名誉毀損

個人のつぶやきも「公然と」なるネット社会。名誉毀損に注意
インターネットを利用する場合、SNSやツイッター、掲示板などで何らかの書き込みをする機会が多いです。そのような場合、自分では何の気なしに書き込んだ内容が、他人の名誉を傷つけてしまうことがあります。その場合には、名誉毀損が成立して、損害賠償請求を受ける可能性があります。反対に、自分が名誉毀損の被害に遭うケースもあり、そのような場合にどのような対処方法をとるべきか、知っておく必要があります。そこで今回は、ネット上の名誉毀損への対処方法について解説します。
まずは名誉毀損についてのおさらいネット上で名誉毀損が成立する場合も、基本的にはそれ以外のケースで名誉毀損が成立する場合と同じです。そこで、まずは名誉毀損がどのようなもので、場合に成立するものなのか、おさらいをしておきましょう。
名誉毀損とは、公然と人の社会的評価を下げる事実を摘示して、人の名誉を傷つけることです。
「公然と」ということは、不特定または多数の人が認識することができる状況であることを意味します。ネット上の記事投稿の場合には、ネットを利用している人なら誰でも閲覧可能な状態になってしまうので、公然の要件は簡単に認められます。
また、「事実の摘示」である必要もあります。事実ではない単なる罵倒などの場合には、名誉毀損は成立しません。その場合、侮辱罪の成立が問題になります。
また、人の社会的評価を低下させる事実であることも必要です。事実を摘示しても、それによって社会的評価に影響しないような記述であれば、名誉毀損にはなりません。名誉毀損が成立する場合、その事実の摘示が真実かどうかは問題になりません。たとえ真実であったとしても、それが人の社会的評価を低下させるものである限り、名誉毀損が成立してしまいます。
ただし、その事実の摘示が公共の利害に関するものであり、公益を図る目的があって、かつ真実であると証明されるか、真実であると信じたことに相当な理由がある場合には、免責されます。たとえば、政治家や公人などを対象にした書き込みであり、公益目的があって、内容が真実である場合などには、名誉毀損は免責されることになります。
ネット上ではこんな行為も名誉毀損になるネット上では、安易な書き込みをすることによって自分が意識しないままに名誉毀損行為をしてしまうおそれが高いです。
そこで、以下ではネット上でどのようなケースで名誉毀損が成立するのか、具体例を確認しましょう。
たとえば、自分のブログやSNS、ツイッターなどで他人を誹謗中傷するような内容の記事を投稿すると、当然名誉毀損になります。このとき、記事の内容が真実であるかどうかは問題になりません。たとえば、「あいつは不倫している」とか「あいつは前科者だ」などと記載するだけで、名誉毀損になってしまうおそれもあるので、注意しましょう。
また、ネット上の掲示板などで、勝手に他人の名前をかたって「現在恋人募集中。電話待ってる」などメッセージを書き込んだり、わいせつな内容の文章を書いたりして、その人のメールアドレスなどの書き込みをしても、名誉毀損行為となります。
さらに、相手の実名を使わずに、ニックネームやイニシャルを使って書き込みをしたケースがあります。この場合、相手を特定していないから名誉毀損が成立しないと考える人もいますが、その記事の内容からして相手を特定できるようなケースでは、名誉毀損が成立します。このように、いわゆるイニシャルトークでも、名誉毀損となってしまうので、注意が必要です。
ネット上では、他者が名誉毀損的な書き込みをしていることがありますが、その記事を転載しただけでも名誉毀損が成立する可能性があります。
この問題については、名誉毀損の成立を肯定した東京高裁の裁判例があります。
具体的には、「Yahoo!掲示板」に書き込まれた誹謗中傷記事が「2ちゃんねる」に転載されていたケースが問題になりました。
裁判では、自分で記事を作成したのではなく「転載しただけ」の行為によって名誉毀損が成立するのかが争点になり、地裁判決ではこれを否定したのに対し、高裁では名誉毀損の成立を認めたのです。よって、今後は、この高裁の判断をもとに、転載しただけでも名誉毀損が成立するという扱いが定着していく可能性があります。
このように、自分で文章作成をせず、もともとある名誉毀損的な記載を転載しただけでも、名誉毀損が成立してしまうおそれがあるので、注意が必要です。
ネット上では、自分が名誉毀損的な書き込みをしてしまう場合だけではなく、自分が被害者になるおそれもあります。そこで、自分の悪口や名誉毀損的な書き込みがなされていたら、どのような対処をするべきか知っておく必要があります。
もしネット上で自分の悪口を描かれていたら、まずはその記事の削除をしてもらわないといけません。記事が残っている限り、その記事を閲覧する人がどんどん増えて被害が広がってしまいますし、記事内容が他サイトに転載されたりすると、さらに被害が大きくなってしまうからです。いったん記事を見られてしまうと、見られる前の状態に戻すことはできないので、なるべく早く記事削除をする必要性が高いのです。
ネット上に投稿された不当な内容の記事を削除してもらうためには、不法行為やプロバイダ責任制限法という法律にもとづいて、サイトの管理者に対して記事削除請求をすることができます。まずは、管理者に対して任意での削除請求をしますが、もし任意で削除請求に応じてもらえない場合には、裁判所に仮処分を申し立てて削除命令を出してもらうことができます。
また、記事を投稿した犯人に対して名誉毀損にもとづいて損害賠償請求をすることもできますし、刑事的にも名誉毀損が成立するので、刑事告訴をすることもできます。相手方の行為が悪質な場合には、警察が相手を逮捕してくれることがありますし、捜査の結果起訴が必要だと言うことになると、相手が刑事裁判にかけられて名誉毀損罪で有罪判決が下される可能性もあります。
名誉毀損行為を受けたら、このようにして、相手にペナルティを与えることができます。
自分に対する名誉毀損的な書き込みをされた場合には、書き込みをした犯人に対して名誉毀損にもとづいて損害賠償請求をしたり、刑事告訴をしたりすることができます。そのためには相手を特定する必要がありますが、ネット上の投稿は、匿名で行われることが多いので、なかなか相手を特定できないという問題があります。
そこで、ネット上の記事の投稿者を特定するための手続きがあります。
具体的には、プロバイダ責任制限法という法律を利用します。
プロバイダ責任制限法では、不当な記事投稿をされた被害者が、プロバイダに対して発信者の情報を開示することを要求する権利を認めています。
そこで、名誉毀損的な書き込みをされた場合には、サイト管理者に対して、発信者情報の開示請求をしましょう。任意で開示を受けられなければ、裁判所で仮処分を申し立てることによって開示を受けられます。
ここで開示されるのは、発信者のIPアドレスなので、これを利用して、相手のアクセスプロバイダを特定します。
相手のアクセスプロバイダがわかったら、今度はそのプロバイダに対して、発信者情報開示請求をします。この場合も、任意で開示を請求することができますが、任意での開示に応じてもらえないケースも多いです。その場合には、裁判所の訴訟手続きを利用して発信者情報開示命令を出してもらいます。
これらの手続きによって、最終的に、相手のアクセスプロバイダから、相手の氏名や住所、メールアドレスなどの情報開示を受けることができます。
今回は、ネット上で問題になりやすい名誉毀損の問題について解説しました。ネット上では、自分が他人の名誉毀損をしてしまうおそれもありますし、自分が名誉毀損を受ける可能性もあります。ネット上では、他者の記述を転載しただけでも名誉毀損になってしまうおそれがあるので、注意が必要です。また、ネット上で名誉毀損の被害を受けた場合には、記事の削除請求をしたり、犯人を特定して名誉毀損にもとづく損害賠償請求をしたり、刑事告訴をしたりすることができます。
ネット上の名誉毀損の問題に遭遇したら、今回の記事を参考にしていただけたら幸いです。
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