、支払時期、支払期間(終期)、支払方法などを決めます。
決めた内容は、公正証書で書面化しておくとよいでしょう。
なお、離婚後にも養育費を請求できるのですが、養育費を定めずに離婚をした相手方が、素直に養育費の支払いに応じてくれないことや、その金額で揉めることも多いことから、離婚後に養育費を決めるのはお勧めできません。
離婚時に決定しておくべきでしょう。
しかし、感情的になっている夫婦で、養育費の取り決めの前提となる親権者の指定でも揉めることはしばしばあります。
親権者が決まっても養育費での話し合いがつかないということもあるでしょう。
この場合には、まず家庭裁判所に調停の申立をすることになります(離婚を求める調停と共に行いますが、既に離婚をしている場合には養育費請求の調停となります)。
調停は、家庭裁判所の調停委員会が間に入って、夫婦双方の言い分を聞いて、調停案を提示しますが、これに応ずるかどうかは本人の自由意思となります。
ですから、調停が不成立となることもあり、その場合には裁判で決めることもできます。
2-2 養育費を受け取らないという選択は可能?
離婚に際して、親権者の争いの中で、「養育費は請求しないから私が親権者となる。」と言って、養育費を受け取らない、養育費請求権を放棄するということもしばしば見受けます。
このように養育費を受け取らないという選択をすることも可能です。
では、その後、やはり養育費が必要となる事態になったときに、もはや養育費を請求することはできないのでしょうか?
実は、放棄後も請求は可能です。
子供は親権者でない親に対しても扶養請求権、いいかえれば養育費請求権を有しています。
そして、民法881条は、「扶養を受ける権利は、処分することができない。」としています。
つまり親権を有している親が、子供の法定代理人として扶養請求権を放棄したとしても、無効とされます。
2-3 子供のためだけに使わせることは可能?
養育費が本当に子どものために使われるのか心配、という方もいるでしょう。
では、離婚の条件として「養育費は子供のために費消する」「子供のために費消していない場合にはその後の養育費は支払わない」といった取り決めを設定できるのでしょうか。
養育費はそもそも、子供のために使われるべきものです。
法律的に当然なことは、離婚に際しての条件とすることはできません。ですから、そうした取り決めは無効となります。
では、養育費を子供のためにだけ使わせるための何らかの方法はないものでしょうか。
1つは、養育費を受領する親に対して、家計簿を付けさせ、これを一定期日ごとに開示させるという取り決めをする方法があります。
これは、養育費が適正に支出されているかどうかの検証に役に立ちます。
さらに、養育費が子供のために使用されていないとの確証を得た場合には(なかなか難しいのですが)、親権者変更の調停をしましょう。
親権者変更が認められたならば、それまで養育費を支払っていた親が親権者となり、逆に親権を喪失した親に対して、養育費の分担を求めることも可能となります。
養育費には、一般的な相場はあるのでしょうか?
養育費の金額は、元夫と元妻の収入によっても変動します。年収別に金額を設定した算定表が存在します。
3-1 養育費の金額の原則的な考え方
養育費は「自己と同じ程度の生活程度の保障」を基準とします。
離婚したとしても、子どもが少なくとも自分と同じ程度の生活水準を送れるように保障しましょう、ということです。
そのため、離婚前の生活で子供のための費用はどの程度支出されていたのかを算出し、さらに将来の支出見込みを立てて、それを夫婦の収入に応じて分担するという方法で算定するのが原則だといえます。
しかし、将来の支出見込みを立てることはかなり困難です。そこで、次に説明をする算定表がひとつの目安となります。
3-2 養育費の算定方法
東京と大阪の裁判官で構成された養育費等研究会が平成15年に作成した「養育費・婚姻費用算定表」を参考資料として養育費を算定するという方法が、家庭裁判所ではもとより、弁護士でもなされています。
ただし、この算定表の金額は、「生活保持義務」とはかなりかけ離れたものだという批判がありました。
そこで、平成28年に日本弁護士連合会が「新算定表」を作成しています。
これによれば、従来の算定表の概ね1.5倍ほどの養育費となります。
ただ、現実の調停の場においては、依然として算定表が使用されており、新算定表はその存在すら知られていないというのが実情のようです。
具体例で見てみましょう。
AさんとBさんとが夫婦で、いずれも給与所得者だったとします。夫婦には15歳と17歳の子供がいて、Aさんが親権者となり、Bさんが養育費を支払うというケースです。
AさんBさんどちらも給与所得者で、Aさんの年収が250万円、Bさんの年収が500万円であるとします。
まず算定表には、養育費の算定と婚姻費用の算定との2種類があるので、養育費のシートをご覧ください。
さらにその中から、右上欄外にある子供の数及び年齢に合致するシートを選択します(事例では表5となります)。
次に、表の縦軸の「義務者の年収」を見ます。「義務者」とは養育費を支払う側なので、Bさんの「給与」の年収である「500」から右横に線を引きましょう。
横軸は「権利者の年収」。権利者とは養育費を受け取る側なのでAさんの「給与」の年収「250」から上に線を引きましょう。
両方の線が交わったところが養育費の目安ということになるので、今回の例でいえば、「6~8万円」です。
3-3 年収の確認方法
算定表を見るためには「年収」を把握する必要があります。
年収はどのように確認したらよいのでしょうか?
給与所得の年収とは、税金や社会保険料などを差し引く前の金額を指します。
これを確認するには、源泉徴収票の「支払金額」の欄を見るとよいでしょう。
場合によっては、給与明細書を見て確定することもできます。
この場合には、1か月分明細を12倍すればいいというわけではありません。賞与なども加味してする必要がありますし、歩合給が多かった場合には減算するなどをする必要があります。
また、副業があって確定申告をしていない場合には、その収入を加算する必要があります。
自営自営の場合には確定申告書の「課税される所得金額」に基礎控除など実際には支出されていない費用を加算した額となります。
無収入算定表には「0」という欄があります。これは、就職が困難である合理的事情がある場合に使用されます。
ですが、働こうと思えば働くことができるという人の場合は、厚生労働省が毎年発表している「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」を用いて、性別・年齢からみた平均の年収で算定することになります。
3-4 算定表が全てではない
上記の算定表は、夫婦の年収、子供の数、年齢によってのみ定められており、その他の事情を考慮していません。
だからこそ、上記の例では、「6~8万円」などの幅が設けられているのです。
しかし、それでも、この算定表で得られる養育費額は、「生活保持義務」からはかなりかけ離れた低額なものとなっています。端的にいえば、現在の生活水準や経済情勢を反映しているものとはいえないものなのです。
したがって、算定表で算定された金額に不服がある場合、夫婦での協議や調停では、これに従う必要はないといえるでしょう。
ただ離婚裁判となった場合には、裁判所は算定表を参考にすると思われます。その場合には、算定表の金額では足りないまたは多すぎることを主張・立証するように努めてください。
3-5 養育費が増減するポイント
養育費を決める基本的なポイントは
・養育費を支払う側の収入
・養育費を受け取る側の収入
・子供の年齢
・子供の人数
ということになります。
そして現状では、そこで算定された範囲内で養育費が決められることが多く、例外的に「特別の事情」がある場合にしか増減されません。
では、「特別の事情」とはどういうものがあるのでしょうか。
教育費算定表では、子供が義務教育を受けることを前提として教育費を考慮していますが、それでもそれは公立小学校、公立中学校、公立高校であって、私立学校であることを前提としていません。
そこで、子供がすでに小中高一貫の私立学校の小学校に通学をしているような場合には、この金額では不十分なことは明らかです。
またすでに進学塾に通学をしている場合や、習い事に通っている場合には、増額要素となります。
他にも、子供が重度の障害を負って高額な医療費がかかっている場合には、それも考慮することになるでしょう。
養育費を支払う側が住宅ローンを負担しているような場合、そもそも離婚に際して財産分与として解決されているはずではあります。
それでも、住宅ローンの負担が大きい場合もあるので、養育費を減額する事情として考慮される場合もないとはいえません。
よくあるのが、親権を取った側が実家で両親と同居し、両親が経済的にも精神的にも十分に養育できるという場合です。
必ずしも関係ないとも言えますが、ある程度考慮されて、減額する要素となり得るでしょう。
3-6 入学金などの一時的な費用は別途請求可能?
当初の養育費の取り決めでは検討していなかった費用が発生した場合に、その費用を養育費として請求することはできるのでしょうか?
例えば、学校の入学に際しての学用品が高額だったとか、学校への入学金を支払わなければならなくなったとかいう場合です。
また、子供が大病を患ってその医療費や手術費が高額になってしまったというような場合もあるでしょう。
このような場合、その費用を請求することはできることもあります。
養育費の支払いの約束をした時点では、予想がつきにくい事情が生じた場合には、事情の変更があったとして、その費用を請求することができるのです。
ただ、「双方が予想をすることができなかった」事情に限定されることに注意をしてください。
そのため、進学に際しての費用の場合は難しい面があります。
小学校や中学校への進学は当然に予想されている事実ですし、進学先が公立校であれば、当初定めた養育費はそれらを含んでいると考えられるからです。
ただ、やむなく私立校に進学する場合には、これは予想できなかった事実として、入学金、授業料、私立校指定の学用品購入代金を請求することはできるでしょう。
また両親のどちらかが大学卒であるというような場合、高校進学や大学進学も予想された事実といえます。
もっとも、医学部に進学することになってしまったというような場合には、予想外の出費となりますから、これは請求することができます。
では、医療費はどうでしょうか。
突発的な病気は、養育費を定めた時点では予想をすることができない事実です。したがって、相手方に増額の申し出をすることができます。
相手方との協議で解決できない場合には、家庭裁判所に対して養育費増額請求の調停を申し立てることになります。
このように、相手方と改めて協議したり調停をしたりすることは非常に大変です。離婚後の関係性によっては、なおさらでしょう。
そこで、養育費を定める際に条件を設定しておくとよいでしょう。
例えば、「月額○万円を超える医療費が発生した場合には、超過分の費用の○%を支払う」とか、「小学校、中学校、高等学校、大学に進学する際には、入学金、学用品購入代金、授業料の○%を支払う」といったような形です。
なお、増額分として請求できる金額は全額ではありません。お互いの収入割合に応じた分担となります。
例えば、医療費が100万円だったとして、お互いの収入がほぼ同じであれば、50万円ずつの折半となります。
行くべき学校などがあらかじめわかっている場合は、「4-2 必要な金額をシミュレーションする」のように、入学費なども全て計算したうえで、あらかじめ月額に盛り込んでしまうという方法もあります。希望や状況に合わせて、相手と交渉するようにしましょう。
第4章 適正な養育費をもらうためにより適切な、より多い養育費をもらうためにできることはありますか?
収入や必要な費用を明確にすることが大切です。また、交渉ごとになるので、専門家を頼るのも有効な方法です。
4-1 相手の収入を把握する
養育費で重要になるのは「夫婦双方の年収」ですが、配偶者の正確な年収を知らない、というケースは案外多いものです。
給与は把握していても、他に副業をしているかもしれません。
自営業の場合にはなおさらです。
離婚をすることを決意した場合、相手方の年収を把握するように努めましょう。
給与収入の場合次のもので把握が可能です。
・給与明細書
・源泉徴収票
・銀行入金歴
原則として確定申告書で相手方の収入を正確に把握することができます。
確定申告書が必ずしも実態を反映しているものでないことには注意が必要です。
給与明細や源泉徴収票を見せてもらえない場合は、調停を申し立てて、調停委員会から開示を促してもらうという手段があります。
相手方の収入を把握することができたならば、算定表にしたがって、どの程度の養育費を支払うことになるのか、どの程度の養育費を受け取ることができるのかの大枠を把握しておきましょう。
4-2 必要な金額をシミュレーションする
年収をもとに算定表から金額を算出できたとしても、それはあくまで目安です。
算定表の幅内におさめることができないような個々の事情がある場合もあります。
そこで、子供が成長をして社会人となるまでの間に必要となる費目と金額を整理してみるとよいでしょう。
子供の費用としてもっともお金がかかるのは教育費です。
まずは幼稚園から高校まででかかる費用を見てみましょう。
文部科学省の調査結果によると、塾代などの学校外教育費も含めた教育費は次のようになっています。
全て公立の場合は523万円、全て私立の場合は1,770万円ということになります。
さらに大学に入学するとどうなるでしょうか。
平均値は以下のとおりです。
参考:平成26年度「国立大学入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について」文部科学省
幼稚園から大学まで、すべて国公立だとしても766万円もの金額になります。
さらに全て私立で、理系大学だとすると2,292万円、さらに医学部だとすると4,015万円ということになります。
養育費を毎月定額支払うものと考えて、月の平均額を出してみましょう。
例えば全て私立で理系大学に進んだとすると、上のとおり2,292万円。
幼稚園から大学まで228か月(19年×12か月)あるとすると、2,292万円÷228か月で、1か月当たり約10万円かかる計算になります。
これらに、食費や娯楽費などの金額を足して、お互いの年収の比率を考えて計算すると、実際にかかるであろう養育費を算出できます。
もちろん、要求がそのまま通るとは限りません。
ですがこのように具体的な金額を提示できれば納得度は高いので、相手方を説得しやすいという利点があります。
4-3 交渉の専門家を代理人に立てるという方法も
さて、このように自分でシミュレーションをするといっても、思わぬ見落としがある場合もありますし、夫婦では感情的になって相手方とうまく交渉をすることができないことも少なくありません。
また、養育費の分担交渉の前提として、夫婦のいずれが親権者となるかの争いも少なくありません。
そのため、専門家である弁護士を代理人とすることで、冷静に、かつ様々な要素を考慮して適正な養育費を算定してもらうという方法もあります。
心配な方は、まずは相談だけでもしてみるとよいでしょう。
養育費が当初はしっかり振り込まれたものの、だんだん振り込まれなくなる…という「養育費の不払い」。
残念ながら、こうしたことは決して少なくありません。
こうした養育費の不払い対応する方法はありますか?
また、そうしたことがないようにあらかじめできる対応はあるのでしょうか?
5-1 養育費の不払いがないようにするためには?
調停や裁判で養育費の取り決めがあった場合離婚調停や離婚裁判の中で養育費が決められた場合には、調停調書や判決書が作成されて、そこに養育費の条項も入ります。
それが債務名義となるので、もし不払いがあった場合は、相手方に対し強制執行をできます。
また、調停調書や判決書自体が心理的抑止力となるので、不払いという事態が起きにくくなります。
夫婦の協議で養育費を取り決めた場合夫婦の協議で養育費の取り決めた場合は、すぐに強制執行をすることもできず、心理的抑止力も低いものです。
そこで、将来にわたって、確実に養育費を受け取るための方法について説明をします。
5-2 公正証書を活用しよう
協議で養育費を取り決めた場合には、内容を公正証書として作成しておくべきです。
公正証書とは、法務省に属する公証役場という機関で作成される証書のことをいいます。公証人は、作成依頼者が本人であること、本人の真意に基づく内容であることを確認した上で、公正証書を作成します。
ここで重要なのは、公正証書を作成するにあたって強制執行認諾文言を付けることです。これにより、養育費の支払いの不履行があった場合、ただちに相手方の財産に対して強制執行をすることができるようになります。
もちろん、公正証書の対象にできるのは、養育費だけではありません。
協議離婚をするに際して行われる、財産分与や慰謝料といった金銭的な取り決めも、公正証書にしておくべきでしょう。
さらに履行確保のために、連帯保証人をつけるとか、相手方が不動産を所有しているのであれば抵当権を付けるといったこともしておきましょう。
いざというときに回収できる可能性が高くなりますし、相手方に対する心理的圧力となって、履行を確保することができるでしょう。
第6章 離婚後、養育費の変更は可能か離婚から何年かして、養育費を少なくしてほしいと言われた…なんて話を聞いたことがあります。そんなの可能なのですか?
はい。そういうこともあります。ただ、減らすだけでなく、増額というケースもあり得ます。
どのようなケースがあり、それぞれどういった対処が可能か、見てみましょう。
6-1 支払能力が変わったら金額を増減できる?
平成26年度の日本政策金融公庫の調査では、年収に占める教育費の割合は、平均で17.4%となっています。
衣食住など教育費以外の子供の養育費を加算すると、概ね年収の2割ほどが養育費であるといえるでしょう(あくまでも平均値ですが)。
年収額は、子供の養育費を定めるにあたって重要な要素となります。
だからこそ、裁判所が使用している算定表でも権利者(親権者)と義務者の年収を基礎として養育費を定めているわけです。
そこで、収入が大幅にダウンしたり、逆に大幅にアップしたりしたような場合、その当事者は、養育費を取り決めた時点と現在では収入が大幅に異なり、支払い能力に相当の差異が出てきたことを理由に、養育費の増減を求めることができます。
例えば、算定表ではなく、年収との割合で養育費を決めたとしましょう。
年収が300万円のAさんを子供の親権者として、年収が700万円のBさんが養育費を支払うこととなったとしましょう。
総年収の2割が養育費であるとした場合、「(300万円+700万円)×20%=200万円」が年間の養育費となり、これを月額に計算すると、約16万円となります。そして、夫婦の収入割合は「3対7」ですから、Bさんは「16万円×70%=11万2000円」をBさんが負担することになります。
ところが、離婚後しばらくして、Bさんの年収が700万円から300万円にダウンしたとしましょう。
この場合、Aさんの年収と合算した300万円+300万円=600万円のうちの2割である120万円(月額10万円)が養育費となり、しかもお互いの支払う割合は半々となり、「5万円」となります。
つまり、Bさんはこれまで支払っていた月額11万円の負担を月額5万円に減額する請求をすることができます。
従前どおりの支払いでは、Bさん自身の生活が困難な状況となってしまうので、現実的に、Bさんは減額請求をする必要があるということです。
逆に、Bさんの年収が700万円から1000万円となったような場合には、年収に占める養育費の割合から、AさんはBさんに対して、養育費の増額を請求することができます。
2人の合算年収は1300万円であって、その2割を養育費に充当していたはずだといえるからです。
6-2 話し合いによりいつでも変更可能
養育費の内容は、話し合いでいつでも変更できます。
そして、その協議が整わない場合には調停・裁判となります。
これは、いったん取り決めた養育費の額を変更する場合であっても同じです。
調停や裁判と違って、養育費を変更する基礎事実である特別の事情による事情の変更といった理由も必要ではなく、単に当事者が合意をすれば、それだけで養育費の変更は可能です。
6-3 親権者の再婚
親権を有している親が再婚をすることがあります。
このことは、養育費を変更する理由となります。
この再婚については、子供と再婚相手が養子縁組をしない場合と子供と再婚相手が養子縁組をする場合とがあり、それぞれによって養育費に与える影響が異なります。
子供と再婚相手が養子縁組をしていない場合まず、子供と再婚相手が養子縁組をしていない場合です。
この場合、再婚相手に子供に対する扶養義務が発生することはありません。
そのため原則として、養育費に影響を与えないのですが、親権者が再婚によって収入を増やすことができたと考えられます。
それに伴って、養育費を支払っていた親の分担割合が減り、負担すべき養育費が減額できるという主張も可能でしょう。
子供が再婚相手と養子縁組をするケースでは、“普通養子”とする場合と“特別養子”とする場合とが考えられます。
普通養子とした場合普通養子縁組をした場合、養子は養親の嫡出子としての身分を取得し(民法809条)ます。
これに伴い、養親は養子に対して扶養義務を負うことになります(民法877条1項)。
つまり、養親は養子に対して養育費を支出しなければなりません。
とはいえ、実親との親族関係はそのまま維持されます。養育費を支払っていた親の扶養義務が消滅するものではなく、養育費支払義務が消滅するものではありません。
しかし、実親二人に加えて養親も扶養義務を負うということは、それら三人の収入を合算して養育費を算定するのが論理的です。
養育費を支払っていた親の分担割合が減少しますので、減額請求できる場合が多いと考えられます。
さらに、子供と再婚相手の特別養子縁組についてはどうでしょうか。
もし、特別養子縁組が認められれば、実親…つまりこれまで養育費を支払ってきた親と子供との親族関係は終了します。
これに伴い、扶養義務も消滅し、養育費について、特別養親組成立の日以降(民法817条の9)は支払い義務がなくなります。
しかし、このような特別養子縁組は、ほとんどの場合認められないといってよいでしょう。
というのも、特別養子縁組の成立要件として「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること」などの特別の事情が必要なのですが(民法817条の7)、少なくとも養育費を受領している親は、親権者として子供の監護養育をしているからです。
実際、連れ子との特別養子縁組については、その必要性を否定する裁判例がほとんどです。
6-4 非親権者の再婚
逆に、養育費を支払っていた親が再婚をした場合、養育費はどうなるのでしょうか。
この親は、再婚をしたことによって、「親権者と同居をしている子供」と「再婚相手」との双方に対する扶養義務を負うことになります。
再婚相手との生活も維持しなければならないのですが、従来どおりの養育費を支払っていると、経済的に家庭生活が成り立たないという事態が発生することもあるでしょう。
この場合には、その経済的困難性を理由として、これまで支払っていた養育費の減額を請求することも可能です。
さらに、再婚相手との間に子供が出生した場合にはなおさらのことです。扶養しなければならない者がさらに加わるからです。
6-5 面会交流できない場合に養育費を減額できる?
離婚にあたって、親権者とならなかった親には、子供との面会交流が認められます。
ところが、子供が面会を拒否しているとか、忙しいとか、様々な理由をもって面会交流が約束どおり実現されないこともしばしばあります。
こうしたとき、養育費を支払っている親が「約束どおり子供と面会をさせないのであれば、こちらも約束どおり養育費を支払う必要はない」と主張することもよくあることです。
しかし、面会交流と養育費支払いは対価関係にあるものではなく、面会交流が実現できないからといって、養育費の支払いを拒否することはできません。
面会交流は、あくまで子どもの福祉のために実施されるものであり、親のためのものではありません。
養育費の支払いを拒否することは、さらに子供の福祉を阻害する結果となってしまいます。
もし、支払っている側として納得がいかなければ、養育費は養育費としてきっちりと支払って、親権を有する親と話し合いをしましょう。
その結果として、協議が整わなければ面会交流の実現を求めて調停・裁判に進むとよいでしょう。
また、面会交流を拒否されたことによって精神的な苦痛が生じたとして、慰謝料請求をするなどの対抗手段も考えられます。
なお、すでに面会をさせないという問題が生じている以上、話し合いが感情的になりやすいので、弁護士を代理人として立てることをお勧めします。
第7章 離婚後に支払われなくなった場合の措置厚生労働省の調べによると(平成23年度全国母子世帯等調査結果報告)、母子家庭のうち、養育費を「現在も受けている」と回答しているのは全体の20%弱です。
つまり、きちんと養育費の支払いを受けているケースは、5人に1人もいないというのが現状です。
そんな…。ひとり親になって大変なのに、養育費が支払われないと困ります。なんとかできないのでしょうか?
7-1 内容証明郵便による督促
まず、養育費を支払わなくなった相手に、支払いの督促をしましょう。
督促はどんなタイミングで行ったらよいでしょうか?
月単位で支払っているのであれば、2か月分ないし3か月分の滞りが出てから督促をすることが一般的でしょう。
これは、支払い予定の半額だけ支払われているなど、全く支払のない場合以外での滞納も意味しています。
次に、督促の方法ですが、口頭や普通の手紙、電子メールでの送信ではなく、配達証明付内容証明郵便で行うようにしましょう。
内容証明郵便とは、誰が誰に対して、どのような内容の文書を差し出しかを、差出人が作成した謄本によって証明する制度のことをいいます。
また配達証明付とは、その文書が何時配達されたかを郵便局が証明するものです。
これによって、滞っている養育費について、「支払いを督促した事実」「それが相手方に配達されたこと」「配達された月日」が公的に証明されることになります。
手続きは、内容証明郵便を取り扱っている郵便局に、同一内容の督促文書3通を作成して(1通は相手方配達用、1通は郵便局保管用、1通は差出人保管用)、差出人と相手方の住所氏名を記載した封筒を持参して、通常郵便物の料金に、書留料430円、内容証明料430円(1枚の場合)の切手を購入して差し出すことになります。
内容証明の文章は、感情的にならず、淡々と不履行があるとの事実を指摘して、配達された日から相当期間内(1週間から10日ほどが目安です)に履行をすることを求めることを記載すれば十分です。
もっとも、内容証明郵便をもって督促をしたからといって、すんなりと支払ってくれることはまずありません。
そのため内容証明郵便は無駄だと言う人もいます。
相手方に対する心理的効果を考えて、弁護士に作成を依頼して、依頼者の代理人として弁護士名で差し出すのも有効な方法です。
弁護士まで立てているという、本気度を示すことができます。
7-2 養育費と強制執行
督促をしても養育費を支払わない相手方から回収するためには、強制執行をする必要があります。
そのためには、相手方の現住所と相手方の財産を把握しておく必要があります。
住所が不明である場合には、住民票の追跡や、戸籍謄本の附表で調査ができます。また、相手方の財産も特定しなければなりません。
給与を差し押さえるのであれば勤務先の名称と住所が必要になり、預貯金を差し押さえるのであれば金融機関の支店名まで特定する必要があります。
なお、養育費支払い請求権の強制執行の場合には、未払い分だけでなく、将来分についても強制執行できます(民事執行法151条の2)。
例えば、現在15歳の子供の養育費として、20歳まで毎月10万円を支払うという約束であったにもかかわらず、これまでの未払いが100万円だったとします。
その100万円を回収するための強制執行だけでなく、15歳から20歳までの5年間の合計600万円も合算した700万円の回収のための強制執行ができます。
また、給料などについては、通常の強制執行の場合、原則としてその4分の1を超えて差押えをすることはできませんが(民事執行法152条1項・2項)、養育費支払請求に基づく場合には、2分の1まで差押えをすることができます(同条3項)。
7-2-1 強制執行(公正証書のある場合)協議離婚の場合、養育費を含む離婚条件を決めるときに公正証書にしていれば、これをもとに強制執行が可能です。
ただし、公正証書があればいいわけではなく、4つのポイントがあります。
公正証書正本があるかを確認してください。「これは正本である」という公証人の認証があるものです。
謄本では強制執行をすることができないので、もし公正証書正本を紛失したような場合には、公証人役場に対して、公正証書正本取得の申立をしてください。
次に、公正証書であっても、そこに「債務者が債務を履行しない場合には、直ちに強制執行に服する」旨の強制執行認諾文言がなければ強制執行をすることはできません。
その記載があるかを確認しましょう。
さらに、「債権者は、債務者に対し、この公正証書によって強制執行をすることができる」という執行文が付与されているかを確認してください。
もしなければ、公証人役場に対して「執行文付与の申立て」をして下さい。
最後に、公正証書正本または謄本が相手方に届いているかを証明する送達証明書があるかを確認しましょう。もしなければ、公証人役場に対して「送達証明申請」をして下さい。
以上の確認をしたら、自分と相手方の戸籍謄本を取得しましょう。
公正証書記載の住所と現在の住所とが異なる場合には、そのつながりが分かる住民票を取得し、給与の差押えなどの場合には、その会社の代表者事項証明書(商業登記簿謄本)も取って、申立書を作成して裁判所に提出することになります。
調停で養育費の取り決めがなされ調停調書が作成されている場合、裁判所に対して債務名義の送達申請を行います(判決では不要)。
そのあと、債務名義の執行文付与申請を行い、債務名義の送達証明申請を行うことになります。
なお家庭裁判所での調停や審判、判決にしたがった養育費の支払いをしない相手方に対して、それを守らせるために、家事事件手続法289条は、「履行勧告」という制度を設けています。
これは家庭裁判所に対して申し出をして、家庭裁判所が相手方に約束を守るように説得や、勧告をするという制度です。
ただ、この履行勧告には強制力がありませんので、相手方が応じない場合には、支払いを強制することはできません。
ただ、裁判所からの勧告ですから、それなりに相手方に対する影響はあるでしょう。
また、家事事件手続法290条は「履行命令」という制度も設けています。これは、家庭裁判所での調停や審判、判決にしたがった養育費の支払いをしない相手方に対して、家庭裁判所に対して申し出をして、家庭裁判所が相手方に約束を守るように命令をするという制度です。この命令にもかかわらず、支払いをしない相手方に対しては10万円以下の過料が科されますので、履行勧告よりも効果的です。
ですが、それ以上のことができるわけではありません。
強制執行をするためには、債務名義を持っていなければなりません。
債務名義とは、相手方に対する養育費支払請求権を有していることの存在を明らかにした公的な文書のことをいいます。
もし、養育費の取り決めが私的な書面でなされていたら、債務名義となりません。
では強制執行できないかというとそんなことはなく、この場合には債務名義を取得することになります。
養育費支払請求訴訟を提起して(民事調停でもかまいません)、確定判決(民事調停の場合には調停調書)を得ましょう。
その後、「7-2-2 強制執行(調停・判決を経た場合)」の手続きで強制執行を行います。
7-3 強制執行制度の改革
養育費の不払いを理由として強制執行をする場合には、先に述べたように、勤務先や金融機関の支店名まで、親権者において特定しなければなりません。しかし、離婚後に勤務先が変わっている場合もありますし、引越しをしてどの金融機関なのかさえ不明である場合もあります。
このように、強制執行をする親権者の負担は重く、結果的に子供の健全な成長が阻害されることにもなります。
そこで、法制審議会の民事執行法部会が、平成30年の国会に民事執行法の改正案を提出することに向けて中間試案を出しています。
これによれば、「債権者(親権者)の申立を受けた裁判所が、金融機関に対して債務者(養育費支払者)の口座の有無を照会して、照会を受けた金融機関は口座のある支店や残高を回答する」「裁判所が税務署や自治体などに照会をして、債務者の勤務先を特定する」などの内容が盛り込まれています。
まだこの中間試案が法律となり、それが施行されるのが何時であるかは不明ですが、これが施工されれば、回収の手間がかなり軽くなります。
そんなに遠くのない将来のことだと思われるので、この中間試案のことも頭に入れておいた方がよいでしょう。
第8章 養育費以外に請求できるもの離婚をする場合に、未成年者などの未成熟子がいればこれまで説明をしてきたように、親権を取得しなかった親は、親権を取得した親に対して、応分の養育費を支払う義務があります。
しかし、離婚に際しては、養育費以外にも金銭の授受行われます。養育費以外の金銭についても、簡単に触れておきます。
8-1 婚姻費用
離婚をする場合、話し合いや調停・裁判で解決されるまで別居をすることがあります。
そこで、その間の生活費をどうするかという問題が発生します。
民法760条は、夫婦は婚姻から生じる費用を分担することを規定しています。
「婚姻から生じる費用」とは、食費や住居費のことをいいます。
(本来は子供の養育費も含みますが、ここではそれを除いたものとします。)
別居しているとはいえ、まだ離婚は成立していないため、配偶者に対して婚姻費用を支払わなければなりません。
相手が不貞行為をした有責配偶者の場合や、黙って別居をしたような場合でも、婚姻費用の支払い義務は生じます。
金額について夫婦の協議で決めることができますが、協議が整わなければ家庭裁判所に調停や審判の申立ができます。
家庭裁判所は、夫婦の資産、収入、その他一切の事情を考慮して分担額を決定しますが、これではその調整に時間がかかり、また事案ごとに差異が出てくることもあります。
そこで、現在では、予め決められた算定表が使用されています。
養育費のところでの説明と同じように、縦軸に義務者の収入、横軸に権利者の収入があり、その交差したところの金額が分担金額となります。
子供がいる場合には、算定表の表11以下の「婚姻費用・子○人表(子○~○歳)」を使用して、養育費も含めた婚姻費用を算定することができます。
8-2 財産分与
民法768条1項、771条は、離婚をした一方配偶者は他方配偶者に対して財産の分与を請求できることを規定しています。
これは、夫婦が共同で形成した財産を離婚に際して公平に(原則半々)分けようという制度です。
そこで、夫婦が形成した財産であれば、名義とは無関係に分与されることになります。
ただし、分与の対象は夫婦で形成した財産です。結婚前から所有していた財産(特有財産といいます)は対象外となります。
この分与の対象には、不動産ローンなどの債務も含まれます。例えば、離婚時の残債5000万円の不動産ローンを組んで、離婚時の時価が6000万円の不動産を購入していたとしましょう。この場合、分与の対象は積極財産「+6000万円」と消極財産「-5000万円」となり、金額としては、1000万円が分与の対象であって、一方配偶者はその半分である500万円を請求することができます。
分与の方法はどのようなものでもかまいません。先の例では、6000万円の不動産を売却して不動産ローンを支払った残りの1000万円を分けるという方法でもかまいませんし、不動産を取得しようとする一方配偶者が500万円を調達して、これを相手方に渡すという方法でも大丈夫です。
8-3 離婚後扶養
上記の財産分与は、扶養的要素を持つこともあるといわれています。
夫婦共有財産を公平に分けるのが財産分与なのですが、そのような財産分与をした後でも、一方が生活に困窮し、他方が扶養する能力のあるときには、「離婚後扶養」が認められることがあります。
東京高裁昭和47年11月30日判決は、「少なくとも妻が自活能力を得るまでの期間の生活保障は、夫は、当然負担してしかるべきもの」と判断をして、離婚後扶養を認めています。
ただし、離婚をした後の自立した経済的生活を援助するために認められるものですから、一方が経済的に自立した生活をすることができる場合には認める必要がないものです。
例えば、本来であれば財産分与が500万円の場合も、それでは離婚後の経済的に自立した生活をすることは困難であるという場合、財産分与額を500万円ではなく、700万円とするということができます。
8-4 慰謝料
夫婦の一方が不貞行為などして、そのために夫婦生活が破綻して離婚をすることになった場合、精神的苦痛を被ったものとして、相手方に対して賠償を請求できます(民法709条、710条)。これが慰謝料といわれるものです。
その算定は、有責行為の種類、程度、婚姻年数などの夫婦をめぐる様々な事情を考慮して決定されることになりますが、平均的には100万円前後が多いようです。
8-5 年金分割
平成19年から、厚生年金保険法に「離婚等をした場合における特例」が設けられました(78条の2以下)。
いわゆる「年金分割」といわれているもので、財産分与の一つです。
年金分割には、結婚している間の年金記録をもとに、当事者の合意により上限2分の1で分割する「合意分割制度」と、一定の条件の下で合意がなくても婚姻期間中に扶養されていた者が3号被保険者であった期間を2分の1に分割する「3号分割制度」とがあります。
第9章 養育費や離婚に際して、弁護士に依頼する意義養育費について取り決めるときを含めて、離婚のときには弁護士に依頼するべきなのでしょうか?
必ずしも、弁護士に依頼する必要はありません。
ですが、離婚に当たっては様々な取り決めが必要になります。
円満にしかも納得のできる離婚をするためには、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
9-1 冷静な話合い
離婚問題は、その他の法的な争いと比べても、はるかに感情的になってしまうものです。
そのため、当事者だけの話し合いで問題を解決しようとしても、円満にすすめることが非常に困難であるという特徴をもっています。
またそれ以前に、相手方がまったく話合いに応じようとしない、相手方の所在や連絡方法が分からないということもよくあることです。
この点、弁護士に依頼をすることによって、弁護士が相手方の所在などを調査してくれますし、その相手方と冷静にかつ適切な交渉をしてくれます。
話し合いで感情的になると、罵りあってお互いが傷つく結果にもなりがちです。
そうした精神的ダメージの防波堤にもなり得ます。
また、一般論としては、相手方も弁護士に言うことであれば、冷静にこれを聞き入れて、前向きに話合いに応じることも多いので、早急な解決にもつながります。
9-2 親権者の獲得
離婚に際しては「子供の奪い合い」もよくあることです。
弁護士に依頼をすれば、夫婦それぞれの様々な事情を検討して、誰が親権者としてふさわしいかを適切に判断をしてくれ、親権獲得のために積極的な活動をしてくれます。
9-3 養育費、財産分与・慰謝料の適切な交渉
養育費については、算定表があるといっても幅があり、またその範囲外の養育費とすることが妥当な場合も多々あります。
弁護士に依頼をすれば、養育費の算定にあたって検討しなければならない事実を丁寧に拾い出し、これを適切に養育費に反映させる主張をするなどの活動をしてくれます。
財産分与については、今存在している夫婦共有財産としてどのようなものがあるのか、その金銭的価値はどうなのかを調査し、適切妥当な財産分与額を算定してくれます。
例えば不動産についても、その金銭的価値はどの程度なのか、不動産ローンの残債はどうなっているのかをきちんと調査する方法を弁護士は知っています。
また分与の方法についても、不動産を取得したい方、現金を受け取りたい方と、いろいろな希望があるでしょうが、弁護士であれば、依頼者の希望に沿った分与方法を実現するための方策を知っています。
さらに、慰謝料には明確な相場があるわけではありません。
しかし離婚問題を得意とする弁護士であれば、離婚に至った経緯、それぞれの収入など夫婦間の多様な事情を考慮して、経験から適正妥当な慰謝料額を算定してくれます。
さらに、金銭をめぐる問題については、その履行確保が重要となることは前にも説明をしましたが、公正証書を作成のための活動をするなどして、その履行確保に努めてくれます。
9-4 離婚調停での適切なアドバイス
話し合いで離婚問題が解決できない場合、まずは調停を行うことになります。
調停申立書の作成から調停でのアドバイスなど、調停など初めての経験であるという人にとって、弁護士は精神的にも心強い味方となります。
離婚調停では予想もしなかったような質問がなされ、返答に窮することもあるでしょう。
しかし、弁護士に依頼をすることで、調停前に想定問答を行い適切なアドバイスを受けることができます。
また、想定外の質問がきたとしても、弁護士が同席することで、適切に対応してくれます。
9-5 離婚裁判での代理人活動
調停が成立せず離婚裁判となることもあります。
調停はまだしも、裁判となると訴状や答弁書を作成し、それぞれの主張をまとめた準備書面も作成しなければなりません。
そして、主張を裏付ける証拠を収集してこれを裁判所に地出しなければなりません。
こうした訴訟手続きについては、弁護士に代理してもらうことが現実的でしょう。
裁判では、本人尋問も行われます。調停と違って、この場合には相手方からも反対尋問を受けます。
弁護士がついていれば、反対尋問への対応方法も事前にレクチャーしてもらえるので、安心して臨めます。
9-6 強制執行への対応
無事に離婚が成立したとしても、特に養育費については、その支払いが滞ることがよくあります。
その場合、養育費を回収するために強制執行をしなければならないこともあります。
手順については当記事で説明していますが、強制執行の手続きを自分で行うのは、非常に手間がかかります。
しかし、弁護士に依頼をすれば、強制執行手続きをすべてやってくれて、未払いの養育費のみならず、将来分まで回収をしてくれます。
このように、養育費に関わることも含めて、離婚に当たっては弁護士に相談したほうがスムーズに進むケースが多くあります。
まずは、相談だけでもしてみて、進め方や費用感について確認してみるとよいでしょう。
ただし、弁護士にも、得意分野とそうでもない分野があります。
そのため、離婚問題に強い弁護士を探す必要があります。
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