事故・ケガ

学校・教育現場での事故やケガ。誰がどう責任をとる?
学校に通っている子どもが大ケガをしたという連絡を受けた。このような学校事故のトラブルに突然見舞われることがあります。普通に街中を歩いても交通事故に遭うものですが、学校という特別な場所では難しい問題が生じます。
学校でのトラブルは親の目が届かない場所で起きるうえに、多くの人間が絡んできます。1番分かりにくいのが、誰がどんなトラブルに責任を負うのかという点でしょう。とくに民事上の責任を問う場合は、誰を相手にするのかは重要な問題です。
そこで今回は、学校事故が起きたときに誰がどう責任をとるのかを解説しましょう。
学校、教師に責任があるケース
では、学校や教師が責任を負うのは、どういうときでしょうか。
学校では、教師が児童や生徒等を指導する義務を負います。しかしそれは単に教科を教えるだけの義務ではありません。生徒が安全に学校生活を送れるよう注意を尽くしたり、誤った行為を行わないよう適切な指導を行う義務も含まれています。
教師がこの義務に違反をしたことで生徒等がケガをすれば、不法行為(民法709条)、または安全配慮義務違反(同415条)による損害賠償責任を負います。学校側も、教師の監督を怠った使用者責任(民法715条)を負うことがあります。
国公立の学校では教師が公務員なので基本的に教師個人は賠償責任を負わず、使用者である市町村や都道府県、国が国家賠償責任を負うことになります(国家賠償法1条)。
実際の裁判では、教師や学校等に過失が認められるか、事故の発生を防止する注意義務に違反したか、などの点が主に争われます。
教師が児童や生徒を殴るような行為は、「体罰」としてしばしば問題になっていました。
体罰は法律で明確に禁止されています(学校教育法11条)。文部科学省によると、生徒達の身体に対して侵害を行う行為(殴る蹴る等)のほか、子どもに肉体的な苦痛を負わせる行為(正座や直立などを長時間行わせること等)も体罰にあたるとしています。例えば、平手打ちは体罰に含まれますが、少しの時間だけ正座させる、立たせる行為などは含まれないでしょう。
生徒等が同級生などにいじめを受けてケガをしたり、精神的に追いつめられて不幸にも自殺した場合も、学校や教師が責任を負うことがあります。
教師や学校には、いじめをやめさせ、再発を防止するなどの適切な指導を行う義務があります。問題を放置したり、適切な対処をしなければ、損害賠償責任を追及することが可能です。
また、特にいじめが原因ではなくても、学校や教師が責任を負う場合があります。
授業中に生徒がふざけて他の生徒を傷付けた、部活中に他の生徒にケガを負わせた場合なども、教師や学校が注意を尽くしていなければ賠償責任を負うことになります。
グラウンドのサッカーゴールが老朽化で倒れてケガをするなど、施設の欠陥が原因の事故が起きるときがあります。
このようなときは、工作物責任(民法717条1項)を追及して、学校側に損害賠償請求を行うことが可能です。国公立学校等の場合は国家賠償責任(国家賠償法2条1項)を追及することとなります。
児童や生徒に責任があるケース
では、児童や生徒等の個人に責任があるのはどのようなケースでしょうか。
学校内では、他の生徒に殴られたという故意の行為のほか、ふざけた拍子にぶつかるなど過失によるケガのケースもあります。
加害者の生徒等に対しては、不法行為による損害賠償責任を追及することが可能です。
ただケンカなどの場合であれば、自分の子どもから加害者を挑発したのが原因だったり、加害者もケガを負っていることもあります。そのときは被害者側にも損害賠償責任が発生し、過失相殺などの可能性があるので、注意が必要です。
ケガがなくても、学校内でいじめを受けて精神的な苦痛を感じた場合や、不幸にも生徒等が自殺をしてしまうことがあります。そのときは加害者に対して不法行為による損害賠償責任を問うことができます。
ただ、学校の生徒が未成年であれば、通常は賠償金の支払能力がありません。被害を回復するには、親に対して損害賠償責任を追及していく必要があります。
加害者が12、13歳程度に達しなければ民事上の損害賠償責任を負う能力(責任能力)が認められません。責任無能力のときは監督する親に対して損害賠償を請求します(監督義務者等の責任追及、民法714条)。
加害者本人に責任能力が認められても、日頃から親が加害者を十分に監督していなかったと認められれば、親自身の不法行為責任(709条)を追及することも可能です。
現在の裁判では、多くの場合に親の賠償責任が認められる傾向があります。加害者が未成年だからと諦めずに、必要な請求をしていきましょう。
学校事故で補償されるもの
教師や学校などの責任が認められるときは、具体的にどんな補償が受けられるのでしょうか。
学校事故による損害賠償請求では、交通事故と同じように、かかった医療費、通院交通費などの実費のほか、後遺症が残ったときの逸失利益などを請求できます。さらに精神的苦痛を受けた慰謝料などの補償も請求が可能です。
ただ学校事故の場合は、次のような特別な給付制度があります。交渉や裁判にはどうしても時間や手間がかかり、相手が争ってくる場合も考えられます。被害を受けたときは、まずこの制度を利用して、少しでも確実に被害を回復させることが先決でしょう。
学校で児童や生徒がケガをしたときに補償を受けられるのが、独立行政法人日本スポーツ振興センターによる災害共済給付の制度です。
この制度では、学校の管理下で起きた災害、事故のときに、教師や学校などに過失がなくても、治療費や見舞金などの給付金が支払われます。学校の設置者(私立学校の学校法人や教育委員会など)がセンターと共済契約を結んでおき、親も設置者と一緒に掛金を負担する必要がありますが、ごく少額です。市町村が全額を負担している場合もあるようです。
この制度を利用すれば、保護者の親は次のような給付金を受けることができます。
(1)医療費
健康保険の自己負担分(3割)に総医療費の1割を加えた金額の給付を受けることができます。給付は、医療費の支給開始から10年間にわたって受けられます。
(2)障害見舞金
負傷や疾病によって身体に障害が残ったとき、障害の等級に応じて82万円(14級)から3770万円(1級)までの給付を受けられます。
(3)死亡見舞金
生徒等が死亡したときに2880万円(突然死や登下校中の事故は1440万円)が支払われます。
ただ、給付額については、とくに死亡見舞金は決して充分とは言えません。多くの場合、不足分は別途加害者側に請求する必要があるでしょう。
また学校事故が発生してから2年が経つと時効となり、請求できなくなります。早めに手続をしておきましょう。
自分の子どもが加害者になってしまったら
普段からどんなに慎重に育てていても、自分の子どもが学校で他の児童や生徒にケガをさせ、加害者の立場になってしまうことがあります。そんな時に、親はどう対処したらいいのでしょうか。
自分の子どもが加害者になったと知らされても、信じがたいと思うかもしれません。しかしもし事実ならば、子どもだけではなく親も賠償責任を問われます。まずは事実をよく確認し、必要であれば誠実に治療費や慰謝料などを賠償していくことが必要です。
ただ、子どもは学校の中で独自の人間関係に身を置いています。ケガをさせた経緯や事実関係には複雑な事情があったかもしれません。本人がショックのあまり事実を話せない可能性も考えられます。子どもにとって親は、自分の味方であり、最後の頼みの綱ともいうべき存在です。過剰に責め立てて精神的に追いつめることのないよう、慎重に事実を聞き出すことが必要でしょう。
もし子どもに責任があることがはっきり分かれば、まず被害者本人や親に対して、誠実な態度で謝罪をすることが大切です。最初に行う謝罪の態度によって被害者側の態度も大きく変わってくるので、真摯な謝罪を忘れないようにしましょう。
その上で、適切な賠償を行っていく必要があります。今後、同じ学校で被害者親子との付き合いが続くことを考えれば、なるべく裁判などで争うことは避け、穏便に示談をして賠償問題を解決したいところでしょう。
ただ被害者の親の態度もさまざまで、時には不当な請求や強硬な態度を取られます。慰謝料などの相場もなかなか判断しづらいと思います。
こうしたときは、専門家の弁護士にアドバイスを受けることで、適切な金額が分かり、対処もしやすくなります。示談交渉の当初から弁護士を代理人にすると被害者を頑なにする可能性がありますが、相手の態度や要求によっては弁護士への依頼も考えてみましょう。
もしも被害者に大ケガを負わせたり、死亡させてしまったときは、損害賠償金の額は億単位の金額にのぼることも考えられます。災害給付金でまかないきれない賠償金は、個人で支払わななければなりませんが、普通の家庭ではとても支払いきれません。
このような事態には、個人賠償保険に加入して対処をしておくことができます。
個人賠償保険は、日常生活で自分や家族が他人にケガをさせたり、物を壊したときの賠償金などを補償してもらえる保険です。
具体的には、被害者に対する治療費、物の修理費、慰謝料などの損害賠償金と、弁護士費用や訴訟や調停にかかる費用について、保険金が支払われます。
また、補償対象には、子どもが学校でケガをさせた場合のほか、道路で自転車事故を起こしたケースなども含まれます。
加入するには保険会社との契約が必要ですが、掛金は年間でも数千円程度と少額です。建物の火災保険、傷害保険、自動車保険などの特約として、手軽に加入することもできます。
個人賠償保険は、もしもの事態に非常に役立ちます。未加入のときは、ぜひ加入をしておきましょう。
子どもが通う学校の中には親の目が届きにくいので、子どもが突然のトラブルに見舞われれば、とにかく驚き、非常に混乱してしまうかもしれません。しかし、たとえ子どもが被害者になっても、加害者になったときでも、賠償の問題は必ず解決しなければなりません。まずは親が気持ちを落ち着かせ、必要に応じて弁護士からアドバイスを受けながら、一つ一つ問題を解決していくことが重要でしょう。
参考コンテンツ:
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