公正証書

公正証書
法律上、公正証書については、刑法157条に「公正証書原本等不実記載罪」という定めがあります。この条文の「公正証書」には、登記簿や戸籍簿、住民票などが含まれます(広い意味での公正証書)が、以下では、公証人が作成した文書(狭い意味での公正証書)のことを説明していきます。
ここで扱う公正証書とは、公証人が公証人法や特別法令の定めるところにしたがって、法律行為その他私権に関する事実について作成した文書のことをいいます。簡単にいえば、契約が成立したことやその内容、また一定の事実について、公証人が体験し、又は当事者から聞き取りをして、それに基づいて公証人が作成する文書です。
また、定期借地権契約などのように、そもそも契約書は公正証書にしなければならないと法律上定められている場合もあります。
公正証書の利用は、債務弁済契約書、金銭消費貸借契約書、遺言書の作成が多く、これらで全体の70パーセント以上を占めていると言われています。
公正証書のメリット強制執行=Aさんが、Bさんにお金を貸しているのですが、返済期日になっても弁済してくれません。Bさんには預貯金があるようなので、Aさんは、それに強制執行をして貸金を回収しようと考えています。
このような場合、AさんとBさんとの間で交わした単なる金銭消費貸借契約書があるだけでは、Aさんは、Bさんを被告として、貸金支払請求訴訟を提起して、それが確定した後に、その判決を債務名義として、執行文の付与を受けてやっと強制執行に着手することができます。しかし、「この裁判は負けるな」と思ったBさんが、裁判の間に、預貯金を解約して、これを隠してしまうこともあります。そうなると、強制執行の対象がなくなってしまい、Aさんは勝訴判決といういわば単なる紙切れを手にしただけで、当初の目的である貸金の回収をすることができなくなります。
しかし、契約書を「強制執行認諾文言」付の公正証書とすることで、Aさんは、裁判を経ることなく、その公正証書を債務名義として、これに執行文を付与してもらって、すぐに強制執行に着手することができ、貸金の回収をすることができるのです。ここでの注意点は、単に公正証書とするだけでなく、必ず「強制執行認諾文言」を付けることと、貸金のように金銭を目的とするものに限定されており、例えば、賃料不払いで貸家を明け渡してもらうといった強制執行には適用がないことです。
強い証拠力=先の例で、仮に強制執行認諾文言を付けない単なる公正証書にしたにすぎない場合のことを考えてみましょう。AさんとBさんとの間で、貸金をめぐって裁判になったのですが、Bさんが、「私はAさんに騙されて契約をしたのであって、そもそもお金などは借りていない」と主張したとしましょう。当然ながら、Aさんは、公正証書にしてある金銭消費貸借契約書を証拠として、確かにお金を貸したのであって、騙してもいないと主張することになります。
公正証書は、AさんとBさんの二人(又はそれぞれの代理人)が公証人の面前で、公証人から内容に相違がないかの確認をされて作成されます。つまり、AさんとBさんとの間で、適正かつ適法に契約が締結されたことを公証人が保証しているのが公正証書であって、裁判では有力な証拠価値が認められます。
紛失=先の例で、強制執行認諾文言を付けた公正証書を作成したのですが、Aさんは交付を受けた公正証書(公正証書正本)を紛失してしまいました。何とか強制執行をしたいと考えているAさんは、再度公正証書正本の交付を公証役場に請求することによって、強制執行をすることができます。公正証書の原本は、原則として20年間、公証役場で保管されていますので、再交付を受けることができるのです。
公正証書作成準備公証役場の選択=Aさんが東京に住んでいて、Bさんが神奈川に住んでいるという場合、どこの公証役場で公正証書を作ればよいのでしょうか。結論からいえば、極端な場合、北海道にある公証役場で作成することもできます。つまり、どこの公証役場でもいいのです。
公証人については、土地管轄がありますが、それは公証人の職務を行うための公証人の活動範囲での管轄にすぎません。ですから、AさんとBさんとで相談をして、便利な公証役場を選択すればよいでしょう。
事前準備=まずは、AさんとBさんとの間で、どのような内容の契約書、ひいては公正証書を作成するのかをつめておく必要があります。大筋でも結構ですので、内容をまとめておきましょう。
次に、公証人の面前で、本人確認がなされますので、その証明のためのものが必要です。運転免許証などでもよいのですが、通常は印鑑証明書で行います(公正証書への捺印も実印を使います)。ただし、公正証書作成日から遡ること3か月以内に取得した印鑑証明書であることが必要です。また、一方当事者又は双方が会社である場合には、資格証明書が必要ですが、これは通常商業登記簿謄本を使用することが多いようです。
さらに、公正証書遺言を作成する場合などに多いのですが、「甲不動産を○○に遺贈する」とあった場合、甲不動産の登記簿と固定資産税評価証明書が必要となりますし、関係者の戸籍謄本も必要となります。
これらの準備ができれば、公証役場に赴くことになります。ただ、いきなり公証役場に行くと、長時間待たされたり、契約などの内容を説明しなければならず、かなりの時間がかかります。そこで、多くの公証役場では、事前にファックスで公証役場とやり取りをして、契約書案文や上記の各書類を事前に送信する方法も採っています。これによって、公証人は契約内容に不適法な点がないかなどを検討し、もしあれば訂正するように求めてきます。また、日時の予約もできますので、時間の節約になると思います。
なお、この際に、手数料も聞いておいてください。AさんとBさんが折半で負担する場合には、それぞれの額を当日持参します。
作成手続事前にファックスにてやり取りをしていても、またそのようなやり取りなくして直接に公証役場に行った場合はもちろん、公証人からいくつかの質問がなされます。的確かつ簡潔に返答をするように心掛けてください。
しばらくしますと、公正証書の原本が作成されますので、指定箇所に双方が捺印をすることによって原本が完成して手続きは終了します。
その後、債権者であるAさんに公正証書正本、債務者Bさんに公正証書謄本が渡されます。
もし、債務者Bさんが出頭していない場合(代理人出頭のような場合)、公正証書謄本をBさんに送達する手続きをとっておくことがお勧めです。将来強制執行をする場合、Bさんへの送達証明書が必要となるのですが、後日、送達しようとしても、Bさんが行方不明ということもあるからです。
強制執行強制執行認諾文言が付いている公正証書であれば、裁判をすることなく強制執行をすることができます。しかし、公正証書さえあればいいというものではありません。
債務名義=債務名義とは、BさんがAさんに対して借金を弁済する債務を負担していることを公に証明する文書をいいます。判決がその典型例ですが、強制執行認諾文言付公正証書も債務名義となる文書です。
執行文付与=執行文とは、この債務名義には(強制)執行力がありますよということを公に証明してくれるものをいいます。この執行文付与は、公正証書原本を保管している公証人がします。公正証書の末尾に、強制執行することができますよという旨が付記されることで、執行文が付与されます。
送達証明書=強制執行をするためには、強制執行認諾文言付公正証書謄本をBさんに送達したという証明書が必要です。これも公証人が行います。ただ、前に説明をしたように、いざ執行という時に、Bさんが行方不明で送達が困難となることもしばしばありますので、公正証書作成と同時に公証人に送達を依頼して、送達証明書を入手しておく方が無難です。
参考コンテンツ:
公正証書のメリットと、作成するべきケース
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