【弁護士に聞く】「他に好きな人ができた」という理由で離婚は可能?
[投稿日] 2018年09月03日 [最終更新日] 2018年11月01日
原因・理由を得意としている弁護士
配偶者以外の異性と交際し、性的な交渉をもつと不貞になります。
それでは、性的関係のない恋愛は、不貞になるのでしょうか。
片思いでも好きな人ができたなら、離婚を申し立てる正当な理由になるのでしょうか。
離婚の理由となる異性との交際や、離婚を有利に進める方法、こじれた場合の対策、こじらせないために注意することなど、弁護士法人北千住パブリック法律事務所の寺林智栄弁護士に詳しく説明してもらいました。

(弁護士法人北千住パブリック法律事務所)
弁護士歴11年目。新人時代から、離婚問題を数多く手がけてきた。法テラスのスタッフ弁護士として4年半勤務しており、複雑な案件の経験も豊富に持っている。
――配偶者以外に好きな人ができただけでは、離婚は認められないものなのですか?

寺林 弁護士
配偶者がそれでいいと言えば協議離婚が成立しますが、調停などで離婚を申し立てる場合であれば、正当な理由にはならないですね。
ただ、「好きな人ができたので、あなたとはもう一緒に暮らせません」と家を出て、その後の別居期間が長くなり、結婚生活が破たんしていると認められた場合には離婚が可能になります。
――離婚を有利にする「話の切り出し方」があれば教えてください。配偶者に対して、ほかに好きな人ができたといってしまってもいいものでしょうか。

寺林 弁護士
好きな人ができたとはっきり告げてしまうと、離婚に不利になることもありますし、挑発的な印象もありますよね。
「自分たちは性格が合わない、一緒に暮らすのは耐えられない」という言い方が良いのではないでしょうか。
逆の立場で、それまでうまく行っていたのに配偶者がこんなことを言い出したとご相談を受けたときには「交際中の人がいるに違いないから、調べてみたほうが良いですよ」とお勧めします。
本当のことをストレートに切り出さなくても、疑われてしまうものだと覚悟しておいたほうがよいでしょう。
――好きな人や交際相手ができたのに、配偶者が「それでもいい、別れたくない」と主張して結婚生活を維持する場合、あとで責任を問われることになりませんか?

寺林 弁護士
ほかの人との交際を配偶者が承諾しているのなら、多くの場合で不貞には該当しないでしょう。
配偶者の不貞行為に対して承諾を与えているのですから、あとで責任を問うことはできないですね。
ただ、不貞しながら家を出て別居生活に入り、結局は家庭を捨てるということになると、事情は変わってきます。
個別の事案や弁護士によって見解が分かれる、微妙なところです。
また「子どもを作らない約束で不貞を承諾していたのに、夫の交際相手(または妻)が不貞相手の子を妊娠・出産する」というケースなら、配偶者と不貞相手に対して責任を問うことができるでしょう。
――好きな人はできても交際にいたっていない場合は、慰謝料や損害賠償が必要でしょうか。

寺林 弁護士
夫婦間の貞操義務に反していないので、慰謝料も損害賠償も発生しません。
貞操義務に違反しているかどうかは、交際に肉体的な交渉が伴うかが基準になります。
いわゆる片思いであれば、あくまでも配偶者の内心の問題にとどまっているわけですから、芸能人を好きになるのとあまり変わりませんね。
ただし、好きになった相手のために、あまりにも多額のお金を使うようになってしまったら、不貞とは別の理由で相手方から離婚を申し立てられる可能性があります。
- 配偶者以外に好きな人ができたというだけでは、離婚を申し立てる正当な理由にならない
- 配偶者の不貞行為を無条件に承諾していた場合、あとになって責任を問うのは難しい
――配偶者に失望してほかの人を好きになった場合でも、相手方の責任は問えないのですか。

寺林 弁護士
そうなった人のお気持ちはわかりますが、ちょっと順序が違いますね。
配偶者に失望してほかの人を好きになったのなら、どうして失望することになったのか、まずはその原因から考えていく必要があります。
たとえば、夫の借金癖がひどくて家庭生活に支障をきたしているとか、暴力や暴言があるとか、相手に失望した原因そのものを理由に離婚を申し立て、相手方の責任を問うという順序になります。
相手方にも婚姻を破たんさせた責任があるはずだと追及するのです。
ですから「失望したからほかに好きな人ができたのに」というお気持ちは、直接的には離婚原因と関係のない、別の話になります。
自分の気持ちよりも配偶者の行為のほうが、離婚の理由として適切なんです。
――自分が原因で離婚することになっても、婚姻中に作った財産は分けてもらえますか?

寺林 弁護士
原則として、離婚の理由にかかわらず、財産分与は2分の1ずつです。
ただし、裁判に発展した場合で、配偶者のいずれかに暴力や金銭問題、異性問題があり、あまりにも悪質と認められた場合は、不均等になる場合もあります。
――同様に、自分が原因で離婚することになっても、親権や養育費は要求できますか?

寺林 弁護士
育児を放棄していなかったのであれば、有責配偶者でも親権は取れます。
よくあるのが、「浮気をするような人物に子どもを育てられるはずがない」と相手方に主張されるケースです。
ですが、裁判所は子育ての多くの部分を担ってきたのがどちらなのかを冷静にみて、子どもの将来を考えてどちらが親権者になるのが良いかを判断します。
最近は夫側が親権を取れるケースも増えているようですが、仕事で拘束される時間が長いこともあり、まだ男性のほうが不利な場合が多いですね。
――好きな人に子どもを引き合わせても問題ありませんか?

寺林 弁護士
お子さんの年齢や会わせ方、夫婦関係の状況にもよりますが、子どもに心理的な影響を与える可能性があるため、裁判所からは「親として配慮が足りない」と判断されることがあります。
そうなると、親権者を決める際には不利になる場合があります。
離婚が成立していない段階なら、道義的な観点からもお勧めできないですね。
- 離婚理由として適切なのは、配偶者への気持ちよりも、失望の原因となった配偶者の行為
- 有責配偶者であることが、親権を取れない理由にはならない
――片思いで好きな人に気持ちを伝えたい場合、許されるタイミングを教えてください。

寺林 弁護士
離婚相談や弁護では依頼者の本音をうかがうことが大変多いのですが、「ほかの方との交際は、どんなに早くても別居してからにしてくださいね」とお伝えしています。
別居から離婚に進める場合、別居を開始した日が夫婦関係破たんの基準日になるので、それ以前に他の方と肉体関係を結んでいれば不貞と認定されてしまう可能性があるからです。
――好きな人がいる場合、どこまでの交流なら離婚に不利になりませんか?

寺林 弁護士
離婚に不利になるかどうかの最も大きい基準は、性交渉があるかどうかです。
ただプラトニックな恋愛関係でも、その関係が夫婦関係破たんの原因になったと認定されれば、交際相手にも慰謝料が発生する可能性があります。
また、相手に振られてしまったとしても、交際を求めたことが配偶者にばれて、夫婦関係の破たん原因になったと認められた場合には慰謝料が発生する場合があります。
――離婚が成立した場合、好きな人と再婚できるのはいつ頃になりますか。

寺林 弁護士
男性は離婚直後から再婚ができます。
女性の場合、長きにわたって半年間の再婚禁止期間が設けられていましたが、2016年6月に法律が変わり、離婚から100日後に再婚できるようになりました。
子どもの父親を調べるためのDNA鑑定も、近年は費用が安くなり、扱う医療機関も増えて受けやすくなったようです。
――離婚協議を取り消して配偶者に関係修復を提案する場合、責任を問われますか。

寺林 弁護士
そもそも法律以前に、一度は離婚を決めた夫婦が関係の修復をしようとすることは、大変難しいものです。
離婚の原因を作った側から修復の申し出をした場合、相手方から無条件で許されることはあまりありません。
相手方からすると、十分な慰謝料をもらわないとやっていられない気持ちにもなるでしょうし、お金をもらったからといってすぐに不信感を解消できるわけでもありませんよね。
話し合いの内容にもよりますが、最終的には離婚や別居になることが多いように思います。
- 好きになった人と肉体関係がなくても、配偶者に対する慰謝料が発生する場合がある
- 男性は離婚直後から、女性は離婚から100日後から再婚が可能
――配偶者が激しく感情的になり、話し合いが進展しない場合はどうしたらいいでしょうか。

寺林 弁護士
当事者同士の話し合いはどうしても感情的になりがちなので、代理人として弁護士を立てるか、家庭裁判所で調停をお願いするのが良いでしょう。
相手方も弁護士を立ててくれれば、双方の弁護士間で協議ができますので、早い解決が望めます。
他人からアドバイスを受けるのが苦手な人、弁護士を立てたくない人は、調停しかないですね。
――家を出て別居すると、離婚に不利になることはありますか?

寺林 弁護士
特に不利にはなることはありません。
離婚を目指すのであれば、むしろ別居したほうが良い場合が多いですね。
別居は婚姻生活の破たん事由の一つになりますから。
――繰り返し説得をしても配偶者が離婚に応じない場合、どのような手段がありますか。時間はどれくらいかかるでしょうか。

寺林 弁護士
手段としては、やはり別居・調停・訴訟につきます。
不貞や暴力など、離婚を認められる典型的な理由がなければ、遠回りに見えても別居期間を積み上げるしかないでしょう。
離婚が認められる別居期間は3年から5年程度だと思われます。
結婚期間が長い場合は、別居期間も長く必要になることが多いようです。
相手が受け入れない場合の離婚案件は、とにかく時間がかかります。
やっと離婚に同意してくれても、今度は財産分与に1年、2年とかかってしまうこともよくあります。
財産分与は離婚後に着手することもできますが、離婚後だと婚姻中の財産も隠されてしまうことがあります。
やはり、離婚と同時進行ですすめたほうが良いでしょう。
――離婚を早く進めたいときは、どうしたらよいでしょうか。

寺林 弁護士
財産・親権・慰謝料などあれこれ欲しがらないで、優先順位を決めた上で交渉を進めることですね。
特にお金にこだわる場合、どうしても時間がかかります。
自分が有責配偶者で早く離婚をしたいなら、提示された金額の慰謝料を払って、財産分与も相手の希望を飲めばスムーズに進められることが多いと感じます。
相手方が有責配偶者の場合、これとはまた別の交渉のしかたがあります。
離婚調停や訴訟に慣れている弁護士なら、交渉のテクニックをいろいろもっているものなので、相談だけでもしてみると良いでしょう。
- 相手が感情的になり話し合いに応じない場合は、弁護士を代理人に交渉するか、調停に踏み切るべき
- 別居を結婚生活の破たん原因として離婚に進む場合、別居に必要な期間は3年以上が目安
配偶者以外の異性に好意を抱いたからといって、それだけを理由に離婚するのは難しいものです。
また、ストレートに理由を告げることは、正直・誠実という以上に、問題を複雑にしかねません。
配偶者から他の人に心を移したきっかけや、離婚を考えることになった原因を整理して、本当に離婚に踏み切っていいのかをじっくり考えてみる必要があるでしょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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寺林 智栄 弁護士 (弁護士法人北千住パブリック法律事務所)
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