【弁護士に聞く】養育費の決め方 | 子どものために決めておくべきこととは
[投稿日] 2018年05月28日 [最終更新日] 2018年06月08日
子どもがいる夫婦が離婚するときには、子どもの暮らしや将来のことも考えた取り決めをしておくことが大切です。
特に養育費は育児をしていくために必要なお金。将来不払いで困るなどということがないように、きちんと決めておきたいことのひとつです。
しかし、養育費の問題は、子どもが育っていくプロセスや夫婦それぞれの離婚後の収入など「今後のこと」と関わるため、決め方がイメージしづらいとも言われます。
今回は、養育費について、金額をどう決めたらよいのか、何を決めておくことが大切なのか、離婚問題に詳しい林奈緒子弁護士に伺いました。

(林奈緒子法律事務所)
相談者に寄り添う姿勢で、独立前から多くの離婚問題を取り扱ってきた。【親しみやすさと丁寧さ】をモットーとした、女性目線での対応が好評を得ている。
養育費の取り決めが大切な理由
──養育費とは、どのようなものでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
養育費は、子どもが成長していく過程で必要な、生活をするためのお金です。教育費や医療費なども含めた、子どもが生活をするための費用ですね。
この権利は、子どもにあります。
──親ではなくて、子どものものなのですね。

林 奈緒子 弁護士
はい。
養育費は親権を持っている親が受け取ることになりますが、実際は親のためのお金ではありません。
子どものために支払われるお金であり、子どもに権利があると考えていただくものです。
──支払うことは義務なのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
そうです。
子どもと親をつなぐものですし、親権のあるなしにかかわらず負担することが親の義務でもあります。
しかし、金額や支払い期間などは、それぞれで決めていかなければいけません。
──離婚する時に決めていない人は、多いのでしょうか。

林 奈緒子 弁護士
離婚時に弁護士のところに相談にいらっしゃる方々の間では、養育費についての認識は広がっているように思います。「養育費はどうしましょう」と向こうから切り出される方も多いぐらいです。
しかし、やはり離婚時にきちんと決めていない人もいますね。
養育費が支払われなくて困って相談にいらっしゃる方の中には、取り決めをきちんとしていなかった方も多いです。
──どのような形で決めておけばよいのでしょうか。

林 奈緒子 弁護士
養育費は、離婚する際に法律的に意味のある形で内容をきちんと決めておくことが大切です。
後々、不払いが起きてしまったときに、「払わない」「払えない」と言っている人に払わせるのは大変です。
強制的な手段に訴えるとなると手間もお金もかかってしまいます。
そのようになってから困らないためにも、協議離婚する場合には、その時点で強制執行の認諾文言つきの公正証書を作るのがおすすめです。
- 養育費のことは、トラブルに備えて離婚時にきちんと決めておく。
- 強制執行の認諾文言つきの公正証書を作っておくことがベスト。
──養育費の金額は、どのように決めるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
基本的には、お互いの現在の収入が一番大事な要素です。
直近の源泉徴収票を出していただいて確認することが多いですね。
自営業者の方だったら確定申告書を出していただきます。
そのうえで、裁判所などが使っている、養育費の算定表をもとにして金額を検討していきます。
──支払う側が、源泉徴収などを出そうとしない場合はどうなるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
収入のわかる書類については、出してくださる方が多いですね。
もしも出していただけない場合は、“賃金センサス”(厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」)という「その年代の方でその経歴の方だったら一般的にはどのくらいの収入があるのか」という表があるので、それを使って計算をすることになります。
ただ、その場合、人によっては養育費の支払いを多めに設定され不利になってしまうこともありますので、そのような時はやはり書類をお出しいただけるのではないでしょうか。
──養育費の算定表を見ると、金額が「3万円~5万円」というように大きな幅がありますが、どのように養育費の額を決めたらよいのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
算定表はあくまで目安として使います。
実際の金額は、現状に合わせて決めていくことになりますね。
たとえば東京都心部ですと、教育費が高額になりがちで算定表の金額ではおさまりきらないということも多いと思います。
私立の学校に通うかどうか、大学・大学院に進学するか、留学の希望があるかなど、個々のケースによっても変わってきます。
養育費を請求する側としては、算定表に書かれた上限の金額あるいはそれ以上の考慮要素がある場合にはそれに上乗せした額で請求して、それが無理ならどうするかというように話を進めていくことが多いでしょうか。
──習いごとの月謝なども請求できるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
はい。できます。
今の成育環境を維持していくために必要な金額を考えていくということですね。
養育費を決める際、習い事や塾通いなどの金額が実際にどれ程かかっているのかもお話しいただきます。
養育費として支払われることになった金額でそれがまかなえないのであれば、相手方に「今の成育環境を維持するためにどのくらい支払えますか」と、具体的に交渉していくことになりますね。
──養育費を受け取る側としては、子どものためにできるだけ高い金額を請求する形がよいのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
そうとも限りません。
というのも、養育費は「相手に払い続けてもらうこと」も大切です。
初めに無理をして後になって払えなくなるというのも困りますよね。ですから、“長く支払ってもらう”という視点でも金額を考えていきます。
- 養育費は、親の収入や子どもの暮らしに合わせた金額に設定する。
- 算定表を目安に、まず上限の金額を請求して交渉していく形もある。
- 現実的に支払い続けることが可能かという視点も持って、金額を考える。
養育費の算定表や年収の確認の仕方について、詳しくはこちらをご覧ください。
養育費を支払う人の収入が増減しそうな場合
──養育費を支払う側の収入が激減するなど、離婚時とは事情が変わって養育費を支払えなくなる場合もあると思います。それに備えて、どのようなことができるでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
養育費を支払う側の方の収入が不安定であったり、減ってしまいそうであったりする場合ですね。
そういうとき、受け取る側としては、できるだけ早めに総額を受け取る形にするのがおすすめです。
可能なら一括払いという取り決めをするのが一番いいと思います。
一括払いが難しければ、先に総額を決めて一部を先にいただいて後々は分割払いということも可能です。
子どもが二十歳までの支払いではなく、短い期間で全額を支払う方向がよいと思います。
また、先ほども申しましたが、強制執行の認諾文言つきで公正証書を作って支払いを担保する、ということも大切だと思います。
──逆に、職業によっては、今後収入がどんどんあがっていきそうなケースもあると思いますが、その場合もそれを考慮した金額を決められるのですか?

林 奈緒子 弁護士
あらかじめ考慮に入れることは、難しいですね。
ただ、実際に収入が増えた時点で、改めて養育費の増額を請求することはできます。
支払う側がそれに応じた場合には、増額分を受け取れます。
- 長期の養育費支払いが滞りそうな場合は、早めに総額を受け取る形で。
- 支払い者の収入が増えたら、その段階で増額の請求をしていく。
養育費の減額などについて、詳しくはこちらをご覧ください。
養育費と面会交流の条件で争われるケース
──養育費でもめるケースは多いのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
大抵の場合、養育費の問題のみで争われるということはなく、親権や面会交流の問題とセットで争われているケースが多いですね。
そもそも離婚そのものをどうするかというところで争われ、養育費の問題が出てくる場合もあります。
複合的な要因のなかで、養育費もひとつの考慮要素として動いてきます。
──親権や面会交流というのは、養育費とどのような形で問題になるのでしょうか。

林 奈緒子 弁護士
たとえば、父親が「親権を譲ってもいい」と言って養育費も支払うと言っていても、面会交流の条件を母親が認めないというケースがありますね。
父親側は「ひと月に3回か4回のペースで子どもに会いたい」と言っているけれども、母親側は「そんな回数は、働いているし無理」と言って認めないというような場合です。
──面会交流の条件と養育費というのは、具体的にはどのように話し合われていくのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
面会交流の条件と養育費の金額は、実質的に取引関係にあるとも言えます。つまり、面会の条件を認めてもらう代わりに養育費の額をあげるというような形です。
たとえば、「養育費をこれだけもらうかわりに、このくらい多くの面会交流はさせてあげないとだめかもしれませんね」というお話をさせていただくこともあります。
面会交流の条件を認めるかどうかということが、事実上、養育費の金額と均衡した形で判断されていくようなところはありますね。
──養育費を支払う方からの、面会交流に関する相談もあるのでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
それもありますね。
あまりにも子どもに会わせてもらえないと、養育費を支払うモチベーションも下がってきてしまいます。
例えば、「父親として養育費をずっと払ってきているけれども、元妻が子どもに一回も会わせてくれない。成長状況の報告すらしてくれないから、払うのが嫌になってきました」という方もいらっしゃいました。
養育費を受け取る側の方には、やはり面会交流という義務は果たさないといけないことを私からもお話ししています。
それに結局、そうしたほうが養育費を最後まで支払ってもらうことになりやすいという気はしますね。
- 面会交流の条件と養育費の金額は、取引関係になりがち。
- 養育費の金額を上げてもらって、面会交流の条件を認める場合も。
- 面会交流は、養育費を支払いへのモチベーションにもつながる。
面会交流について、詳しくはこちらをご覧ください。
──たとえば、将来、大学入学のためにまとまったお金が必要になるような時のためには、どのような取り決めをしておいたらよいでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
これは、よくご相談いただく内容です。
学校が私立か国公立かでも費用が変わってきますね。
あらかじめ養育費をどうするか決めて公正証書に記しておきましょう。
取り決めの形は色々です。
たとえば、「まとまったお金が必要なときは随時協議する」という協議条項を公正証書に入れる方法があります。
また、先に金額を決めてしまう方法も可能です。「中学入学時には、◯十万円」というような金額を決めて、ある程度大きな支払いを担保しておくという形ですね。
──20歳をすぎた年齢で大学院への進学をするような場合にも、養育費を請求することは可能でしょうか?

林 奈緒子 弁護士
はい。可能です。
養育費の終わりについてもよくご相談もいただきます。
「養育費の支払いは20歳になる誕生月まで」と決めることが多いのですが、大学卒業は22歳以降ですし、大学院に行く方もいたりして、状況はさまざまです。
ですから、大学院にいく可能性がありそうでしたら「大学院の入学に関しては随時協議する、その場合は、養育費の支払いの時期に関しても変更可能にする」というような形をとるとよいのではないでしょうか。
──たとえば子どもが病気した場合などの急な事態については、いかがでしょうか?

林 奈緒子 弁護士
事情が大幅に変わって取り決め以上のお金が必要になった時には、増額の請求もできます。
あらかじめ条項を入れておくことも可能ですので、養育費についての取り決めの際に、そのような急な場合の増額についての内容を入れておいてもいいと思います。
養育費のやりとりに関しては、ご両親の意向が一致する部分や、お子さんに関してのお話となるとわりと妥協される方も多いという印象はあります。今後の子どもがどういう人生を歩むのかということを考えた上で、決めておくといいでしょう。
- まとまったお金が必要な場合についての取り決めもしておく。
- 随時協議する形や金額を決めておく形など、様々な方法がある。
- 急な病気など事情が大幅に変わった場合は、増額請求も可能。
子どもを引き取らない親がしっかりと支払うべき「養育費」。
ですが、子どもが自立するまでにはさまざまな状況の変化もあります。
ですから、その時どきに適切な対応ができるような取り決めを、離婚する時点でしておくことが大切です。
弁護士は、将来のさまざまなケースに備えて何をどのように取り決めておくとよいか、それぞれの状況について相談に乗ってくれます。
離婚は夫婦の問題です。だからこそ、子どもの健全な成長にはしっかりと配慮をしたいものです。
養育費をしっかり受け取れるかどうかは子どもの人生に関わることなので、何かあっても対応できる有効な取り決めをしておきましょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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