【弁護士に聞く】夫婦の一方が認知症になったときの離婚について
[投稿日] 2019年02月12日 [最終更新日] 2019年02月12日
原因・理由を得意としている弁護士
認知症になると、記憶や判断などの能力に障害が生じ、日常生活が困難になります。自分または配偶者がそういう状態になってしまった場合、離婚はできるのでしょうか。
家庭に関する法律問題に詳しい、なごみ法律事務所の本田幸則弁護士にお話を伺いました。

(なごみ法律事務所)
離婚や相続など、家庭に関する法律問題を多く手がける。事務所名の「なごみ」には、対立を調和させ、より良い結果を導くという意味を込めており、依頼者にとってベストな解決を目指している。
――夫婦の一方が認知症だと、認知症の程度にもよるのでしょうが、離婚に向けた話し合いが困難な場合もあると思います。夫婦の一方が認知症になってしまったら、協議離婚はできないのでしょうか。

本田 弁護士
認知症だから直ちに協議離婚できないわけではなく、その程度によります。
意思能力、つまり、自分が何をやっているか分かるレベルの判断力があれば、協議離婚は可能です。
意思能力は、おおむね12歳前後の子どもであれば備わっていると考えられています。
離婚の意味が把握できていれば問題なく、一般的な契約書作成時に有効となるレベルよりも、はるかに低いレベルの判断能力で足ります。
意思能力が備わっている程度の認知症かどうかは、医師の判断によるので、協議離婚する場合は医師と認知症の程度を相談しながら進めることになると思います。
――調停離婚はどうでしょうか。

本田 弁護士
基本的には、協議離婚と同じで、本人に判断能力があれば調停離婚も可能です。
――裁判離婚の場合、離婚が認められるには民法770条1項各号の離婚原因が必要ですが、認知症はどの事由に該当するのでしょうか。

本田 弁護士
「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)に該当しているとする裁判例があります。
しかし、強度の精神病を理由に裁判で離婚が認められるのは、かなり難しいです。
離婚後に認知症の相手が生活していけるように、金銭的に手当てをし、介護体制をきちんと整えた場合など、厳しい条件が要求されます。
民法の原則は、夫婦は困った時助け合いなさいというもの(夫婦の扶助義務、民法752条)なので、相手が病気のときこそ助け合う必要があり、離婚は例外的にしか認められません。
- 認知症でも、離婚の意味が分かる程度の判断能力があれば、協議離婚・調停離婚は可能
- 認知症が「強度の精神病」に該当するとして離婚を認めた裁判例もあるが、厳しい条件が付けられている
――認知症の人は、自分の意思を表示するのが難しい場合も少なくないと思います。離婚を求める側が認知症の場合、離婚の意思表示をしたとしても、それは法的に有効といえるのでしょうか。

本田 弁護士
これも認知症の程度によります。
意思能力がある、すなわち、自分がやっていることの意味さえわかれば、認知症の人も離婚の意思表示は可能です。
――成年後見人が、本人に代わって離婚の意思表示をすることはできますか。

本田 弁護士
成年後見人が本人に代わって離婚の意思表示をすることはできません。
成年後見人がついた段階で、本人に判断能力がなくなっているからです。
そもそも、認知症が強度に進んだ段階で、本人が離婚を望むことがあり得るのか、という疑問もあります。
認知症になる以前の事情から、推測するしかないのでしょうね。
――配偶者からの虐待等を理由に、認知症の本人ではなく、その家族が離婚させたい場合もあると思いますが、家族が認知症の本人に代わって離婚させることはできないのでしょうか。

本田 弁護士
成年後見人と同じですが、家族であっても本人に代わって離婚の意思表示をすることはできません。
ただ、虐待を受けていた場合に、加害者である他方の配偶者に損害賠償請求をしたいというのであれば、成年後見人が本人に代わって請求することは可能です。
――認知症であることにつけこまれて、不利な条件で離婚に応じてしまう危険もあると思います。そうならないために、認知症の人が弁護士に依頼することはできますか。

本田 弁護士
理論的には可能です。
ただ、そもそも弁護士との契約の有効性が争いになる場合もあるので、そういう場合は、あらかじめ成年後見制度を利用しておくのがよいでしょうね。
- 認知症になった側でも、意思能力があれば離婚の意思表示は可能
- 成年後見人や親族が、認知症の本人の代わりに離婚の意思表示をすることはできない
――相手方の認知症が裁判上の離婚原因に該当するのは、どのような場合ですか。

本田 弁護士
先ほどもお話した通り、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」に該当するとの裁判例がありますが、簡単には離婚は認められません。
相手の認知症が原因で、自分の日常生活がままならないほど無理があり、離婚後の相手の生活に配慮して金銭面での手当てをし、介護体制を整えるなどしている場合に、例外的に認められるにすぎません。
――認知症の人が自力で訴訟に対応するのは不可能な場合もあると思います。認知症の配偶者を相手方として離婚訴訟を提起する場合は、どうすればよいのでしょうか。

本田 弁護士
通常は、成年後見人を選任して、成年後見人を実質的な相手方として訴訟を提起することになると思います。
他には、裁判所に特別代理人の選任を申立てる方法もあります。
――先ほどからお話に出てくる「成年後見人」ですが、認知症の配偶者に成年後見人を選任するには、どのような手続きが必要ですか。

本田 弁護士
まず、医師の診断が必要です。
認知症の程度が成年後見相当であると医師が診断すれば、必要書類をそろえて裁判所に成年後見開始の審判の申立てをします。
――裁判所はどんな人を成年後見人に選任するのですか。

本田 弁護士
申立ての際に、成年後見人の候補者を選べます。
成年後見人に特に資格は必要ありません。
親族を候補者にすることが多いです。
親族後見人の場合、よほど変な人でない限りは認められているようです。
候補者を立てなかった場合は、裁判所が、弁護士会の名簿に基づいて、成年後見人を選任します。
司法書士の後見人も多いです。
――弁護士や司法書士が後見人になった場合、その報酬はどこから出るのですか。

本田 弁護士
基本的には、認知症の本人の財産から支出されます。
本人に財産がない場合でも、年金なり生活保護なり、何らかの金銭は支給されるので、その範囲で報酬が決定されます。
- 配偶者の認知症を理由に裁判離婚をするのは、条件が厳しい
- 認知症の配偶者を相手に裁判をするには、成年後見制度を利用する方法がある
配偶者の認知症を理由に離婚を考えるケースは、実際には多くはありません。しかし、超高齢化社会にあっては、将来的にこういった問題に直面する可能性はゼロとはいえないのではないでしょうか。
認知症の配偶者との離婚は、法律的にも難しい問題です。一人で悩まず、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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