結婚や住居を制限する遺言は有効?

User image 1 Legalus編集部さん 2014年01月13日

 先日亡くなった父の母宛の遺言に、『(1)生涯再婚しないこと。(2)やむをえない事情がない限り、長男が大学を卒業して実家に戻るまで先祖代々の家に住み続けること。大学を卒業した長男が実家に帰ることを拒否した場合は好きにして良い。以上の2つの条件のいずれかに違反した場合、その時点で遺産はすべて子供達に引渡すこと』という文言がありました。このように、母の結婚や住居を制限する条件付遺言は有効なのでしょうか?

(20代:女性)

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Legalus編集部

     本件の遺言は「(1)と(2)の条件が成就した場合には相続させない」というものです。このような遺言を『解除条件付遺言』と言いますが、民法は『停止条件付遺言』〔=「ある条件が成就したら遺産を相続させる」という内容の遺言〕を有効とする(985条2項)のに対し、これについては規定を欠いています。そこで、このような『解除条件付遺言』が有効なのかが問題となりますが、遺言は被相続人の最後の意思表示〔単独行為〕を内容とする法律行為ですので、民法の規定(131条)に従い、これに解除条件を付けることも当然に可能だと考えられています。

     もっとも、公序良俗に反する事項を目的とする法律行為は無効ですから(民法90条)、その目的が公序良俗に反する遺言も無効になります。では、本件遺言の目的は公序良俗に反しないのでしょうか?
      本件遺言は、(1)再婚した場合と(2)特定の家に一定期間住み続けることを拒否した場合に、あなたの母親に対し、相続した遺産をすべて子供達に引渡すことを要求しています。つまり、この遺言の目的は、あなたの母親の「婚姻の自由」(憲法24条)および「居住・移転の自由」を制限することにあると言えます。したがって、憲法上保障された基本的人権を不当に制限することは公序良俗に反しますので、このような要求が「不当」だとすれば、本件遺言は無効になります。しかし、たとえ基本的人権に対する制限であっても、それを自らが処分することに問題はありません〔ただし、生命・身体の自由については議論があります〕。したがって、本人がそれを受け入れるのであれば、「婚姻の自由」「居住・移転の自由」を制限されたとしても「不当」とは言えません。制限を嫌うのであれば、相続財産を諦めれば良いわけです。しかし、ここで新たに問題となるのは、母親の「相続権」についてです。相続権が法律上保障された権利なのであれば、これに対する不当な制限も公序良俗に反するからです。では、母親の「相続権」は法律上保障された権利なのでしょうか?
      亡父の配偶者である母親は常に相続人〔=相続を受けることができる地位〕となりますので(890条)、亡夫の遺産に対し、母親は「相続権」を有しています。しかし、「相続権」とはいっても、その内実は「相続財産を受けることについての事実上の期待権」にすぎません。わが民法は「遺言制度」を採用して故人の最後の意思を尊重することとしたわけですから、遺産相続については相続人よりも被相続人の意思が尊重されるべきだからです。したがって、「相続権」は法律上保障された権利であるとまでは言えません。もっとも、兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」という相続財産に対する持分的利益が保障されています(1028条)。しかし、これは相続権の一部として扱われるものではなく〔つまり、相続と同時に遺留分割合の遺産が相続人のものとなるわけではない〕、遺留分減殺請求権を行使することによってはじめて遺産の一部を取得できるものです(1031条)。したがって、本件遺言が母親の遺留分〔相続財産の1/4〕を直ちに侵害するものとは言えず、母が遺留分減殺請求権を行使してはじめて遺留分侵害が問題となるにすぎません。
      以上から、本件遺言は有効であると考えられますので、仮に母親が遺言所定の条件を成就させてしまった場合、母親の得た相続財産のすべては改めて子供達の相続分として取り扱われることになります。ただし、その場合であっても、母親は遺留分減殺請求権を行使することによって遺産の1/4を取得することができます。

     なお、所有者であっても時効取得することはできますので(大判S9.5.28)、たとえ遺言所定の条件が成就した場合であっても、母が時効取得によって遺産の所有権を取得する可能性があります。つまり、相続開始により、母親は「平穏に、かつ、公然と」相続財産について自主占有〔=所有の意思をもってする占有〕を開始します。そこで、遺言所定条件の成就について、相続開始時に母親が善意・無過失であった場合には10年、悪意・有過失であった場合でも20年間占有を続けることにより、母は相続財産を時効取得によって原始取得することができます(162条)。その場合、もはや相続財産は母の所有財産として、相続財産に戻されることはありません。

2014年01月13日

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