日常家事債務
[投稿日] 2014年01月07日 [最終更新日] 2016年10月28日
婚姻費用を得意としている弁護士
電気使用料の集金に客の家を訪ねると、その家の夫は不在でした。
妻に支払を求めると、「その契約は夫名義だから、料金は夫から受け取って」と冷たい返事。
この場合、妻から支払を受けることはできないのでしょうか?
確かに、それぞれの契約は各人で責任を取るべきともいえますが、婚姻の大きな特徴は共同性にあります。
法律はこの共同性を重視し、婚姻共同生活のための行為(日常家事)から生じた債務については夫婦に連帯責任を負わせてもよいと考えました。
この考え方を「日常家事債務(民法761条前段)」といい、ここでは夫婦は互いに他方を代理する権限があると解されています(最高裁昭和44年12月18日判決)
日常家事と認められるのは「夫婦と未成熟子が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる一切の事項」です。
この判断にあたっては(1)夫婦の社会的地位や職業、資産、収入などの内部事情、(2)法律行為の種類・性質などの客観的要素 が考慮されます。
たとえば、衣食住、光熱、家電製品・家具などの日用品、生活に必要な自動車、医療、娯楽・交際、教育などにかかる費用は、日常家事の代表的な例です。
したがって、冒頭の電気料金なら、普通は妻に支払ってもらうことができます。
実際の裁判では、手取り月収約30万円の家庭が購入した約60万円(月々7000円)の子供用学習教材の支払いなどが、日常家事債務と認められました。
反対に、月収約8万円の家庭が購入した約41万円の太陽熱温水器の支払い、無収入の家庭で購入された21万余円の布団の36回クレジット払いなどは、上記(1)と(2)のバランスが欠如していることもあり、例外的に日常家事債務と認められませんでした。
ちなみに、債務内容が商品やサービスの支払いではなく「借金の返済」である場合、日常家事債務か否かは、借金の目的(実際に家事に使われたか)や金額をもとに判断するのが一般的です。
なお、他方名義の不動産を処分する行為は、夫婦の財産的独立の観点から日常家事に含まれないので、勝手に配偶者の土地などを売ったりしてはいけません。
こうしてみる限り、日常家事債務かどうかは夫婦の事情に大きく影響されるようですが、契約の相手方である第三者は、夫婦の家庭事情など知らないことがほとんどでしょう。
そのため、最高裁は、第三者が正当な理由のもと当該行為を日常家事の範囲内と信じた場合は、表見代理(無権利の代理人があたかも代理権を持っているような外観を備えているときは、それを信じて契約した第三者を保護するというもの。110条)の趣旨を類推適用するとして第三者の保護に配慮しています。
ただし、第三者に対して「自分の配偶者はこの契約の責任を負わない」と予告してあれば、連帯責任は生じません(761条但書)。
以上はすべて普通の夫婦に関するものですが、万が一、婚姻が破綻しかけている場合は、日常家事債務は存在せず、法令の適用もないとされています。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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