未成年

親の責任や義務、承認がついて回る。未成年者への制限と庇護
未成年者が1人でスマートフォンの契約を申し込むと、店側から親の同意が必要だと言われます。この他にも、未成年者が何かを買い、申し込むたびに、親は書類に同意の署名をします。このように未成年者が1人で契約できないのは、契約などの法的な権利行使に制限があるためです。未成年者は満18歳で選挙権が認められるようになりましたが、普段の生活に関わる契約などの制限に変わりはありません。未成年が法的にどんな制限を受け、親がどう関与するのかについてはっきり知る機会は少ないと思いますので、今回はこうした点を詳しく解説したいと思います。
日本における「未成年者」とはまず、法律上「未成年者」とは誰を指すのか、詳しく見ていきましょう。
未成年者とは
「未成年者」とは、満20歳に達しない者をいいます。
人は生まれれば様々な権利義務の主体となります。誰かと契約を締結したり、取引をするような民法上の権利も、「出生」つまり生まれることで持つことができます(民法第3条)。
ただ、未成年者は幼く未熟なため、物事を正しく判断する能力がどうしても劣ります。狡猾な大人に騙されて重要な契約をしたり、財産を失う恐れもあります。こうした被害から未成年者を保護するためには、契約などの大事な行為に大人が関与して適切かどうかを判断する必要があります。
そこで民法では「年齢20歳をもって、成年とする」(第4条)と定められ、未成年者は原則として契約などの法律行為を単独で行えない「制限行為能力者」とされています。
親は未成年の子どもの親権者であり、法定代理人として法律行為を行うなど、様々な義務を負います。
もし未成年者が親を亡くしたときは、家庭裁判所が選任した未成年後見人が、親の代わりに法定代理人となります。
成年擬制について
未成年者でも、例外的に成人したとみなされる場合があります。
これは成年擬制と呼ばれます。未成年者が婚姻をすると成年とみなされ、親の同意なしに法律行為等が可能となります(民法第753条)。
婚姻した未成年者が親から独立して結婚生活が送れなければ、子の親権を行使したり、家を借りる契約等に親の同意が必要になるので、大変不都合です。そこで、例外的に成人と同様の権利行使が認められているのです。
ただし、飲酒や喫煙のように年齢によって禁じられている行為は、成年擬制が生じても禁止されたままで、何も影響はありません。
もし未成年が離婚したらどうなるのだろうと、疑問に思われるかもしれません。
明文の定めはありませんが、婚姻中にした契約の相手の権利や、生まれた子の親権を不安定にしないために、離婚後も成年擬制の状態は続くと考えられています。
未成年の子が婚姻することで、親は親権者として果たす義務がなくなります。
未成年者ができることとできないことでは、未成年者は具体的にどんなことができ、どんなことができないのでしょうか。詳しく見てみましょう。
未成年者は有効な契約ができない
例えばマンションの賃貸借契約のように、未成年者は各種の契約をすることは可能です。ただ、親の代理や同意がない状態では、有効な契約ができません。また、契約などでトラブルとなっても、民事裁判で争うことが1人ではできないので、親が未成年を代理して行います。
もし未成年者が親の同意を得ずに契約したときは、どうすればよいでしょうか。
親などの法定代理人、そして未成年者本人には、取消権が認められています。契約内容が未成年にとって不利なときは、契約を取り消した上で、受け取った物や代金等を元に戻して、原状回復をします。
ただし、未成年者が成人と詐称していたときは取消が認められないので、注意が必要です。
一方、契約を認めても差し支えないときは、「追認」を行って後から有効と認めることができます。追認は法定代理人が行いますが、未成年者が成年になったときに自分で行うことも可能です。
未成年者が単独でできること
未成年者の保護に支障がない行為は、例外的に単独で有効に行うことが認められます。主なものは次のとおりです。
- 単に権利を得たり義務を免れる行為
例)債務の免除を受ける、負担のない贈与を受けること - 処分を許された範囲で財産を処分すること
例)学費として渡された金銭を支払う、小遣いで商品を買う - 営業を許可され、その営業に関して法律行為をすること
例)会社を設立し、商品の仕入れを行うことなど
また、身分関係では次の行為が可能です。
これらの行為は単独でできる代わりに、未成年者を理由とした取消ができません。とくに身分関係は大事な決定を下すので、親は本人の意思に全てを任せるのではなく、適切なアドバイスを与えることも必要でしょう。
未成年者が罪を犯したときの扱いについて刑事事件では、未成年には少年法が適用され、成人とは違う取り扱いを受けることはよく知られているとおりです。そして親の果たす役割は、契約などとは違ったものとなります。
少年法とは
刑法では、未成年者のうち14歳に満たない者を「刑事未成年」として、刑事罰に問わないと定めています(刑法第41条)。しかし14歳以上の未成年者も発育の途中であり、成長するに従って犯罪傾向を矯正できる可能性も高いと考えられます。
そこで少年法では、満20歳以下の未成年者を「少年」として扱い、家庭裁判所が保護や更生、教育のために、特別な措置を採ることなどを定めています。少年法は罪を犯した少年だけでなく、次のような分類の少年が起こした事件に適用されます。
犯罪少年 14歳以上20歳未満で罪を犯した少年
触法少年 14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年
ぐ犯少年 将来罪を犯したり、刑罰法令に触れる行為をする虞れがある少年
非行少年 犯罪少年・触法少年・ぐ犯少年の総称で家庭裁判所が審判対象とする
どんな扱いを受けるのか
犯罪少年や14歳以上のぐ犯少年は、犯罪や非行の事件が警察や検察から家庭裁判所に送らます。家庭裁判所が事件の内容や家庭環境などを詳しく調査し、審判によって保護観察、少年院送致、児童自立支援施設等への送致(18歳未満の児童のみ)の処分(保護処分)や、検察官送致の処分などを決定します。再度の非行のおそれがないときは、処分を行わない(不処分)、審判自体を行わない(審判不開始)など、柔軟な解決も行われます。
触法少年や14歳未満のぐ犯少年は、警察の調査などののち、起こした事件が児童相談所に通告されます。その判断により、指導措置、児童自立支援施設等への入所、家庭裁判所に送られて審判を受ける、などの処遇を受けます。
犯罪少年の検察官送致
重大事件を起こした犯罪少年は、検察官送致という取り扱いをされることがあります。
検察官送致とは、犯罪少年が死刑、懲役刑などに当たる重大な罪を犯し、成人と同じ刑事裁判よる処罰が相応しいときに、家庭裁判所が事件を検察官に送ることをいいます。検察官は通常の裁判所に起訴をし、少年は成人と同じ手続で刑事裁判を受け、処罰を受けます。
ただし、18歳未満の少年には最高刑の死刑が科されないなど、刑が一定の範囲で緩和されています。
刑事事件で親が果たす役割とは
未成年者が刑事事件に関わってしまうと、親は契約等のときとは違い、処分や処罰自体に深く関わることはできませんが、様々な手助けをすることは可能です。
家庭裁判所からは、事件の内容のほか、家庭環境や交友関係なども詳しく調査され、親が指導を受けることもあります。未成年者が再び非行に走らないように家庭で監督できるかも、処分に大きく影響します。未成年者のために環境を整え、被害者と示談を行うなどして、処分が緩和されるように努めることも必要でしょう。
また、未成年者が突然警察に逮捕されたり、家庭裁判所に呼び出されれば、本人だけではなく、親も不安を抱えて満足な対応ができないでしょう。もしも事件に身に覚えのないときは、事実を争うことも必要です。こうしたときは、弁護士を「付添人」に選任して、警察の対応や家庭裁判所の処分に付き添ってもらうことができます。できる限り早めに相談をして、対応が必要でしょう。
未成年の子がいる親の責任について未成年者は判断能力が未熟なために、親の目が届かない所で思わぬトラブルを起こしがちです。親は、自分自身の行為ではなくても、未成年の行為に対して責任を負うことがあります。
親が負う責任とは
成人が他人に損害を与えたときは、不法行為を行ったとして民事上の損害賠償責任を負います(民法709条)。未成年者はどうかというと、損害賠償責任にも一定の制限があります。
未成年者は、民事上の責任能力をもたなければ損害賠償責任を負いません(民法第713条)。この責任能力は、おおむね12歳程度で持つと考えられています。
しかし、親は親権者として、日頃から未成年者が危険な行為をしないように注意し監督する義務があります。そこで被害者が損害を受けたときは、親が監督義務を果たさなかったとして賠償責任を負うと定められています(監督義務者の責任、同714条)。
また、たとえ12歳で責任能力が認められても、未成年者は通常、被害者に賠償できるだけの資力を持ちません。そこで責任能力があるときでも、監督義務を果たさなかった親自身にも過失があると認められ、損害賠償責任を負うと考えられています。
親はどこまで責任を負うのか
親が子の行為に責任を負うとしても、どこまで負うことになるでしょうか。
親は監督義務を果たしていれば賠償を免れます。しかしこれまでの裁判例では、監督責任が広く認められがちでした。未成年者の行為の程度にかかわらず親が多額の賠償を負い、責任を免れるのは非常に難しいと考えられてきました。
しかし、2015年に最高裁は、サッカーボールを道路に蹴り出して交通事故を招いた子の親に対する賠償請求を認めませんでした。判決では、親が日頃からしつけをしており、責任能力のない子が通常は人に危険のない行為をしてたまたま他人に損害を与えたような場合には、親の監督責任は否定されると判断しました。親の監督責任を安易に認めるのではなく、監督がどこまで可能か、子がどんな危険な行為をしたかなどの、親が負う責任の有無を具体的に判断する姿勢を示したものです。
この判決によって、子の些細な行為が親に多額の賠償責任を負わせるという、大変酷とも思える事態が今後は減る可能性もあります。ただ、どうしても未成年の子は不注意な行為をしがちです。親は対人賠償保険に加入するなどして、もしもの時の備えておく方が賢明でしょう。
未成年者の法的な権利や責任には一定の制限がありますが、その制限を補うために親が果たす役割は非常に多く、広い範囲にわたります。時には被害者への賠償責任を替わって負わねばならない時もあります。
ことに、契約に関わるトラブルや刑事事件に遭遇したときは、少しでも早く親が動き、解決に努めることが何よりも大切です。親の法的役割を把握しておき、トラブルに役立つ保険への加入や、いざという時に法律問題を相談できる窓口を事前に把握しておくなどの、様々な備えをしておくことで、早急な解決も可能になるでしょう。
参考コンテンツ:
未成年者でも親の承諾がなく働ける?
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