【弁護士に聞く】離婚時に慰謝料を請求する方法
[投稿日] 2018年10月09日 [最終更新日] 2018年10月09日
慰謝料を得意としている弁護士
伊佐山 芳郎 弁護士 東京都
伊佐山総合法律事務所戎 卓一 弁護士 兵庫県
戎みなとまち法律事務所芸能人の離婚のニュースでは、必ずといっていいほど慰謝料が話題になります。しかし、実際は、慰謝料の支払いが発生するケースは限られているようです。
どのような場合に慰謝料が問題になるのか、また、慰謝料の金額の目安や支払いに関する問題について、多数の離婚案件を手掛けてきた弁護士法人アズバーズの櫻井俊宏弁護士にお話をうかがいました。

(弁護士法人アズバーズ)
交通事故、離婚・男女問題、労働問題など、様々な分野について多数の案件を解決に導いてきた実績をもつ。中央大学応援団出身、現中央大学法実務カウンセル(学内顧問弁護士)・実務講師。
――離婚時に慰謝料を請求できるのは、どのような場合ですか?

櫻井 弁護士
まず、そもそも、離婚で慰謝料が発生するケースは、実は少ないのです。
離婚は、お互い様というところもあるので、離婚調停で慰謝料を加味して終了することはほとんどありません。
離婚調停で慰謝料を加味してもらえるのは、明らかな不貞行為やDVの証拠がある場合くらいです。
ただ、不貞行為の場合、配偶者に対してよりも、不倫相手に対して慰謝料を請求することの方がどちらかというと多いですね。
――明らかな不貞行為の証拠とは、どのようなものですか?

櫻井 弁護士
写真や、不貞の相手とやり取りしたメールなどですね。
メールから性的なやり取りをしたことがわかるような内容であれば認められます。
―――悪意の遺棄や、DV、モラハラを理由に慰謝料の請求は認められないのでしょうか?

櫻井 弁護士
悪意の遺棄は、そもそもどこまで配偶者を放置すれば「悪意の遺棄」に当たるか不明確なところもあるので、慰謝料が認められたケースは記憶にありません。
DVの場合は、証拠に残りにくいので、慰謝料は認められにくいです。
モラハラの場合はなおさらです。
DVが認められるには、問題行為が一回ではなく、日常的に行われている証拠が必要です。
診断書はもちろん必要ですが、ケガを負わせたのが配偶者であるという証明は難しいですね。
診断書の他には、患部の写真、配偶者とのやり取りの録音などの証拠が必要になります。
証拠は一つではなく、複数必要ですね。
DVの立証のために、警察に通報したり、シェルターを利用したりするケースも見られます。
――不貞行為、DV以外で慰謝料が認められたケースはありますか?

櫻井 弁護士
夫が妻にお金を渡さず、財産隠しをしていた場合に、慰謝料が認められたケースがあります。
このケースでは、裁判所に調査嘱託を申立て、金融機関に資産を開示させたところ、夫が申告していたもの以外にも財産があることがわかりました。
このことが裁判官の心証を悪くし、慰謝料が認められるに至ったように思います。
――慰謝料請求には期限があるのですか?

櫻井 弁護士
夫婦間の慰謝料請求であれば、離婚してから3年です。
夫婦間の請求権は、離婚するまでは時効が進行しません。
不貞行為の相手方に対する慰謝料請求であれば、最後の不貞行為の時から3年です。
夫婦間と、対第三者とでは、時効期間にずれがあるので、注意が必要です。
- 慰謝料が発生するケースは多くない。発生するとすれば、ほとんどが不貞行為の場合。
- 慰謝料を請求するには、不貞行為やDVの証拠が必要。
- 慰謝料請求には期限があることに注意。
――慰謝料の具体的な金額や支払い方法は、どのように決めるのですか。

櫻井 弁護士
夫婦間で話し合いをして決め、公正証書を作成できればよいのでしょうが、それができなければ調停や裁判をすることになりますね。
――慰謝料の金額の目安はありますか。

櫻井 弁護士
不貞行為の場合は分かりやすいですね。
不倫したが離婚にまでは至らなかった場合は、100万円以下。別居に至れば150万円。離婚に至ったら200万円というイメージです。
これをベースにして、不貞行為の頻度や婚姻期間の長短によって、プラスマイナス50万円。
婚姻期間が長ければ、不貞行為による精神的ダメージも大きいとして、慰謝料の増額事由になります。
他に、外に家庭を作った、子どもをもうけたなどの事実も、慰謝料の増額事由になります。
金額は、不貞行為をした側の収入に関係なく決められます。
以前は、不貞行為をした側が高収入のほうが高額の慰謝料が認められやすい傾向があったようですが、現在はあまり考慮されません。
――不貞行為の慰謝料は、配偶者と不貞行為の相手方それぞれに対して、上記の金額を請求できるのですか?

櫻井 弁護士
不貞行為の慰謝料は、配偶者と不貞行為の相手方とを合わせた金額です。
配偶者と不貞行為の相手が、共同して精神的損害を与えたと考えられるからです。
配偶者と不貞行為の相手、いずれにも全額請求できるという関係にあります。
――不貞行為以外の慰謝料の目安はどうでしょうか?

櫻井 弁護士
DVの場合は、程度しだいですが、50万円~200万円というところでしょうか。
不貞行為、DV以外だと、目安というものはなく、実際に裁判までやらないと分からないですね。
――慰謝料の支払い方法について、分割払いにすることはできますか?

櫻井 弁護士
話し合い次第では、分割払いも可能です。
分割払いにするかわりに、金額を上げてほしいと交渉することもあります。
――慰謝料について、当事者間で話し合って決めたことは、書面に残しておくべきですか?

櫻井 弁護士
そうですね、取り決めの内容は書面化しておくべきですね。
公正証書まで作らなくても、合意書を作成しておきましょう。
――金額や支払い方法について、話し合いで決められなかった場合、どうすればよいのでしょうか。

櫻井 弁護士
まず、配偶者に対しては、離婚を考えている場合、調停を申し立てます。
離婚においては調停前置主義(家事事件手続法257条1項)が採用されているので、いきなり訴訟をすることはできません。
不貞行為の相手方などの第三者に対しては、訴訟を起こすことになります。
――収入の減少によって、離婚時に取り決めた金額を支払うのが困難になる場合もあると思います。このような場合に、慰謝料の金額や支払い方法を変更することは可能でしょうか。

櫻井 弁護士
相手の同意があれば減額や支払い方法の変更はできるのでしょうが、あまり聞かないですね。
そもそも、それを許す人もいないでしょうしね。
養育費の場合は、支払う人の状況が変わった場合に、調停のやり直しで金額が変わることもあるのですが、慰謝料の場合はそういうことはありません。
頑張って支払うか、どうしても支払えない場合は破産するしかないでしょうね。
- 不貞行為の慰謝料の金額の目安は、事案によるが、100万円~200万円。
- 金額は話し合いで決める。話し合いがつかなければ、調停や裁判で決めることになる。
- 取り決めた内容は書面化しておく。公正証書を作成するのも良い。
――慰謝料について合意ができても、支払ってもらえなければ意味がありません。慰謝料の支払いを確実にするために、事前にできる対策を教えてください。

櫻井 弁護士
公正証書を作成しておけば、支払いが滞ったときにスムーズに強制執行ができます。
他には、給与差押えに備えて、離婚後も相手方の勤務先を把握し続けておくことです。
強制執行がやりやすくなります。
――離婚後、慰謝料を約束通りに支払ってもらえなかった場合、相手に支払わせるにはどうすればよいでしょうか。

櫻井 弁護士
公正証書があればそれに基づいて強制執行、公正証書がない場合は、裁判をした後に判決に基づいて強制執行することになります。
公正証書による場合も裁判による場合も、強制執行の内容は同じです。
書類など、手続き面で少し違いがあります。
ただ、公正証書があれば強制執行がスムーズにできるとはいっても、公正証書はそう簡単に作れるものではありません。
当事者同士で話し合ってその内容を公正証書にまとめるのは、現実には難しいと思われます。
確実に支払わせたいというのであれば、弁護士に依頼するのがベストでしょうね。
また、強制執行の手続きも、自分でやるのは現実にはなかなか難しいので、弁護士に依頼するのがよいでしょう。
特に、相手方の預金を差押える場合は、弁護士に依頼する方が良い点があります。
相手の預金口座の調査が容易にできる点です。
預金の差押えには、金融機関と支店を特定する必要があります。
ですが、相手口座の支店まで把握している人もなかなかいないのが現状です。
以前は心当たりのある金融機関の支店をあてずっぽうに差押える、といった状況でした。
しかし、現在は、大手銀行であれば、弁護士会の照会(23条照会)という手続きによって、全店照会(銀行の本店に照会して、全支店の口座や預金残高の開示を受けること)が可能になりました。
- 公正証書を作成しておけば、強制執行がスムーズにできる。
- 公正証書作成、強制執行を自力でやるのは難しいので、弁護士に依頼するのがよい。
- 弁護士に依頼すれば、相手の預金口座の調査が容易になる。
離婚時に相手に慰謝料を払ってほしいと思っても、自分が想定している理由で慰謝料請求が可能なのかはわかりません。また、慰謝料の取り決めをしても、実際に払ってもらえなければ意味がありません。
離婚の慰謝料に関する疑問は、離婚事件に詳しい弁護士に相談し、慰謝料請求の可否や、慰謝料を確実に支払わせる方法について、話を聞いてみるのもよいでしょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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大西 洋至 弁護士 京都府
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櫻井 俊宏 弁護士 (弁護士法人アズバーズ)
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