
親子・家族にまつわる手続きや問題解決のための法律を知ろう
目次 |
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戸籍についてのさまざまな手続き
日本では、親子関係や親族関係は、戸籍という制度によって管理されています。
戸籍とは、家族関係について、戸という家族の単位によって国民を管理する制度のことです。戸籍制度があるのは、日本や台湾、中国くらいであり、世界的には少ないです。
韓国には、近年まで戸籍制度がありましたが、2008年からは、新しい家族関係登録制度に変わっています。
日本国民は、基本的に全員戸籍に入っています。
子どもが生まれたら出生届が提出されて、その子どもの戸籍が編成されます。子どもの戸籍は、親の戸籍の中に入ります。
戸籍には、筆頭者がいて、その家族は筆頭者の戸籍内に記載されます。筆頭者が父親の場合、母親や子どもは父親の戸籍に入ることになります。
子どもが結婚したら、子どもは親の戸籍から出て、独立して結婚相手と戸籍を作ります。この場合、夫婦のどちらかが戸主(筆頭者)になり、他方はその戸籍に入ることになります。
夫婦が離婚する場合には、筆頭者の戸籍はそのままで、もう一方の当事者は、新たに自分の戸籍を編成するか、もともとの実家の戸籍に戻ることになります。
養子縁組をした場合、養子は養親の戸籍に入ることになりますし、離縁したら、その戸籍から出ることになります。
人が死亡すると、その人は戸籍から除かれます(戸籍法23条)。ただ、その場合でも、同じ戸籍に入っている人が全員除籍されるまでは、戸籍として存続します(戸籍法12条)。
たとえば、Aさんが死亡したときにAさんの妻が生きている場合、Bさんの戸籍を取得したいときには、Aさんが筆頭者になっている戸籍を取り寄せることになります。
遺産相続の際にAさんの戸籍が必要なときは、除籍謄本ではなく戸籍謄本を取り寄せることになります。
このように、日本国民は、生まれてから亡くなるまで、ずっと戸籍によって家族関係が管理されているのです。
戸籍があると、住民票を作ることができます。健康保険や年金、学校や各種の手当てなどの行政サービスは、戸籍や住民票の記載をもとに行われるので、戸籍がないと、行政サービスも利用することができなくなります。
日本では、戸籍がないということは、その人が法的に存在しないということになってしまうので、戸籍があるということが存在の根幹になっているといえ、非常に重要です。
戸籍のことなど普段は意識しないことが多いですが、これを機に、戸籍のことをしっかり理解しておくと良いでしょう。
日本では戸籍制度が採用されているので、家族関係に変更があった場合には、戸籍に関する届出をする必要があります。
戸籍の届出には、どのような種類のものがあるのかが問題になりますので、以下でご紹介します。
戸籍届出の際には、期間が設けられているものがあります。期間を過ぎたとしても、受け付けてもらえなくなるわけではないことが多いですが、期限を過ぎると、科料などの制裁が科されることもあるので、注意しましょう。家族関係に変更があったら、速やかに戸籍届出をする必要があります。
戸籍届出の種類や期間、届出地や届け出る人は、以下の表のとおりです。
届出期間 | 届出地の市町村役場 | 届出人 | |
出生届 | 14日以内 (子どもが外国で生まれたときは3ヶ月以内) |
父母の本籍地 父母の住所地 子どもの出生地 |
父または母 |
死亡届 | 亡くなったことを知った日から7日以内 | 死亡者の本籍地 死亡場所 届出人の住所地(死亡者の住所地) |
・同居の親族 ・同居していない親族 |
婚姻届 | 婚姻するとき | 夫または妻の本籍地 夫または妻の住所地 |
夫および妻(成年の証人が2人必要) |
離婚届 | 【協議離婚のケース】 届出の日から離婚したことになる |
夫婦の本籍地 夫婦の住所地 |
夫および妻(成年の証人が2人必要) |
【調停・裁判のケース】 調停成立・裁判確定の日から10日以内 |
調停の場合には調停の申立人 裁判の場合には裁判を提起した人 |
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転籍届 | 期限はないが、届出の日から転籍の効力が発生する | 転籍者の本籍地 転籍者の新本籍地 転籍者の住所地 |
戸籍の筆頭者およびその配偶者 |
認知届 | 期限はないが、届出の日から認知したことになる(胎児認知は出生の日から効力が発生する) | 認知される人か、認知する人の本籍地 届出人の住所地 胎児認知の場合は母の本籍地 |
認知する人 |
【裁判認知の場合】 裁判確定の日から10日以内 |
認知される人か、認知する人の本籍地 届出人の住所地 |
裁判認知は裁判の提起者(期間内に届出をしないときは相手方も届出可能) | |
養子縁組届け | 普通養子縁組の場合 期限はないが、届出が受理された日から養子縁組したことになる |
養親若しくは養子の本籍地 届出人の住所地 |
養親及び養子(養子が15歳未満の場合は法定代理人) |
特別養子縁組の場合 裁判所の審判があってから10日以内 |
養親の本籍地 届出人の住所地 |
養親となるもの | |
養子離縁届 | 期限はないが、届出が受理された日から離縁したことになる | 養親若しくは養子の本籍地 届出人の住所地 |
養親及び養子(養子が15歳未満の場合は法定代理人) |
調停・裁判の場合、裁判の確定又は調停の成立した日を含む10日以内 | 養親若しくは養子の本籍地 届出人の住所地 |
調停の申立人や、裁判で訴えを起こした人 | |
入籍届 | 期限はないが、届出が受理された日から入籍の効力が発生する | 入籍者の本籍地 届出人の住所地 |
入籍する人(入籍者が15歳未満の場合は法定代理人。届出人に配偶者がいるときは配偶者とともに届け出る必要がある) |
復氏届 | 期限はないが、届出が受理された日から復氏の効力が発生する | 生存している配偶者の本籍地若しくは住所地 | 生存している配偶者 |
姻族関係終了届 | 期限はないが、届出が受理された日から姻族関係が終了する | 生存している配偶者の本籍地若しくは住所地 | 生存している配偶者 |
分籍届 | 期限はないが、届出が受理された日から分離の効力が発生する | 分籍する者の本籍地、住所地、分籍地 | 分籍する人(成年) |
氏の変更届(姓・苗字を変更するケース) | 【氏の変更届(戸籍法107条1項の届)】 期限はないが、届出が受理された日から氏の変更が有効になる |
氏を変更する人の本籍地 届出人の住所地 |
戸籍の筆頭者とその配偶者 |
【外国人との婚姻による氏の変更届(戸籍法107条2項の届)】 婚姻の日から6ヶ月以内 |
氏を変更する人 | ||
【外国人との離婚による氏の変更届(戸籍法107条3項の届)】 離婚、配偶者の死亡または婚姻の取り消しの日から3ヶ月以内 |
氏を変更する人 | ||
【外国人父母の氏への氏の変更届(戸籍法107条4項の届)】 | 氏を変更する人(15歳未満のときは法定代理人) | ||
名の変更届(名前を変更するケース) | 期限はないが、届出が受理された日から名が変更される | 名を変更する人の本籍地 届出人の住所地 |
名を変更する人(15歳未満のときは法定代理人) |
国籍取得届 | 国籍取得の日から1ヶ月以内(国外にいるときは3ヶ月以内) | 国籍取得者の本籍地 届出人の住所地 |
国籍を取得した人 |
帰化届 | 告示の日から1ヶ月以内 | 本籍を定める地 届出人の住所地 |
帰化した人 |
国籍喪失届 | 国籍喪失の事実を知った日から1ヶ月以内(届出人が外国にいるときは3ヶ月以内) | 国籍喪失者の本籍地 届出人の住所地 |
国籍喪失者、配偶者または四親等内の親族 |
国籍選択届 | 22歳になる前(重国籍となった時が20歳後のときは、その時から2年以内)または催告を受けた日から1ヶ月以内 | 国籍選択者の本籍地 届出人の住所地、在外公館 |
国籍選択者(15歳未満のときは法定代理人) |
外国国籍喪失届 | 喪失の事実を知った日から1ヶ月以内(届出人が外国にいるときは3ヶ月以内) | 外国国籍喪失者の本籍地 届出人の住所地、在外公館 |
外国国籍喪失者 |
推定相続人廃除届 | 調停成立または審判確定の日から10日以内 | 推定相続人の本籍地 届出人の住所地 |
調停または審判の申立人 |
戸籍を確認したい場合、戸籍謄本や戸籍抄本を取得することができます。このとき、戸籍謄本と戸籍抄本がありますが、この2つは何が違うのかがわからないという人が多いので、以下で解説します。
なお、現在は、戸籍の管理がコンピューター化されており、コンピューター化が済んでいる場合は、戸籍謄本は戸籍(除籍)の全部事項証明書という形になり、戸籍抄本は戸籍(除籍)の個人事項証明書という形で発行されます。
戸籍謄本とは、筆頭者とその戸籍に入っている人が全員記載されている戸籍の写しです。
たとえば、自分が実家の戸籍に入っている場合、戸籍謄本を取得すると、その戸籍に乗っている親や兄弟などのすべての戸籍が記載されています。
これに対し、戸籍抄本とは、自分だけの戸籍が記載されている戸籍の写しです。戸籍抄本を取得した場合、自分の本籍地やその戸籍編成時や編成理由など、自分に関する情報しか載っていません。
戸籍が必要な場合、自分だけの情報で済む場合には、戸籍抄本をとれば充分です。提出先によって、「戸籍謄本が必要」と言われた場合には、全員の記載がある戸籍謄本を取得しましょう。
また、戸籍の種類としては、除籍謄本もあります。除籍謄本とは、筆頭者などが既に死亡していて、閉じられている戸籍のことです。
昔の古い戸籍などでは、戸籍に入っている人がすべて死亡していたり、その戸籍から出て行っていたりして誰も中に残っていないものがあります。そのような戸籍は除籍謄本と言います。
除籍謄本も、その戸籍の関係者であれば、戸籍謄本と同様に取得することが可能です。
戸籍を取り寄せたい場合には、その戸籍の本籍地の所在する市町村役場に行くと、発行してもらうことができます。
本籍地が近い場合には、その市町村役場に行って戸籍謄本や抄本を申請すれば出してくれますし、市民サービスセンターなどで発行してもらえることもあります。
本籍地のある市町村が遠方の場合には、郵送によって戸籍謄本などを取り寄せることができます。この場合、郵便局に行って、定額小為替を購入して、返信用の封筒を入れて申請書を送れば、申請した戸籍謄本などを送付してもらうことができます。
結婚すると、戸籍がどのようになるのかについても確認しておきましょう。
人は生まれると、通常は親の戸籍に入ります。しかし、結婚すると、結婚相手と一緒に新しい戸籍を作ることになります。このとき、夫婦の一方を筆頭者として決めなければなりません。そして、筆頭者となる人の姓に統一されることになります。
たとえば、夫の姓にする場合には夫の戸籍を作って妻がその戸籍に入ることになります。
子どもが生まれたら、その子どもも夫の戸籍に入るので、戸籍に入っている人が3人になります。
次に、離婚したときの戸籍編成を見てみましょう。夫婦が離婚をすると、筆頭者になっていない当事者はその戸籍から出るので、新しく戸籍編成をします。この場合、自分だけの新しい戸籍を作ることもできますし、実家に戻ることもできます。
実家に戻った場合には、旧姓に戻ることになりますが、新しく戸籍を作る場合には、旧姓に戻るか婚姻時の姓を名乗り続けるか選ぶことができます。
離婚した場合、子どもの戸籍も問題になります。離婚しても、子どもは筆頭者の戸籍内に残ります。親権者になったからと言って、当然に子どもと同じ戸籍にはならないので注意が必要です。また、離婚によって妻が旧姓に戻っても、子どもの苗字は夫の苗字のままです。
妻が親権者になって子どもの戸籍を自分の戸籍に入れたい場合や、自分と同じ苗字に揃えたい場合には、家庭裁判所で氏の変更許可の申立をして、審判してもらう必要があります。
氏の変更許可が下りたら、その審判書をもって役所に行って届出をすると、子どもの氏と戸籍を変更して、自分の戸籍に入れることができます。このとき、母親が実家の戸籍に戻っている場合、そのままでは子どもの戸籍を作ることができないので、母親は新たに自分の戸籍を編成して、子どもを入れます。よって、この場合、母親と子どもの2人の戸籍が編成されることになります。
以上のように、戸籍は、ふだんあまり意識しなくても、実は私達の生活に大きく関わっているものです。今回の記事を参考にして、正しく理解しておきましょう。
参考コンテンツ:
自分の戸籍が見れない!?
結婚後の本籍地を両親の籍に記載しない方法はありますか?
祖父母と孫が同一戸籍になることはない?
子どもの誕生と出生届
子どもが生まれたら、出生届を提出します。
出生届とは、子どもが生まれたことを国に届け出ることです。
出生届を提出することによって、子どもの戸籍が作られて、公的に子どもが存在することが認められるようになります。
出生届を提出したら、子どもの戸籍は親の戸籍の中に入ります。
父親が筆頭者になっている戸籍であれば、子どもは父親の戸籍に入るので、その戸籍の中には父親(筆頭者)と母親と子どもの3人(兄弟がいればその子ども達も)になります。
未婚の母などのケースでは、母親を筆頭者とする戸籍の中に子どもが入りますので、その戸籍の中には、母親と子どもの2人が入ることになります。
出生届を提出して、戸籍が編成されることによって、子どもの住民登録も可能になります。
日本人として日本で生きていくためには、健康保険などのいろいろな公的サービスを受ける必要がありますが、これらは戸籍と住民票によって管理されているので、出生届を提出しないと、各種の行政サービスも受けられなくなり、大変困ることになるので、子どもが生まれたら必ず出生届を提出する必要があります。
次に、出生届の提出方法を確認しておきましょう。
出生届を提出するためには、いくつかの書類が必要になります。まず、出生証明書が必要です。出生証明書は、子どもが生まれた医院などで医師や助産師に書いてもらうことができます。
出生証明書は、出生届と一体になっていて、通常は産婦人科医院においてあります。
そこで、子どもが生まれたら、出生証明書を書いてもらって受け取り、それに必要事項を記載して役所に提出することになります。出生届の用紙は、自分でも、役所でもらうことができます。
出生に立ち会った人が亡くなってしまった場合など、やむを得ない事情がある場合には、出生証明書の添付が不要になります。
そのほか、母子健康手帳と届出人の印鑑 (認印でもかまいませんが、シャチハタは不可)、国民健康保険被保険者証と身分証が必要です。
さらに、養育者が外国籍の場合には、養育者の外国人登録証も必要になります。
出生届をする役所は、父母の本籍地か、父母の住所地か、子どもが生まれたところの市町村役場です。
また、出生届には期限があります。具体的には、子どもが生まれてから14日以内に提出する必要があります。期限を過ぎても届出ができなくなることはありませんが、科料などの制裁が科される可能性があるので、注意しましょう。子どもが生まれたら、速やかに出生届を提出する必要があります。
ただし、子どもが外国で生まれたときは、出生後3ヶ月以内に出生届を提出すれば良いことになっています。
出生届の届出人は、子どもの父または母です。
出生届を役所に持っていく人とは異なる場合もあるので、覚えておきましょう。
次に、出生届の書き方をご説明します。
出生届の書き方は、難しくありません。書式に従って、必要事項を埋めていけば良いです。まず、届出日を書きます。ここには、子どもが生まれた日ではなく、実際に出生届を提出する日にちを記載します。
届出先の欄には、届出をする市町村の名前を書きます。
受理送付発送の欄は空欄のままで大丈夫です。
子の氏名は、戸籍に記載される子どもの名前を記入します。楷書で、フルネームを記載しましょう。
いったん出生届が受け付けられてしまうと、その後子どもの名前を訂正するために、いちいち家庭裁判所の許可が必要になってしまうので、くれぐれも間違わないようにして、読み間違いが起こらないように丁寧に書きましょう。
子どもの名前に利用できる文字には、制限があります。具体的には、常用漢字と人名用漢字、ひらがなとカタカナ(変体かなは不可)のみです。アルファベットは使用できません。
子どもの出生が離婚後のケースであっても、子どもの姓は離婚前の婚姻中のものを記載します。非嫡出子(婚外子)の場合には、母親の姓を記載します。
そして、嫡出子と非嫡出子の区別や男女の区別、長男次男などの区別について、順番にチェックしていきます。
たとえば、長男の場合なら、男女の枠の前に「長」次男なら「二」などと書きます。
生まれたときについては、出生証明書の中の「生まれたとき」の年月日と時間を引き写しましょう。
生まれたところは、子どもが生まれた病院などの場所を記載します。
住所は、子どもの住民登録をする住所です。通常は、子どもの両親の住所と同じにします。
世帯主の氏名は、住民票の住所の世帯主です。世帯主は、住民票に記載があります。
世帯主との続柄は、たとえば父が世帯主なら「長男」などと書きますし、祖父が世帯主になら「孫」などと書きます。
そして、父母の氏名、生年月日や子どもが入る戸籍の本籍を記載します。
本籍地は、住民票の住所とは異なるので、戸籍を確認して記載する必要があります。
あとは、同居を始めたときや、世帯のおもな仕事、父母の職業(国勢調査のある年のみ)などを書いていきます。
届出人の欄には、役所に届出書を持っていった人ではなく、父母の氏名を書き入れます。
届出人の署名は、必ず届出義務者(父母)がする必要があります。
このように出生届の記載ができたら、必要書類と一緒に役所に持っていけば受け付けてもらって手続きが完了します。
子どもが生まれても、出生届を提出しないと子どもの戸籍は作られないので、その子どもは無戸籍になってしまいます。ずっと戸籍が作られないままだと、その子どもは大人になってもずっと無戸籍のままです。実際に、日本では今、こういった無国籍の子どもがたくさんいることが明らかになり、問題になっています。
2015年7月、文部科学省は、出生届が未提出の無戸籍の子供が、全国の小中学校に少なくとも142人いること、うち7人に未就学の期間があったことを発表しています(うち一人は当時まだ学校に通えていませんでした)。
このように、出生届が提出されないのは、民法の嫡出推定の規定に主な原因があります。
嫡出推定とは、婚姻中の夫婦に子どもが生まれた場合、その子どもの親はその夫婦であることを推定することですが、離婚後も一定期間、この嫡出推定の効果が及びます。
具体的には、離婚後300日以内に生まれた子どもの父親は、離婚前の夫だと推定されるのです。
よって、離婚後300日以内に子どもが生まれた場合、その子どもの出生届を提出すると、自動的に父親が離婚前の夫になってしまいます。
ところが、実際には離婚前の夫ではなく別の男性の子どもであるというケースがかなりあります。それなのに、出生届を提出すると、父親が前の夫になってしまうことを避けるため、出生届を出せなくなってしまうのです。
DV事案などで、出生届を提出すると、夫に子どもが生まれたことや居場所などがわかってしまうことを恐れて提出できないケースも多いですし、裁判所で手続きをすると、元夫と顔を合わせないといけないのでやはり出生届の手続きが出来ないこともあります。
以上のようなことが理由で出生届が提出されない子どもがたくさんいますが、無戸籍になると、子どもは公的に存在しないことになって幽霊のような状態になってしまうので、数々の不利益を受けることになります。
以下では、無戸籍の子どもが具体的にどのような不利益を受けることになるのか、ご説明します。
戸籍がないと、その子どもが公的に存在することが証明できません。よって、各種の行政サービスを受けられなくなったり、受けにくくなったりします。
戸籍がないと住民票も作成されませんし、健康保険も利用できません。学校からの連絡も来ませんし、就学も難しくなります。児童手当などの各種の手当てももらえません。
大きくなっても、免許証を取得出来ませんし、パスポートも取得困難になります。
近年では、必要な手続きをすれば、住民票への記載やパスポートの発給、国民健康保険の利用や保育所への預け入れなどができるようになりましたが、手続きはかなり面倒になります。
また、各種の資格を取得したり、婚姻したりする際などにも戸籍がないと、いろいろな問題が起こります。
日本社会で一生戸籍なしで生きていくことは、かなり非現実的です。
子どもが離婚後300日以内に生まれてしまった場合、出生届をすると、戸籍上、子どもが必ず前の夫の子どもになってしまうのかというと、そういうわけではありません。
離婚後300日以内に子どもが生まれても、本当の父親の子どもとして戸籍を作ってもらう方法があります。
まずは、前夫に嫡出否認の訴えをしてもらうことです。嫡出否認の訴えとは、「その子どもは自分の子どもではない」ということを裁判所に認めてもらうための訴えです。ただ、これは前の夫本人からしかできないので、前の夫に協力してもらえない場合には利用できません。
その場合、親子関係不存在確認の調停や裁判をする方法があります。
親子関係不存在確認の手続きは、子どもと相手方(前夫)との親子関係がないことを確認するための手続きです。
親子確認不存在請求のためには、前夫や子ども、子どもの本当の父親のDNA鑑定などが必要になります。
これによって、子どもと前夫との親子関係が否定されたら、子どもが前夫の子どもとして戸籍に記入されることを防ぐことができます。
離婚後300日以内に子どもが生まれた場合でも、親子関係不存在確認請求をして子どもと前夫との親子関係を否定して、本当の父親に認知してもらったら、本当の父親を父親とする戸籍を作ることができるので、無戸籍のまま放置するのではなく、きちんと子どもの出生届は提出しましょう。
DVのケースで子どもの出生届を提出しないケースもありますが、子どもを一生無戸籍のままにすることはできません。
住民票を秘匿すれば元夫には居場所を知られることはありませんし、元夫と顔を合わせるのが恐ろしいので手続きができない場合などでも、裁判所では相手と顔を合わせずに手続出来る方法もあります。弁護士に手続を依頼すれば、一緒に行動をしてくれて、元夫と会わないようにして手続をすすめてくれるので心強いです。
どのような場合でも、子どもの出生届を提出しないことは子どもにとって不利益が大きすぎるので、方法を工夫して、子どもの出生届を提出することが大切です。
法的に親子関係をつくる養子縁組について
親子関係というと、どのような関係だと考えるでしょうか?通常は、「血のつながった親子」だと思われることが多いのではないかと思われます。
しかし、法律上、「親子」は血のつながりのある親子ばかりではありません。
血縁関係がなくても、法律上親子として取り扱われるケースがあります。
それは、養子縁組をした場合です。
養子縁組とは、もともと親子ではなかったものが、縁組みをすることによって新たに親子関係を作り出す制度です。
養子縁組をすると、届出をしたときから親子関係が創設されます。
ただし、特別養子縁組の場合には、子どもが生まれたときから養親との親子関係が作られます。
養子縁組をすると、養親と養子は親子関係になるので、たとえば養子が未成年の場合、養親は養子の親権者になりますし、養子は養親の遺産相続をすることができるようになり、養子の苗字は養親の苗字と同じになります。
養子縁組の種類養子縁組には、2種類があります。1つは普通養子縁組、もう1つは特別養子縁組です。
普通養子縁組は、通常の場合に利用する養子縁組です。養子縁組の目的などにも特に制限はなく、養親と養子が合意をすれば、養子縁組が可能です。普通養子縁組をしても、養子と実親との関係はなくなりません。
養子と養親との親子関係が始まるのは、養子縁組届をした後ですし、養子は、実親の相続権も持ったままです。
これに対し、特別養子縁組は、もともとの親子関係が切れてしまうタイプの養子縁組です。
特別養子縁組は、普通養子縁組の場合よりも利用できるための要件が厳格です。
これは、子どもが元の親の元で健全に成長していくのが難しいケースなどで、子どもに新しい環境を提供することによって、健やかに成長できることを目的とする制度なので、子どもが小さいうちしか利用できないのです。
特別養子縁組をするケースは、たとえば実親が経済的にどうしても子どもを育てられないケースや、実親が子どもを虐待しているケースなどです。
特別養子縁組をすると、実親と養子の関係は切れるので、養子は初めから養親の子どもであったかのような戸籍の記載になります。養子が大きくなって戸籍を確認しても、自分が養子であると言うことはわかりません。また、普通養子縁組と異なり、養子は、実親の遺産相続をする権利もなくなります。
次に、普通養子縁組の条件を見てみましょう。
普通養子縁組をする場合、まずは養親と養子に、縁組をする意思があることが必要です。養子になろうとする者が未成年である場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。ただし、自分の連れ子を配偶者の養子にしたり、配偶者の子どもを自分の養子にしたりする場合には、裁判所の許可は不要で、親権者の同意を得て届け出るだけで済みます。
養子となるものが未成年者で15歳未満の場合、親権者の代諾が必要です。
また、養親は20歳以上である必要があります。養親が夫婦の場合、配偶者の同意も必要になります。
さらに、養子となる者が、養親となる者の尊属や年長者であってはいけません。自分の親や祖父母、叔父叔母などを養子にすることはできませんし、養子は自分より年上の人であってはいけないということです。
特別養子縁組の要件次に、特別養子縁組の要件を確認してみましょう。
特別養子縁組を利用するためには、養子となるものの年齢が6歳未満でなければなりません。特別養子縁組は、子どもに恒久的な家庭を与えて子どもの利益をはかるための制度ですが、子どもが大きくなってしまうと、実親の記憶が残ってしまって養親と本当の親子のような関係が作りにくくなりますし、実親との別れが辛い経験になってしまう可能性もあるからです。
また、養親となる人は、夫婦である必要がありますし、夫婦の片方が25歳以上でないといけません。
特別養子縁組では、子どもに安定した家庭環境を与えないといけないので、親が両方そろっている必要がありますし、ある程度の年齢に達している人の方がきちんと子どもを育てられるので安心だという判断があるからです。
このように、特別養子縁組と普通養子縁組とでは、利用できる要件にかなりの違いがあります。
次に、普通養子縁組の方法を確認しましょう。
普通養子縁組をする場合、養子と養親の合意を得て、養子縁組届を役所に提出すれば手続きができます。
養子縁組届を提出すると、養子の戸籍は元の戸籍から抜けて、養親の戸籍に入ります。
また、養子縁組届を提出した日から、養子縁組の効果が発生します。たとえば、養子縁組する前の養子の子どもは、養親との親族関係にはなりません。
養子縁組をする前の養子の子どもは、養親の相続権はない事になります。これに対して、養子縁組をした後の養子の子どもは養親の孫と言うことになるので、養親がなくなったときに養子が先に亡くなって入れば、代襲相続によって養親の財産を相続することができます。
養子が未成年の場合養子になろうとする者が未成年の場合、普通養子縁組をするためにも家庭裁判所で許可を得る必要があります。そのための手続きは、普通養子縁組許可の申立です。
普通養子縁組許可の申立の申立人は、養親となる者であり、申立先の管轄裁判所は養子となる者の住所地の家庭裁判所です。
申立の際には、収入印紙800円がかかりますので、申立書に添付します。これ以外に、予納郵便切手が必要です。
添付書類として、養親となろうとする者の戸籍謄本(全部事項証明書)、養子になろうとする未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)、未成年者が15歳未満の場合には、法定代理人(親権者)の戸籍謄本も必要です。
これらの必要書類を揃えて、普通養子縁組許可の申立書を記載して家庭裁判所に提出したら、必要に応じて家庭裁判所で調査や審問などの手続きが行われて、問題がなければ普通養子縁組の許可が下ります。許可の審判書が自宅に届いたら、それを役所に持参すれば養子縁組届ができます。
特別養子縁組の方法特別養子縁組を利用したい場合には、必ず家庭裁判所の審判を経ることが必要です。役所に縁組届を出したら成立、ということにはなりません。
特別養子縁組許可の申立する場合、申立人は養親となろうとする者です。申立先の裁判所は、養親となろうとする者の住所地の家庭裁判所です。
この場合も、申立に必要な費用は収入印紙800円分なので、申立書に添付して提出しましょう。同じように郵便切手が必要なので、申立先の裁判所に確認して内訳や金額を聞きます。
添付書類として、養親となる者の戸籍謄本(全部事項証明書)、養子となる者の戸籍謄本(全部事項証明書)、養子となる者の実父母の戸籍謄本(全部事項証明書)が必要です。
これらの必要書類を揃えたら、特別養子縁組成立の申立書を記載して書類と共に家庭裁判所に提出すれば申立手続きができます。
その後、家庭裁判所において、特別養子縁組の要件を満たしているかどうかなどの調査があり、問題がなければ特別養子縁組成立の審判がおります。自宅に審判書が届いたら、それを役所に持っていけば、特別養子縁組の手続きができます。
普通養子縁組と特別養子縁組の違い普通養子縁組と特別養子縁組の違いを確認しておきましょう。
この2つは、まず、養子縁組をする目的が異なります。
普通養子縁組の目的は、幅広いです。たとえば、血縁のない子どもを迎え入れて自分の子どもとして育てたいケースもありますし、家を継がせたいので孫や甥姪などと養子縁組することもあります。大人になった後知り合ったもの同士が、親子関係を作りたいので養子縁組することもあります。
これに対して、特別養子縁組の目的は、子どもに恒久的な家庭を与えて、子どもの利益を実現することにあります。特別養子縁組の目的は、普通養子縁組のものと比べてかなり限定されたものになります。
普通養子縁組と特別養子縁組とでは、利用できるための要件もかなり異なります。普通養子縁組は、養子が養親より年上でなければだいたい利用できますが、特別養子縁組の場合、子どもは6歳以下である必要がありますし、養親は必ず夫婦である必要があります。
普通養子縁組と特別養子縁組は、もともとの実親との親子関係が残るかどうかも異なります。
普通養子縁組の場合には、実親との関係も残るので、養子は実親の遺産相続権も持ちますし、実親は養子の遺産相続権を持ったままです。これに対して、特別養子縁組は実親との親子関係が完全になくなるので、実親と養子の相互の遺産相続権はなくなります。
戸籍の記載内容も異なります。普通養子縁組の場合、養子縁組をした日から養子になった旨の記載になりますし、「養子」「養女」と表記されます。これに対し、特別養子縁組の場合、出生当時から養親の子どもであったかのような表記になり、養親との続き柄も「長男」「長女」のように記載されるので、戸籍を見ても、養子であることは明らかになりません。
このように、普通養子縁組と特別養子縁組は、その目的の違いから、さまざまな効果の違いが発生します。
小さい子どもを家庭に迎え入れて、本当の親子と同じような関係を作りたい場合には、6歳未満の子どもと特別養子縁組をする必要があり、それ以外の場合には普通養子縁組をすることが一般的です。
養子縁組を終わらせたい場合の離縁手続きとは養子縁組を終了させたい場合には、離縁という手続きをする必要があります。離縁には、協議によって離縁する方法と、調停・裁判によって離縁する方法があります。
養子と養親が話し合って離縁することが決められる場合には、離縁届に双方が署名押印をして、必要事項を記載して役所に提出したら、離縁届ができます。離縁した場合、養子の戸籍は原則的に元の戸籍に戻ります。
協議で離縁ができない場合には、家庭裁判所で離縁の調停をする必要がありますし、それでも合意ができなければ、離縁の訴訟をする必要があります。訴訟で離縁が認められるためには、(1)他の一方から悪意で遺棄された場合、(2)他の一方の生死が三年以上明らかでない場合、(3)その他縁組を継続し難い重大な事由がある場合である必要があります。たとえば、養子が養親に対して暴力を振るっている場合などに、(3)の要件が認められます。
特別養子縁組を解消するためには、必ず家庭裁判所の審判手続が必要になります。離縁が認められるには、次の(1)~(3)の要件をすべて満たさなければなりません。
離縁の請求権者は養子か実父母、検察官であり、養親からの請求はできません。
(1)養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。
(2)実父母が相当の監護をすることができること。ただし、実父母の双方がすでに死亡している場合はこの要件は不要です。
(3)子の利益のために特に必要があると認めるとき。
特別養子縁組の離縁が認められた場合には、養子と実親との親子関係が復活します。
以上のように、法律上親子関係を作るための養子縁組の手続きは、目的によって利用する制度がかなり異なります。今回の記事を参考にして、自分たちのニーズに合った養子縁組手続きを利用しましょう。
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親子、兄弟の縁を切りたいとき
親子や兄弟の関係は、多少の不和はあっても通常ならその関係を切りたいとまで考えることは少ないです。
しかし、中には親兄弟の仲が悪化して、縁を切りたいと希望することがあります。
たとえば、兄弟が借金を繰り返して迷惑をかけられ続けるので縁を切りたいと思うことがありますし、息子が親に暴力を振るうので、親子の縁を切りたいこともあるでしょう。
放蕩息子を勘当したいケースもあります。
このように、親子・兄弟の縁を切ると言うことは、現在の法制度上可能なのでしょうか?
そもそも「縁を切る」ということがどのような意味を持つのかが問題になります。
そこで、以下では親子・兄弟の縁を切ることができるのかどうか、できるとしたらどのような方法があるのかについて見てみましょう。
親子・兄弟の縁は、法律的にはどのような扱いになっているのでしょうか?
この点、親子や兄弟の「縁」というものは、法律的には明確な規定はありません。「縁」というのは、法律用語ではなく一般的な親子と兄弟の関係を表す言葉です。
そもそも法律上「縁」という概念がないのですから、「縁」を切るための法律的な制度もありません。
現在の法律では、親子・兄弟の「縁」を切るための特定の制度はないのです。
ただし、婚姻によって親子関係や兄弟関係が発生する姻族関係については、離婚の場合は離婚と同時に、死別の場合は役所に姻族関係終了届を提出すれば終了させることができます。これにより、後で説明する扶養義務を免れることができます。
そうなると、暴力を振るう息子や借金を繰り返す兄弟の問題を解決する方法はないのかということになってしまいそうです。
このことは、そもそも親子・兄弟関係がある場合に、お互いにどのような義務や権利があるのかという問題と関わりますので、次項以下で解説します。
現在の法制度上、「縁」というものはありませんが、そうだとすると、親子や兄弟は、互いにどのような義務や権利を持つのでしょうか?もし親子や兄弟であっても、何らの義務もないのであれば、問題のある親子や兄弟がいても、放っておけば良いだけということにもなりそうです。
この点、法律上、親子や兄弟関係があると、互いに扶養義務があります。
民法では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定しています(民法877条)。
この扶養義務は、通常生活費の送金という形で行います。よって、親子や兄弟関係があると、お互いが生活に困窮している場合には金銭的な援助が必要になります。扶養の方法については、一次的には親子・兄弟間で話し合って決めますが、協議が整わない場合には、家庭裁判所が定めることが出来ることになっています(民法879条)。
また、親子や兄弟などが生活保護を申請したときには、役所から親族に対し、扶養ができないかどうか問合せが来ることも多いです。この問合せのことを扶養照会と言います。
扶養は義務ではないので、断ることもできます。余裕がないなら、無理に扶養する必要はありません。ただ、断っていると何度も照会が来ることがあります。その都度現状を伝えて、扶養ができる状態であれば扶養に応じると良いでしょう。
親子・兄弟関係があると、互いに相続権があります。人が亡くなったとき、特に有効な遺言がなければ法定相続人が法定相続分に従って遺産相続をしますが、法定相続人になるのは、親子や兄弟、配偶者です。
配偶者は常に法定相続人ですが、子どもは第1順位の法定相続人となり、子どもがいれば親の遺産を相続します。子どもがいない場合、親が第2順位の法定相続人となりますし、子どもも親もいなければ、兄弟姉妹が第3順位の法定相続人として、遺産相続をします。
このように、親子間や兄弟姉妹である限り、自分の遺産が相続されてしまう可能性があるということです。親子や兄弟の「縁」によって発生するものではありませんが、親子関係や兄弟関係によって発生する権利なので、親子や兄弟の関係を切りたい人にとっては重大な問題になるでしょう。
縁を切る方法とは?親子や兄弟関係があると、上記のように扶養義務や相続権が発生しますが、このような親子関係、兄弟関係を切ることはできるのでしょうか?
「縁を切る」「勘当する」という場合、事実上の意味と法律上の意味があります。事実上の縁切りとは、「お前とは今後縁を切る!」と言ったり書面を送ったりすることによって、その後実際に一切関わり合いを持たないようにするということです。
縁を切った後は、互いに没交渉になりますし、仮に相手が連絡してきたとしても応答せず、借金で困っていたとしても助けませんし、一緒に住まないので暴力も振るわれなくなります。
しかし、このように事実上「縁を切った」だけでは、法律上の親子・兄弟関係を切ることはできません。事実上縁を切っても、それは単に関わり合いを持たないようにしたというだけのことなので、法的に、互いの扶養義務や相続権はなくならないままだからです。
相手が特に扶養を求めてこなかったり、自分が元気だったりするうちは、事実上「縁を切った」だけで問題は起こりませんが、相手が扶養を求めてきた場合には扶養義務の履行が問題になってしまいますし、自分が死亡した場合には遺産が相手に相続されてしまうことになります。
この意味で、法律上の親子・兄弟関係を切ることは、一般的に考えられているほど簡単なことではないのです。絶縁状をたたきつけたり「勘当だ!」と言ったりしたらそれで終わり、ということにはなりません。
縁を切ったら関わりはなくなる?親子や兄弟の縁を事実上切った場合、本当にその後一生関わりを持たずに済むのかどうかも問題になります。また、その後に関係を修復したいと希望することもあるでしょう。
事実上「縁を切った」という場合、その後、関係を修復することはできます。逆に言うと、一生関わりを持たないということはできません。
事実上縁を切っただけでは、法律上何らの制限も科されておらず、単に当事者同士が連絡を断っているだけなので、当事者が和解して互いに交流をはじめたら、それだけで関係が修復されます。たとえば、娘が家出をして親子の縁を切ったとしても、10年後、娘が孫を連れて帰ってきて謝ったら、親子が和解して3世代が同居を始めると言ったケースもあります。
また、親子や兄弟の一方が縁を切りたいと思っていても、相手がそれに応じずしつこく連絡をしてきた場合に、その連絡をやめさせることも難しいです。(ただし、それが犯罪になるようなケースは別です)
このように、現在の法制度では、「縁」というものが規定されておらず、縁切りの制度もないので、事実上縁を切っただけでは、親子関係や兄弟関係を完全に切ってしまうことはできませんし、逆に、完全に切れてしまうおそれもないのです。
縁を切ったら戸籍に記載される?親子や兄弟の縁を事実上切ったとしても、それが戸籍などの公的な書類に記載されることはありません。親子関係や兄弟関係の縁は、法律上の概念ではないので、縁を切ると言ってもあくまで事実上連絡を取っていないだけの状態です。このような状態について、戸籍に記載する方法はないからです。
よって、親子の縁を切ったり修復したりした場合に、役所などに対して何らかの届出が必要になることはありません。
なお、上で説明した姻族関係終了届を提出したときは、戸籍に「姻族関係終了」と記載されます。
親子関係や兄弟関係の縁切りや修復の問題は、あくまで事実上の問題であり法律上の制度ではありません。そうなると、親子や兄弟の関係に問題が起こった場合、何の対処方法もないのでしょうか?
このような場合、親族関係調整調停という調停を利用するができます。親族関係調整調停とは、家庭裁判所の調停手続きを利用して、親子や兄弟などの親族関係を話し合う手続きのことです。
たとえば、兄弟が借金を繰り返すので困っているケースでは、今後借金をしないことを約束してもらったり、仮に借金した場合でも頼らないことを約束してもらったりすることができます。
関係を持ちたくない親がしつこく連絡をしてくるので困っているケースなどでも、親族関係調整調停によって、互いの連絡方法を一定の範囲内(頻度や方法)を制限することによって、互いの平穏な生活を維持できるようになったりします。
親族関係調整調停では、間に裁判所の調停委員が入って話し合いをすすめてくれるので、親子や兄弟が直接話し合う必要がなく、お互いが冷静に話を進めることができます。
親子や兄弟の場合、直接はなしをするとどうしても感情的になってまともに協議ができないことが多いですが、そのような場合、親族関係調整調停が役立ちます。
ただし、これはあくまで調停なので、当事者双方に対する強制力はありません。互いが納得しなければ、調停は不成立になってしまいます。
また、調停で決まった内容についても、強制執行力が及ばない条項もあるので、必ずしも守られるとは限らないという問題もあります。
ただ、このような手続きを利用してしっかり話しをすること自体は、問題解決のために有用です。
親族関係調整調停を利用したい場合には、家庭裁判所に行って親族関係調整調停の申立書を記載して提出します。その際、1200円の収入印紙と、予納郵便切手を添付して申立をすれば、第一回調停期日の連絡が来て、調停が開始されます。
親子や兄弟関係を切りたいと思っても、事実上縁を切っただけでは法律上の関係は切れません。実際に、扶養義務を完全に断つことは、現在の法制度上は難しいです。親族関係調整調停を利用しても、問題が解決できないこともあるでしょう。
特に遺産相続の問題は大きいです。問題のある息子などには、自分の遺産を相続させたくないと考えることが多いです。
このように、問題のある相続人に遺産相続をさせない方法があります。
それは、相続人の廃除の制度を利用する方法です。相続人の廃除とは、非行のある相続人から相続権をなくす手続きのことです。
相続人の廃除が認められるのは、相続人が被相続人を虐待したり、侮辱したり、その他著しい非行があったりしたケースです。
相続人を廃除すると、廃除された相続人は遺産相続することができなくなります。よって、廃除をすると、親子関係が完全に切れなくても、せめて遺産が問題のある息子や親などにわたることを避けることは可能になります。
相続人の廃除をしたい場合には、生前廃除と遺言による廃除の方法があります。生前廃除する場合には、家庭裁判所に申し立てて審判をしてもらい、審判書を役所に届け出る必要があります。遺言によって廃除する場合には、遺言書に廃除する相続人と廃除する旨を記載して、遺言執行者を指定します。遺言による相続人の廃除は、遺言執行者をつけないとできないので、注意が必要です。
兄弟の場合、相続させない遺言をする相続人の廃除ができるのは、親子などの遺留分がある法定相続人に対してのみです。遺留分のない兄弟姉妹に対しては、廃除の手続きは認められません。
ただ、兄弟姉妹には遺留分がないので、遺言書によって兄弟姉妹に一切遺産を残さないようにすれば、兄弟姉妹に遺産がわたることはありません。
よって、問題のある兄弟姉妹に遺産を渡したくない場合、他の相続人や受遺者にすべての遺産を相続させる旨の有効な遺言書を残すようにしましょう。
以上のように、親子や兄弟の関係は、法律上完全に切ってしまうことはかなり難しいです。せめて、親族関係調整調停を利用したり、ときには相続権を奪ったりして、上手に調整していくことが大切です。
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家庭内だけの問題じゃない、児童・高齢者虐待
家族間に関する問題としては、児童虐待や高齢者虐待の問題があります。
どちらも、力の弱いものに対する虐待のケースですが、虐待が酷い場合、被害者が死に至るケースなども多く、重大な問題になります。
また、高齢者虐待の場合、介護者が介護疲れによって虐待に及んでしまうなどの背景事情もあり、一律に「虐待するものが悪」と言うことができないケースもあります。
児童虐待の場合でも、親には子どもに対する親権が認められるので、親権を主張されるとなかなかそれ以上に踏み込んで虐待防止措置をとりにくいという問題があります。
このように、児童虐待や高齢者虐待には難しい問題が絡みますが、防止する必要性が高いことは確かです。以下で、それぞれについて具体的に見てみましょう。
まずは、児童虐待にどのようなケースがあるのかを確認しましょう。
児童虐待というと、子どもに対して暴力を振るっているというイメージがあります。
親権者は子どもに対して懲戒権や監護権があるので、懲戒としての一定範囲内であれば実力行使も認められます。しかしその限度を超えて、子どもを傷つける場合には、それは虐待行為として許されません。
また、子どもを無視し続ける場合や食事などを与えない育児放棄の行為も児童虐待にあたります。
子どもをパチンコ店の駐車場やスーパーマーケットなどに置き去りにした場合にも児童虐待が問題になります。
また、児童にわいせつな行為をすることも児童虐待ですし、子どもが同居する場合の配偶者に対する暴力行為も、児童虐待に該当します。
このように、児童虐待は、子どもに直接の身体上の危害を加えなくても成立する可能性があるので、注意が必要です。自分ではしつけのつもりでも、過ぎた行為があると児童虐待になってしまいます。
児童虐待が犯罪になる場合児童虐待は、行きすぎると犯罪になる可能性もあります。そこで、児童虐待でどのような犯罪が成立する可能性があるのかを見てみましょう。
まず、子どもに暴力を振るった場合、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)、傷害致死罪(刑法205条。子どもが死亡してしまったケース)が成立する可能性があります。子どもが死んでもかまわないと考えていたり死ぬかもしれないと思っていたりした場合には、殺人罪(刑法199条)が成立する余地もあります。
子どもを育児放棄していた場合、保護責任者遺棄罪や、保護責任者遺棄致死罪(子どもが死亡してしまったケース)が成立する可能性があります。
親は、子どもの親権者として子どもを保護する義務があります。それなのに、その義務に従わず子どもを放置することは違法となるので、上記のような犯罪が成立するのです。保護責任者遺棄罪が成立すると、3月以上5年以下の懲役刑が科される可能性があります。
法律は、児童虐待を防止するために児童虐待防止法という法律を作っています。以下では、児童虐待防止法がどのような規定をしているのか、ご紹介します。
児童虐待防止法は、痛ましい児童虐待が起こっている現状に鑑みて、これを防止するために2000年に作られた法律です。
まずは、児童虐待の定義をしています。児童虐待は、18歳未満の児童に対し、以下の行為をすることです。
・児童の体に外傷が生じたり、生じるおそれがあったりする暴行を加えること
・わいせつな行為する、又はわいせつな行為をさせること
・心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置(ネグレクト)や、保護者以外の同居人による虐待を放置すること
・著しい暴言や拒絶反応、DVなど児童に著しい心理的外傷を与える言動(他の兄弟姉妹と激しく差別する行為も含む。)
また、学校・病院等の教職員・医師・保健師・弁護士等は、児童虐待の早期発見に努めなければならないとされています。
さらに、一般人でも、児童虐待が疑われる児童を発見したら、福祉事務所や児童相談所に通告する義務があります。
都道府県知事は、必要があれば児童の親に出頭を求めたり、自宅へ立ち入ったりして調査をすることが出来ます。保護者が拒否したら、裁判所の許可によって、臨検や捜索(強制捜査)ができます。
さらに、必要に応じて警察署長にも援助を求めることができます。
児童相談所長は、虐待を受けた児童に関して、必要に応じて、保護者の面会や通信を制限できますし、保護者が児童の通学路等、子どもの近辺を徘徊したりつきまとったりすることをやめさせることもできます。
児童虐待を防止するためには、保護者による親権が障害になるケースが多いです。児童虐待が疑われていても、親権があると子どもの監護権や財産管理権が認められるので、他者が立ち入ることが困難になるからです。
そこで、近年民法が改正され、親権停止制度や親権喪失制度が見直されました。親権停止制度とは、児童虐待などの一定の要件を満たす場合、2年を上限として親権を停止出来る手続きです。酷い虐待事案の場合などには、親権喪失制度を利用して、保護者から親権を奪うことも可能です。
同じように、保護者による児童の財産管理方法に問題がある場合には、管理権(財産管理権)を喪失させることもできます。
親権を停止させたり喪失させたりするための要件を見てみましょう。
親権を停止させることができるためには、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」であることが必要です。
喪失させるためには、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」であることが必要です。
管理権を喪失させることができる場合は、「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」です。
このように、親権者による親権や監護権の行使方法に問題がある場合、その程度に応じて親権を停止したり喪失させたりすることができますし、財産管理方法に問題があれば、管理権を喪失させることが可能なので、覚えておきましょう。
親権停止や喪失をさせるためには、家庭裁判所で審判をする必要があります。
審判を申し立てることができる人は、子の親族や検察官、虐待を受けている子本人や未成年後見人、未成年後見監督です。
さらに、児童相談所長は、親権喪失や親権停止、管理権喪失の審判とこれらの審判の取消しについての審判申立権があります。
親権停止や喪失の審判を申し立てたい場合には、家庭裁判所において、親権停止・親権喪失・管理権喪失のそれぞれの申立書を提出します。申立があると、裁判所で調査が行われ、必要性が認められたら申立内容に応じて親権の停止や喪失、管理権の喪失の審判が下されます。これが確定したら、問題のある親権者の親権が制限されるので、子どもを守りやすくなります。
高齢者虐待のいろいろなケース次に、高齢者虐待の問題を考えてみましょう。高齢者虐待も、児童虐待と同じように深刻な現代社会のかかえる問題です。高齢者虐待は、家庭内で行われることも多いですが、介護施設で起こる事例もたくさんあります。
高齢者虐待のケースとしては、たとえば家庭内で高齢者を介護している人が高齢者に対して暴力を振るう場合がありますし、必要な介護や世話をしないで放置するパターンもあります。
食事を無理やり高齢者の口に押し込むことは身体的虐待になる可能性がありますし、高齢者が話しかけていても無視し続けることも虐待になる可能性があります。
人前でおむつを交換することも、性的虐待などに該当する可能性がありますし、本人の財産を無断で処分したり年金を使い込んだりすることも虐待の一例となります。
このように、高齢者虐待も、かなりその概念は広くなります。虐待している人に自覚がないケースも多いので、注意が必要です。
高齢者虐待は、非常に発見しにくいので深刻化しやすいという問題があります。
高齢者虐待が行われるのは、家庭内や施設内などの閉じられた空間であり、外部から発見することが難しいです。また、親族や介護職員が介護する中で行われるので、それが一見して虐待であるとわからないこともありますし、虐待している本人自身が自覚していないことも多いです。
さらに、虐待を受けている高齢者自身が、自発的に意思を発信することが難しくなっているケースなどもあり、さらに発見を難しくしています。高齢者の場合、子どものように、泣き叫んだり助けを求めたりということがありませんし、学校にも行かないので外の人が見つけることも少ないのです。
このようなことから、高齢者虐待は深刻化しやすい傾向がありますが、今後高齢化社会が加速していく中、高齢者虐待を防ぐための対策は重要だと言えます。
高齢者虐待を防止するために、高齢者虐待防止法という法律が定められているので、以下でご紹介します。
高齢者虐待防止法は、家庭内や介護施設内で高齢者への虐待事案が増える中、2006年に制定された法律です。
高齢者虐待防止法では、まず虐待の定義をしています。
具体的には、
・身体的虐待
・介護・世話の放棄・放任
・心理的虐待
・性的虐待
・経済的虐待
の5つです。
先の例で言うと、食事を無理やり口に入れることは身体的虐待になりますし、高齢者が話しかけても無視することは心理的虐待、人前で排泄させたり、おむつ交換したりすると性的虐待にあたる場合があります。本人の財産を無断で処分したり年金を使い込んだりすることは経済的虐待に該当します。
また、同法は、家庭で虐待されている高齢者を発見したら、市町村に対して通報しなければならないという通報義務を定めています(7条)。この通報を受けた市町村は、対象の高齢者について、虐待により生命・身体に重大な危険がある場合には、保護のための措置を講じたり、成年後見開始の審判申立をしたりすることができます(9条)。
さらに、高齢者の避難場所を確保したり(10条)、高齢者がいる家庭や介護施設などの場所に立ち入り検査をしたりできます(11条)。
さらに、介護事業者は、従業員に研修を実施しなければならず、虐待防止措置を講じる必要があり(20条)、虐待されている高齢者を発見したら通報する義務も課されます(21条)。
このようにして通報を受けた市町村は、高齢者の保護をします(24条)。
高齢者虐待は、確かに発見しにくいという問題をはらんでいます。ただ、高齢者が虐待されている場合、日常行動が不自然になったり人目を避けたがったり、不眠になったりなどの睡眠障害の訴えがあることなどのサインがあると言われているので、身近で高齢者虐待が行われているかも知れない場合には、注意してみてみると良いでしょう。
以上のように、児童虐待や高齢者虐待は、とても深刻な問題で、社会全体でなくすために取り組んでいかなければならない問題です。今回の記事をきっかけにして、これらの虐待問題についても考えてみる機会を持つとよいでしょう。
生活はどう変わる?成年後見制度
私達の生活に大きく関わる家族に関する制度として、成年後見制度があります。
成年後見制度とは、自分で財産管理ができなくなった人のために、その財産を他の人が代わって管理する制度のことです。
たとえば、高齢になって判断能力が低下したら、悪徳業者などに騙されて高額な商品を購入する契約などをしてしまうことがあります。この場合、契約があるから代金を支払わなければならないとすると、高齢者が大きな不利益を受けます。
また、判断能力があってもそれが不十分なケースもあります。
寝たきりで重い認知症にかかっている場合など、完全に自分では財産管理ができなくなっているケースもあります。
このように、自分で財産管理ができなくなった場合には、本人の利益を守るために、誰かにその財産を管理してもらう必要があります。そこで、法律上成年後見人を選任することによって、後見人に本人の財産を管理してもらうことにしたのです。
以上のように、成年後見人は、本人に代わってその財産を管理する人のことであり、成年後見制度は本人の利益を計るための制度です。
成年後見人というと、本人の財産管理をする人です。確かにこの理解は正しいのですが、実は後見にはいくつかの種類があります。
成年後見制度によって本人の代わりに他者が財産管理すると言うことは、本人の財産管理権を奪ったり制限したりすることになります。
また、本人に判断能力が不十分であると言っても、その程度は人によって異なりますので、その違いを無視して、一律に本人の財産管理権を奪ってしまうことは返って本人にとって不利益になるのです。そこで、成年後見制度では、本人の判断能力の程度に応じて異なる後見制度を設定しています。
具体的には、後見人と保佐人、補助人の3種類があります。
後見人は、最も程度が重いケースで選任されます。本人の判断能力がないかほとんどない場合で、だいたい判断能力が7歳程度以下の場合です。
後見人は、本人の代わりに完全に財産管理をしますし、すべての法律行為について本人の代理権を持っており、本人がした法律行為はすべて取り消すことができます。
次が保佐人です。保佐人は、本人の判断能力が著しく低下したケースで選任されます。保佐人は、法律上定められた一定の法律行為について同意権と取消権を持っており、家庭裁判所で特に定めた場合には、その法律行為について代理権を持ちます。
最も程度が軽いのは補助人です。補助人が選任されるのは、本人の判断能力が不十分なケースです。補助人は、裁判所が特に定めた法律行為についてのみ同意権や代理権、取消権が認められます。
このように、成年後見制度は本人の判断能力の程度に応じて適切なものを使い分けることができるので、どのような場合でも完全に財産管理権を奪われるということにはならず、本人も安心できます。
本人の同意が必要か?成年後見制度は本人の利益を計るための制度ではありますが、これによって本人の重要な財産管理権が制限されるので、本人の同意が必要ではないかと考えることもあるでしょう。
本人の同意についても、後見の制度によって要否が異なります。
後見人と保佐人の場合、本人の判断能力の低下の度合いが強いため、本人が適切に同意の是非を判断することは期待しにくいです。そこで、これらのケースでは、本人の同意なしに後見人、保佐人を選任することができます。
これに対し、補助人を選任するケースでは、比較的本人の判断能力が多く残っていますので、補助人をつけるかどうかについて本人が適切に判断することが期待できます。そこで、補助人を選任するケースでは、本人の同意が必要になります。
このように、同じ後見制度でも、本人の同意の要否は異なるので、覚えておきましょう。
次に、成年後見人を選任すべき場合はどのようなケースなのかをご紹介します。
まずは、本人の判断能力が低下して、そのままにすると本人の利益が害されるおそれがある場合です。たとえば、高齢で認知症にかかって財産管理ができなくなった場合、放っておくとどこにどのような財産があるのかが全くわからなくなってしまうようなケースです。
また、自分で身の周りのことができなくなって、必要なものを購入したり食事をしたりすることができなくなった場合にも、後見人が必要です。
施設に入所する際にも、自分で契約できる状態でなければ後見人が必要です。
日常生活は自分でできる場合でも、判断能力が低下していて、悪徳業者などに騙される可能性が高くなっているケースでも保佐人や補助人を必要とするケースがあります。
さらに、親族間に争いがある場合にも後見人を選任すべきです。
本人に判断能力が低下していることはもちろん必要ですが、ある親族(兄弟など)が認知症の本人の財産を持っていて使い込みが疑われる場合など、そのままでは他の親族がそれを取り上げたり、使い込みを証明したりすることは困難です。
この場合、成年後見人を選任してもらって、本人の財産を後見人に管理してもらうことによって、兄弟による親の財産使い込みを防ぎ、本人の利益を守ることができます。
以上のように、成年後見の制度は、状況に応じていろいろと使い分けができる便利な制度です。
次に、成年後見人を選任する方法をご説明します。成年後見人(保佐人、補助人)を選任するためには、家庭裁判所で後見開始審判の申立を行います。保佐人の場合には保佐開始の審判、補助人の場合には補助開始の審判申立となります。
これらの申立をできる人は、本人(後見開始の審判を受ける者)か配偶者、四親等内の親族や検察官などです。このほか、未成年後見人や未成年後見監督人、保佐人や保佐監督人、補助人や補助監督人がそれぞれ選任されている場合には、それらのものも申立が可能です。身寄りがない高齢者などの場合には、地方公共団体の長(市町村長)も申立可能です。
申立先の家庭裁判所は、本人の住所地となります。
成年後見開始の審判申立があると、その後家庭裁判所によって本人の状況について調査が行われます。そこで、本当に判断能力がないのか、不十分なのかなどを調べて、その結果に応じて後見開始、保佐開始、補助開始の審判が行われます。審判が確定したら、各種の後見が開始されます。
誰を成年後見人にすべきか成年後見制度を利用する場合、誰を後見人にすべきかという問題があります。
後見人は、最終的には家庭裁判所が判断して決定しますが、申立人は候補者を立てることができます。申立の際に家庭裁判所に伝えることができます。
親族間に争いがないケースでは、後見人として親族(本人の子どもや甥姪、兄弟など)を候補者として立てて、そのまま選任されることが多いです。
そこで、適切な人がいる場合には、申立の際に家庭裁判所に候補者名と本人との関係を伝えましょう。
ただし、親族間で争いがある場合、親族を後見人にすることはできません。もともと親族間で対立があるのに親族を選任したら、余計に争いが激しくなって、本人の財産が適切に管理されることを期待できないからです。
そこで、このような場合には、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。
介護方法などに工夫が必要なケースでは、社会福祉士などが後見人に選ばれることもあります。
このように、成年後見人が選任された場合、人選に不服があることを理由に不服申立をしても認められないので、注意が必要です。
成年後見の審判を申し立てた場合、自分や自分の気に入った人が選任されるとは限りませんし、いったん選任されたら変更してもらうことは難しくなるので、利用の際には慎重に検討する必要があります。
成年後見人が選任されると、そのことは法務局に登記されます。このことを成年後見登記と言います。これは戸籍とは独立した制度なので、成年後見制度を利用しても戸籍などには何らの記載もされず、プライバシーを守ることができます。
成年後見登記の証明書を取り寄せたい場合には、東京法務局に申請する必要があります。
本人が勝手にした法律行為を取り消したい場合など、後見登記の登記事項証明書を持っていると、後見を理由として取消権の行使などがしやすくなるので、1通取り寄せて所持しているとよいでしょう。
このように、成年後見制度は、上手に利用すると判断能力が低下した人の利益を守ることができますし、親族間の争いも調整することができて役立ちます。今回の記事を参考にして、必要に応じて生活に取り入れてみましょう。
扱いがいろいろ違う。未成年という立場
家族の中に未成年者がいる家庭はたくさんあります。未成年者とは、法律上は20歳未満の人のことです。
未成年者の場合、法律上、成年者(20歳以上の人)とは大きく取り扱いが異なります。未成年は単独では法律行為ができないことが多いですし、刑事犯罪を犯した場合の取り扱いも成年者のケースとは異なります。
さらに、離婚した場合にも、子どもが未成年かどうかによって取り扱いが異なります。子どもが未成年の場合に限って、離婚した相手に請求出来る権利などもあるので、知っておく必要があります。
そこで今回は、成年とは取り扱いがいろいろと異なる未成年者のことについて、詳しく確認しておきましょう。
未成年者は、単独で法律行為をすることができません。
未成年者は、判断能力が成年者と比べて未熟です。よって、単独で契約などをできることにすると、未成年者にいろいろな不利益が及ぶ可能性が高いです。
たとえば、高額な商品を買わされることもあるでしょうし、詐欺に遭う可能性も大人の場合よりも高いです。
未成年者が法律行為をする場合には、法定代理人の同意を得る必要があります(民法5条)。
そして、法定代理人の同意を得ずに未成年者がした法律行為については、未成年者自身や法定代理人は取り消すことが可能です(民法5条2項)。法定代理人とは、法律によって定められる代理人のことで、未成年者の場合には通常は親になります。
親が離婚している場合には、親権者が法定代理人になり、親権と監護権が分けられている場合には、監護権者ではなく親権者が法定代理人となります。
未成年者がこの取消権を行使する場合には、法定代理人の同意は不要で、単独でも有効に取り消すことができます。
たとえば、未成年者が勝手に親のクレジットカードを使って、ネット上で何らかの契約の申込みをした場合などには、未成年者自身や親は取消ができることになります。
未成年取消ができる期間は、法律行為の後5年間であり、5年が経過すると、もはや取消ができなくなることには注意が必要です。
また、未成年者が詐術を用いて契約などの法律行為をした場合には、その法律行為を取り消すことができません。詐術とは、あえて相手を騙す行為です。
未成年者が相手を故意にだましたような場合にまで、取消権を認めると、相手にとって大きな不利益が及びますし、このようなケースでは未成年者の保護の必要性が低いと考えられます。そこで、未成年取消権を制限して、取引の安全を守っているのです。
たとえば、未成年者が契約をする場合、身分などを偽って成人であると説明して上手に相手を騙して契約した場合などには、その契約を取り消せなくなる可能性があります。
以上をまとめると、法律は、まずは原則的に判断能力が不十分な未成年者を保護しており、未成年者が詐術を用いたような悪質なケースには取引の安全を重視して、未成年取消を制限しているということです。家族に未成年者がいるときには、この知識があると役立つことがあるので、是非とも押さえておきましょう。
家族に未成年者がいる場合、両親がそろっているケースもありますが、離婚していることもあります。この場合、未成年者を監護している親(同居している親)が親権者になっていたら問題は起こりませんが、未成年者と一緒に住んでいない親が未成年者の親権者になっている場合、いろいろな問題が起こることがあります。
親権には、財産管理権(狭い意味での「親権」)と監護権の2つの性質があり、多くのケースではこの2つを分けることはしませんが、中には離婚の際、親権と監護権をわけるケースがあります。たとえば、離婚の際にどちらの親も子どもと関わりを持ちたいと言って譲らないケースなどでは、親権と監護権を分けることが多いです。
このような方法をとると、未成年者の親権者(財産管理権者)は、未成年者と同居しないことになります。
すると、未成年者が何らかの法律行為をしようとしたとき、同居していない親権者の同意が必要になります。たとえば、未成年者が交通事故に遭って損害賠償請求のために示談交渉をしようとする場合や、弁護士に何らかの委任をしようとするときなどには、親権者の同意と署名押印が必要になります。
また、未成年者が遺産分割協議に参加する場合にも、親権者の同意が必要です。
未成年者の預貯金などの財産は、親権者が管理することになります。
未成年者が勝手に何らかの契約をしてしまい、急いで取消をしたい場合にも、法定代理人に手続きしてもらわなければなりません。
このように、未成年者が普段の生活において財産の管理や処分を必要とするとき、すべて法定代理人である親権者の同意が必要になるので、未成年者と同居していない親が親権者になると、大変面倒な事態になるケースがあります。
ふだんから未成年者と親権者が面会交流などをして接触していたら、スムーズにいろいろな手続きをすることができますが、そうでない場合には、いちいち署名押印をもらいに行かなければならなかったり、相手がすんなり手続きに協力してくれなかったりすることもあるので、未成年者が不利益を受けるおそれもあります。
離婚の際に親権者と監護権者を分ける場合には、このようなリスクがあることも踏まえて慎重に決定しましょう。
子どもが未成年の間に請求できる権利未成年の子どもがいる場合に夫婦が離婚するケースでは、子どもの親権者を決めなければなりません。未成年者の行為能力は、上記のように法律によって大きく制限されていますが、離婚後、子どもが未成年の間にのみ請求できる権利があります。
それは、養育費の請求権と面会交流の請求権です。
養育費とは、子どもの監護権者が同居していない親に対して請求できる、子どもの養育のための費用のことです。養育費の金額は、請求する親とされる親のそれぞれの資力によって決められます。請求する親の収入が高ければ養育費の金額は低くなりますし、請求される親の収入が高ければ、養育費の金額は高くなります。
養育費は、子どもが未成年の間にはいつでも請求することができますし、未成年の間なら、双方の収入状況が変わったときに、妥当な金額に決め直すことができます。子どもが成人してしまったら、原則的に養育費は請求出来なくなります。養育費の金額が当事者同士で決められない場合には、家庭裁判所で養育費調停をすることによって決定できますが、子どもが成人すると、やはり養育費調停はできなくなります。
面会交流権とは、子どもが未成年の場合、子どもと同居していない親が子どもと面会する権利のことです。離婚後、子どもの親権者(監護権者)にならなかった方の親は、子どもが未成年の間は、子どもと面会することが権利として認められます。面会交流の方法については、親同士が話し合って決定しますが、話し合いができない場合には、家庭裁判所で面会交流調停をすることによって決めてもらうことができます。
この面会交流調停も、子どもが成人すると利用できなくなります。子どもが成人した後は、面会の方法などについては、子どもと親が自分で話し合って決めれば良いという考えにもとづきます。
このように、離婚後の子どもと親の関係については、子どもが未成年かどうかによって大きく取り扱いが異なるので、覚えておきましょう。
婚姻による成年擬制未成年者は、原則的には単独で法律行為をすることはできず、常に法定代理人の同意が必要になります。しかし、このことには例外があります。それは、未成年者が婚姻したケースです。未成年者は、男性なら18歳以上、女性なら16歳以上になると、婚姻することができます。婚姻自体には親(法定代理人)の同意が必要ですが、いったん婚姻をすると、未成年者であっても成年と同じように単独で法律行為ができるようになるのです。
このことを、成年擬制と言います。よって、婚姻している未成年者が契約をした場合、未成年だという理由だけでそれを取り消すことはできません。これは、未成年者であっても結婚をしたのなら、社会において一人前として取り扱うべきであるという考えに基づきます。
ただし、未成年者が婚姻によってできるようになるのは、一般的な法律行為であり、個別の法律によって禁じられているものを利用出来るようになることはありません。たとえば、未成年者が婚姻したからと言って飲酒しても良いということにはなりませんし、タバコを吸っても良いということにもなりません。
選挙権や被選挙権についても、婚姻によって与えられることはなく、該当する年齢にならないと与えられないので、注意が必要です。
また、未成年が離婚した場合にはどのような扱いになるのかも問題になりますが、いったん未成年者が婚姻して成年擬制された場合、その後に離婚をしても成年擬制の効果はなくなりません。よって、未成年者が結婚をして、未成年のうちに離婚したとしても、その未成年者は単独で契約などをすることができることになります。
少し複雑ですが、未成年者でも婚姻するケースはあるので、覚えておきましょう。
未成年者が犯罪を犯した場合、その取り扱いは成人のケースと大きく異なります。
成人が犯罪を犯した場合には、警察に逮捕されて検察官に送致され、取り調べを受けた後、起訴か不起訴かが決定します。起訴されたら刑事裁判にかけられて、検察官によって追及を受け、裁判官によって有罪か無罪か及び、有罪の場合の刑罰を判決によって決定されます。一般的な刑事手続きのイメージはこちらの手続きです。
しかし、未成年者の場合には、まったく手続きが異なります。未成年者の場合、14歳以下ならそもそも刑事手続きの対象にならないので、逮捕や勾留をされることはなく、児童相談所に一時保護される程度で済みます。
これに対し、14歳以上の未成年者が犯罪を犯した場合、まず警察に逮捕されて取り調べを受けるところまでは成人と同じですが、いったん検察官に送致されたら、その後の手続きは成人と異なります。未成年者の場合には、事件は家庭裁判所に送られて、少年(未成年者)は少年鑑別所に送られます。未成年者は、ここで家庭裁判所の調査官による調査を受けたり、鑑別所での調査を受けたりした上で、家庭裁判所の審判を受けることになります。
審判には検察官は関与せず、少年と裁判官の1対1のやり取りになります。
少年が十分反省していて、社会内でも更生していけると判断されたら保護観察処分となって解放されますが、更生が難しいと判断された場合、少年院に送られます。少年院では、規律正しい暮らしをして、更生するためのプログラムに従って生活をします。
成人の場合のように、刑務所に入れられたり懲役刑が科されたりすることはありません。
ただし、少年であっても、殺人や強盗などの重罪を犯した場合には、検察官に送致されて、成人と同様の刑事手続きにかかり、同じ刑罰を受ける可能性が高いので、少年だからといって何をしても刑罰がないと思ってはいけません。
以上のように、未成年者の場合、法律上いろいろと取り扱いが異なるので、これを機にしっかり理解しておきましょう。
参考コンテンツ:
成年後見制度についての質問があります。
成年後見をやめたい!
成年後見人と債務の保証人を兼務できますか?
今回は、身近な家族や親子にまつわる法律問題について解説しました。
家族や親子にまつわる問題は意外とたくさんあるものです。普段意識しない戸籍の問題、養子縁組の方法や効果、親子や兄弟との縁を切りたいケース、成年後見制度を利用したいケースなど、いろいろな問題があります。未成年者の場合に、成年者の場合と取り扱いが異なることは知られていますが、具体的にどのような違いがあるのかを知っておくことは重要です。
近年では、児童虐待や高齢者虐待も社会問題になっているので、注意する必要があります。
今回の記事を参考にして、親子や家族にまつわる問題を正確に理解して、生活に生かしましょう。
親子・家庭を得意としている弁護士
森岡 かおり 弁護士 東京都
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子が親の介護費、医療費、入居費など諸経費を立て替えた場合、将来的に相続の際にお金を返してもらえるのでしょうか?