教師

教師だって人間…だからこそ起こる問題。対応する法律は?
学生時代を振り返ってみると、好きだった先生、嫌いだった先生、いろんな先生を思い浮かべることができます。学校の先生に心無い言葉を投げかけられたり、暴力を振るわれたりした経験のある方もいらっしゃるかもしれません。教師だって人間ですから、完全無欠な存在ではありません。しかし、見過ごすことのできない問題が起こってしまった場合、どのように対応すべきでしょうか。
教育的指導か、理不尽な仕打ちか。そのボーダーラインは教師は児童・生徒を指導する立場にありますから、時には厳しい態度で臨まなければならないこともあります。学校教育法11条は、校長及び教員に、教育上必要があると認めるときは、児童等に対して懲戒を加えることを認めています。
懲戒とは、教師が、児童・生徒に対して、戒めるべき言動を再び繰り返させないという、教育目的に基づく行為や制裁を行うことです。文部科学省の通知によると、懲戒として許される行為には、停学、訓告のほか、注意、叱責、別室指導、起立、宿題、清掃、学校当番の割当て、文書指導などがあります。
懲戒は、「教育目的」で行われなければなりません。ですから、例えば、体調が優れず苛立っていたから生徒に暴言を吐くというように、教育目的とは関係のない制裁は許されません。また、教育目的であっても、児童らに恐怖感や侮辱感を与える不適切な言動、児童らの現況に適合しない過剰な指導などは、不適切な行為であって、教育の現場では許されません。教育的指導か、理不尽な仕打ちかは、「教育目的であること」と「不適切な行為でないこと」の2点がボーダーラインになっているといえます。
しかし、理不尽な仕打ちであっても、それらが全て法律上違法な行為にあたり、教師や学校(公立の学校であれば国や都道府県などの地方公共団体)が児童らに対して損害賠償責任(国家賠償法1条1項や民法709条に定められる賠償責任)を負うというものでもありません。例えば、教師が暴言を吐いたとしても、それが一度限りのものであった場合など、その行為が行われた経緯、期間、態様、結果の重大性など個別の状況によっては、違法とまではいえないといえます。
体罰とみなされる行為について先に触れた学校教育法11条は、教師の懲戒を認めるとともに、体罰を禁止しています。
体罰という言葉からイメージされる行為は、教師が生徒を平手打ちするとか足蹴にするなど、身体に対して有形力を行使する行為です。
しかし、児童生徒に対する有形力の一切が体罰に該当するわけではありません。体罰に該当するかどうかは、「当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。」という文部科学省の通知が実務的な運用の指針となっています。
これと同様のことは、刑事責任についてもあてはまります。教師による児童生徒の身体に対する有形力の行使は、暴行罪(刑法208条)に該当しますが、懲戒権の範囲内として正当な行為であれば、違法性が阻却されることになります。
さらに、民事責任についても同様で、教師の行為の教育上の目的や行為の具体的態様・程度等の事実関係を総合考慮・勘案することにより、それが学校教育法上で禁止されている体罰に該当せず、懲戒の範囲内にあるときは、違法とはいえず、損害賠償責任を負わないことになります。
教師と教え子の交際は許される?教師も人間ですから、もちろん恋愛は許されます。ただし、その相手が教え子となると、事情は複雑です。
まず、教師が教え子を好きになること自体は、許されないものではないと考えられます。恋愛感情をもつこと自体は、幸福追求権(憲法13条)や思想・良心の自由(憲法19条)により保護されると考えられますし、気持ちを秘めている限りは実生活に何の影響もないからです。
問題は、恋愛感情を何らかの行動に移した場合です。地方公務員法33条は、「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。」と定めています。
教師が教え子と交際することにより、業務に支障が出たり、教え子が勉学をおろそかにしたりする可能性があります。教師と特定の生徒が親密な関係にあると、他の生徒や保護者からは公平性を欠くように見えることもあります。また、教師が教え子と肉体関係を持ってしまった場合、青少年に対しみだらな行為を行ったとして、都道府県の青少年保護条例違反に問われます。
このような事態を招いてしまった場合、教師の信用は傷つき、学校全体の不名誉になりますから、交際は許されないといえるでしょう。同様のことは、私立学校の教師と教え子との関係にもいえるでしょう。
もし交際するなら、教師にも教え子にも、相当の自制が求められると考えられます。
校長などの監督責任者
教師とトラブルになるケースの多くは、担任の教師や部活動の顧問など、児童・生徒と日ごろから接している立場の教師との間に起こります。そういった場合、まずは、当該教師に対する監督責任のある校長、教頭、学年主任などに相談をしましょう。ただし、監督する立場にあるといっても、同じ学校に勤める先生同士ですから、学校の評判を気にして納得の行く対応をしてくれない場合もあります。
教育委員会、各都道府県の私学課など
公立の学校の場合、教育委員会に対して当該教師の懲戒処分を求めるという手段もあります。教育委員会は、教職員について、(1)地方公務員法等の法令違反(2)職務上の義務違反または職務の懈怠(3)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合、懲戒処分(戒告、減給、停職、免職)を行うことができます。
私立学校については、教育委員会の管轄外ですので、教育委員会に懲戒処分を求めることはできません。私立学校の設置・廃止・変更などの認可は各都道府県が行いますので、都道府県の私学課に相談をしでみましょう。
教育問題に詳しい弁護士
学校や教育委員会等に相談しても納得の行かない場合や、教師によるいじめや体罰など児童・生徒の人権侵害に当たるような深刻な被害が生じた場合、弁護士に相談し、教師や学校、教育委員会に対して法的責任の追及をすることも検討しましょう。弁護士に依頼すれば、教師や学校との直接のやり取りをしなくてすむため、精神的な負担を軽減できるというのもメリットです。
子どもの人権110番
いじめや体罰など、子どもの人権問題に関する相談を受け付けている専用相談電話で、無料で利用することができます。児童・生徒からの相談はもちろん、保護者からの相談も受け付けています。電話を受けるのは法務局の職員や人権擁護委員です。人権が侵害された疑いのある事件については、救済措置が開始されることがあります。
警察
先に触れたように、教師による有形力の行使がすべて犯罪に当たるわけではありませんが、限度を超えた行為はもちろん犯罪に当たります。このような場合は、警察に被害届を出すことも検討しましょう。
学校の先生に叱られた経験は誰しも持っているものだと思います。そして、叱ってもらってよかったと思った人も、少なくはないと思います。教師の対応を理不尽だと感じたとしても、まずは冷静に事態を分析してみましょう。それでもやはりおかしいという結論に達したときは、法的責任の追及も含めた対策を考えましょう。
参考コンテンツ:
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