【弁護士に聞く】養育費が不払いになったら?取るべき対策と予防策
[投稿日] 2018年05月08日 [最終更新日] 2018年06月08日
養育費を得意としている弁護士
もしも、離婚後に養育費を払ってもらえなくなってしまったら……?
養育費は、子どもを育てていくために必要なお金です。しかし、約束通りに支払ってもらえるのか、支払いが滞ってしまったら子どもはどうなってしまうのか、不安になることも多いのではないでしょうか。
実際に、養育費の支払いが途切れたケースは、母子家庭の15%ほどもあるという調査結果があります(厚生労働省「平成28年度ひとり親世帯等調査結果」より)。
今回は、養育費が不払いになった時の対応策や、不払いで困らないために離婚する時点で気をつけておくべきことを、離婚問題に詳しい林奈緒子弁護士に伺いました。

(林奈緒子法律事務所)
相談者に寄り添う姿勢で、独立前から多くの離婚問題を取り扱ってきた。【親しみやすさと丁寧さ】をモットーとした、女性目線での対応が好評を得ている。
目次 |
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──養育費の不払いに関する相談は、よくあるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
はい、あります。
養育費を支払ってもらえず切羽詰まった状況になってしまって、ご相談にいらっしゃる方も多いです。
よくあるご相談のひとつは、女性からの「養育費が途中で払われなくなってしまった」というお話です。
なかには、支払う側の方からの「養育費を支払えなくなったがどうしたらよいか」「養育費を支払いたくない事情があるがどうしたいいか」というご相談もあります。
これは、経済的に支払うことが難しくなってしまったというような場合もありますし、面会交流などの約束を相手が守っていないので養育費を支払いたくないというような場合もありますね。
- 養育費を未払いにされ切羽詰まった女性からの、相談は多い
- 支払うことが難しくなってしまったという、支払う側からの相談もある
養育費の不払いで困った時に、弁護士に相談するメリットは?
──養育費を不払いにされてしまった時は、弁護士に相談した方がいいのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
そう思います。
一人ひとり状況が違いますし、個人間のやりとりでは限界もあります。
養育費の不払いは、過去にさかのぼって請求するのが難しいケースも多くあります。
ですから、早いタイミングで弁護士に相談していただき、養育費の問題を総合的に考えて法律的な根拠のある対処をしていくことが大切です。
──個人で対処するのは難しいこともありそうですね。

林 奈緒子 弁護士
そうですね。
手続きや知識面もそうですが、弁護士の名前を出して交渉すると相手が動いてくれることも多いと思います。
弁護士がつくことで解決するケースも多いので、相談していただきたいですね。
- 弁護士に相談することで、法律的根拠のある対処法を相談できる。
- 弁護士が代理人になることでスムーズに進むことがある。
──弁護士に相談する際には、どのようなことを整理しておけばよいのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
まずお聞きしたい内容は、離婚した時の取り決めについて。
それから、お二人の収入や事情の変化などについてです。
協議離婚されている場合、最初に私がおうかがいするのは、「そもそも何か合意書を作っていますか」という点です。
そして、養育費が決められている場合は、その金額が相場にくらべて高いのか低いのかを確認します。
また、現在の収入もお尋ねします。離婚したお二人の収入がどのくらい違うのか。
そして、取り決め時と現在では収入の差があるのかないのか、ということなどです。
さらに、取り決め時と現在とで事情が変わっているかどうかも、確認させていただきます。
たとえば、養育費を受け取る女性が再婚したとか、支払う男性の方が職を失っているとかいうような状況があるのか、ということですね。
養育費の不払いがあった場合、はじめに確認することは以下のとおり。
- 離婚時に養育費について合意する書類などが作られていたか
- 決められた養育費と相場の違い
- お互いの現在の収入
- 状況の変化(取り決め時と状況が変わった点があるのか)
──養育費の不払いに対して、どのような対処をしていくことになるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
初めに内容証明郵便など、お手紙で支払いを促させていただくということは、よくあります。
そのほかは、電話や面談での交渉になります。
依頼者のご希望により、弁護士が窓口となって代理で交渉したり、ご本人が交渉する場合にはバックでサポートをしたりします。
さらにどうしても無理だった場合は、調停や履行勧告、強制執行などの手段をとることも可能です。
──調停の申し立てまで行うと、負担が大きいのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
そうですね。費用も手間もかかってしまうので、そこに至る前にまずは相手方との任意の交渉で支払ってもらいたいところです。
弁護士に依頼すれば弁護士費用もかかってきますし、実際は二の足を踏む方も多いです。
相談にいらした方はもともと養育費で困っている状況なので、時間をかけて調停などまでするのは厳しい実状があるのではないでしょうか。
──実際に支払ってもらうまではかなり大変そうですね。

林 奈緒子 弁護士
はい。
交渉しても支払わない方の場合、強制的な対処として支払いを担保するための動きをとらなければいけないケースが多い気がしますね。
たとえば、会社名など勤務先がわかっている場合には、保全をかけて給料を差し押さえたり退職金を差し押さえたりすることになります。
- まずは段階的に交渉していくことになる。
- 調停は負担が大きいので、できるだけ交渉で取り決める。
- どうしても支払わない相手には、給料の差し押さえなども可能。
離婚時にしっかり取り決めておくことが重要
──もし離婚時に養育費の取り決めがなかった場合は、どうしたらよいのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
養育費について、金額や支払いの期間などを改めて1から決めていきます。
養育費の不払いで困って相談にいらっしゃる方は、離婚時にきちんとした取り決めがなかったというケースも多いように思います。
──やはり、離婚時の取り決めが重要なのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
はい。
一旦不払いになってしまった後に支払ってもらうのは、大変な場合が多いものです。
ですから、養育費の不払いで困らないようにするためには、離婚する時に、きちんと取り決めておくことが大切です。
──取り決めはどのような形で行ったらよいのでしょうか。

林 奈緒子 弁護士
法的に意味がある書面にしておくことが望ましく、できれば強制執行の認諾文言つきの公正証書がベストですね。
強制執行の認諾文言にしておけば、取り決めどおりのことをしなかった場合に、裁判をしなくても強制執行を行い、相手の財産の差し押さえなどができるようになります。
──口約束だけだと難しいでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
そうですね。
確かに、合意書もなく口約束だけというケースもあります。
ですがそうなってしまうと、取り決めた金額に証拠がなく、そもそも金額から争われるようなことになってしまいます。
最初にきちんとした取り決めをしておきましょう。
- 養育費の不払いで困らないために、離婚時にきちんと文書で取り決めを。
- 法的な意味のある文書を。強制執行の認諾文言つきの公正証書がベスト。
──養育費を支払えない事情がある場合は、どのような対処法があるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
「どのような形なら支払えるのか」という交渉をすることなどが考えられます。
ですがやはり、払わなくなってしまったものを支払っていただくのはかなり難しくなります。
本当に支払えない状況でしたら、金額を下げたり、ボーナスのタイミングでまとめて払っていただいたりなどの交渉をする方法があります。
一方で、単純に「養育費を払いたくない」「なんとなく支払わなくなってしまった」というような方もいます。
この場合、個人間の交渉で払ってもらうのは難しくても、弁護士の名前を出すことで反応が生じることも多い印象です。
- 離婚時とは状況が変わって養育費が支払えないというケースもある。
- 本当に支払えない場合は、減額やまとめての支払いなどを交渉する。
──養育費が不払いになった時のために、支払う側の親族を連帯保証人にしておくようなことはできるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
合意書に連帯保証人として署名いただくという形にすることはできます。
ただ、養育費というのは、支払い義務のある方の父母などが相続するということはなく一身限りのものです。
ですから、不払いになった時に連帯保証人に対して強制執行をするということですと、調停を申し立てても抵抗感を覚える裁判官もいらっしゃいます。
またその内容で公正証書を作るとしても条項の交渉の際に公証人が「これはちょっと」と難色を見せることもありますね。
──支払う側ではなく受け取る方の「状況の変化」で、養育費が不払いにされてしまうこともあるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
はい、あります。
たとえば、合意書の中に、「親権をもつ女性側が再婚した場合に養育費の支払いは停止する」という条項が入っていたとします。
その場合、女性の方が再婚はしていないものの内縁関係の男性がいるなど事実上の再婚状態になったために、支払いが止められてしまうなどのケースはありますね。
そのほかにも、女性が経済的な援助をほかから得ている場合に支払われなくなってしまうなどの場合があります。
──合意書に「再婚した場合は養育費の支払いは停止」と書いてあっても、再婚後に養育費を求めることはできるものでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
はい。
養育費というのは子どもの権利です。ですから、親が勝手に放棄することはできないと言われています。
ですから、親同士が合意して養育費を放棄したとしても、養育費を完全にゼロにすることはできません
相手にそのように伝えて、説得する形になりますね。
──合意書で放棄したものの、やはり支払ってもらうということは、そもそもの合意内容が問題になるということですか?

林 奈緒子 弁護士
はい。
合意書に支払い停止の条項があっても、先ほど申し上げたように、そもそも養育費は親が勝手に放棄できません。
ですから「そもそも最初に作成した合意書自体に問題がある」というお話になってしまいます。
ですから、養育費を支払う側か受け取る側かに関わらず、作成した合意書を法的に正しい内容にしておいて、後から異議を挟まれないようにすることも大切ですね。
- 養育費をもらうのは、育てる親ではなくて子どもの権利。親が勝手に停止できない。
- 離婚時に法的に有効性のある文書を作成することが大事。
一旦不払いの状態になってしまうと、支払ってもらうのがなかなか難しい現状があるようです。
ですが、解決する手段がないわけではないので、やはり弁護士に相談してみるのがよいでしょう。
何より大切なのは、離婚後にそういった状況に陥らないように、しっかりとした内容で合意して、それを強制執行の認諾文言つきの公正証書にしておくことが重要です。
「養育費は子どものためのもの」なので、親の都合で支払いがなくなったり、受け取らなくなったりすることのないよう、しっかりと継続させたいものです。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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