公務員に肖像権がないって本当?その根拠と実際
[投稿日] 2017年05月05日 [最終更新日] 2019年10月29日
肖像権を得意としている弁護士
谷澤 悠介 弁護士 大阪府
谷四いちむら法律事務所しばしば「公務員には肖像権はありません」ということを耳にしたり、そのような記事を見たりすることがあります。特に、公務を執行している警察官には肖像権がないという記事がかなり広まっています。
このように公務員に肖像権は本当にないのでしょうか?もしないとしたならば、その理由は何なのでしょうか。
これらの問題を、そもそも肖像権とは何かという観点も含めて考えていきたいと思います。
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弁護士を探す(無料)「肖像権と称するかどうかは別として」と断りを入れているものの、最高裁判所が初めて肖像権を認めた判例は、京都府学連デモ事件についての昭和44年12月24日判決です。この判決は、肖像権について「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」として、その権利根拠を憲法13条の趣旨に求めています。
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弁護士を探す(無料)ある人を、当人の承諾なくして写真撮影をしたとしても、必ず肖像権侵害行為、つまり民法709条の不法行為を成立させる違法行為となるわけではありません。
先の最高裁判決も「みだりに」との限定を付けています。この「みだりに」について、平成17年11月10日の最高裁判決は、「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」としています。
例えば、
・撮影された人が家の中にくつろいでいたのか?公道で歩いていたのか?等の撮影された側の事情
・撮影者が隠し撮りをしていたのか?撮影される側の承諾を得ていたのか?等の撮影した側の事情
などを総合的に考慮した上で、一般的な生活を送るうえで我慢できる限界を超えているかどうかによって判断されるということです。
上記の平成17年の最高裁判決の例は、状況としては
・殺人事件の被疑者として勾留されていた人物が
・刑事手続きのために裁判所に現れた際
・週刊誌の記者が
・手錠腰縄姿の被撮影者を
・裁判所職員に気づかれないように小型カメラで隠し撮りをした
というものです。
最高裁は、カメラ撮影されることが予想されていない刑事手続であったという撮影された側の事情や、小型カメラでの隠し撮りという撮影した側の事情を考慮して、当該撮影を違法なものとし、週刊誌の出版社に対して損害賠償の支払いを命じた高等裁判所の判決を是認したものです。
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弁護士を探す(無料)以上を踏まえて、肖像権は公務員にあるのでしょうか?ないのでしょうか?
結論からいえば、公務員にも肖像権はあります。ですから、「公務員に肖像権がない」とするのは誤りだといえるでしょう。
しかし、公務員については一般私人と異なった考慮を必要とする場合があります。その点から、肖像権が認められる範囲は一般私人よりもかなり限定されています。
その結果、「肖像権侵害となるための要件」を検討しても、公務員に対する肖像権侵害がないということが多いのです。そのため、公務員には肖像権がないという誤った情報が流れてしまったのではないでしょうか。
では、具体的にはどんな状況が考えられるでしょうか?
以下では、公務員の種類や遭遇する場面などに分類して、公務員の肖像権(肖像権侵害)を考えていきます。
国会議員が、夜の繁華街などの路上で異性とキスをしている写真を撮られてしまうことがあります。
これは公務とは無関係の、私人としての行為中ですから、肖像権侵害となるのではないかとの疑問があるかもしれません。
しかし、必ずしも肖像権侵害になるとは限りません。
なぜなら民主主義制度においては、民意によって選出された国会議員が、国会議員としてふさわしい者であるかどうかについて、常に国民の監視下にあるといっても、過言ではありません。国民には、国会議員を監視する権利と責務があるということです。
その意味では、被撮影者の社会的地位や撮影の目的、さらには撮影の必要性を考えると、撮影された国会議員の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものとはいえず、肖像権侵害とならないと考えられます。
このことは、地方議会議員でも同様でしょう。
次に警察官を撮影することも話題になっています。
例えば、職務質問を受けている際に、その警察官を撮影することは肖像権侵害となるのかという問題です。
職務質問を行っている警察官ですから、社会的地位と活動内容からすれば、受任限度内にあるといってよいでしょう。また、職務質問は通常は公道でなされますし、私道であっても開かれた場所でしょうから、撮影の場所に問題はなく、違法な職務質問の証拠保全とすれば撮影の目的は正当で、撮影の必要性もあります。
また、隠し撮りだとしても、悪質な態様での撮影とまでは言い切れないと思われます。
ということで、受忍限度内での撮影となり、肖像権侵害はないと考えられることが多いでしょう。
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弁護士を探す(無料)一般的にいって、公務遂行場面では、被撮影者の社会的地位、被撮影者の活動内容、撮影の目的から、受任限度内と判断されることが多いと思われます。
また、例えば、大臣が記者会見を開いている場合などは、そもそもその大臣による撮影に対する承諾があることもあります。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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