【弁護士に聞く】モラハラを理由に離婚したい場合、気を付けておきたいこと
[投稿日] 2018年08月24日 [最終更新日] 2018年08月24日
原因・理由を得意としている弁護士
主に家族や友人など近しい人から支配的な言動を受け、精神的な圧力をかけられるのがモラル・ハラスメントです。
「モラハラ」とも呼ばれ、男女関係や夫婦・家族関係において発生することが多く、外からはわかりにくい傾向があります。
暴力や浮気のようなはっきりした証拠が少ないため、モラハラを理由とした離婚は一筋縄ではいかないようです。
今回は、モラハラ離婚の際に注意すべき点について、つきのみや法律事務所の伊東結子弁護士に、説明していただきました。

(つきのみや法律事務所)
家事・民事、破産や債務整理、労働問題など、暮らしに近い分野を中心に手がけている弁護士。
離婚問題や男女関係の案件では、弁護士として法廷に立つだけでなく、調停や協議離婚を有利に進めるための法律相談も数多く扱っている。
――配偶者から受ける精神的な圧迫が、離婚の理由になることもあるのでしょうか。

伊東 弁護士
いわゆるモラハラによる離婚申し立てですね。
- 常に配偶者が支配的
- いつも下に見られている
- 相手が家庭の運営に協力的でない
- 一緒に暮らすのが苦痛
などなど…‥。
浮気でも暴力でもないけれど、このような理由で離婚したいというご相談は少なくありません。
ただ、簡単にはいかないケースが多いです。
――モラハラが理由の離婚は、どうして難しいのでしょうか。

伊東 弁護士
配偶者から受けた一つひとつの行為は我慢できるとしても、それが日々の積み重ねになって、耐えられないほど精神的に追い込まれてしまうのがモラハラです。
モラハラを理由に離婚を申し立てた場合、裁判所はその一つひとつの出来事が実際にあったということを証明するように求めます。
ところが、本人の日記やメモ程度では、一つひとつの証拠として不十分で、実際にあった出来事であるとは認められにくいんです。
さらに、証拠を整理する段階で、相談者が過去にあった出来事の数々を思い出すことによって再び傷ついてしまい、精神的に参ってしまう場合がしばしばあります。
このことも、モラハラ離婚を難しくさせています。
――配偶者からモラハラを受けていることを、家族や親しい友人に相談した場合、証拠となりますか。

伊東 弁護士
相談の内容は本人の申告に基づくものなので、客観性に乏しく、証拠としては不十分です。
配偶者や家族にモラハラをする人には、外の人に対しては体裁よく振る舞うという、外面の良い傾向があります。
そのため、第三者からの客観的証拠が残りづらく、有力な証拠を集めるには大変な労力が必要になります。
――モラハラだけでは、離婚を申し立てる理由として不足なのでしょうか。

伊東 弁護士
モラハラのみを離婚の理由とするためには、それを補強し真実性を裏付けるための証拠を積み上げていく必要があります。
一筋縄ではいかない難しい事案ですが、離婚を認められるケースもあるので、粘り強く取り組みましょう。
どんなものが証拠として役に立つのか、証拠保全のしかたについても弁護士からアドバイスが可能です。
相手が気づいて証拠を処分されてしまうこともあるので、早めにご相談いただきたいですね。
- モラハラを理由とする離婚申し立ては簡単ではない。証拠の集め方を知っておくことが大切。
- 相手が気づいて証拠を隠されてしまうことがあるため、早めに手を打つ必要がある。
――離婚の際、配偶者からモラハラを受けたことで、慰謝料を請求できるでしょうか。

伊東 弁護士
モラハラを理由とした慰謝料請求は、かなり難しいですね。
離婚そのものは合意に至っても、慰謝料請求は相手から拒絶され、裁判でも認められないケースが少なくありません。
例えば、モラハラを受け続けて精神的に病んでしまい、通院をするようになったとします。
病院では診察記録としてカルテを作りますが、配偶者からどんなことをされていたかという内容は相談者の自己申告に基づいていますから、客観性に欠けるものとして、本人のメモと同様の扱いになってしまいます。
モラハラの場合、身体的な暴力がある事案の診察記録よりも証拠価値が低く、慰謝料を認めてもらうための根拠になりにくいんです。
離婚紛争は、ただでさえ心身ともに消耗するものです。
紛争が長期化するリスクがあってもあえて慰謝料を請求するか、離婚紛争を通じて最も獲得したいものは何であるかを、よく考えてみる必要があると思います。
――モラハラ離婚で慰謝料が認められた場合、本当にきちんと払ってもらえるのでしょうか。

伊東 弁護士
――モラハラを理由に離婚し養育費を払っている場合、子どもとの面会は可能でしょうか。

伊東 弁護士
養育費の支払いと面会交流は、交換可能な取引ではありません。
支払っている側としては、子どものために責任を果たしているのだから会わせてほしいというお気持ちもあるでしょうが、面会が認められるとは限りません。
逆に、養育費が支払われていないからといって、面会交流を拒否できるものでもありません。
面会交流は親の権利でもありますが、それ以上にお子さんの権利のほうが大きいのです。
ですから、面会によって子どもの身心の健康を害するおそれがある場合、認められない場合もあります。
――子どもとの面会が認められないのは、どんなときでしょうか。

伊東 弁護士
子どもに対する虐待が起こりそうなときや、子どもに対する心理的な虐待のおそれがあると判断される場合は、面会が認められない可能性があります。
――親権のない側の親が子どもとの面会を拒絶された場合、どうしたら会うことができますか。

伊東 弁護士
強引に会いに行くのではなく、面会交流調停を起こす必要があります。
虐待のおそれがあるときは、児童心理学を修めている調査官など専門家の意見をもとに、家庭裁判所が面会の可否や方法を判断する仕組みになっています。
――慰謝料や養育費の約束をしてもらえないまま離婚となった場合、援助を受けるための相談はできますか。

伊東 弁護士
離婚にかかわる金銭の交渉が不調に終わってしまったら、その後の生活についても考えていかないといけませんね。
相談者がシングルマザーになった場合、どうしても生活が厳しくなりますし、小さなお子さんを抱えていて仕事がしにくい、ご実家を頼れる状況でないなど、一人ひとりにさまざまな背景があり、ご事情があります。
時には、生活保護受給などの生活相談を含めてアドバイスをさせていただくこともあります。
弁護士として仕事を始めて10年ですが、離婚を多く扱うようになると、相談者の方から教わる情報もあるんですよ。
「こういう手当があって、こういう条件なら受け取れる」と要件を詳しく教えていただくこともあって、要件を満たすためにどうしたらいいだろうといったことを一緒に考えることもよくあります。
モラハラ離婚は簡単にはいかないケースが少なくないのですが、十分に納得のいく結果にはならなかったとしても、相談者の役に立つ情報を提供していきたいですね。
- モラハラ離婚の慰謝料請求は、認められないケースが多いことを理解しておく必要がある
- 離婚の話し合いや金銭の請求など相手との交渉がつらい場合は、弁護士を代理人に立てて行うことも可能
交渉や調停、裁判などの過程で再び相談者が傷ついてしまう場合もあるのがモラハラ離婚です。
モラハラだけを理由に離婚することは難しく、離婚が成立した場合でも、慰謝料までは認めてもらいにくいという事案でもあります。
証拠集めの相談や代理人としての交渉など、弁護士を活用することで不安を解消し、難航する離婚問題も解決の糸口が見えてくるでしょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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伊東 結子 弁護士 (つきのみや法律事務所)
家庭生活をおびやかすトラブルの解決に、積極的に取り組んでいます。