遺言の種類(自筆証書遺言・公正証書遺言)

自分に合う方式を選ぼう!遺言書の種類とそれぞれの違いについて
自分の死後、相続人達の間で相続トラブルが起こらないようにするためには、遺言書を作成しておく方法が効果的です。
遺言書の作成方法には普通方式遺言と特別方式遺言があり、普通方式遺言の中にも自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言という種類があります。
そこで遺言を残す際には、これらのうち、どの方式を利用すれば良いかが問題になります。
今回は、自分に合った遺言方式を選ぶために、遺言書の種類やそれぞれの違いについて解説します。
遺言とは、生前に自分の意思を明らかにすることによって、死後にその内容を実現するためのものです。
遺言を残すと、誰にどの遺産を譲り渡すかを自分で決めることができますし、法定相続人以外の人にも財産を残すことができます。たとえば、内縁の妻には相続権がありませんが、遺言を残せば内縁の妻に現在住んでいる家を残すこともできます。
遺言には、普通方式遺言と特別方式遺言の2種類があります。
普通方式遺言とは、通常のケースで利用される遺言で、原則的な遺言の方法です。
これに対して、特別方式遺言とは、死が緊急に迫っている場合などにする遺言で、普通方式遺言をする余裕がない場合に利用できます。
たとえば、病気などによって死亡しそうな場合に遺言を残す場合の死亡危急者遺言や、船が遭難した場合などに船の中にいる人が、死亡の危機が迫っている状態でできる船舶遭難者遺言があります。
伝染病によって隔離された人や船の中にいる人が利用できる遠隔地遺言も特別方式遺言の一種です。
遺言には普通方式遺言と特別方式遺言がありますが、通常利用されるのは普通方式遺言です。
中でも頻繁に利用されるのが、自筆証書遺言と公正証書遺言なので、以下ではこの2つの遺言方式について解説します。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自筆で記載する方式の遺言です。自筆証書遺言は厳格な要式がありますので、要式から外れると、無効になってしまいます。
自筆証書遺言の場合、本文も含めて全文を自筆する必要がありますので、パソコンなどで文書作成することはできません。遺産目録などを添付する際には、遺産目録も自筆で作成する必要があります。
また、自筆証書遺言を作成する場合、必ず日付を正確に入れる必要があります。
たとえば、「平成〇〇年〇月吉日」などと記載すると、日付が特定されていないとして無効になってしまうおそれがあるので、必ず「〇〇年〇月〇日」と日付まで特定しましょう。自筆で記載する必要があるので、ゴム印などを利用してはいけません。
自筆証書遺言を残す際には、書き間違えたり内容を足したい場合などの加除訂正の方法にも注意が必要です。
法律によって加除訂正方法が定められていて、間違うと無効になってしまうので、間違ってしまったら書き直した方が良いでしょう。
なお、訂正する場合には、訂正する部分を二重線で消して、正しい内容をその横に書き、訂正箇所に署名の際に使用した印鑑で押印して、遺言書の余白に「本行○字加入○字削除」などと書き入れて署名押印する必要があります。
自筆証書遺言がある場合、これを発見した相続人は家庭裁判所で検認という手続きをとる必要があります。
公正証書遺言とは
次に、公正証書遺言をご紹介します。公正証書遺言とは、遺言を公正証書の形で残すことです。
公正証書とは、公証人が作成する公文書なので、自筆証書遺言よりも信用性が高く、相続トラブルをより避けやすくなります。
自筆証書遺言が出てきた場合、それが有効か無効かが争いになることが多いですが、公正証書遺言なら、無効になる余地が少ないので、争いが起こることが少なくなります。
また、自筆証書遺言の場合、それが本当に被相続人が真意にもとづいて作成したものかなどが問題になることも多いですが、公正証書遺言の場合には、公証人がきちんと身分確認をした上で遺言書を作成しているので、そのような問題も起こりにくいです。
いったん公正証書遺言を作成したら、その原本が公証役場で保管されるので変造などの心配もありません。
また、公正証書遺言では検認手続きも不要なので、相続人らにとっての手間も省けます。
このように、公正証書遺言を利用すると様様なメリットがあります。
ただし、公正証書遺言を作成する場合には、遺産の内容によって費用がかかってきます。
普通方式遺言の一方式として、秘密証書遺言があります。
秘密証書遺言とは、遺言内容を自分で作成して封入し、その存在についてのみ公証役場で証明してもらう方式の遺言のことです。
遺言内容をどうしても秘密にしたい場合に利用することができます。
また、遺言書の存在を公証人に認証してもらえるので、相続人の間で、「遺言書が本物かどうか」という争いが起きにくくなります。
秘密証書遺言を作成する場合、遺言書の内容自体は自分で文書作成します。このとき、パソコンで文書作成してもかまいませんし、代筆してもらってもかまいません。
このとき、全文自筆で記載していて自筆証書遺言の要件を満たしていれば、たとえ秘密証書遺言としては効力が認められないケースであっても、自筆証書遺言としての効力を認められることになります。
遺言書の文面ができたら、遺言書を封入して、遺言書に署名押印した時に使ったものと同じ印鑑で押印します。
遺言書ができあがったら、その遺言書を公証役場に持っていって、証人2人と公証人の前に遺言書が入った封筒を提出します。すると、公証人が遺言書の入った封筒に、その遺言書が遺言者の遺言書であることや、認証日付を書き入れてくれます。
このようにして秘密証書遺言ができあがったら、遺言書自体は遺言者が自分で保管します。
秘密証書遺言では、公証人によって「存在」を証明してもらえるだけで、「内容」までの確認をしてもらうわけではないので、遺言の要件が欠けていたら無効になってしまうおそれがあります。また、秘密証書遺言が残されている場合、それを発見した相続人は家庭裁判所に申し立てて検認手続きをする必要があります。
秘密証書遺言は、手続きが面倒な割にメリットが少ないので、あまり利用されていません。
この遺言方式を利用するケースは、「内容をどうしても秘密にしたい場合」に限るべきだと言えます。
遺言を残す方法にはいろいろありますが、この中でどの遺言方式を選べば良いのか、迷ってしまうことがあるでしょう。
この場合、自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかを利用する事をおすすめします。
特別方式遺言は死亡の危機に瀕した場合しか利用できませんし、秘密証書遺言は手間がかかって無効になるリスクもあるのに、メリットがさほど大きくないからです。
自筆証書遺言は、手軽で簡単にできますし、費用もかかないというメリットがあります。しかし、要式を満たしていないと無効になりますし、後々相続人間で「被相続人の真意にもとづくものか」ということが問題になることもあります。
これに対して、公正証書遺言を作成する場合には、公証役場に行って手続きをしなければなりませんし、戸籍謄本などの書類や費用も必要になります。
ただし、その分信用性は高く、無効になる可能性はほとんどありません。偽造や変造のおそれもほとんどないので、相続が起こった場合の相続トラブルの防止にはかなり役立ちます。
これらのことを総合的に評価すると、遺言を残すなら公正証書遺言を利用することをおすすめします。
自分で公証役場に行くことができない場合には、病院や自宅などに公証人に来てもらうことも可能ですので、検討してみると良いでしょう。
今回は、遺言書の種類とそれぞれの特徴について解説しました。遺言を残すと、自分の死後の相続トラブルを避けることに役立ちますが、遺言にはいくつかの種類があります。
死亡の危機に瀕している場合に利用する特別方式遺言と通常のケースで利用する普通方式遺言があり、普通方式遺言の中にも自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
中でもよく利用されるのが自筆証書遺言と公正証書遺言です。公正証書遺言を利用すると相続トラブルを避けやすくなるので、できれば費用をかけても作成しておくと良いでしょう。
遺言の種類(自筆証書遺言・公正証書遺言)を得意としている弁護士
山口 寛 弁護士 東京都
日本橋神田法律事務所松本 匡史 弁護士 北海道
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先の民法改正での遺言作成の具体的変更点に関してご教唆賜りたく存じます