PTA・保護者

いつの時代も賛否あるPTA。様々な問題に対して保護者ができることは?
ひところ女優の菊池桃子さんが「PTAは任意」という発言をしたことが話題になりました。PTAは強制加入の団体ではないはずなのに、子どもを学校に通わせる保護者は事実上強制加入とされて多くの活動を強いられているのが実情で、働く母親にとっての負担も大きい。こんな現状の改善を求める内容の発言でした。
この指摘どおり、保護者はあまり声高には言えないながら、PTAの加入や活動に関して様々な問題を抱え、ストレスに悩んできました。その中には多くの複雑な法律問題も含まれています。そこで今回は、PTAにかかわる法律問題や保護者に何ができるかについて解説しています。
「PTAは任意」と聞いて、「そうだったのか」と驚いたり、疑問を持つかたも多いでしょう。そもそもPTAが法的にどんな性質の団体なのか、その成り立ちについても、あまり知られていないと思います。
PTAとは
PTAは、Parent-Teacher Association(親と生徒の会)の略称で、もともとは19世紀末にアメリカで結成された団体の名称です。すべての子どもが健やかに成長するために、保護者と教師が協力し合って教育環境を整備するという、慈善的な運動を行っていました。幼稚園の設立、給食や予防接種の普及などに尽力し、現在も活動は活発に行われています。
第二次大戦後、GHQが日本の教育改革を行う際に、教育現場に民主主義を根付かせるため、アメリカのPTAをモデルとした組織を全国に普及させるように指導や支援を行いました。従来日本では、保護者が寄付などによって学校を後援する保護者会などの組織が存在していましたが、GHQの指導や文部省(当時)の主導によって、全国各地の小・中・高校で学校単位のPTAが結成されていくようになりました。現在では、市や県の組織や、日本PTA全国協議会、全国高等学校PTA連合会などの全国組織も作られ、さまざまな活動が行われています。
日本のPTAは戦後の物資が足りない時代に成立したため、学校設備の整備や給食の実施などを行うことが急務でした。そこで多くの保護者が尽力をして、教育現場を支えてきたのです。当時は保護者には家庭の専業主婦が多かったため、多くの時間を割いて活動に参加できたという事情もあったようです。
ただ、アメリカの由来をみて分かるように、PTAはあくまでも任意加入の団体で、いわばボランティアと同じ性質をもっています。文部科学省も、PTAがあくまでも任意加入の団体であるという認識を明らかにしています。
しかし戦後の経緯があるせいか、PTAが任意加入という事実はあいまいにされてきました。PTAが保護者を代表して学校を後援する公的な団体であるような誤った認識が持たれており、学校側もそれを当然のように捉えている場合も多いのです。
各学校や保護者の間では任意加入という認識が周知されているとは言いがたいのが現状なので、こうしたあいまいさが原因で、様々な法律問題も生じてきます。
PTAは本当に強制加入じゃない?
よく聞かれるのが、子どもが学校に入学したら加入の意思確認もないままPTAに加入していた、強制加入だと言われた、などの問題です。
しかし、PTAは任意加入の団体であり、強制加入団体ではありません。これは法律的にもきちんと説明できる事実です。
強制加入団体とは、何かをする条件として法律などによって加入を義務づけられている団体のことをいいます。弁護士が加入する弁護士会、税理士が加入する税理士会などが典型例です。
本来、ある団体に加入するかどうかは個人の自由に任されています。憲法では結社の自由(21条)として認められる権利です。
しかし、専門性が高く公共性が強い職業に就く者には、組織の自主的な規律に属して一般の人の権利や財産に害が及ばないよう予防することが求められます。強制加入団体は、こうした必要性が認められる場合にのみ成立が許される、ごく例外的な団体なのです。
つまり、法律などで加入が強制されていない限り、その団体は強制加入団体ではなく、任意加入団体です。PTAは加入を強制する法律が存在しないので、任意加入団体に他なりません。保護者に加入義務はなく、加入するかどうかは保護者が自由に決められます。
しかも、団体に加入するには、加入希望者と団体の間で契約の締結が必要です。これは任意加入団体でも強制加入団体でも、どんな団体でも同じです。
したがって、PTAの加入契約や申込みがないまま会員になっていたり、任意加入だと知らされないまま加入を強制された、などのケースでは、加入の無効や取消を主張できます。PTAを相手にして会費の返還を求めることもできますし、慰謝料などを請求することも可能な場合があります。
もしも退会を拒否されたら?
同時によく問題になるのが、退会の拒否という問題です。
仕事が忙しくなって活動に参加できなくなった、病気になったときなど、事情があって退会を申し入れても役員に認めてもらえなかった、理由をことこまかに追及されたという例がよく聞かれます。
任意加入団体に加入の自由が認められる以上、退会する自由も当然に認められています。PTAが任意団体である以上、退会しても法律上は何ら問題がありません。
もし退会をやめるよう強要されたり、退会できない決まりだと言われたら、明らかに違法なので、慰謝料請求なども可能になるでしょう。個人の事情を事細かに追及されたときは、プライバシーの侵害にもなりかねません。
不利益をほのめかされたときは刑事事件に発展することも
また、未加入や退会によって子どもや保護者に不利益が生じるとほのめかされた、退会したら学校行事に参加できないと言われた、などのトラブルも聞かれます。こうした行為も明らかに違法であり、民事上は慰謝料請求が可能です。また、脅迫罪などの刑事罰も問うことも可能な場合もあります。
さまざまなプレッシャーを感じたとき
そのほか、PTAの加入・退会の問題で悩むのは、心理的なプレッシャーが原因のときもあるでしょう。役員や学校側から加入が当然と扱われて拒否できない、加入の是非について議論もさせてもらえない、などと嘆く声もしばしば聞かれます。任意加入だと知っていても、事実上強制だという空気が作られている場合も多いようです。
PTAの役員側としては、活動や行事の運営を確保するために会員数を確保し、何とか減少を抑えたいでしょう。しかしPTAが任意加入団体である以上、未加入や退会を希望する保護者から選択の余地を奪うような、間接的な強制を行うこともできません。
このような悩みは、PTA内部の仕組みや人間関係、空気などの問題でもあるので、法律問題のように明確な解決をしづらく、一人で解決するのは難しいかもしれません。
ただ、保護者の意思が不当に抑圧される環境は、明らかに不当なものでしょう。
できるだけ多くの相談相手や教育問題に詳しい専門家などにアドバイスを受け、保護者仲間にも賛同をしてもらいながら、団体の全体の改善をはかっていくことが大切です。
多くの人が問題に加わることが可能なので、決して一人で悩まないことが解決への道筋でしょう。
加入・退会の問題以外にも、PTAはさまざまな問題点が指摘されています。
会費の徴収方法についての問題
しばしば聞かれるのが、会費にまつわる問題です。PTAの会費を、給食費などの学校徴収金とともに口座から引き落とす慣行をとり、学校側が金銭管理をする場合も多いようです。PTAは任意加入であるのに、このままの状態を続けても良いのでしょうか。
給食費は給食を利用する子どものために学校が徴収しなければならない費用です。しかしPTAは学校とは別の任意加入団体である以上、会費の徴収も独自に行わなければならないはずです。学校側が金銭管理をする権限もありません。
もし任意加入団体だとはっきり知らず、加入契約もないまま引き落とされていれば、強制の費用のように装いながら徴収され続けるようなものです。
保護者が、任意ならば加入しなかったと考えたり、PTAから会費に相応するサービスなどを受けていなかったときは、会費の返還を求めることも可能でしょう。
卒園式・卒業式のときに、非会員の子どもにだけPTAが用意した卒業証書の筒や記念品などを配らなかった、記念品の実費を支払わなければ渡さないと言われた、などのトラブルがしばしば起きるようです。PTAが任意加入ならば会費を会員の子どものためだけに使ってもいいのでは?と思う方も多いと思います。
しかし、たとえ任意加入でも、同じ学校に通う子どもを保護者の会員・非会員で区別し、差別的に扱うことはできません。
確かにPTAは任意加入の団体ですが、学校に通うすべての子どもの成長を支援するという公共の目的のために保護者が会員になる団体です。この公共の目的があるからこそ、公立学校のPTAも学校の教室を無償で使用することが認められるのです。
もしPTAによる差別的な扱いが横行していれば、PTAは公共の目的を失った単なる民間サービスの会員組織でしかありません。教室を使用する根拠だけでなく、公正中立をはかるべき教育現場に関与する機会も失うことでしょう。
記念品の配布での差別的な扱いに学校側が関与すれば、教師や学校が公正中立を損ねる行為に関与したとして、教育の機会均等(教育基本法3条1項)、さらには憲法の定める法の下の平等(憲法14条1項)に違反による慰謝料請求等も可能です。
些細な行為のように思われがちですが、法律上は大変な問題であることを、PTA側も認識することが必要でしょう。
運営についての問題
他によく聞かれる悩みは、PTAの運営や負担にかかわる問題です。意思に反して役員になることを強制された、就任を拒否したら仕事を理由には拒否できないと言われた、理由の詳細をことこまかに問い詰められた、などのトラブルもしばしば聞かれます。
役員の就任は、PTAの規約などに義務づける決まりがなければ、拒否も禁じられません。たとえ規約があったとしても、任意加入の団体で会員の意思に反して負担が強制されたうえ一切拒否もできないのは公序良俗違反(民法90条)などにあたり無効も主張できるでしょう。法的には就任を拒否しても何ら問題はなく、強制された場合には慰謝料なども請求できる場合も考えられます。
PTAの役員側にしてみると、役員の強制などは大した問題ではないという自覚なのかもしれません。しかし、個人の自由な意思を抑えつければこうした法律問題が起こりうるのは事実なので、その点を伝えておくことも、時には必要でしょう。
ただ、運営や負担の重さという問題は、PTAの団体全体に関わる問題でもあります。任意加入という事実が周知されなかったり、たとえ周知されていても閉鎖的な空気が作られてしまったために生じる問題でしょう。
こうした問題を抱える団体では、役員の負担だけでなく普段の活動についても同じように負担が重いと感じている会員も多いはずです。会員だけでなく外部の多くの人にも団体の内情を知ってもらい、議論に加わってもらうなどして、ソフトな解決を進めていくのも一つの方法です。
PTAが抱える問題を語るのは、保護者同士の間でもタブーとされてきたような傾向があります。今回のように法的な観点から解決方法を解説しても、「実際のPTAでは大きな声は出せない」と思われるかもしれません。
しかし最近はPTAのあり方について活発な議論も行われるようになりました。任意加入のPTAに保護者の多くが自発的に参加して、自由な空気の中で活動が行えるように改善していこうという動きも出ています。
法律的な問題が生じたときは毅然とした態度での対応が必要ですが、人間関係などの悩みをソフトに改善していく行動も、時には必要ではないでしょうか。
参考コンテンツ:
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