入学金・学費・奨学金

教育にまつわるお金。入学金・学費・奨学金問題の正解は?
受験勉強を頑張って晴れて希望の学校に合格し、さあ入学…の前に、避けては通れないのがお金の問題です。入学時に支払う入学金、各期毎に支払う授業料、その他にも実験料・実習料・教材費など、様々な費用が掛かります。法律的にいえば、学校は学生に対してこれらの金銭の支払いを請求する権利を有する「債権者」、学生はその支払い義務を負う「債務者」です。お金の面で、学校と学生の間にはどのような問題が生じるでしょうか。
入学辞退したときの入学金・学費はどうなるか大学入試の場合、多くの人が複数の学校を受験します。滑り止めの学校に合格し、入学金や初年度分(または初年度の前期分)の学費(授業料)を納入した後で、本命の学校に合格した場合、先に納入した入学金や学費はどうなるのでしょうか。
かつては、いったん納入した入学金や学費等は、いかなる事情があっても返還請求することはできませんでした。しかし、平成13年の消費者契約法の施行により、流れが大きく変わりました。
商品を提供する事業者はプロですが、それを購入して利用する消費者は素人なので、両者の力関係には大きな差があります。そこで、商品購入を巡って弱い立場になりがちな消費者を守るために制定されたのが消費者契約法です。そして、学校と学生も、教育サービスを提供する事業者とその消費者という関係にあるため、消費者保護の観点から、学生の利益に配慮した判決が出されるようになりました。そして、平成18年の最高裁判決(最判平成18年11月27日)以降は、入学金の返還は認められないが、学費の返還は認められるという扱いがなされています。
上記最高裁判決は、入学金は、「学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価」で、「合格者を学生として受け入れるための事務手続き等に要する費用」にも充てられるものだと位置付けました。その上で、学生は入学金の納付により入学し得る地位を取得したのであり、その後に在学契約が解除されても、大学は返還義務を負わないと判断しました。ただし、余りにも高額な入学金は公序良俗違反(民法90条)により無効となる可能性があるとして、例外的に入学金の返還が認められる余地を認めました。
一方、授業料については、3月31日までに入学を辞退した場合は、原則として返還が認められると判断しました。3月中は、他の大学に合格した学生が入学を辞退することは十分にあり得るため、入学辞退によって授業料が納入されなくなったとしても、大学に損害は生じたとはいえません。したがって、「一旦納入した授業料を返還しない」という特約は、消費者契約法9条1項により無効とされている「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」損害賠償額の予定または違約金の定めにあたり、無効であるというのがその理由です。
中途退学で納めた学費は返還されるかせっかく入学した学校であっても、病気や経済的事情などにより退学せざるを得ない場合はあります。その場合、既に支払った学費等はどうなるのでしょうか。
学費は、授業を受けたり学校の施設を利用したりすることの対価として支払う費用です。したがって、退学日までの期間に相当する学費は、学生が既に受けた授業や施設の利用の対価にあたるので、返還請求できないのは当然です。
問題は、退学日以降の期間に相当する学費の返還が求められるかどうかです。
退学日以降、学生は授業や施設利用というサービスを受けることはできなくなります。一方、学校はこれらのサービスを提供しないにも関わらず学費を受け取っているため、学校が法律上原因のない利得を得ているとして、学生は不当利得返還請求(民法703条)をすることができるようにも思われます。では、学校側が「一旦納入した学費を返還しない」という特約をもとに返還を拒んだ場合はどうなるでしょうか。
先に触れた入学辞退の場合とは異なり、中退の場合は、既にその学生が学校に在籍することが確定しています。学校側は、学生から納入される学費に応じて予算を組み、学校を運営しています。中退日以降の学費の返還に応じなければならないとすると、予算に狂いが生じ、学校運営が成り立たなくなってしまうという損害が生じます。これは、、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えないといえるでしょう。したがって、入学辞退の場合とは異なり、中退の場合に学費を返還しないとすることは、消費者契約法9条1項により無効とされている損害賠償額の予定または違約金の定めはあたらないといえます。そのため、退学日以降の期間に相当する学費の返還は認められないと考えられます。
学費が払えなくなった時の手段まずは学校に相談する
学費が支払えない時は、まずは学校に相談してみましょう。多くの学校では、学費の支払いが困難な学生を対象として、学費の免除や分納、延納の制度を設けています。ただし、収入面や学業成績面で条件を満たす必要があり、定員や申請期間が設けられていることがほとんどです。日ごろから学校の掲示板やウェブサイトなどで情報収集しておくことをおすすめします。
アルバイトで賄う
放課後や休日を利用してアルバイトを行い、学費を調達するという手段があります。ただし、シフトを詰めすぎてしまって学校に通う暇もなくなってしまうようでは本末転倒ですから、学業との両立を心がけることが大切です。
奨学金を利用する
奨学金は、学費の支払いが困難な学生を対象に、金銭の給付や貸与を行う制度です。授業料免除と同じく、収入や学業成績等の条件をクリアする必要があります。日本学生支援機構の奨学金が有名ですが、各学校や地方自治体などが独自の奨学金制度を設けているところもあります。奨学金には返還義務のない給付奨学金と、返還義務のある貸与奨学金の2種類があります。後者はさらに、利息が付くものと無利息のものに分かれます。貸与奨学金の場合は、卒業後に返済をする必要があります。
教育ローンを利用する
銀行や信用金庫などの金融機関で、教育ローンを扱っているところは多くあります。ただし、貸与奨学金と同じく返済の必要があります。また、奨学金に比べると利息が高く設定されている点には注意が必要です。
休学・退学
所定の手続きをとって休学や退学をすれば、学費を支払う必要はなくなります。その間にアルバイトをするなどして資金の目途をつけ、復学や再入学するという手段もあります。
奨学金について「奨学金」という名称であるがゆえに忘れてしまいがちですが、貸与奨学金は「借金」です。教育ローンなどに比べれば、月々の返済金額は低く、返済期間も長く設定されており、返済が楽になるように配慮はされていますが、借金であることに変わりはありません。
テレビや新聞の報道でご存知の方も多いと思いますが、今、奨学金が返済できない人が増えています。「奨学金破産」という言葉が生まれているほどです。病気等で就業が困難になり収入が得られなくなった、正規雇用の機会が得られなかったために収入が少ない、奨学金の返済に充てるために消費者金融などを利用し多重債務に陥ってしまった、といったケースがあります。
返済が滞ると、奨学金の支給元から督促の文書が届くようになります。さらに長期間返済が滞った場合、訴訟を起こされたり、給与や銀行預金の差押を受けたりする可能性があります。また、奨学金を借りる際には保証人を立てることが多いのですが、本人が返済を怠った場合は、保証人が支払いを請求されることになります。そうなる前に、何らかの対策を講じるようにしましょう。
奨学金の返済に困った場合は、まず奨学金の支給元に相談してみましょう。申請により、一定期間返済を猶予されたり、減額返還が認められる場合もあります。
返済の猶予や減額が認められなかった場合は、弁護士や司法書士などに債務整理の相談をしてみましょう。奨学金を含めた借入総額や本人の収入・資産状況に応じて、任意整理・自己破産・民事再生などの手段をとることができます。ただし、本人が債務整理をした場合、保証人が請求を受けたり、場合によっては保証人も同時に債務整理を行う必要が出てきたりするので、保証人との関係についても弁護士等とよく相談しましょう。
将来の夢や希望を抱いて学業に励もうとするときに、お金の問題に向き合わなければならないのは辛いことです。しかし、お金をかけてでも教育を受ける価値があるのなら、逃げずに向き合うべき問題です。お金の問題を人に相談することは勇気がいることですが、一人で悩まずに学校や弁護士に相談をしてみましょう。
参考コンテンツ:
予備校を辞めたのに授業料没収!?
2ヶ月で辞めた専門学校。前納した学費は一切返還されない?
通っていた専門学校が破産! 受講料はどうなる?
トップへ
バレエの発表会、申し込みしていないのにお金を請求されている