遺留分さえも渡したくない相続人がいる場合の対処法は?
[投稿日] 2021年02月03日 [最終更新日] 2021年02月03日
遺留分を得意としている弁護士
関根 翔 弁護士 東京都
池袋副都心法律事務所山口 達也 弁護士 兵庫県
みなと元町法律事務所疎遠な相続人・素行が悪い相続人などに対して、被相続人の財産を全く相続させたくないというのは、心情的には理解できます。
しかし、民法上は「遺留分」という権利が認められているため、なかなか全く財産を相続させないのは難しいケースが多いところです。
遺留分は強力な権利なので、権利行使を阻止することは容易ではありませんが、生前に実行できる対策もいくつかありますので、弁護士に相談しながら何らかの方法を検討することをお勧めいたします。
この記事では、遺留分を渡したくない相続人がいる場合において、相続開始後または生前の段階で考えられる対策について解説します。
1. 遺留分侵害額請求を拒否することはできる?遺言書によって偏った相続分の指定が行われた場合、不利な取り扱いを受けた相続人は、他の相続人に対して遺留分侵害額請求を行い、金銭の支払いを請求することができます(民法1046条1項)。
財産を相続させたくない相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合、請求を拒否する方法はあるのでしょうか。
1-1. 消滅時効が完成していれば拒否できる適正な遺留分額についての遺留分侵害額請求を法的に拒否できるのは、消滅時効が完成している場合のみです。
遺留分侵害額請求権は、以下のいずれか早い方を知った時から1年間行使しないときは、事項によって消滅します(民法1048条)。
・相続の開始
・遺留分を侵害する贈与または遺贈があったこと
また、相続開始時から10年を経過したときも、同様に遺留分侵害額請求は時効消滅します。
遺留分侵害額請求を受けた場合、まずは上記の時効期間が経過していないかを確認しましょう。
もし消滅時効が完成しているのであれば、時効の完成を援用することによって、遺留分侵害額請求を拒否することができます(民法145条)。
逆に言えば、消滅時効が未だ完成していない場合には、適正額の遺留分侵害額請求を法的に拒否することはできません。
遺留分は法律上の権利なので、正当な根拠がある場合には、最終的に訴訟によって強制的に権利が実現されてしまいます。
そのため、適法に遺留分侵害額請求を受けた場合には、弁護士に相談して金額を計算したうえで、その金額の範囲では早めに支払ってしまうことをお勧めいたします。
被相続人の生前に遺留分対策を施しておくと、相続開始時に特定の相続人による遺留分侵害額請求を思いとどまらせたり、遺留分額自体を減らしたりできる可能性があります。
以下では、被相続人の生前に実行することが考えられる遺留分対策の内容を解説します。
2-1. 遺言書中の付言事項で被相続人の思いを記しておく遺言書では、財産を誰が相続するかなどの権利義務に関する事項に限らず、遺言者が書きたいことを自由に記すことができます。
これを「付言事項」と呼びます。
遺言書の付言事項では、
・遺言書を作成した経緯
・財産の分け方に関する理由
・相続人(親族)への感謝の思い
などが記載されることが多いです。
仮に遺留分を侵害する内容の相続分を指定したとしても、付言事項によって相続人が納得できるような理由を記載しておけば、相続人としても「被相続人の意思を尊重しよう」という考えが働き、遺留分侵害額請求を思いとどまるかもしれません。
ただし、これはあくまでも相続人の感情に訴えかける方法に過ぎないので、構わず遺留分侵害額請求をしてくる相続人に対しては、その請求を拒否することはできない点に注意が必要です。
2-2. 生前対策によって遺留分額を減らす(リスクがあるので注意)特定の相続人の遺留分額を減らすために、被相続人の生前に実行できる対策もいくつか考えられます。
ただし、それぞれの方法にはリスクやデメリットもあるので、本当に実施すべきかどうかについては、弁護士と相談して慎重に検討しましょう。
2-2-1. 養子縁組をする
養子縁組をした場合、法的には、養子は正式に養親の「子」となります。
したがって、養子には新たに相続権が認められるため、反射的に既存の相続人の法定相続分・遺留分は減ります。
ただし、遺留分を渡したくない相続人以外の相続人の法定相続分・遺留分も等しく減ってしまう点に注意が必要です。
また、真に親子関係を形成する意思がない場合には、養子縁組自体が無効とされてしまうリスクもあります。
2-2-2. 生前贈与をする
生前贈与によって財産を相続人に移し、相続財産をあらかじめ減らしておくことにより、相続人の法定相続分・遺留分を減らす方法も考えられます。
ただし、法定相続人に対する生前贈与については、相続開始時点から10年間遡り、遺留分計算の基礎として相続財産に持ち戻されることに注意しなければなりません(民法1044条1項第1文、3項)。
そのため、生前贈与による遺留分対策を実効的に行うためには、まだ被相続人が元気なうちから、弁護士に相談して対策を実施することが大切です。
なお、生前贈与を受けた相続人が相続放棄をすると、遡及的に生前贈与が「法定相続人でない者」に対して行われたことになり、持ち戻しの期間が相続開始前「1年間」に短縮されます(民法939条、1044条1項第1文)。
しかし、遺留分権利者に損害を加えることを知って行った生前贈与については、相続開始よりも1年以上前のものについても、遺留分計算の基礎として持ち戻されてしまいます(1044条1項第2文)。
上記の点を考慮すると、特定の相続人の遺留分を減らすためだけに相続放棄をするのは、あとで持ち戻し回避の効力が否認されるリスクが大きいため、お勧めできません。
2-2-3. 生命保険に加入する
生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産と解されているため、相続財産に含まれません。
このことを利用して、生前から生命保険に加入し、財産を与えたい相続人を受取人に指定しておくことによって、結果的に各相続人の法定相続分・遺留分を減らすことができます。
ただし、生命保険金の額があまりにも高額の場合、保険金請求権の相当額が、特別受益に準じて持ち戻しの対象になってしまう可能性があるので注意が必要です(最高裁平成16年10月29日決定)。
3. 遺留分対策は弁護士に相談を特定の相続人に遺留分を渡したくないという希望を実現することは、法的にはなかなか容易ではありません。
しかし、状況によっては何らかの効果的な方法が考えられる場合もありますので、弁護士に相談して対処法を検討することをお勧めいたします。
すでに解説したとおり、生前の遺留分対策としてはさまざまな方法が考えられますのが、それぞれ相応のリスクがあることに十分注意しなければなりません。
弁護士に相談すれば、各方法のリスクを踏まえたうえで、ご家族の状況に合わせて実施可能な遺留分対策があるかどうか、法的な観点から適切なアドバイスを受けられます。
3-2. 遺留分侵害額請求を受けた場合のサポート相続開始後、実際に他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合には、任意に支払うか、拒絶して訴訟手続きを視野に入れるかの選択を迫られます。
弁護士は、消滅時効が完成しているかどうか・適正な遺留分額はいくらかなどについて法的な検討を行い、請求を受けた側としてとるべき対処法についてのアドバイスを行います。
相手の請求が妥当なものであるかどうかを判断するには、弁護士のアドバイスが大いに役立つでしょう。
遺留分問題でお悩みの方は、お早めに弁護士にご相談ください。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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