児童虐待

家庭での児童虐待は社会問題。子どもを守る法制度の現状は?
児童虐待のニュースは毎日のように報じられています。報道されないケースも含めると、相当数に上ることでしょう。社会全体で虐待の防止に取り組む必要があるとはいっても、家庭という密室で行われている虐待行為は、第三者の目には見えにくい場合もあります。児童の虐待防止のための法制度はどのようになっているのでしょうか。
児童虐待にあたる行為児童虐待とは、保護者(親または親にかわる養育者)が、子どもの心や身体を傷つけ、子どもの健やかな発育や発達に悪い影響を与えることを指します。法律上は、次の4つに分類されています(児童虐待の防止等に関する法律2条)。
(1)身体的虐待児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する等がこれに当たります。
(2)性的虐待児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする等がこれに当たります。
(3)ネグレクト児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による虐待の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない等の行為です。
(4)心理的虐待児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な反応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス)等の行為です。
虐待の発生防止や早期に発見・対応するための取り組み虐待の発見と通告がカギとなる
虐待を受けた児童の救済のためには、虐待を早期に発見することが肝要です。平成12年に施行された「児童虐待の防止等に関する法律」は、虐待を受けている児童を早期に発見し、安全な場所(児童相談所)などに一時保護し、虐待を行った保護者に対する指導を行うことを目的としています。
もともと日本には、子どもの福祉を守る法律として児童福祉法があり、この中には子どもの虐待に関して、通告の義務、立ち入り調査、一時保護、虐待を受けた子どもを施設に入所させるための家庭裁判所への申し立てなどが定められていましたが、あまり活用されていませんでした。そこで、児童虐待の予防・救済を充実させるために制定されたのが、「児童虐待の防止等に関する法律」です。
同法は、児童福祉法の下で形骸化していた通告制度について詳細な規定を設けています。まず、学校の教職員、医師、その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待の早期発見に努めなければならないという責務を明らかにしました(同法5条)。また、児童虐待を発見した者は速やかに児童福祉法に定める児童相談所などに通告しなければならない義務があることを明確にしました(同法6条)。通告は、児童相談所(児童相談所共通ダイヤル189)や市町村の担当窓口、福祉事務所で受け付けています。
虐待のサインを見逃さない
虐待は家庭という閉鎖的な空間で行われるため、第三者が直接虐待行為を目にする場合はあまり多くないと思われます。しかし、通告は、直接虐待をしているところを目撃していない場合でもできます。
例えば、あざや切り傷がある、衣服がいつも汚れている、食事を与えられていない様子だ、夜間戸外に放置されている、姿は見えないがいつも泣き声がする、子どもが中にいるはずなのに保護者が長時間帰宅した様子がない等、様子がおかしいと感じた場合は、迷わず通告をしましょう。
間違った通告をしても罰せられない
勘違いだったらどうしようとか、プライバシーへの配慮から、通告をためらう人もいるかもしれませんが、通告をした人の秘密は守られます。また、通告が間違いだったとしても、罰則はありません。通告をすることが刑法の秘密漏示罪や、職務上の守秘義務違反に該当しうる場合でも、通告義務が優先されます(同法6条3項)。
虐待に至ってしまう前に
子育てにストレスや悩みはつきものです。自分や配偶者が子どもを虐待しそうだと悩んでいる親もいることでしょうし、そういう危うい状態の家庭を気にかけている地域の人もいることでしょう。児童相談所では、現に児童虐待に至っていなくても、その可能性がある段階でも相談を受け付けています。一人で悩まずに、まずは相談をしてみましょう。
虐待を受けた子どもの治療や精神的なケアは?通告を受けた市町村や児童相談所は、速やかに子どもと面会、安全確認を行います(同法8条)。保護者への出頭要請(同法8条の2)、立入調査(同法9条)、臨検・捜索(同法9条の3)などを行う場合もあります。
その結果、子どもが危機的な状況にあると判断された場合には、児童福祉法によって児童相談所が一時保護し、その後、児童福祉施設に入所したり、里親に委託されたりします。
入所する児童福祉施設には、児童養護施設、乳児院、児童自立支援施設、情緒障害児短期治療施設、母子生活支援施設などがあり、その子どもの年齢や状況などによって決められます。子どもたちは各施設や里親宅など安心して生活できる場所で受け入れられ、傷ついた心と体を治すために必要な治療や支援を受けつつ、安全が守られた生活を送ります。
家庭状況や親子の状況が好転し、家庭でも子どもが安心して暮らせる状況が整ったと児童相談所が判断した時には、支援を受けながら家庭に戻り、再度一緒に暮らす事もできることがあります。
虐待をした親・保護者に対する処遇刑事責任
子どもに身体的暴力を加えて死なせてしまったり、傷害を負わせてしまったりした場合は、殺人罪(刑法199条)、傷害致死罪(刑法205条)、傷害罪(刑法204条)などが成立します。また、性的虐待の場合、強姦罪(刑法177条)や強制わいせつ罪(刑法176条)などが成立します。ネグレクトにより子どもが死亡したり傷害を負ったりした場合は、保護責任者遺棄致死傷罪(刑法219条)が成立します。
民事責任
虐待行為により被った身体的損害、精神的損害、財産的損害について、子どもは親に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます(民法709条、710条)。
親権喪失・親権停止・管理権喪失
親は子どもの親権者ですが、子どもを虐待するような親に養育されることにより、かえって子どもの利益が害されるおそれがあります。そこで、親権者に親権または管理権を行使させることが不適切であり、子の利益を害しているときは、子やその親族等は、家庭裁判所に親権喪失の審判(民法834条)、親権停止の審判(民法834条の2第1項)、管理権喪失の審判(民法835条)を申立てることができます。
児童虐待を行った保護者に対する指導
虐待を行った保護者は、児童福祉士などの指導を受けなければなりません(児童虐待防止法11条)。親が虐待をしなくなり、普通の親子関係に戻って生活ができるならば、それに越したことはありません。
児童虐待は、その子どもの心身の成長を妨げるだけでなく、虐待を受けて育った子がさらにその子を虐待してしまうという世代間の連鎖を生むといわれています。今現在起こっている虐待だけでなく、将来の虐待の芽を摘むために、子どもが身近にいる人もそうでない人も、子どもの虐待防止を心にとめておくことが大切
参考コンテンツ:
こんな行為も児童虐待にあたる!?
児童虐待を発見したら通報する義務はある?
これって児童虐待?「しつけ」と「虐待」の境界を誤らないための注意点とは
児童虐待を得意としている弁護士
トップへ
兄弟間の過剰な暴力でDVは認められるのでしょうか?