サンプル付きで分かりやすい!遺言書(自筆証書遺言)の書き方・流れ
[投稿日] 2018年06月19日 [最終更新日] 2018年06月20日
遺言書の書き方を得意としている弁護士
高木 篤夫 弁護士 東京都
ひかり総合法律事務所妻が終活を始めるそうなんです。私も触発されて、そろそろ遺言書でも書こうと思っているんです。
ご夫婦で考えていかれるのはいいことですね。もう書き始めていますか?
いえ、それがペンは持ったものの、どう書いたらいいのかさっぱりわからず…。
それでしたら先に書き方を知っておきましょう!
遺言書を自筆する場合は、かなり厳しい要件があるんです。サンプルもご紹介するので、活用してください。
目次 |
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遺言書は、遺産の配分や自分の考えを紙に書けばいいんですよね。
そうといえばそうですが、種類もありますし、ルールを守らなければ無効になってしまうので気をつけてください。
1-1 遺言が法的な効力を持つためには条件がある
遺言とは、死後に一定の効果が発生することを目的とした「遺言者の最終の意思表示」です。
遺言が記載された書面を遺言書と言います。
遺言をすることで、遺言者は死後においても自分の私生活を自己決定できます。
ただし、遺言が遺言者の真意であったかどうかを死後に判断するのは難しく、遺言の内容が家族らに影響を与えることも少なくありません。
そのため法律では内容を明確にするため、かつ死後の紛争を予防するため、遺言をすることができる事項を限定しています。
相続人はその事項であれば法的に拘束されます。
ただし、法律で定められた事項以外のことを遺言したとしても、遺言自体が完全に無効となるわけではありません。
あくまで相続人が法的に拘束されないというだけなので、故人の遺志を尊重するかどうかは残された人たちの判断に委ねられます。
また「財産はすべて妻に相続させる。その後妻が死んだら娘に相続させる」という内容もよく見かけられます。
ですが妻が死んだ場合の相続にまで遺言者が関与することはできず、法的な効力もありません。
さらに、自筆証書遺言には厳格な方式要件があります。
要件を欠いた場合、遺言書は無効となるため注意してください。
第2章で詳しく説明します。
1-2 遺言の種類
遺言には、例外的な場合の遺言を除き、普通方式として以下の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
今回は、このうち「自筆証書遺言」について説明していきますが、それぞれ簡単に説明しておきます。
■自筆証書遺言遺言者が遺言書の本文、日付、氏名を自筆し、押印して作成する方式の遺言です。
■公正証書遺言遺言者が遺言内容を公証人に伝え、公証人がその内容を筆記し、公正証書として作成する方式の遺言です。
■秘密証書遺言内容を秘密にした上で作成・封印した遺言書を、公証人らにその存在を明かして作成する遺言です。
第2章 自筆証書遺言書作成時の注意点自分で書く自筆証書遺言が一番手軽そうですね。
確かに手軽ではありますが、その分ルールが厳しくなっています。
注意点を説明しますので、しっかりと頭に入れておいてください。
2-1 すべて自筆で書く
自筆証書遺言の場合、全文を遺言者が自分で書かなければなりません。
遺言書は偽造や変造のおそれがあり、遺言者の真意をめぐっての争いとなることも多いです。
そのため、法律により自筆が定められており、厳格に適用されます。
ワープロやパソコンで作成したものは自書ではないため、認められません。
■カーボン紙はOKカーボン紙を使って作成したものは、筆跡鑑定によって真筆かどうか判定できるため、偽造のおそれは少なく、自書として認められます。
■添え手は本人の意思のみかどうかでは高齢者が遺言書を作成する際に、手が震えるため他人に添え手をしてもらい書いた場合はどうでしょうか。
この場合、まずは遺言者に自書能力があることが必要です。
そして添え手は遺言者の手を紙の正しい位置に導いただけ・筆記を支えただけで、添え手をした人の意思が介入した形跡がないと筆跡で判定できる場合は、自書とされます。
2-2 署名・押印する
自筆証書遺言には、必ず署名と押印が必要です。
■署名氏名は遺言者が誰であるかを特定するための手段です。
遺言者を特定できるのであれば、戸籍上の氏名でなくても構いません。
通称やペンネーム、氏だけ、名前だけの記載でも大丈夫です。
押印は実印のほか、三文判でも大丈夫です。
ただし劣化が早いスタンプやシャチハタは避け、朱肉を使用しましょう。
押印ではなくて指印でもかまいません。
ただし花押については、平成28年の最高裁判決で「花押を書く慣行がなく、印章による押印と同視できない」として、押印に代えて花押のある遺言書を無効としました。
遺言では、花押を印鑑替わりに使うのはやめましょう。
用紙には署名のみで、用紙を入れた封筒の封じ目に押印した場合でも、押印の要件は満たされます。
封印することで、封筒が遺言書の一部とみなされるのです。
つまり、封印がされていない封筒に押印がある場合には、封筒は遺言書の一部ではないため、押印がないものとみなされますので注意してください。
2-3 日付は明確に書く
遺言書が複数ある場合には、最後に作成した遺言が有効となります。
どれが最新のものであるかを判断するためにも、日付は重要です。
日付は、年月日を客観的に特定できるように記載する必要があります。
例えば「平成○年元旦」、「平成○年○月末日」、「自分の70歳の誕生日」、「自分の定年退職日」といった記載は有効です。
一方で「平成○年○月吉日」「平成○年○月晴天日」では特定できないため、無効となります。
日付は通常、遺言内容を記載した用紙に記載されます。
ただし用紙に記載がなくても、遺言書とそれを入れた封筒とが物理的に一体となっている場合は、封筒に日付が記載されていれば有効とされます。
2-4 共同遺言は無効
同一の遺言書に2人以上の人が遺言をする共同遺言は、禁止されています。
ただし、一つの書面に複数の遺言者の氏名や遺言内容があれば、共同遺言として一律に無効となるわけではありません。
複数の遺言者の意思表示があり、どれが誰の遺言が分からない形式で記載されている場合に共同遺言として無効となります。
ただ無効となるかどうかの判断は簡単ではありません。
最終的には裁判による判断となりかねないため、遺言者は別々に遺言をしましょう。
子どもが2人いるのですが仲が悪く、私が遺言をすることで逆に争いにならないか心配です。
相続はとても争いになりやすいですからね。遺言が逆に争いを引き起こすことのないよう、内容はしっかりと練り、明確に書く必要があります。
3-1 すべての財産について書く
相続人同士の争いを予防し、かつ自分の希望をきちんと反映させるためには、すべての財産について誰に相続させるのか、明確に記載することが大切です。
例えば「公平に分ける」などという記載だと、現金はともかく、不動産や動産の取得を巡って争いが起きかねません。
そのような事態を避けるためには、すべての財産について、誰に相続させるのかを明確に記載しておく必要があります。
財産の中には細かい動産なども入りますが、「その他の動産など一切の財産は、○○に相続させる」とすることで、全財産について遺言をしたことにすることもできます。
3-2 遺留分の侵害をしない
遺留分とは、一定の相続人に保証された最低限の相続分です。
相続人同士の争いの種を作らないためには、この遺留分に注意をすることも必要です。
遺留分を侵害された相続人は、侵害分を求める遺留分減殺請求をすることができます。
ただし、これもまた紛争の種となることがあります。
争いを避けるため、遺言では相続人の遺留分を侵害しないように注意しましょう。
遺留分について、詳しくはこちらをご覧ください。
3-3 あいまいな表現は使わない
遺言であいまいな表現をすると問題になることがあります。
実際に、以下のようなトラブルがありました。
被相続人とその妻には子どもがおらず、兄の子どもAを嫡出子として届け出て、40年間養育してきました。
そして、被相続人には弟もいました。
妻が死亡した後、被相続人は以下のように遺言をしました。
「自分の財産のうち、不動産は兄に譲り、その余の財産は法的に定められた相続人に譲る。」
この遺言にある「相続人」は、通常であれば子どもAですが、戸籍上はともかく実際は甥なので、弟のことを指すのではないか、と争いとなりました。
このケースでは最終的には子どもAとされました。
ですが遺言で「相続人」というあいまいな表現ではなく、「子どもA」と明確に記載しておけば、そもそも争いは防ぐことができたはずです。
また「譲る」という表現も、「遺贈」か「相続」か、どちらの趣旨か不明確でした。
その他、あいまいな表現としては、同じ銀行に複数の口座があるにも関わらず、「○○銀行の預金」と記載した場合も考えられます。
どの口座か判断できるように、預金種別や口座番号を明記しましょう。
遺言書では、誰が見ても一つの意味にしか解釈できない文言を使うことが大事です。
様々な解釈ができる文言は使用しないようにしましょう。
自筆証書遺言を書いてみようと思います。どういう流れで書いていけばいいですか?
全ての内容を明確に書くためには、まずは準備が大事です。準備ができたら、実際に書く段階に入っていきましょう。
①資産の資料収集
遺言は、どの財産を誰に相続させるかを明確にし、相続人同士のもめ事を防止することも目的の一つです。
そのためにはまず、自分にどのような財産があるのかを把握する必要があります。
次のような資料を集めておきましょう。
実際に遺言を作成する際にも、財産を特定するための資料として役立ちます。
遺言書には氏名、生年月日、本籍地を記載することがあります。
漢字や住所などを間違えることなく正確に記載をするために「戸籍謄本」を入手しておきましょう。
■不動産不動産を特定するためには、「登記情報」や「不動産登記簿謄本」を入手しましょう。
遺言書にはそこに記載されているとおりに書きます。
また近隣相場などから、おおよその時価を把握しておくのもよいでしょう。
■預貯金「通帳」やそのコピーを保管しておきましょう。
遺言書には銀行名、支店名、預金種別、口座番号を正確に記載します。
証券会社から定期的に送られてくる「取引経過報告書」を参考にします。
記載されているとおりに遺言書に記載します。
生命保険は遺産とはなりませんが、受取人を遺言で変更することはできます。
その場合は保険会社名、保険の種類、証券番号、契約者名、被保険者名、受取人名で財産を特定し、遺言書に記載します。
■動産宝石や美術品などの動産に「鑑定書」がある場合はそれを使います。
鑑定書の発行者、発行年月日、発行番号、対象品名が記載されていますので、遺言書に記しましょう。
自動車は「車検証」で特定します。
■債務「金銭消費貸借契約書」に印字されている債権者名、契約日、借入金、借入残高などを遺言書に記載します。
ただし債務は遺言で特定の相続人に相続させたとしても、債権者に対する関係では、法定相続分に応じて各相続人が債務を相続することになります。
注意してください。
②書くべきことを整理
資産の資料が揃ったら、誰にどの財産を相続させるのかを考えましょう。
箇条書きでもかまいませんので、まず書くべき内容を整理するとよいでしょう。
③実際に書く
遺言書に書く内容が決まったら、実際に書いていきます。
必要なものは以下の通りです。
用紙については、決まりはありません。
どのようなサイズでも、縦書きでも横書きでもかまいません。
一般的には公文書と同じ、A4横書きが使われることが多いです。
酸性紙は劣化が早いため、中性紙がおすすめです。
また破れにくく傷みにくい厚手の紙として、和紙が重宝されています。
「遺言用紙」として市販されている用紙もあります。
自筆証書遺言は自書が要求されているため、筆記具が不可欠です。
改ざんされるなど、争いの元とならないよう、鉛筆や消せるボールペンはやめましょう。
通常は万年筆、ボールペン、毛筆が使用されます。
■印鑑印鑑に決まりはありませんが、シャチハタは避けましょう。
市販の三文判でもかまいませんが、遺言書が改ざんされることを完全に防ぐことはできません。
一般的には、実印または銀行印が使用されることが多いです。
■封筒遺言書は、必ずしも封筒に入れなければならないわけではありません。
ですが遺言書の保存状態を良くするために、封筒に入れることをおすすめします。
なお、封筒にも決まりはありませんが、厚手のものがよいでしょう。
遺言という遺言者の最終の意思表示を示した大事な書面であるため、奉書封筒や専用の桐箱が使用されることもよくあります。
封筒の表面には「遺言書」、裏面には「日付、氏名、押印」をするのが一般的です。
④封印する
遺言書を入れた封筒には、封印が必要と思われがちです。
しかし実際には必須ではありません。
ただし封印をすることで、容易に中を見られず、改ざんや入れ替えを防止することができます。
その一方、封印をすることで、家庭裁判所で検認を受けるまで相続人は遺言書の内容を確認することができなくなります。
早々に相続手続きを進めていきたい相続人にはデメリットとなります。
封印をしない場合には、銀行の貸金庫や弁護士など、適切な保管方法を考えましょう。
⑤保管する
できあがった遺言書の保管は、遺言執行者や弁護士などに依頼しましょう。
自宅の金庫や銀行の貸金庫も活用できます。
ただし厳重に保管しすぎると、せっかくの遺言書が相続人に発見されないということもあるため、注意してください。
遺言書を作成したことを家族などに報告するかどうかは、悩みどころです。
家族に報告しておくと、遺言書が発見されないリスクを減らすことができます。
一方で、執拗に遺言内容を問い詰められたり、書き直しを迫られたりするおそれがあります。
報告するかどうかは、よく考えて決めましょう。
第5章 遺言書に書くべきことテレビドラマなどでは、遺産の配分以外に遺言者の思いが書かれていることがありますよね。あれは書いても大丈夫なのですか?
書いても問題はありませんよ。ですが遺言として効力が発生するものは決まっているので、守ってもらえるとは限りません。
5-1 遺言事項の限定
遺言できる事項は、それぞれ法律で以下のように定められています。
■民法- 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
- 相続人の廃除や廃除の取消
- 相続分の指定や指定委託
- 特別受益持戻しの免除
- 遺産分割方法の指定や指定委託
- 遺産分割の禁止
- 相続人相互間の担保責任の分担
- 遺贈
- 遺言執行者の指定や指定委託
- 遺贈の減殺割合の指定
- 死後認知
- 祭祀財産承継者の指定
- 一般財団法人の設立
- 一般財団法人への財産の拠出
- 生命保険及び傷害疾病定額保険についての受取人の変更
5-2 付言事項
遺言書には「私の死後には兄弟仲良く暮らしなさい」「○○家の家訓を守って暮らしなさい」などと記載されることがあります。
また、自分の葬式や法要の方法も書かれることが多いです。
これらは、付言事項といわれます。
しかし、前項にない(法律で定められていない)内容なので、法的な拘束力はありません。
かといって、誰かに害を及ぼすものではないため、遺言が無効となることはありません。
第6章 自筆証書遺言の作成例いざ書こうと思ってペンを持ったのですが、全く手が進みません。やはり見本がないと書きづらいです…。
そうですよね。慣れている人はあまりいないと思います。
サンプルを用意しましたので、参考にしてください。
6-1 よくある遺言のサンプル
遺言書
遺言者○山太郎は、次のとおり遺言する。
第1 遺言者は、妻○山花子(昭和○年○月○日生)に次の財産を相続させる。
1 土地
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番
地目 宅地
地積 ○・○平方メートル
2 建物
所在 千〇〇市○○町○丁目○番地
家屋番号 ○番○号
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ造2階建
床面積 1階 ○○・○○平方メートル
2階 ○○・○○平方メートル
3 本遺言に記載のない遺言者の有するいっさいの財産
第2 遺言者は、長男○山一郎(平成○年○月○日生)に次の財産を相続させる。
1 ○○銀行○○支店に対して有する遺言者名義の普通預金債権(口座番号××××)
2 ○○証券株式会社○○支店の遺言者名義の保管口座(口座番号×××)の○○株式会社発行の株式全部
第3 遺言者は、長女×木春子(平成○年○月○日生)に次の財産を相続させる。
1 ○○銀行○○支店に対して有する遺言者名義の定期預金債権(口座番号××××)
第4 遺言者は、祭祀承継者を長男○山一郎と指定する。
第5 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士△川栄一(昭和○年○月○日生・○○県○○市○○町○丁目○番○号在住)を指定する。
第6 遺言者は、本遺言の遺言執行者に対し、次の権限を授与する。
1 不動産、預貯金、株式その他の相続財産の目儀変更、解約及び払い戻し
2 貸金庫の開扉、解約、内容物の取り出し
3 本遺言の執行に必要な場合に代理人及び補助人を選任すること
4 その他、本遺言を執行するために必要な一切の処分を行うこと
付言事項
妻花子の老後の生活について、長男と長女は仲良く共同して面倒を見てください。私の財産は、この遺言書作成時点の評価額にしたがって、できるだけ法定相続分となるように分けていますので、この遺言にしたがって分配してください。
平成○年○月○日
○○県○○市○○町○丁目○番○号
遺言者 ○山 太郎 印
6-2 遺言内容別の文章例
■相続分を指定する場合法定相続分と異なる相続分を指定する場合の例文です。
遺言者の財産については、妻○○(昭和○年○月○日生)に5分の2、長男○○(平成○年○月○日生)に5分の2、二男○○(平成○年○月○日生)に5分の1の割合で相続させる。
特定の財産を特定の相続人に相続させると、相続分の指定とみなされる場合もあります。
その例文も見てみましょう。
遺言者は、別紙遺産目録記載の不動産を、妻○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
遺言者は、別紙遺産目録記載の普通預金債権を長男○○(平成○年○月○日生)に相続させる。
遺言者は、別紙遺産目録記載の現金を二男○○(平成○年○月○日生)に相続させる。
相続分について、詳しくはこちらをご覧ください。
■特別受益の持ち戻しを免除する遺言者から受けていた生前贈与や遺贈は、特別受益と呼ばれます。
相続では、相続分の算定の際に特別受益を考慮しますが、それを行わないようにする「持ち戻しの免除」も可能です。
遺言者が生前に長男○○(平成○年○月○日生)に贈与した住宅購入資金は、共同相続人の相続分の指定にあたっては持ち戻しを免除する。
一般的には遺言の付言事項で、免除の理由も記載します。
付言事項
遺言者は長男○○に住宅購入資金を援助しましたが、長男は私の事業を献身的に手助けしましたので、その苦労を考慮して生前贈与を持ち戻さないこととしました。
特別受益について、詳しくはこちらをご覧ください。
■祭祀の承継者を指定する系譜、位牌などの祭具、墳墓といった祭祀財産は相続の対象とはなりません。
ですがそれを引き継ぐ祭祀承継者を指定することはできます。
以下のような文面が考えられます。
遺言者は、祭祀承継者を長男○○(平成○年○月○日生)と指定する。
相続人がいても、特定の相続財産を第三者に遺贈することはできます。
相続人や特別縁故者がいない場合、相続財産は国庫に帰属します。
ただし、お世話になった方に財産を譲りたいという場合には、遺贈することができます。
相続人がいない場合、遺言執行者も指定しておきます。
以下のように記載しましょう。
遺言者は、財産のいっさいを、遺言者を献身的に看護してくれた御礼として、次の者に遺贈する。
受遺者の表示:○○(平成○年○月○日生・○○県○○市○○町○丁目○番○号在住)」
遺贈について、詳しくはこちらをご覧ください。
■負担付きの遺贈をする遺言者に高齢の配偶者がいる場合、残された配偶者の面倒をみてもらう代わりに、その相続人に多めに相続させることがあります。
その場合は、以下のように記載します。
遺言者は、財産のいっさいを長男○○(平成○年○月○日生)に相続させる。ただし、長男○○は、この財産を相続することの負担として、遺言者の妻であり長男○○の母である○○(昭和○年○月○日生)が死亡するまで、同人と同居し扶養するものとする。
自分に暴力をふるうなどした相続人に対しては、財産を残したくないと考える人もいるでしょう。
その場合は相続人の廃除をすることで、その人の遺留分もなくすことができます。
ただし廃除には家庭裁判所の許可が必要です。
遺言で相続人の廃除をする場合には、代わりに家庭裁判所への申し立てを行う遺言執行者を指定しておきましょう。
相続人排除の文例は以下の通りです。
遺言者の長男○○(平成○年○月○日生)は、遺言者に対して日常的に暴力をふるい、また遺言者を侮辱する言動を繰り返したので、遺言者は長男○○を廃除する。
廃除について、詳しくはこちらをご覧ください。
■子を認知する様々な事情から生前に婚外子を認知していなかった場合、その子にも相続させるため、遺言で認知をすることがあります。
なお、子の認知には家庭裁判所への申し立てが必要です。
手続きのため、遺言執行者を指定しておきましょう。
子の認知は以下のように記載します。
次の者は、遺言者と○○(昭和○年○月○日生)との間の子供であるため、遺言者はこれを認知する。
氏名 ×× 住所 ○○県… 本籍 ○○県… 戸籍筆頭者○○
子の認知について、詳しくはこちらをご覧ください。
■未成年後見人を指定する既に配偶者が死亡していて、未成年の子どもがいる場合、遺言者が亡くなると親権者がいなくなってしまいます。
そこで、信頼できる人を未成年後見人に指定することがあります。
その場合の文例は以下の通りです。
遺言者は、未成年者である長男○○(平成○年○月○日生)の未成年後見人として次の者を指定する。
氏名×× 住所 東京都… 職業 弁護士 生年月日 平成○年○月○日生
相続人の中に高齢者や未成年者がいる場合、その生活保障のため、資産の維持管理を信託に委ねることがあります。
信託を設定する場合は、次のように記載します。
遺言者は、遺言者の妻○○(平成○年○月○日生)の生活資金として次のとおり信託する。信託財産には受託者に対する定期預金債権(額面○○万円)を充てる。
1信託の目的:貸付信託
2受託者:○○信託銀行株式会社(○○支店扱い)
3信託期間:受託者が信託を引き受けた日から○年間
4受益者:遺言者の妻○○
5信託終了の場合の権利帰属者:受益者。受益者が死亡している場合はその相続人
6その他:受託者の信託契約に従う
7信託財産:金○○万円
予備的遺言とは、遺言者よりも先に相続人が死亡してしまう場合に備えた遺言です。
例えば、全財産を妻に相続させると遺言をしても、妻が遺言者よりも先に死亡してしまうことがあります。
遺言を書きなおす時間的余裕がないこともあるため、こういった事態に備えて、事前に予備的遺言をしておくと安心です。
以下のような文章が考えられます。
遺言者は、財産のいっさいを妻○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。妻○○が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、遺言者の財産を長男○○(平成○年○月○日生)に相続させる。
6-3 その他のケース別文章例
■借金を弁済させたい借金も相続の対象であり、相続人は法定相続分にしたがって債務を相続します。
遺言者の中には、特定の相続人にプラスの財産を多く相続させる代わりに借金の返済もしてもらいたい、と考える人もいるでしょう。
その場合は次のように記載します(なお、債権者には対抗できません)。
遺言者は、遺産目録記載の不動産を長男○○(平成○年○月○日生)に相続させる。長男○○は、この不動産を相続することの負担として、同不動産に設定されている抵当権の被担保債権残額の債務を承継すること。
生前に様々な事情で生命保険の保険金受取人を変更できなかった場合、遺言で変更することができます。
この場合は遺言執行者を指定しておきましょう。
生命保険の受取人変更の文例は次のとおりです。
遺言者を保険契約者及び被保険者として、○○生命保険会社との間で、平成○年○月○日に締結した生命保険契約(保険証券番号××)の受取人は妻○○(昭和○年○月○日生)とされているところ、これを長男○○(平成○年○月○日生)に変更する。」
オーナー経営者が全株式や事業用資産を保有している場合、相続の発生でそれらが法定相続分に応じて細分化され、経営に悪影響がでることは心配でしょう。
その場合は、特定の相続人に事業承継をさせる遺言を考えます。
文例は以下の通りです。
1 遺言者は、その有する○○株式会社の普通株式全株を、遺言者の長男○○(平成○年○月○日生)に相続させる。
2 遺言者はその有する遺産目録○番記載の土地及び同○番の工場である建物を長男○○に相続させる。
この場合、付言事項として以下のような記載をすることもあります。
長年私の補佐をして、○○会社の維持・発展に尽力してくれた長男○○が事業を承継してくれることを希望します。
日本の法律では、ペットに財産を残すことはできません。
そこで、信頼できる相続人などにペットの世話をしてもらう代わりに、多くの遺産を渡すという負担付き遺贈をすることがあります。
その場合は、以下のように記載します。
1 遺言者は、遺言者の長男○○(平成○年○月○日生)に、愛猫タマと○○銀行○○支店の遺言者名義の普通預金(口座番号○○)から金100万円を、次に定める負担付きで遺贈する。
2 受遺者○○は、前項のタマを飼育し、愛情をもって世話をすること。
世話になった慈善団体に財産を寄付したい、と考える人も多いでしょう。
その場合は遺贈となります。
遺言執行者を指定しておきましょう。
遺贈の文例は以下のようになります。
遺言者は、遺産目録○番記載の預金を社会福祉法人○○に遺贈する。
この場合、付言事項として以下のような記載をすることもあります。
付言事項 私は、社会福祉法人○○の活動が社会的に有意義であるために、同法人の今後のますますの発展のために私の財産の一部を同法人に遺贈することとしました。
とりあえず遺言書を書いてみたのですが、今見ると色々間違いが見つかりまして…。
訂正できますか?
はい、できますよ!
全部を書き直すのは大変ですので、少しの書き直しは加除訂正にしましょう。
7-1 加除訂正方法
自筆証書遺言を作成した後に、読み返してみて誤字脱字を発見することもあるでしょう。
自筆証書遺言は厳格な方式が求められていて、方式が不備だと無効となります。
誤字脱字がある場合の加除訂正方法も、以下のように細かく定められています。
訂正したい箇所を二本線で消します。
その横に押印し(遺言書作成と同一の印鑑)、横に訂正した文字を書き込みます(書き込まないで消したままのこともあります)。
訂正した行の上に「この行○字削除、○字加入」と記載して署名をします。
■文末に訂正を付記する方法訂正したい箇所を二本線で消します。
その横に押印し(遺言書作成と同一の印鑑)、横に訂正した文字を書き込みます。
文末に「○行目○字削除、○字加入」と記載して署名します。
7-2 新しい遺言書作成
遺言書を作成した後に事情が変わり、遺言内容を訂正したい場合は新しい遺言書を作成することで修正できます。
ただしこれは訂正というよりも遺言の撤回です。
後段で詳しく説明します。
加除訂正もでき、やっと完成しました。さきほど封筒に入れて封印をした方がいいと言われましたが、封筒には何を書けばいいですか?
封筒は必ず必要というわけではありませんが、遺言書が書けたら、封筒の書き方も知っておいた方がいいですね。簡単にお伝えします。
8-1 表書き
封筒に遺言書を入れたら封筒の表に「遺言書」や「遺言書在中」と記載しましょう。
裏面には、年月日と遺言者の氏名を記載して押印します。
8-2 封印
封印することで、封筒も遺言書の一部とみなされます。
押印は封印した箇所にします。封印せずに押印してもよいでしょう。
8-3 注意書き
遺言書を入れた封筒のほか、別の紙に注意書きを残すこともできます。
注意書きは、以下のような内容が考えられます。
- 遺言者の生存中に勝手に開封しないこと
- 死後、相続人全員が立ち会ったとしても、家庭裁判所の検認手続があるため絶対に開封しないこと
- 遺言者の死後、この遺言書が発見された場合は速やかに、自分の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申し立てをすること
これらを書くことで、うっかり開けてしまうことなどを防げます。
この注意書きも自書が望ましいです。
また必ず日付も記載し、必ず署名・押印しましょう。
遺言書はできたのですが、年をとって保管場所を忘れたり、誰かに勝手に開封されたりしないか不安です。
作成の苦労も、せっかくの意思表示も、見てもらえなければ意味がないですからね。しっかり保管して守りましょう!
自筆証書遺言は、相続人などに隠されたり改ざんされたりするおそれがあります。
そのため保管には十分な注意が必要です。
とはいえ、それをおそれて、まったく人目につかない方法で厳重に保管してしまうと、死後に遺言書が見つけてもらえないおそれがあります。
遺言書があることを知らなければ、相続人が遺産分割協議を経て遺産を分割してしまうかもしれません。
その場合その後に遺言書が発見されても、遺産分割協議が優先され、せっかくの遺言が活かされない可能性があります。
そこでおすすめしたい保管方法は、以下の二つです。
- 親交のある弁護士に保管してもらう
- 取引銀行の貸金庫で保管する
弁護士に保管してもらう場合は、「自分に万が一のことがあったらその弁護士に連絡するように」と家族に伝えておきましょう。
貸金庫に保管する場合は、取引のある銀行であれば、遺言者の死亡を伝えれば貸金庫の存在を教えてくれるはずです。
そのため、遺言書が発見されないということはほとんどなくなります。
遺言書の訂正は教えていただきましたが、取り消すこともできるのですか?
はい、大丈夫です。
一度書いたら絶対ではありません。撤回したり更新したりすることは、遺言者の自由です。
遺言者は、いつでも自由に遺言を撤回することができます。
前の遺言と異なる内容の遺言書を作成すれば、前の遺言は効力を失い、撤回したことになります。
撤回する場合は、新しい遺言もきちんと方式に従う必要があります。
新しい遺言は、前の遺言が自筆証書遺言だからと言って、自筆証書遺言でなければならないというわけではありません。
他の方式の遺言書でも大丈夫です。
ただしA遺言を作成し、その遺言を撤回するB遺言を作成し、さらにB遺言を撤回したとしても、A遺言が復活することはありません。
この場合、遺言はない状態となりますので注意してください。
もしA遺言どおりの遺言としたい場合には、新たに同じ内容の遺言を作る必要があります。
新しい遺言書を作成すると前の遺言は効力を失いますが、相続人が混乱しないようにするため、前の遺言は破棄しておきましょう。
第11章 遺言の作成で弁護士が手伝えること遺言の書き方は分かったものの、自分の遺言の内容で家族がもめないか、そもそも無効にならないか心配です。
そうですね、手軽だからこそしっかりと内容を考え、形式を守ることが大切です。弁護士に相談して一緒に考えていきましょう。
自筆証書遺言の作成にあたって、弁護士が手伝えることは次のとおりです。
■内容のアドバイス遺言書は、遺産をめぐって相続人同士で争わないようにするために作成されることが多くあります。
ですが相続人の遺留分に配慮しなかったために争いとなってしまうなど、逆にトラブルを引き起こしてしまうことがあります。
また、相続人による遺産分割協議を避けるために作成する場合も、すべての財産について誰に相続させるかを明記しなければ、結局分割協議が必要となってしまいます。
そういった事態を避けるために、まずは弁護士に相談しましょう。
弁護士は遺言書を代筆することはできませんが、遺言内容について適切にアドバイスをしてくれます。
自筆証書遺言は、厳格な方式要件が定められています。
少しでも方式に不備があれば無効となるため、せっかくの遺言者の最終意思も反映されなくなってしまいます。
弁護士であれば、遺言書の方式に精通しています。
遺言者が間違えやすいところも熟知しているため、方式不備で無効となる可能性はほとんどなくなります。
遺言内容を実現するためには、手続きなどをしなければならないことがあります。
こういった行為は、遺言者に代わって遺言執行者が行うことになります。
遺言執行者は遺言者の死後に相続人が決めることもできますが、遺言で指定しておくと相続人の負担を減らすことができます。
弁護士は遺言執行にも精通しているため、作成を手伝った弁護士を遺言執行者とすると、スムーズに進行するでしょう。
高齢の遺言者が自筆証書遺言を作成した場合、「高齢で正常な判断ができない状態だった」「自書かどうか疑わしい」などと、相続人同士で争いとなることがよくあります。
この場合も弁護士に依頼して作成を手伝ってもらえれば、「物事の判別がつく状況だった」「自分の面前で自書した」などと証言してくれ、争いを終結させてくれます。
■適切な保管自筆証書遺言は保管方法も問題となります。
相続人が発見しにくくては困りますし、分かりやすい場所に保管して隠匿・変造されては大変です。
弁護士に依頼すれば、代わりに適切に保管してくれます。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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