離婚できる理由
[投稿日] 2013年06月28日 [最終更新日] 2017年09月04日
最高裁判所の調べによると、平成23 年の1 年間に全国の家庭裁判所において受理した離婚訴訟事件は10,045 件。この中には離婚の無効および取消しの訴えも含まれていますが、主流はやはり離婚を希望する人からの訴えだと思われます。
一方が離婚を望んでも、相手が拒否している場合、まずは本人たちでの話し合い、それで話がまとまらなければ調停、それも不成立に終われば最終的に裁判で決めてもらうしかありません。(※離婚に関しては、調停をせずにいきなり裁判はできないことになっています。)
あたりまえですが、裁判所は何の理由もなく夫婦を離婚させたりはしません。民法770条1項には、「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる」と記載されています。ですから、その「場合」に当てはまらなければ、訴訟を起こすことすらできないということになります。
では、その具体的な「場合」はと言うと、以下の5つ(1号~ 5号)です。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
ただ、1号から4号のいずれかの理由があって訴えを起こしたとしても、必ず離婚が認められるわけではありません。 同条2項によると、「裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる」とあります。つまり、裁判所が「離婚すべきでない」と判断すれば、その訴えは聞き入れてもらえず、離婚はできないのです。
離婚できるかできないかは、結局「裁判所の判断」で決まるのです。
それでは、今までにどのような判断がされてきたのか、判例を紐解きながら見てみましょう。
生活苦ゆえの売春(最判昭和38年6月4日)
【事件の概要】
夫が生活費をいれてくれないが故に、自分と子どもの生活のため、妻が自分の身体を使い(いわゆる売春)生計を立てていたところ、父親不明の子を妊娠、出産した。
このような事実関係があり、夫から不貞行為を理由に離婚請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
一審、二審では、このような事態に陥った責任は妻にあるとは言え、妻だけを責めるのは可哀想...という理由で夫からの離婚請求を認めませんでした。
しかし最高裁判所の判決では、「妻に同情はするけど、子供を抱えて生活苦にあえいでいる世の多くの女性が、そんなことまでするのが普通で、やむを得ないことだとはとても思えない」として先の判決を破棄して差し戻しました。
生活のため、やむなく売春しました...という主張は認められない、ということです。
それも立派な「不貞行為」とされてしまいます。
強姦の加害者(最判昭和48年11月15日)
【事件の概要】
夫がその友人とともに3人の女性を強姦し、逮捕された。真実を知った妻が離婚を請求した事件。
【裁判所の判断】
裁判所は妻の請求を認めました。しかし夫がその判決を不服として上告。その理由として「『不貞行為』とは、『自由な意思にもとづいて』性的関係を結ぶもので、強姦した相手の女性に自由な意思はない。だから不貞行為ではない!」と、とんでもない主張をしたのです。 当然ながら最高裁判所は、夫に「不貞な行為があつたと認めるのが相当」としてこの主張を採用はせず、先の判決どおり離婚を認めました。
強姦を犯した場合は「不貞行為」とされるということです。
ちなみに強姦の被害者に自由意志はないので、不貞行為とはなりません。
風俗店通い(東京地判平成17年7月27日)
【事件の概要】
妻が夫の不貞行為、暴行などを理由に離婚を求めるとともに、親権者の指定、養育費、財産分与、慰謝料の支払いを求めた事件。
【裁判所の判断】
実は夫の方も離婚を求める訴訟を起こしており、結果的に離婚と夫の暴行による慰謝料は認められました。ただ、妻が主張する不貞行為については認められませんでした。
妻が提出した証拠から認定できる事実は、「夫が風俗店であそんでいたこと」「特定の女性とメールのやりとりをしていたこと」「夫が淋病(性感染症)にかかったこと」で、これらの事実だけでは夫が特定の女性と不貞行為をしたことまでは認められない、と裁判所は判断しました。この判例によると、風俗店であそぶことだけでは不貞行為にはならないようですね。
過去の不貞行為(東京高判昭和34年7月7日)
【事件の概要】
以前、夫が不貞行為をしたことを認め、今後はその不貞関係を断つという内容の誓約書を受け取った妻から、離婚の請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
この裁判のポイントは「過去の不貞行為を理由に離婚請求が認められるか」ということですが、結論としてこの離婚は認められました。 一旦、不貞行為を許した後で、その不貞行為を理由に離婚請求することは許されないとした判例(東京高判平成4年12月24日)もあるので、過去の不貞行為に関しては、「許した」か「許していなかった」かが判決の分かれ目のようです。
この事件では、夫が誓約書を渡したことは、あくまで夫の謝罪に過ぎず、妻が「不貞行為を全面的に宥恕(許すこと)したものとは認められない」と判断されました。
民法752条によると「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とあります。悪意の遺棄とは、正当な理由もないのに、この同居、協力、扶助の義務を行わないことです。つまり、勝手に家を出ていって帰ってこないという行為が「悪意の遺棄」にあたります。
身勝手な妻に我慢できず(最判昭和39年9月17日)
【事件の概要】
夫の意に反して妻が自分の兄を同居させ、夫をないがしろにしたうえに兄のために夫の財産から多額の支出をしたため、夫が同居と扶助を拒否。そんな夫に妻から「悪意の遺棄」を理由に離婚を請求。夫からも離婚請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
この事件の判決では、夫が同居や扶助を拒んだ原因は妻にあり、夫の「悪意の遺棄」にはあたらないとしました。妻の請求は認められず、夫からの請求により離婚が成立しました。 夫婦のどちらともが離婚を望んでいるのだから争う必要がなさそうですが、相手が主張する離婚原因に承服できないなどの理由で、訴訟を起こすことはそれほど珍しいことではないようです。おそらく離婚の理由が何であるかによって慰謝料の額に影響するからだと思われます。
病気の妻を置き去り(浦和地判昭和60年11月29日)
【事件の概要】
脳血栓のため半身不随となった妻を看護もせず、突然家を出て行き、その後も生活費を全く送金しないで長期間別居を続けていた夫に対して、妻から離婚請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
裁判所は「悪意の遺棄」を原因として、妻からの離婚請求を認めました。 そして慰謝料と財産分与を合わせて、結婚中に購入した建物と土地全部を妻のものとしました。 「夫である前に、人としてどうなの?」とも思えるこの夫の行動や、妻の生活のことを考えると妥当な判決なのではないでしょうか。
「生死が不明」というのは、単なる行方不明とは違い、生きていることも死んでいることも証明できない場合のことをいいます。生きていると推定される場合は、この生死不明にはあたりませんが、死んでいる可能性が大である必要もないとされています。 ちなみに、配偶者が生死不明の場合には「失踪宣言」によって婚姻を解消する方法もあります。いくつかの要件を満たせば、配偶者死亡による婚姻の終了となります。
ノイローゼの妻が(東京地判昭和24年2月7日)
【事件の概要】
新婚間もない妻がノイローゼになり、夜、普段着のまま何も持たずに無断外出して3年以上も消息がわからない、という事件。
【裁判所の判断】
判決では、生死不明と認められました。 この離婚理由は明治時代の民法から認められていて、昭和30年代まで戦地からの未帰還者に関わる判例は多くありましたが、最近の裁判例では見られません。
精神病が離婚理由として認められているのは、病によって結婚生活の重要な部分である「精神的なつながり」がなくなり、夫婦関係が破たんしてしまった場合に、夫もしくは妻をその婚姻から解放してあげようというものです。
ただ、この4号の離婚請求は裁判所が棄却する判例が多いようです。
禁治産者となった妻(最判昭和45年11月24日)
【事件の概要】
結婚当初から人嫌いで、近所の人や夫が経営する会社の従業員とも打ち解けず夫にも無関心・非協力的な妻に対して、夫が離婚調停を申立てた。以来妻は実家に 戻り別居。調停がまとまりかけたところで、妻が精神病にかかっていることが判明。
夫は調停を取り下げた。その後妻は禁治産の宣告を受け、夫から離婚と長女の親権を求める訴訟が提起された事件。
【裁判所の判断】
一審、二審ともに夫の請求は認められ、上告審でも妻の父親による訴えは棄却されました。
精神病を理由とする離婚が認められるには、『病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ』、ある程度その手立てに見込がついた状況でなければならないとされ、かなりハードルが高い離婚理由であると言えます。
この事件では、妻の実家は夫が支払わなくても療養費に困るような資産状況ではなく、むしろ夫の方が妻の療養費を充分支払えるほどに余裕はないにもかかわらず、過去の療養費も妻の父親との約束通り全額支払い、将来の療養費についても可能な限り支払う意思を表明していることから、最高裁でも離婚請求が認められました。
夫の誠意が判決のカギ(東京高判昭和58年1月18日)
【事件の概要】
精神薄弱とてんかんの病気で入院し、回復の見込みのない妻。夫は家事、育児を自分の母に助けてもらいながらも自ら行い、妻の治療にも積極的に協力していたが、10 年にわたるこのような生活が重圧となり、離婚を希望した事件。
【裁判所の判断】
この事件でも精神病離婚が認められました。
妻の精神状態は夫婦の義務を果たせないほどに痴呆化していること、そして今後悪くなることはあっても良くはならないことから離婚理由の『強度の精神病にかかり、回復の見込みがない』にあたるとされました。
そして離婚後の妻の生活については、妻が生活保護を受けて療養生活が続けられるよう夫が福祉事務所や入院中の病院に対してもろもろの手筈を整え、また夫自身も、離婚後もできるだけ妻に面会に行き、子どもらに会いたいと言えば面接させ、妻を精神的にサポートするという誠意を見せたことが、判決に影響したものと思われます。
1号~4号とは違ってかなり抽象的になりましたが、ほとんどの離婚訴訟ではこの5号が主張されていると言っても過言ではないでしょう。
というのも、例えば不貞行為を理由に離婚請求はしたものの、証拠が十分ではなく訴えを却下された場合、再度5号を理由に離婚訴訟をすることはできないからです。離婚裁判は一発勝負なので、争う対象は慎重に選ぶべきです。先の例ですと、不貞の証拠は不十分であるものの、その疑いのある言動で相手から苦しめられていると証明できれば、不貞行為だけでなく、この5号の理由も主張すべきでしょう。
とにかく裁判所に「もう夫婦を続けるのは難しいね」と判断される状況であれば、いろいろな理由で離婚が認められるようです。
宗教活動(東京高判平成2年4月25日)
【事件の概要】
妻がエホバの証人の勉強会に参加したり熱心な信者となったことを知った夫は、信仰を止めるよう説得したが、妻は聞き入れず夫婦は家庭内別居状態に。
その後夫は家を出て妻や子ども達と別居した。
夫から2度の調停申立てがあったが、いずれも不調となり、夫が妻に対して離婚と慰謝料の請求、子ども達の親権を妻とすることを求める訴訟を起こした事件。
【裁判所の判断】
一審で夫の請求は認められませんでしたが、控訴審では離婚の請求は認められました。ただし、慰謝料については結婚が破綻した原因は双方にあるとして認められませんでした。
離婚が認められた理由としては、この夫婦関係が既に完全に破綻していると判断されたため。
夫は、たとえ今後妻が宗教活動を止めても再び夫婦として一緒に生活する気持ちが完全になく、妻は妻で離婚する気はないと言いながらも自分の宗教活動を止めるつもりは毛頭なく、それどころか夫がエホバの証人を嫌うのは理解不足と精神状態の不安定さが原因と考えているなど、夫婦双方が相手のために自分の考え方などを譲り、共同生活を回復する余地は全くないとみなされたからです。
生活能力のない夫(東京高判昭和59年5月30日)
【事件の概要】
確かな見通しもないのに転職を繰り返し、簡単に借金をし、挙句の果てに妻に借金返済の助けを求めるなど、生活態度が怠惰でけじめがない上に思いやりにも欠ける夫に対して愛情がなくなった妻から離婚請求がされた事件。
【裁判所の判断】
結婚生活の破綻を招いた責任の大半は夫にあるとして、妻からの離婚請求は認められました。
この事件も、一審では認められなかったものが、控訴審では認められたというものです。同じ事案でも、一審と二審で判断が違った例の1つです。
夫が同性愛者(名古屋地判昭和47年2月29日)
【事件の概要】
結婚後4ヵ月程で夫が他の男性と同性愛の関係となり、妻からの性的要求に全く応じなくなったため、今後まともな夫婦関係を取り戻すことはできないと考えた 妻が離婚を請求した事件。
【裁判所の判断】
結論として、妻からの離婚請求は認められました。
離婚理由としては「不貞行為」にも該当しそうですが、不貞とは異性との性的交渉を指すため、同性愛での性的交渉は厳密には770条1項1号の不貞行為には該当しないと考えられています。
ただ、相手が異性だろうと同性だろうと貞操義務に反しているのは間違いなく、すでに数年間にわたり夫婦間の性生活がなく、夫と他の男性との関係を知ったことで妻が受けた衝撃の大きさを考えると今後、この夫婦が「正常な婚姻関係を取り戻すことはまず不可能」と判断されました。
セックスレス(京都地判昭和62年5月12日)
【事件の概要】
夫には性的な興奮や衝動がなく、また性交不能であることを告げずに結婚し、3年半の同居期間中、全く性交渉がなかったことを理由に妻から離婚請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
裁判所は、「婚姻後長年にわたり性交渉のないことは、原則として、婚姻を継続し難い重大な事由に当たる」として妻からの請求を認めました。
また、結婚生活における性生活の重要性、さらには性交不能が子供をもうけることができないという重大な結果に直結することを考えると、「婚姻に際して相手方に対し自己が性的不能であることを告知しないということは、信義則に照らし違法であり不法行為を構成する」として、妻への慰謝料200万円も認められました。
愛情がなくなった(大阪地判平成4年8月31日)
【事件の概要】
妻に対して家計費の切詰めや貯蓄についての要求が細かい上に、マンションの購入資金を妻の親に甘えようとする夫。妻はそんな夫の態度に嫌気がさし、子どもを連れて別居、妻から離婚請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
夫は、夫婦関係の修復は可能と主張しましたが、裁判所は「そのための具体的方策の提示はなされていない」と判断。
お互いの生活態度や信条の違いから、妻が次第に夫への愛情を喪失させて結婚生活に破綻をきたすようになったわけですが、別居期間もすでに3年を超えていることや、婚姻費用の分担についてを家裁の審判で決定するなど「夫婦間の問題についての解決を裁判手続きに委ねなければ進展を見ることができない段階に至っていることが明らかである」として、妻からの離婚請求を認めました。
姑による嫁いびりの末(東京高判平成1年5月11日)
【事件の概要】
結婚当初は仲睦まじく暮らしていた夫婦だったが、夫の母ははじめから息子の嫁に対して良い感情を持っておらず、次第に嫁姑の関係が激しく悪化。しかも夫はこの2人の関係修復に努力することもなく、その後別居。別居期間は10年以上におよび、夫から妻に対して離婚請求がなされた事件。
【裁判所の判断】
一審では夫からの離婚請求は認められましたが、二審では離婚が認められませんでした。東京高裁によると、夫婦関係が悪くなったそもそもの原因は夫の母にあり、夫婦の関係回復の可能性を全否定するのは「ためらいを覚えざるをえない」ということです。つまり婚姻破綻の証明はできないと。
別居期間も長く、夫婦関係が破綻していることは妻も認めるところなので、果たして本当に回復できるのか?と個人的には思わないでもないですが、妻をいびり倒し、家から追いだそうとした母に加担したことで、夫は「有責配偶者」と裁判所に判断されたようです。 嫁いびり、追い出し離婚は認めない!という裁判所の意図が垣間見れます。
妻が家事もせず遊び回っている(東京地判平成16年6月28日)
【事件の概要】
次男が生まれた頃から家事をしなくなり、外で遊びまわることが多くなった妻。その上サラ金から借金をし始め、家族に対する協力は全くしなくなったことに、夫が耐え切れず別居を決意。その際、夫は離婚届を用意して5年後に必ず提出することを妻に了承させた。5年経ち、夫が提出した離婚届が受理されると、その無効と慰謝料を求めて妻が訴訟を起こした事件。
【裁判所の判断】
離婚届を相手の意思に反して勝手に提出することは、もちろん許されません。
ですが、この事件では提出された離婚届は有効とされました。その理由は、この5年の間、夫は何度も妻の姉を通して離婚届を提出することについての伝言を頼んでおり、妻はそれに対して反論しなかったことが大きいようです。
そもそも、このように結婚生活が破綻した原因は妻の荒れた生活や自分勝手な行動が招いたものとして、夫からの慰謝料請求が認められました。
夫婦はお互いに協力する義務があるわけですから、この妻のふるまいは確かに許されるものではないでしょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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