弁護士コラム

従業員の事故と会社の責任

[投稿日] 2020年10月14日 [最終更新日] 2020年10月14日
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北川 靖之 弁護士 キタガワ法律事務所

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1.従業員の行為に対する会社は責任

会社の従業員が、就業中にミスをすることがあります。これはもう、仕方がないことです。そして、そういったミスによって、第三者に損害を与えてしまうことがあります。これも、ある程度は仕方がないといえるでしょう。

典型的には、従業員が就業中に交通事故を起こした場合です。こういった場合、とりあえず会社が被害者への損害賠償に応じ、あとは会社と従業員との間で清算することが多いと思います。

2.使用者責任

 このような清算方法は、民法715条に根拠があります。同条は、被用者(従業員等)が第三者に損害を与えた場合に、使用者(会社、個人事業者等)が責任を負うことがあると規定しています。

 もちろん、使用者自身に過失がある場合に、使用者が責任を負うのは当然です。例えば、運送会社が、ドライバーに過積載を指示していた場合などです。過積載が原因で事故が起きた場合、会社は過積載の指示という過失に基づき、損害賠償に応じる必要があります。

 問題は、使用者自身に直接の過失がない場合です。例えば、ドライバーの前方不注意による事故は、会社に直接の過失があるとはいえません。民法715条は、そのような場合にも、使用者が責任を負う場合があることを規定しているのです(使用者責任)。

3.使用者責任の拡大

 使用者責任は、判例上、かなり広い範囲で認められています。厳密には従業員の職務とは言えない行為、例えば休憩時間中の行為や、従業員の地位を利用した詐欺行為についても、使用者は責任を負う場合があります。

 これは、報償責任という価値判断に基づくものです。すなわち、使用者は、他人を使用することによって、自分の活動範囲を拡張し、それだけ多くの利益を受けるだから、損害についても負担させるのが公平であるという考え方です。

 ある従業員が、社員寮の厨房で勤務しているときに、別の従業員に暴行を加えて、傷害を負わせたという事案において、会社の使用者責任を認めたという裁判例もあります。

4.使用者から被用者への求償

 もちろん、加害者である従業員が、一切お金を払わなくてよいというわけではありません。使用者は、被害者にお金を支払った場合、加害者である従業員に対して、支払ったお金を請求できます。これを求償権の行使といって、民法715条3項に規定があります。

 結局、従業員が支払うことになるなら、使用者責任なんて、あってもなくても同じではないかと考える人がいるかもしれません。確かに、算数的な勘定は全く同じです。しかし、現実世界では、大きく結果が異なるのです。

 従業員の行為により、1000万円の損害を受けた被害者がいるとしましょう。従業員が1000万円を持っていれば問題ありませんが、持っていないこともよくあります。そんな場合、従業員への請求は無意味です。しかし、会社に1000万円を請求できれば、被害者は泣き寝入りをせずに済みます。会社は従業員に1000万円を請求できますが、従業員が一文無しなら、会社が泣き寝入りすることになります。

 つまり、従業員が無資力であるリスクを、被害者に負担させず、使用者に負担させるのが、使用者責任の規定なのです。

5.使用者から被用者への求償の制限

 ここまでは、使用者が被害者に賠償した場合、その賠償金の全額を加害者たる従業員に求償できるという前提で話を進めてきました。民法715条3項も、そのように理解するのが素直でしょう。

ところが、最高裁判所は、異なる判断を下しています。つまり、使用者が1000万円の賠償に応じた場合でも、従業員に1000万円全額を求償することはできないと判断しているのです。

その根底には、やはり、報償責任という価値判断があります。また、使用者は、損害保険に加入したり、発生しうる事故のリスクを商品の価格に転嫁したりしておくことも可能です。使用者は、リスクに備えておくことができるのです。

いかに裁判所といえども、法律を無視して裁判をするのは問題ではないかと考える人もいるかもしれません。

しかし、裁判所は、法律を完全に法律を無視しているわけではありません。最高裁は、使用者の求償権の行使が、民法1条2項に規定されている「信義則」によって、制限されると判断しました。信義則は、法律を形式的に適用すると不当な結論となる場合に、結論の妥当性を図るための条項です。裁判所は、民法1条2項に従って、裁判を行ったということができます。

具体的には、事案によって異なるものの、0%~25%程度の求償が認められることが多いようです。信義則が結論の妥当性を図るための条項であることから、従業員が実際に支払うことができる程度の金額に落ち着くことが多いようです。

北川 靖之 弁護士

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