
労働は義務で権利!全国民に必要な快適に働くための知恵と技
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就職・採用にまつわるトラブルと対策
身近な労働トラブルと言えば、未払の給料や不当な解雇などのイメージがありますが、実は就職や採用の際にも法的な問題点がたくさんあります。
たとえば、面接の際に面接官から受ける質問内容はどこまで認められるのかという問題や、内定取り消しをされた場合の問題などもあります。就職や採用の場面で不利益な処分を受けないようにするためには、こうした就職や採用にまつわる法的な問題の考え方を理解しておく必要があります。以下で、早速見てみましょう。
就職の際には面接が行われることが多いですが、その際、面接官からいろいろな質問を受けることになります。このとき、どこまでの質問内容が許されるのかが問題です。
まず、面接官が、就職希望者の思想や信条に関する質問をしてきた場合、それが許されるのかを考えてみましょう。
憲法上、日本国民には思想・信条の自由が保障されています。
そうなると、会社が思想や信条を聞いて、それを理由に採用を断ることはできないように思えます。
実際に、職業安定法という法律によって、面接官による質問は、「業務の目的に必要な範囲内」でしか認められないと規定されています。また、平成11年の労働省告示141号の第4によって、「社会的差別の原因となるおそれのある事項」「思想および信条」「労働組合への加入状況」などの個人情報収集が禁じられました。実際、各都道府県の労働基準監督署なども、就職差別を禁止する趣旨で、思想・信条の調査など質問をしないように指導しています。
このようなことから、思想信条についての質問はしてはいけないことになります。同様に、宗教などについての質問も許されないので、覚えておきましょう。
次に、圧迫面接の問題があります。圧迫面接とは、面接の際に、面接官が高圧的な態度をとったり嫌がらせ的な発言をしたりして応募者を圧迫することです。たとえば「やる気があるのか?」「能力が無い!」などと暴言を吐いたり、差別的な発言やセクハラ発言をしたりなどがあります。
このような圧迫面接は、違法になる可能性があります。
相手に対する侮辱的な発言や名誉を毀損するような発言は、侮辱罪(刑法231条)や名誉毀損罪(刑法230条)になる可能性があり、その場合には民事的な損害賠償も可能になります。
脅迫罪(刑法222条)が成立することもあるでしょう。度を超えた高圧的な態度をとられたようなケースでは、あきらめないで法的な対処をとることも考えてみましょう。
就職の際には、内定辞退と取り消しの問題があります。いったん就職が内定したにもかかわらず、その後辞退したり、取り消されてしまう場合です。このような内定の辞退や取り消しは、どこまで認められるのでしょうか?
内定を辞退できるのは、入社の2週間前までです。これは、契約期間の定めのない労働契約の場合、労働者は2週間の予告期間をおくことにより、特段の理由なくして契約を一方的に解約できると考えられているからです(民法627条1項)
次に、内定の取消について、判例では、就職が内定した場合、労働者と会社との間で労働契約が成立すると考えられています(最判昭和54年7月20日)。そこで、いったん内定が決まったら、その後会社の一方的な都合で取り消すことはできなくなります。労働契約が成立している以上、内定の取り消しは解雇という扱いになりますが、労働契約法上、解雇が認められるためには、解雇を認めるに足りる正当事由が必要になるからです(労働契約法16条)。
ただし、内定の場合には、まだ実際に仕事をしていないのですから、この正当事由の判断が一般の解雇のケースよりもあいまいになります。
そこで、裁判上では、内定の取り消しは、以下のような事情がある場合に認めると判断しています。
- 会社が内定取消しの理由が、採用内定当時は知ることができないか、知ることが期待できないような事実であること
- 内定取消しが合理的であり、社会通念上も相当といえること
この2つの要件を満たす場合に、内定取り消しを認めています(最判昭和54年7月20日)。
不当な内定取り消しに遭った場合には、上記の判例の基準に当てはめてみましょう。もしそのような事情もないと考えられるなら、法的に内定取り消しの効果を争うことが可能になります。
企業が労働者を募集するとき、女性限定での募集が行われるケースがあります。たとえば秘書などの場合、女性限定で募集することを検討することがありますが、このようなことは法律上許されるのかが問題です。
この問題については、男女雇用機会均等法という法律が関連します。この法律では、これまで差別されてきた女性については、男性より優遇することを認めているからです(9条)。
そこで、一定の場合には、女性限定での募集も認められる余地があります。
ただし、優遇措置はどのようなケースでも認められるわけではなく、「男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として」行われる場合にのみに認められます。具体的には、従来女性の進出が難しかった職種や業種について認められるものです。逆に、役員秘書のように、従来から女性が担ってきた職種の場合には、理由なく男女差別を行うものとして、男女雇用機会均等法に反して違法になる可能性があります。
執行猶予中でも就職出来る?就職したいと考えている場合、自分に前科があったり執行猶予中だったりすると、就職出来ないのではないかと不安になるものです。
そこで、執行猶予中でも、就職は可能なのかが問題です。
執行猶予中でも、法律上仕事ができないという制限はないので、たいていのケースでは就職ができます。前科がある場合も同様です。
ただし、公務員の場合などには、禁固以上の刑の言い渡しを受けて執行猶予中の場合にはその職に就くことはできません(国家公務員法38条2号など)。
それ以外の民間企業の場合には、特に制限がないので、会社の応募条件などに反していない限りは就職ができます。
また、執行猶予中は、別の罪を犯すと、猶予されていた罪の分も足した刑を受けることになりますので、確実に刑務所に行くことになってしまいます。
よって、執行猶予中に就職出来た場合には、その後はくれぐれも問題を起こさないように注意して生活することが大切です。
以上のように、就職や採用の際には、いろいろな法的トラブルが起こる可能性があります。会社側の対応に問題がある場合には、法的な対処をとることができるケースもあるので、あきらめずに弁護士に相談に行ってみると良いでしょう。
就業規則・労働協約で押さえるべきポイント
労働者が会社で働くとき、就業規則について理解しておくことが重要です。就業規則については、普段あまり意識していないことが多く、「聞いたことはあるけれど、実際に見たことがない」という方も多いでしょう。
しかし、就業規則は労働者の職場環境や権利の内容などに対して大きな影響を持つので、自分の会社に就業規則がある場合、その内容を正しく理解しておくことが重要です。
また、会社に労働組合がある場合、就業規則以外に労働協約があるケースもありますが、就業規則と労働協約の違いや関係も押さえておきましょう。
以下では、就業規則や労働協約について、ご説明します。
就業規則とは、会社が労使関係について定めているルールのことです。労働時間や給料、休憩時間や休暇、罰則についてなどを定めています。就業規則は、その事業所内のすべての従業員に対して効力を持つものであり、会社の法律のようなものです。
就業規則の目的は、会社の労務関係を効率的、画一的に行うことです。自分の会社の就業規則は、たとえその内容を知らないとしても自分にも効力が及ぶので、重要です。
就業規則は、10人以上の労働者がいる事業所では、作成することが義務づけられています。10人以上の労働者がいるにもかかわらず就業規則が作られていないなら、その会社の対応は違法だということになります。
会社が就業規則を作ったら、労働基準監督署に届出をしなければなりません。
労働者が見やすい環境に設置しておく必要もあるので、就業規則を作っていたとしても、労働者が閲覧出来ないような状態になっていると、やはり違法です。
会社が就業規則を作る際、以下のような内容を記載する必要があります。
- 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに交代制に関する事項
- 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期ならびに昇給に関する事項
- 退職に関する事項
以上の3つは、どのような事業所でも必ず定めなければならない絶対的必要記載事項です。
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払いの方法ならびに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
- 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
この7つは、該当する場合に必要な相対的必要記載事項です。
労働者の重要な権利に関わることばかりなので、一度確認しておくと良いでしょう。
参考コンテンツ:
会社が就業規則を見せてくれない!
次に、就業規則と労働協約の関係を確認しましょう。
労働協約とは、労働組合と会社との間で締結される協約で、組合員の賃金や労働時間、休
日や休暇等の労働条件、労働組合と会社の関係などについて定めたものです。
労働協約を定める場合、労働組合が会社と交渉をして団体交渉を行います。労使間で合意に達したら、その事項を書面にして労使双方が署名又は記名押印する必要があります。有効期限は3年です。
このように、労働協約は労働組合と会社が締結するものなので、労働協約は、会社に労働組合がある場合にのみ締結される可能性があります。
労働協約の内容は、労働者の権利や義務に関するさまざまな取り扱いについてです。その意味で、労働協約と就業規則は似た側面があります。
就業規則と労働協約は、規定内容は似ていますが、違いがあります。
それは、就業規則は会社が作るルールであり、労働協約は労働組合と会社が協議して決めた内容だということです。労働協約は、労働組合と会社との契約のようなものなので、労働組合に加入していない人に対しては効力が及ばないことがあります。
どちらも労働者の権利や義務について定めるものなので、内容に矛盾が生じることもあります。このように、就業規則と労働協約の内容が相反する場合、どちらが優先するのかが問題になります。
就業規則と労働協約では、労働協約が優先して適用されます。
これは、労働協約は会社が一方的に定める就業規則とは異なり、労働者の代表である労働組合との交渉によって定められるものなので、尊重されるべきだからです。
労働者が10人以上いる会社の場合、就業規則が作られているはずですが、見たことがないという方のために、就業規則を見る方法をご説明します。
労働基準法において、就業規則は従業員に対して書面で交付するか、常時見やすい場所に掲示するか備え付けるかして、労働者に周知する必要があるとされています(106条1項)。この場合、重要部分だけではなく全部の周知が必要です。会社が周知義務に違反した場合、30万円以下の罰金刑が科される可能性があります(120条1号)。
もし自分の職場に就業規則の明示がない場合、会社に言えば見せてもらえるはずです。もし開示が行われない場合には、就業規則を見せないことが労働基準法に違反することと、違反すると罰則もあることなどを告げて交渉してみましょう。
就業規則が改正される場合、同意は必要?いったん会社で就業規則を作っても、それが現状に合わなくなった場合には、改正されることがあります。このように就業規則を改正する場合、従業員の同意を必要とするかが問題になります。
就業規則の改正をする場合、基本的に労働者の代表の意見を聞く必要があります(労働基準法90条)。労働者の代表が誰になるかは、労働組合があるかどうかで異なります。
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合が労働者の代表になりますし、労働組合がない場合や、労働組合があっても労働者の過半数に足りない場合には、労働者の過半数を代表する者が労働者の代表になります。
また、就業規則によって労働条件を不利益に変更する場合には、労働者の同意が必要です(労働契約法9条)。ただし、合理的な理由がある場合には同意が不要となる余地があります(同法10条)。
以上のように、就業規則や労働協約は、労働者にとって重要なものなので、一度は確認しておきましょう。
参考コンテンツ:
社員の同意なき就業規則の変更は許される?
給料、ボーナス、その他の諸手当で損しないための知恵
会社で働いている場合、当然のように給料をもらっています。会社によっては給料に足して、ボーナス(賞与)が支給されることも多いでしょう。さらに、通勤手当などの諸手当が支給されることもあります。
給料やボーナス、諸手当などについても、法律が関係する部分があり、それぞれの考え方について正しく知っておくことが大切です。
たとえば、最低賃金はどのくらいになっているのか、給料が支払われない場合にどうするのかなど、知っておくと役立つ知識がたくさんあります。以下で、早速見てみましょう。
会社が労働者に賃金を支払う場合、守らなければならない原則があります。
それは通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則、毎月払いの原則、一定期日払いの原則です。
まず、給料は「通貨」で支払う必要があり、実物給与は禁止されています。また、賃金は直接労働者に支払う必要があり、代理人などに対して支払うことは許されません。
さらに、給料は全額支払う必要があり、毎月一回以上、一定期日ごとに支払われなければなりません。これらは給料の基本的な決まりごとなので、まず第1に押さえておきましょう。
会社で働く場合、労働の対価として給料を支払ってもらいますが、このとき支払われる給料は、いくらであってもかまわないということはありません。
労働をしても、不当に低い賃金しか支払われないと、労働者が不利益を受けることになってしまうからです。そこで、法律は最低賃金法によって、最低賃金のラインを定めています。
会社が労働者を使うとき、国が定めた最低賃金以上を支払う必要があり、仮に最低賃金より低い金額を支払うことに労働者が合意しても、法律によって無効になります。
もし会社が最低賃金に満たない金額の賃金しか支払わなかったら、最低賃金との差額を支払う義務を負います。
最低賃金には、地域ごとの地域別最低賃金と、業種ごとの特定(産業別)最低賃金があり、それぞれ金額が異なります。
どちらも適用される場合、高い方の金額以上の賃金の支給が必要です。
会社が地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わないと、最低賃金法によって、50万円以下の罰金刑が科される可能性があります。また、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法によって30万円以下の罰金刑が科される可能性があります。
最低賃金は、時給で規定されているので、自分の給料が最低賃金以上かどうかについては、時給換算をして比較する必要があります。
また、最低賃金の対象となる賃金は、毎月の基本給です。具体的には、実際に支払われている賃金額から、割増賃金や皆勤手当、通勤手当、家族手当などを引いたものが対象になります。給料が低すぎて疑問を持っている場合などには、一度計算してみると良いでしょう。
給料は、当たり前に毎月会社から受け取っている方が多いでしょうけれど、未払や遅延が起こることもあります。特に、会社の経営状態が悪くなってきた等と言われて何ヶ月も遅延したり、未払状態が長期間続いてしまったりすると、重大な問題になります。
このように、給料の未払が起こった場合、どのように対処すべきかをご説明します。
会社と労働者との間には、労働契約が成立しており、就業規則や労働協約がある場合には、それらに従った給料支払いの必要があります。
そこで、給料の未払や遅延が起こった場合には、労働者は会社に対して当然未払賃金の請求ができます。
この場合、まずは直接会社に対して未払賃金を支払ってくれるよう交渉すると良いでしょう。
未払が続いた場合には、労働基準監督署に届け出たり、法的な手続きをとったりする可能性もあることを告げて支払いを求めましょう。
それでも支払いが受けられない場合には、実際に労働基準監督署に届け出ます。ただ、それだけでは強制的に給料を支払わせることはできませんので、最終的には法的な手続きをとることが必要です。
具体的には、裁判所で労働審判を利用したり、ときには労働訴訟を起こしたりして未払賃金の請求をします。
特に労働審判は、訴訟に比べて問題を早期に解決できますし、終局的な解決率も高いので、労働問題の解決に効果的です。
会社によって悪質な給料未払や遅延が起こっている場合には、一度検討してみると良いでしょう。
会社に勤務している場合、突然会社によって給料が減給されることがあります。労働者は給料によって生活をしているので、急に減給が行われる労働者には大きな影響があり、不利益を受けることになります。
このような減給は、そもそも認められるのか、また認められるならどこまで認められるかが問題です。
給料の減額は、多くの場合就業規則を変更することによって行われますが、労働条件を労働者の不利益に変更する場合、労働者の合意なしには、合理的なものでない限りできません。
変更が合理的かどうかについては、以下のような事情を考慮して判断します(最判平成9年2月28日参照)。
- 就業規則の変更により、労働者が被る不利益の程度
- 会社が変更を要する必要性の内容・程度
- 変更後の就業規則の内容が相当かどうか
- 代償措置や、関連する他の労働条件の改善状況
- 労働組合等との交渉の経緯や他の労働組合、他の従業員の対応状況
- 社会における一般的状況等
たとえば、単に世の中が不景気だというだけでは、就業規則を変更して減給することはできません。減給できる場合はかなり限定されますので、覚えておきましょう。
ボーナスの支給は会社の義務?会社で働いている場合、ボーナスが支給されることが多いです。普段の給料が少なめで、ボーナスが多額になるので、ボーナスに頼って生活しているという方も多いでしょう。
しかし、中にはボーナスが支給されない会社もあります。このように、ボーナスを支給しないことは違法ではないのでしょうか?
会社のボーナス支給が義務かどうかが問題になります。
この点、残念ながらボーナス制度は法律上の義務ではありません。
まず、賞与も労働基準法に言う「賃金」に含まれます。同法では、「賃金とは賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」としているからです。
ただ、賃金についての最低限を定めている最低賃金法では、賞与は対象外になっています。
そこで、会社は賞与制度を設けるかどうか自由に決めることができますし、支給する場合の金額も自由に設定出来ます。
会社にボーナス制度がない場合、労働者側には支給を要求する権利が認められないので、就職の際には、ボーナス制度があるかどうかを確認しておくことが大切です。
給料やボーナスが、間違って振り込まれることがあります。
このように、支給の手違いがあった場合、受けとった給料やボーナスを返還しなければならないのかが問題です。
まず、労働者は会社との関係で賃金を請求する権利があります。しかし、その範囲は、労働者と会社との間で予め定めた金額です。それを超える誤振込の部分は、当然返還する必要があります。誤振込があった場合、そうと知りながら出金して使ってしまった場合などには、銀行に対する詐欺罪などが成立してしまうおそれもあります。
また、民事的にも不当利得となるので、会社に対して返還する必要があります。たとえ誤振込であることに気づいていなくても、返還しなければなりません。
間違ってボーナスが支給されて、気づかないまま使ってしまい何年も経過した場合などには、時効が問題になりますが、不当利得返還請求権の時効は10年です。
よって、10年以内に会社から請求があれば、返還が必要になるので、注意しましょう。
サラリーマンの方の場合、通勤手当をもらいながら、実は徒歩や自転車などで通勤をしている方がいますが、その場合、会社に知られたら返還しなければならないのかが問題です。
労働基準法上、通勤手当についての定めはなく、交通費の支給の有無や金額は、会社が自由に定めることができます。そこで、この場合に労働基準法違反になることはありません。返還を要するかどうかについては、会社の対応(交通費についての定めの内容)によって異なります。
会社の規定内容において「バス代はいくら」「電車代はいくら」など、通勤交通費の計算方法についての明示がある場合には、交通費の払いすぎ部分が不当利得になる可能性があり、返還しなければなりません。これに対して、会社の規定が、「最寄り駅から公共交通機関を利用した際の額」を通勤手当として支給する等とされている場合には、通勤の手段自体は指定されていないので、徒歩などで通勤することも認められます。返還の必要はないでしょう。
以上のように、給料やボーナス、諸手当についてもいろいろな問題がありますので、これを機会に覚えておきましょう。
労働時間と休憩、休日の定義は法律でこうなっている
労働者と法律の関係については、労働時間や休憩、休日についての定めも重要です。労働時間があまりに長くなったり、休憩や休日が少なすぎたりすると、労働者に過重な負担になってその権利を守ることができなくなるからです。
法律は、労働者の労働時間や休憩、休日について制限を設けていますので、その内容を正しく知っておくことが自分の権利を守ることにつながります。
以下で、さっそく見てみましょう。
労働時間や休憩、休日について、法律はどのような定めをしているのか、まずは基本的内容を確認しておきましょう。
労働時間については、労働基準法に定めがあります。具体的には、
「休憩時間を除き、1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」
「1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と定められています。
このような労働基準法によって定められる労働時間のことを、法定労働時間と言います。ただ、法定労働時間は、法律が定める労働時間の最低条件なので、各事業所がその判断により、これよりも短い労働時間を定めることは自由です。10人以上の労働者がいる事業所では就業規則を作る必要がありますが、就業規則には、当該事業所での労働時間についての記載があります。
労働基準法に定める法定労働時間以上の労働時間を設定して労働者を働かせた場合には、その事業所は刑事罰(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)を受けることになります。
まずは、自分の会社の就業規則の内容を確認してみましょう。
次に、所定労働時間という概念があります。所定労働時間とは、当該事業所ごとに定める労働時間のことです。
所定労働時間は、就業規則などによって定める必要がありますが、法定労働時間の枠内の内容にする必要があります。
たとえば、法定労働時間が1日8時間であるところ、所定労働時間を7時間や7時間半などにすることは自由です。反対に、所定労働時間を9時間にすると、違法になってしまうおそれがあります。
このことは、割増賃金の考え方とも関連します。割増賃金は、法定労働時間を超えて労働した場合に発生するものなので、所定労働時間を超えて労働したとしても、それが法定労働時間内におさまっていたら、割増賃金は発生しません。
就業規則に1日7時間と書いてある場合、8時間働いても割増賃金は発生せず、9時間働いた場合には1時間分の割増賃金が発生するということです。
なお、法定労働時間についても所定労働時間についても、計算の際には休憩時間を除きます。
労働基準法では、法定労働時間を定めて、基本的な労働時間の上限を定めています。ただし、どのような場合も法定労働時間以上の時間働くことができないということではありません。
一定のケースでは、これを超えて働かせることができます。この場合の法定労働時間を超える労働時間のことを、時間外労働と言います。
労働者に時間外労働をさせるためには、あらかじめ労働者との間で労働協約を締結して時間外労働をすることを定めておく必要があります。
この労働協定については、労働基準法36条に定めがあるので、通称「サブロク協定(三六協定)」などと呼ばれます。
三六協定を締結する当事者は、会社と労働組合です。労働組合のない会社では、労働者の過半数を代表するものとの間で協定を締結する必要があります。
三六協定を締結したら、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりませんし、三六協定にもとづいて労働者に時間外労働をさせた場合、法律が定める割増賃金を支払う必要もあります。
自分の勤め先の会社でも、このような運用がきちんと行われているかチェックしてみましょう。
労働基準法に定める法定労働時間では、1日の労働時間に上限が定められているので、それ以上働こうとすると三六協定が必要になってしまいます。しかし、忙しさに波がある仕事などでは、ある日は9時間働いて、他の日は5時間しか働く必要がないケースなどもあります。このような場合、変形労働時間制を使うと便利です。
変形労働時間制とは、平均して1週間40時間以内の法定労働時間を守っていれば、1日の労働時間ではなく、一定のまとまった期間内の労働時間の上限を定めることができるという労働時間制です。
たとえば、1ヶ月を期間とする変形労働時間制であれば、1ヶ月分の法定労働時間の限度まで労働時間を設定しても良く、その内訳は問われません。ある日に10時間働き、その分他の日に6時間にして、法定労働時間内におさまっていれば問題にならないのです。
変形労働時間制を定める場合の期間設定は、1ヶ月ごとの場合と1年ごとの場合があります。
1ヶ月ごとの変形労働時間制を定める場合には、就業規則に定めさえすれば、別途労働基準監督署などに届け出る必要はありません。
これに対し、1年ごとの変形労働時間制を定める場合には、法定労働時間内に収まる内容で所定労働時価を設定して、労働組合との間で労使協定を締結して、労働基準監督署に届け出る必要があります。
また、変形労働時間制を採用する場合、連続して30日働かせられたりすると労働者に過重な負担がかかるので、休日設定などについて制限されます。具体的には、以下の表のとおりです。
1年あたりの労働日数 | 280日(年間休日85日) |
1日あたりの労働時間 | 10時間まで |
1週間あたりの労働時間 | 52時間まで |
原則連続で労働できる日数 | 連続6日 |
特定的に連続で労働できる日数 | 1週間に1日の休み(最大連続12日) |
労働時間について、変形労働時間に似た制度でフレックスタイム制があります。
フレックスタイム制とは、1ヶ月以内を平均して1週間あたりの労働時間が40時間の法定労働時間を超えない範囲内でその期間における総労働時間を定め、始業・終業時刻については労働者が自主的に決めることができる労働時間制です。これは、労働者が仕事と自分の生活との調和をはかること、効率的に働くことによって労働時間を短縮することなどを目的としています。フレックスタイム制を導入する場合、1日の労働時間帯について、コアタイム(必ず勤務すべき時間帯)と、それ以外のフレキシブルタイム(いつ出退社してもよい時間帯)とに分けることができます。コアタイムは必ずしも設定しなければならないわけではなく、すべての労働時間をフレキシブルタイムにすることもできます。
ただ、大部分をコアタイムにしてしまい、フレキシブルタイムがほとんどないケースでは、始業と終業の時刻を労働者の自主的な決定に任せることにならないので、フレックスタイム制とみなされなくなります。
フレックスタイム制を導入する場合には、就業規則によってフレックス制度を導入することを定めた上で、労使協定を締結しなければなりません。
労働時間の種類には、みなし労働時間制があります。これは、労働者が事業外で労働する場合など、労働時間の計算が難しい場合に、原則として所定労働時間の労働をしたとみなす制度です。
「事業場外みなし労働時間制」、「専門業務型裁量労働制」、「企画業務型裁量労働制」があります。
事業場外みなし労働時間制は労働者が事業場外で労働する場合、専門業務型裁量労働制は、デザイナーやシステムエンジニアなどの専門業務の場合、企画業務型裁量労働制は、企画や立案、調査や分析業務等の労働者のケースに適用されるものです。
これらの場合、実際の労働時間数とは無関係に、労使委員会で定めた労働時間働いたとみなされます。
次に、休憩や休日の基本を確認しましょう。
労働基準法では、休憩や休日についても制限を設けています。
具体的には、労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合には、少なくとも45分の休憩が必要であり、労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩が必要であると規定されています(労働基準法34条)。
また、休日については、毎週少なくとも1回以上の休日が必要とされています。それができない場合、4週間に4日以上の休日が必要です。この最低限度の休日を法定休日と言い、会社が法定休日以上に休日を定める場合には法定外休日と言います。
法定休日と法定外休日は、割増賃金の計算方法が異なります。具体的には、法定休日での労働の場合は3割5分の割増賃金が必要ですが、法定外休日の労働の場合には、1週間の法定労働時間(40時間)を超える労働をした場合に、2割5分以上の割増賃金を支払うことで足ります。
このように、労働者の労働時間や休憩、休暇についてはいろいろな決まり事がありますので、これを機会に覚えておきましょう。
残業・休日出勤の対価について
労働者が残業をすると、残業代を請求することができます。
労働基準法では、労働者が働く労働時間の限度について定めがありますが、このような法定労働時間を超えて労働することがあります。
また、法定労働時間内であっても、就業規則で定める所定労働時間を超えて残業するケースもあります。休日出勤するケースもあります。
このように、規定された労働時間を超えて時間外労働をした場合には、時間外手当(割増賃金)を請求することができることが多いです。つまり、残業をすると、通常の給料よりも多くの支払いを受けることができるということです。
ただ、その割増率については、それがどのような時間外労働であるかによって異なってきますので、以下で、それぞれのケースを見てみましょう。
残業代を請求する場合、割増賃金の支払を受けることができますが、割増率は、残業の種類によって異なります。そこで、まずは、残業の種類を確認しましょう。
残業には、法内残業と法外残業があります。
法内残業とは、法定労働時間内ではあるけれども、所定労働時間外の残業(時間外労働)です。
法律は、1週間に40時間という労働時間の制限を設けています。この労働時間の制限を法定労働時間と言います。なお、1週間についての始期は、一般的に日曜日から数えるとされています。
実際に会社が労働者を働かせる場合、法定労働時間そのものではなく、その範囲内で就業規則を定めて、その企業における労働時間を定めます。このような事業所ごとの労働時間のことを、所定労働時間と言います。
そして、残業の中でも、所定労働時間外で、法定労働時間内におさまっているもののことを法内残業と言います。つまり、労働基準法の定める労働時間を超えていない場合の残業です。
これに対し、法定労働時間以上の長時間働かせる場合の残業のことを法外残業と言います。法外残業の場合には、労働基準法の定める労働時間を超えていることになります。
まずは、この2つの残業の違いを抑えておきましょう。
次に、それぞれの場合の残業代の計算方法を見てみましょう。
法内残業の場合には、割増賃金は発生しません。割増賃金の計算方法についても、特に法律によって規定されません。会社と労働者が自由に定めることができます。
多くのケースでは、実際の給料の金額を時給で換算して、残業代を計算します。具体的な計算式は
法内残業をした時間数×1時間あたりの賃金額(円)
となります。
このように、法内残業の場合、基本的に割増賃金は発生しませんが、法内残業の場合でも、深夜に労働した場合には割増賃金の支払が必要になります。この場合の割増率は、25%です。
法外残業の場合には、割増賃金を請求することができます。
ただ、法外残業の場合、その総時間数や、労働した時間帯が深夜の時間帯かどうかによって、割増賃金率が異なります。
1ヶ月60時間以内の時間外労働について
5時から22時 | 1時間当たり賃金×1.25 | 法定時間外労働 |
22時から5時 | 1時間当たり賃金×(1.25+0.25) | 法定時間外労働+深夜労働 |
ただし、法定時間外労働が1ヶ月45時間、年間360時間を超える場合には割増賃金率1.25を超えるよう事業者が努力する必要があります。
1ヶ月60時間超の時間外労働について
5時から22時 | 1時間当たり賃金×1.50 | 法定時間外労働 |
22時から5時 | 1時間当たり賃金×(1.50+0.25) | 法定時間外労働+深夜労働 |
法定休日労働の割増率
5時から22時 | 1時間当たり賃金×1.35 | 休日労働 |
22時から5時 | 1時間当たり賃金×(1.35+0.25) | 休日労働+深夜労働 |
なお、1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率50%については、中小企業には、平成31年4月1日まで適用が猶予されます。
法外残業の残業代の計算式は
時間外労働をした時間×1時間あたりの賃金(円)×割増賃金率(上記の表の通り)
となります。
参考コンテンツ:
みなし残業手当とその内容について
日給月給制だと残業代がつかない?
次に、休日出勤の場合の時間外手当を見てみましょう。
休日は、労働者が労働をする義務のない日です。そこで、休日に働いた場合には、割増賃金を請求することができます。
ただ、休日出勤にも残業と同じように2種類があり、それぞれによって割増率が異なります。そこで、まずは休日出勤の種類を確認しましょう。
休日出勤には、法定休日と法定外休日があります。
法定休日とは、法律が最低限取得させなければならないと定めている休日のことです。
具体的には、1週間に1日以上、それが難しい場合には4週間に4日以上の休日を定めなければならないとされています。
これに対し、法定外休日は、会社が任意で法定休日以上に定める休日のことです。
たとえば、週休2日制を導入している企業の場合、1週間の休日のうちで、1日は法定休日ですが、もう1日は法定外休日になります。
法定休日に労働者が働いた場合の時間外手当を見てみましょう。この場合の割増賃金率は、35%となります。
法定休日における時間外手当の計算式は、以下の通りです。
時間外労働をした時間×1時間あたりの賃金(円)×1.35
たとえば、就業規則において、毎週日曜日が法定休日であると定められている会社において、日曜日に6時間働いた場合には、
給料を時給換算した金額×6時間×1.35の計算により、時間外手当の支払いが行われます。
次に、法定外休日の場合の時間外手当を見てみましょう。
この場合には、必ずしも割増賃金が支払われるとは限りません。
法定外休日の労働時間が法定労働時間内(1週間に40時間)におさまっている場合には、割増賃金が発生しないのです。就業規則で定める所定労働時間がもともと少ない場合などには、法内残業となって、割増賃金が支払われない可能性が高くなります。
これに対して、法定外休日の労働時間が法定労働時間を超える場合、割増賃金を請求することができます。
この場合の割増率は、25%です。
よって、法定外休日の場合に出勤して働いたら、割増賃金が請求できる場合とできない場合があり、できる場合でもその割増率は法定休日出勤のケースよりも低くなります。
ただし、これは法律による最低限の基準の内容です。実際には、休日出勤の割増賃金は、就業規則において定めがあることが多いです。そこで、就業規則において「休日出勤の場合には、賃金の割増率を35%とする」と規定されていたら、法定休日か法定外休日かという区別がなされていないので、一律で35%の割増賃金を請求できることになります。
このように、割増賃金の割合は、法律の規制以外に就業規則で定める割合が適用されることもあります。
法定休日と法定外休日の区別をせずに一律で35%増しにしている企業もあります。
自分の勤務先の就業規則を確認していない場合には、一度見ておいた方が良いでしょう。
労働者が法定労働時間を超えて働いた場合、働いた時間分の割増賃金を請求することができます。しかし、この請求をした場合、会社から反論をされる可能性があります。
残業代について会社側からよくある反論の1つは、「管理職だから残業代を支払わなくて良い」というものです。
法律では、管理監督者には時間外手当が発生しないことになっているからです。管理監督者とは、労務管理や労働時間などについて、経営者側と一体になっているもののことです。経営者側なので、労働者としての時間外手当が発生しないということだと理解しても良いでしょう。
ここでよく問題になるのが「名ばかり管理職」です。実際には役職がないときと業務内容や労務管理方法が代わらないのに、「課長」などと役職名を与えることによって、残業代を支払わなくなるのです。
このような「名ばかり管理職」の場合には、管理監督者とは認められないので、残業代を請求できます。
管理監督者かどうかについては、その労働者が、会社経営に関する決定事項に参加しているか、労務管理の指揮監督権を持っているか、出退勤などの労働時間について裁量権があるかどうかなどによって実質的に判断されます。
自分が課長になったとたんに残業代が支払われなくなったケースなどでは、本当に上記のような管理監督者的な立場になったのかどうか、振り返って検討してみましょう。
以上のように、法律上、残業や休日出勤のケースでは、きちんとケースに応じて割増賃金を支払うように規定されています。自分の会社で適切に支払いが行われているかどうか、一度見直してみると良いでしょう。
参考コンテンツ:
振替休日をとらせても休日割増賃金を払う必要はある?
有給休暇まわりで注意すべきこと
労働基準法では、有給休暇の制度を設けています。
有給休暇とは、年次有給休暇のことで、労働者の休暇日の中でも、雇用主から賃金が支払われる有給のものです。年次有給休暇は、年次という文字通り、1年を区切りとして、一定の休暇日数が与えられます。「有給休暇」や「有休」「年次休暇」「年休」などと呼ばれることもあり、これらはすべて同じ意味です。
有給休暇は、労働者が給料をもらいながら仕事から解放されることにより、身体と精神の休養をとることを法律が保障するもので、労働基準法39条に定めがあります。
有給休暇は休暇の1種であり、休日とは異なります。休日とは、「労働者が労働する義務がない日」ですが、休暇とは「本来は労働義務があるけれども、義務が免除される日」です。
よって、有給休暇は「本来は労働義務があるけれども義務が免除され、給料ももらえる日」ということになります。
これに対し、週一回の法定休日などは、本来的に労働義務がないので、たとえば休日出勤した場合などに高額な割増賃金が支払われることになります。
休暇と休日は混同されることが多いので、これを機会に異なるものであることを理解しておきましょう。
なお、有休を取得するのに理由がいると思われる方もいますが、有休取得は労働者の当然の権利なので、特に理由を付する必要はありません。
次に、有給休暇は年にどのくらいの日数分取得出来るのかを見てみましょう。
有給休暇をとれる日数については、労働基準法によって、最低限度が定められているので、一定の条件を満たせば、どのような事業所でも、どのような労働者でも有給休暇を取得する権利が発生します。
有給休暇が取得出来るようになるのは、多くの場合、働き始めてから6ヶ月以上経過した労働者です。
通常のフルタイムの労働者の場合には、勤続期間が6ヶ月以上になったとき、10日間の有給が発生します。
勤続年数が長くなるにつれて、取得出来る有給の日数が増えていき、6年6ヶ月以上働いた人の場合には、1年で最大20日間の有休が与えられます。
ただし、有給休暇が認められるためには、全労働日の8割以上出勤する必要があります。
病気や怪我をして、長期にわたって会社を休んだ場合には、さらに有休を申請することはできなくなるので、注意が必要です。
なお、妊娠出産による育児休業や介護休業、業務上の怪我などの労災のケースでは、出勤したとみなされるので、これらによって長期休業しても有給を請求できることができます。
一般の労働者(週の労働日数が5日以上または週の労働時間が30時間以上の労働者)の場合の年次有給休暇の日数は、以下の表の通りになります。
勤続日数 | 6ヶ月 | 1年 6ヶ月 |
2年 6ヶ月 |
3年 6ヶ月 |
4年 6ヶ月 |
5年 6ヶ月 |
6年 6ヶ月 |
有給取得 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
有給休暇は、年間10日以上取得出来るとは言っても、1年に消化できない人は多いです。このような場合、有休を繰り越せるのかが問題になります。
有給休暇を1年で消化できなかった場合、翌年に繰り越すことは可能です。この場合、2年間の繰越が可能です。たとえば、当年度の初日に発生した有給休暇は、翌年度の末日に消えることになります。なお、有休を繰り越した場合に、繰り越した分と新たに取得した分のどちらが先に消化されるかについては、一般に繰り越した分が先に消化されると考えられていますが、就業規則等で別の定めをすることも可能ですので、就業規則等を確認してみましょう。
有休は労働基準法によって認められる労働者の権利ですが、中には有休を認めない会社があります。「うちには有休がない」と言われたり、「誰も取得していないのに、何を言っているのか」などと言われたりして、有休をとらせてもらえないこともあります。
このように、有給休暇の取得を認めないことは、違法です。有給休暇制度は、労働基準法39条に明記されている労働者の権利なので、「有休制度がない会社だから有休がとれない」ということはありません。
ただ、会社から「今は忙しいから有休を認められない」と言われる場合、必ずしも違法にはならないので、注意が必要です。
有休制度に関しては、労働者の時季指定権と、会社の時季変更権という権利があります。
時季指定権とは労働者が有休取得時期を指定できる権利であり、時季変更権とは、会社が労働者に対して、有休取得時期を別の時期にしてほしいと変更依頼することができる権利のことです。
労働者がある日に有休を取得したいと言っても、会社が時季変更権を行使することができるので、労働者が別の日に有休が取得出来る場合、もともと希望した時期に有休を取得出来なくても、必ずしも違法にはなりません。
これに対して、「いつになるかははっきり言えない」と言って一向に有休をとらせてもらえなかったり「うちは有休制度が無い」などと言ったりするような会社は違法です。
有給休暇と言えば、正社員のものだというイメージがありますが、パートやアルバイトの人の場合、有休を取得することができないのかが問題になります。
法律では、パートやアルバイト、非正規社員などのケースでも、有休を取得出来ることがあります。その日数は、週の労働時間によって異なります。
週5日以上または週30時間以上の労働時間がある人の場合、上記の一般の正社員の労働者と同じだけの有休を取得することができます。
これに対し、週4回以下の勤務であったり、週の労働時間が30時間に満たなかったりする場合、有休の日数が減ります。その場合の日数は以下の通りです。
1週間の労働日数 | 年間の労働日数 | 継続勤務年数 | |||||||
6ヶ月 | 1年 6ヶ月 |
2年 6ヶ月 |
3年 6ヶ月 |
4年 6ヶ月 |
5年 6ヶ月 |
6年 6ヶ月 |
以降1年ごと | ||
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 | 3日 |
2日 | 73~20日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | 7日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | 11日 |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8 日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15 日 | 15日 |
以上のように、アルバイトやパートであっても有休を取得する権利があるので、自分のケースでどのくらいの有休が取得出来るか、一度上記の表を使って計算してみると良いでしょう。
有休の買い取りは可能?有休があっても、消化しきれないことがありますが、この場合、会社が有休を買い取ることができるかどうかが問題になります。
有休の目的は、労働者を仕事から解放して疲労回復させるためのものですが、買い取りを認めて働かせると、その目的を達成できないので、基本的に会社が有休を買い取ることは違法です。
ただし、その会社が法定以上の有休を定めている場合には、法定日数を超える分については買い取ることができます。
また、退職までに使い切れなかった有休についても、買い取ることができます。
さらに、2年以上が経過して有休の請求権が時効にかかってしまった場合、その時効消滅した有休をあえて買い取ることも認められます。
なお、有休の買い取りは法律上の制度ではありません。会社によっては認められないこともあるので、注意してください。
以上のように、労働者には有給休暇を取得する権利が認められます。
正社員でも非正規雇用でも、パートやアルバイトでも有休をとることができるケースは多いです。
有給休暇の制度を正しく理解して、適切に取得し、しっかりと心身を休めましょう。
参考コンテンツ:
有給休暇は買い取ってもらえる?
有給休暇の有効期限は会社側で決められる?
産休・育休期間を過ごす準備と手続き
労働者にとっては、産休と育休も重要な権利です。
子どもを妊娠したときや出産後は、子どもの出産や育児のために休業期間が認められます。
出産や育児は大変な負担になるので、これらの制度を上手に利用して、仕事と子育てのバランスをとることが大切です。
ただ、産休と育休は、取得出来る人が異なりますし、取得出来る期間も異なります。
手続き申請方法についても抑えておくと役立ちます。
以下では、産休と育休について、詳しく見てみましょう。
産休は、妊娠中の女性労働者が取得することができる、産前産後休業のことです。出産前と出産後に取得することができる休暇期間であり、働いている女性が取得出来ます。
産休は、労働基準法で認められる労働者の権利です(65条)。正社員だけではなく、パートやアルバイトの労働者でも取得可能です。
ただし、期間のある労働者の場合で、産前6週間より前に労働契約が終了してしまう場合には、産休を取得することはできません。
育休とは、子どもが生まれた後、男女の労働者が取得できる育児を目的とした休業期間で、育児介護休業法という法律によって認められます。
また、産休とは異なり、女性だけではなく男性も取得することが可能です。
正社員だけではなく、パートやアルバイトの労働者であっても育休を取得することができます。育休を取得出来る労働者の条件は、以下の通りです。
- 同一の事業主により、引き続いて1年以上雇用されている労働者であること(ただし日雇いを除く)
- 子供が1歳になる日以降も、雇用が継続する見込みがあること
- 一般被保険者であること
- 育児休業開始日の前の2年間において、賃金支払い基礎日数が11日以上の月が12ヶ月以上あること
このように、正社員や女性ではなくても、育休を取得出来る可能性があるので、是非とも覚えておきましょう。
産休の期間次に、産休の期間を確認しましょう。
産休を取得出来る期間は、産前休業と産後休業とで異なります。
まず、産前休業を取得出来る期間は、出産予定日の42日(6週間前)から出産日までです。出産予定日が遅れた場合には、遅れた日数も産前休業に含まれます。また、子どもを2人以上妊娠している場合、産休期間が98日(14週間)になります。
産後休業は、出産日翌日から産後56日までの8週間です。この産後休業の期間は、労働をしてはいけないことになっています。
ただし、産後42日(6週間)以上経っていて、その労働者に就業の意思があり、かつ就業を医師が許可した場合には、産後6週間目から就業が可能になります。
以上のように、産前休業が42日間(6週間)、産後休業が56日間(8週間)なので、産休期間の合計は、基本的には98日間(14週間)になります。
なお、産後休業については、出産後56日間の取得が義務ですが、産前休業については、労働者本人が申請をしないと取得できないので、必ず忘れずに申請手続きを行いましょう。
出産が終わっても、その後生まれた子どもの育児のために大変な労力がかかります。
そこで、産休後には育休を取得することができますが、育休はどのくらいの期間認められるのか、以下で見てみましょう。
育休は、基本的に子どもが1歳になるまで取得することができます。
母親が育休をとる場合には産休後子どもが1歳になるまでの期間ですし、男性が取得する場合には、子どもが生まれてから子どもが1歳になるまでです。
また、育休の期間が迫ってきたとき、保育園待ちなどが原因で育休期間を延長する必要がある場合には、育休期間を最大6ヶ月延長することができます。
以上のように、育休期間は最大で、子どもが1歳6ヶ月になるまで取得することが可能です。
次に、産休や育休前に準備しておくべきことを確認します。
産休や育休を取得する場合、入院などが予定されるので、かなりお金がかかります。そこで、産休や育休を取得する前には、お金の準備をしておく必要があります。
産休前にお金を準備する手段としては、傷病手当や生命保険があります。
傷病手当は、健康保険の制度であり、会社を休業した場合に支給されます。
また、妊娠前に、妊娠による入院の場合でも保険金の支払いが行われるタイプの生命保険に加入しておくと、役立ちます。ただ、生命保険の場合、妊娠のための入院では保険金が出ないことがあるので、加入前に条件をしっかり確認しておく必要があります。
また、産休や育休を取得する前、妊娠期間中にも労働をする期間が発生しますが、妊娠期間中に仕事をする場合、いくつか注意点があります。
まずは、妊娠中の労働内容に対する配慮を求める必要があります。たとえば、重量のあるものを運ぶ仕事や、長期間の立ち仕事、お腹に力を入れる仕事や激しい運動を伴う仕事をすると、妊婦にとっては危険です。このような場合、会社側に配置転換を求めるなどして、適切な仕事内容に変えてもらわなければなりません。
また、妊娠に伴ってトラブルが起こることもあります。たとえば、つわりによる吐き気や腹痛、お腹の張りなどが起こって、仕事が難しくなるケースもあります。
問題が起こったら、無理をせずに会社の上司に相談して、横になるなどして休ませてもらいましょう。症状が改善しない場合には、通院している産婦人科などに相談する必要があります。
会社側に理解がないケースも多く「妊婦を盾にいいように働いている」という見られ方をされて、「マタニティハラスメント」に遭うこともあるので、注意が必要です。
しかし、無理をして妊娠中の子どもに悪影響があると困るので、何らかの症状が起こったら、症状が安定するまでしっかり休養することが大切です。
次に、産休を取得するための手続きを確認しましょう。
産休について、産後休業は当然に認められますが、産前休業を取得するためには申請が必要です。具体的な申請方法としては、産休取得の申請書類を会社に提出する必要があります。妊娠していることの証明書が必要なので、医師による診断書や母子手帳(写し)、かかりつけの産婦人科医などで作成してもらえる出産予定日の証明書などを用意しましょう。
次に、育休取得の手続きを確認します。
育休を取得する場合、原則として、取得予定日の1ヶ月前までに会社に対して申請をします。ただし、出産予定日よりも早まってしまった場合や、疾病などの特殊な事情がある場合、1週間前まで申請することができます。
育児休業の申請をする場合、会社によっても必要書類が異なりますが、少なくとも育児休業申請書の提出が必要です。
それ以外に、雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書や、育児休業給付受給資格確認票、母子手帳の写しなどが必要になるケースがあります。
以下のような以下の書類が必要になることもあります。
- 育児休業給付金支給申請書(第1回~第6回)
- 養育期間標準報酬月額特例申出書
- 育児休業等取得者終了届
- 養育期間標準報酬月額特例終了届
- 育児休業等終了時報酬月額変更届
女性が育休を取得する場合の手続きは産休に引き続いて行われるので比較的簡単ですが、男性の場合には勤務先事業所への申請が必要になり、各事業所によって必要書類などの取り扱いが異なります。
取得の際には、職場での取り扱いをしっかり確認しましょう。
以上のように、産休や育休は大切な労働者の権利なので、きちんと取得をして、仕事と生活のバランスを上手にとっていきましょう。
参考コンテンツ:
正社員じゃなくても産休は取得できる?
退職・解雇・雇い止めに関する決まり
労働者にとっては、退職や解雇、雇い止めは重大な問題です。
サラリーマンは、会社で給料を受け取ることによって生計を立てていることが普通なので、これらの事情があると、生活費が入ってこなくなってしまうからです。
自分から望んで退職した場合などには問題になることが少ないですが、解雇や雇い止めをされた場合、とたんに生活に困ってしまうケースもあります。
また、退職する場合には退職金の支給を受けられることを期待しますが、退職金は必ずしも支払われるとは限らないので、退職金制度についても正確に理解しておく必要があります。以下では、労働者にとって影響の大きい退職や解雇、雇い止めについての決まりを確認しておきましょう。
退職する場合、自己都合退職と会社都合退職があります。
自己都合退職とは、労働者側の事情によって退職することです。たとえば、転職や病気療養、引っ越しなどにより、労働者が希望して退職します。
会社で問題を起こして懲戒されて、退職する場合も自己都合退職になるケースがあります。
会社都合退職とは、会社側の事情によって退職させる場合です。会社が労働契約を解除することにより、退職を余儀なくされる場合だと考えると良いでしょう。
退職勧奨があったり、会社からの希望退職者募集に応じたりした場合、勤務地が移転したことやセクハラ被害に遭ったことなどにより、仕事を続けられなくなって退職を余儀なくされたケースでも、会社都合退職になります。
次に、自己都合退職と会社都合退職は、何が違うのかを見てみます。
この2つでは、失業保険の取り扱いが異なります。
自己都合退職よりも会社都合退職の方が、労働者に与える影響が大きいので、会社都合退職の場合の方が失業保険の金額が高くなります。
また、退職金の金額も異なり、自己都合退職の場合、ほとんどのケースで会社都合退職よりも減額されます。
具体的な金額などについては、就業規則に記載がありますので、一度確認しておきましょう。
なお、会社都合退職なのに、会社側から自己都合退職にしてほしい等と言われることがありますが、そのようなことには安易に同意してはいけません。どうしてそのようなことを要求されるのか理由を確認して、合理的な理由があれば同意しても良いですが、なければ応じない方が良いでしょう。
また会社都合退職だと思っていた場合でも、離職票に自己都合退職と書かれていることもあります。この場合、離職票の「具体的事情記載欄(離職者用)」という欄があるので、そこに会社都合退職であることがわかるように具体的な事情を書き込んで、ハローワークに提出します。裏づけとなる証拠も必要になるので、併せて提出しましょう。すると、ハローワークが企業側に確認することによって、自己都合退職が会社都合退職に変わる可能性があります。
退職の際に問題になるのが、退職金です。退職金とは、退職したときに支払われるまとまったお金のことですが、これは、勤務期間における給料の後払い的な性質を持ちます。
会社で勤務している人の場合、当然退職金が支給されるものと期待していることが多いですが、退職金は必ず支給されるとは限りません。会社によっては退職金が支給されないことがあります。
退職金制度は、法律上強制されるものではないからです。退職金制度を設けなければならないという決まりはありませんし、退職金制度を設けない場合の罰則などもありません。よって、退職金制度がない会社の場合には、何年働いても退職金が支払われないので、注意が必要です。
退職金制度があるかどうかは、就業規則を見ればわかりますので、自分の会社に退職金制度があるかどうかわからない場合には、一度確認しておくと良いでしょう。
また、退職金制度がある場合には、就業規則に退職金制度の具体的な内容が書かれていることが多く、就業規則の最後の欄に、具体的な退職金計算方法の表などが添付されていることもあります。
退職金は、通常勤続年数が長くなるほど高額になりますが、具体的な金額は各事業所によって異なるので、一度自分の会社の退職金規定がどうなっているのか、確認しておきましょう。
退職金制度を作ること自体は法律によって強制されていませんが、いったん退職金制度を作ったら、その内容を守ることが会社の義務になりますし、労働者には退職金を請求できる権利が発生します。よって、退職金制度があるにもかかわらず、それに従った支払をしない場合には、労働者は当然会社に対して未払の退職金の請求が可能になります。
「経営が苦しいから退職金を支払えない」などということは、退職金不支給の理由にならないので、覚えておきましょう。
在職時に残業代の未払があった場合、それを退職後にも請求できるのかという問題があります。
残業代(時間外手当)については、会社によってはきちんと支払われないことも多いですが、これは労働者の権利なので、未払の残業代は会社に対して請求することができます。
退職後であっても、残業代の請求はできます。ただし、賃金については、時効期間があることに注意が必要です。
具体的には、それぞれの残業代が発生したときから2年で時効にかかってしまいます。通常の金銭債権などよりも早く時効消滅してしまうので、退職後残業代を請求する場合には、早めに手続きをすることが重要です。
また、退職すると、就業規則の内容を確認したりタイムカードを確認したりして、残業代請求のための証拠集めが難しくなる可能性が高いので、在職中からしっかり準備しておくことが重要です。
労働者が会社を辞めるケースとして、退職ではなく解雇されるケースがあります。
解雇とは、雇用の解除のことであり、会社が一方的に労働契約を解除することにより、会社を辞めさせることです。解雇には、いくつかの種類があります。
具体的には懲戒解雇と普通解雇、整理解雇と諭旨(ゆし)解雇です。
懲戒解雇とは、問題行動がある労働者への懲罰として解雇することで、懲戒原因があれば解雇が認められます。懲戒解雇の場合には、労働基準監督署から除外認定を受けると、解雇予告手当が不要になります。
普通解雇は、懲戒以外の原因による解雇のことで、厳格に規制されます。
整理解雇とは、会社の経営不振などの際、人員整理のために解雇をすることです。
諭旨解雇とは、本来懲戒解雇すべきところを普通解雇処分にしたり、労働者に自発的に退職するよう説得したりすることで、懲戒解雇処分を普通解雇にするための解雇です。
会社によって一方的に職を奪われることになるので、解雇されると労働者における影響が非常に大きいです。
そこで、会社が解雇できる場合は、極めて限定されています。具体的には、解雇に客観的・合理的な理由があり、手段に相当性がある必要があります。
たとえば、会社が整理解雇をする場合には、以下のような判断基準をもって、解雇の合理的理由と相当性が判断されます。
- 人員削減の必要性があるか
- 解雇を回避するための処置を取ったか
- 解雇の人選が適切であったか
- リストラについてきちんと労働者に説明し、納得させたか
人員削減の必要が高く、解雇回避のために手段を尽くし、解雇の人選も慎重に行って、リストラについての説明も誠実にしてきたようなケースでは、整理解雇が認められる可能性が高いですし、それと反対のケースでは、整理解雇が認められない可能性が高くなるということです。
また、解雇が認められる場合にも、解雇通知や解雇予告手当が必要です。
従業員を解雇する場合、解雇の30日前までに解雇通知をする必要があります。
30日前までに解雇通知ができなかった場合には、解雇日までに足りない分の平均給与を解雇予告手当として労働者に支払う必要があります。
以上のように、会社が解雇できる場合は、法律上かなり限定されているので、覚えておきましょう。不当解雇処分を受けたら、労働審判などによって争うことができます。
パートやアルバイト、非正規雇用の労働者などの場合、雇い止めが重要な問題になります。
雇い止めとは、期間のある労働者が、契約期間の更新をしてもらえずに労働関係を切られてしまうことです。
非正規雇用の職員でも、正規雇用の人と同じような仕事をしている人はいますし、契約期間が更新されることを期待して働いている場合に、いきなり契約更新を断られたら労働者の不利益が大きいので、雇い止めは法律上制限を受けます。
雇い止めが有効か無効かについては、判例上、以下のような基準で判断されます。
- 業務内容が正社員に近いか
正社員に近い場合、雇い止めを否定する方向に働きます。 - 契約更新の回数
契約更新回数が多いと、雇い止めを否定する方向に働きます。 - 通算勤続年数
通算勤続年数が長いと、雇い止めを否定する方向に働きます。 - 契約更新の手続きが厳格かどうか
契約更新の手続きが簡易な場合、雇い止めを否定する方向に働きます。 - 雇用継続についての会社側の言動
雇用継続を期待させるような会社側の言動があると、雇い止めが否定される方向に働きます。 - 他の労働者の就労状況
他の労働者が契約更新して労働している場合には、雇い止めを否定する方向に働きます。
以上のように、雇い止めは制限を受けるので、非正規雇用の労働者であっても、契約期間が終了したことで必ずしも職を失うことにはなりません。不当な雇い止めを受けた場合には、労働審判などによって争うこともできるので、よく覚えておきましょう。
参考コンテンツ:
無断欠勤すると解雇される?
給料が差し押さえられたら解雇されても仕方がない?
勤務態度の不良なパートを解雇したい・・・
労災の認定や手続きをめぐるトラブルについて
労働者が労働をしていると、業務中に事故に遭ってしまうことがあります。また、仕事が原因で病気をすることもあるでしょう。
業務中に事故が起こって怪我をしたり、仕事が原因で病気になったりした場合、死亡した場合などには、労災給付を受けることができます。
労災給付は、いざというときに労働者の助けになる重要な労働者の権利ですので、その制度内容をよく理解しておくことが重要です。以下で詳しく見てみましょう。
労働者は、労災保険に加入していることが普通です。
労災保険とは、労働者が労働災害(労災)に遭った場合に支給される保険のことです。
労働災害とは、労働者が労務を行ったことによって被った負傷や疾病、障害や死亡などのことです。
一般に、「労働災害」というときには、工場での作業中に怪我をしてしまったり、建設現場で作業中に転落事故に遭ったりするケースをイメージすることが多いですが、労災の範疇はそれよりかなり広いです。たとえば、過重労働が原因で、心疾患や脳疾患が起こって死亡する過労死のケース、過労が原因で自殺するケースも労災になりますし、セクハラやパワハラが原因でうつ病などになったケースも労災に該当する可能性があります。通勤中の事故も労災に含まれます。
これらの労災に遭った場合、労働者は労災保険に加入しているので、労災保険による給付を受けることができます。
労災保険の保険料は、会社が支払をしています。会社に従業員が1人でもいると、必ず労災保険に加入しなければなりません。労災加入の手続きは会社がしてくれるので、労働者側では特に何もする必要はありません。
労災保険に加入しないことは違法なので、労働者が自分では意識していなくても、通常は会社が労災に加入してくれています。気になる場合には、一度職場に確認してみても良いでしょう。
次に、労災給付金の種類を確認しましょう。
労災の給付金には、以下のような種類があります。
労働者が仕事中や通勤中に怪我や病気になったケースで、療養の必要がある場合に支給される給付金です。
治療費の支給が受けることができますが、その内容としては、診察料、入院費用、薬剤の費用、処置や手術の費用、訪問看護の費用、必要な移送の費用などが含まれます。
労働者が仕事中や通勤中の怪我や病気が原因で仕事を休むことにより、給料を受け取れなくなったときに支給される給付金です。
厚生年金や障害年金から給付金が出る場合、労災の休業補償給付が減額されることがあります。
療養補償給付を受けている労働者が、1 年半の期間治療しても完治せず、1級~3級の傷病等級に該当した場合に支払われる給付金です。
障害補償給付・障害給付治療期間が終了しても、完治せずに障害が残った場合に支給される給付金です。障害の程度によって受け取れる給付金の種類が異なります。
障害補償年金 | 障害等級第 1 級 ~ 第 7 級 |
障害補償一時金 | 障害等級第 8 級 ~ 第 14 級 |
障害補償年金差額一時金 | 死亡した場合 |
障害補償年金前払一時金 | 社会復帰を前提として、一次的にお金が必要な場合 |
労働者が仕事中や通勤中に死亡した場合、遺族などの受給資格者に支給される給付金です。
遺族補償年金、遺族補償一時金、遺族補償年金前払一時金があります。
遺族補償給付を受け取ることができるのは、配偶者(第1順位)、子(第2順位)、父母(第3順位)となります。
労働者が死亡した場合、葬儀などの葬祭を行う人に支給される給付金です。
介護補償給付・介護給付労働者が障害補償給付や傷病補償年金 ( 第1級・第2級 ) に該当する場合で、介護を必要とするときに支給されます。
労災給付は、労働者の重要な権利ですが、労働者が労災申請をしても認めないことがあります。労働者側は当然労災給付を受け取れると期待していても、労災認定が行われないために労災の給付が行われないので、トラブルになります。
そこで、どのようなケースで労災が認定されるのかが問題です。
労災が認定されるのは、基本的に「勤務時間中」に、「業務が原因」で、怪我・病気をしたことケースです。通勤途中の場合も含まれますが、寄り道が原因となって労災が認められなくなることもよくあるので、注意が必要です。
たとえば、工場内の作業中に機械に巻き込まれて怪我をした場合、道路清掃業の人が清掃中に交通事故に遭った場合、出張先のホテルで火災事故に遭った場合、帰宅中に凍っていた路面上で転倒した場合、通勤中に電車で事故に遭った場合などには、労災認定される可能性が高いです。過労死や過労うつ、介護の仕事中に腰痛になったり、OA機器の使いすぎで目が悪くなったりしたケースなどでも労災認定がされる可能性があります。アスベスト被害など、有害物質が原因で病気になった場合でも労災認定が行われます。
反対に、会社が主催している従業員の慰安旅行中に交通事故に遭った場合や、集金管理人が集金先で、業務とは無関係に喧嘩をして傷害を負った場合、社宅内で壊れた箇所の修理をしようとして作業中に怪我をした場合、会社の運動部の練習に行くために会社に行く途中に負傷した場合などには労災認定が行われない可能性が高いです。
労災で受け取れる給付金労災保険で受け取れるお金としては、災害後の生活費の足しにすることができる休業補償給付金が重要です。休業補償給付金の金額は、もとの給料の80%です。内訳は、休業補償給付金(60%)と社会復帰促進等事業の休業特別支給金(20%)となります。
事故から1年6ヶ月が経過した場合に傷害等級1級から3級までの重大な障害が残った場合には、傷病年金が支給されますが、傷病年金が支給される場合には、休業補償給付金の支給はなくなります。
また、休業補償給付金は労災で休業を開始してから4日目からの給付となり、当初3日間は支給されませんが、その3日間については、会社が給料の補償をする必要があります。ただし、通勤中の労災の場合には、当初3日間の補償はありませんので、支給は4日目からです。
休業補償の支給期間が終了するのは、基本的に労災による病気や怪我が治って、軽度な労働ができる状態にまで回復したときです。
もともと重労働をしていた人であっても、軽度な労働ができるようになったら給付が終了するので、注意が必要です。
労災に遭ったとき、何もしなくても当然に労災給付金を受け取れるわけではありません。
労災の保険料は会社が支払っていますが、会社が労災給付金の申請を行ってくれることは非常に少ないです。そこで、労働者が自分で申請をする必要があります。
労災の申請をするために、特に会社の許可は要りません。会社によっては、労災申請をすると良い顔をされないことがありますが、労災給付金を受け取ることは労働者の権利なので、遠慮する必要はありません。
労災給付金の支給を受けている間は、基本的に解雇されることもありません(3年経っても復帰できない場合には、解雇の余地が出てきます)。
労災後の休業などを理由として解雇されたら不当解雇を理由として争うこともできるので、覚えておきましょう。
労災保険の申請をする場合には、所轄の労働基準監督署長に対して、「休業補償給付支給申請書」を記入して提出する必要があります。提出後、労働基準監督署によって審査が行われ、労災認定を受けることができたら、銀行口座を指定して、振込によって労災給付を受けることができるようになります。
労災給付金には2年や5年の時効があります。自発的に申請しなければ保険がおりずに時効にかかって請求ができなくなってしまうおそれがあるので、注意が必要です。
業務中や通勤中に事故に遭って怪我をしたり、業務に関連して病気になってしまったりした場合には、早めに自分で労災申請の手続きをしましょう。
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派遣のしくみと派遣法改正について
現代社会では、多様な働き方の需要があり、正社員以外にもさまざまな労働の形態があります。中でも問題になりがちなのが派遣労働です。
派遣労働とは、労働者と労働契約(派遣労働契約)を締結した派遣元の会社が、派遣契約(労働者派遣契約)を締結している派遣先の会社に対して労働者を派遣して、労働者が派遣先の会社の指揮監督のもとで労働することです。
派遣労働のケースでは、派遣労働者と派遣元、派遣先という3人の当事者が関与するので、通常の2者間の雇用契約のケースよりも法律関係が複雑になります。
お金の流れについても、2者間の雇用契約の場合とは異なります。
派遣労働の場合、派遣先が派遣元に対して派遣契約にもとづいて労働者が働いた分の派遣料金を支払います。派遣元は、派遣先から支払いを受けた派遣料金から派遣元の報酬分を差し引いて、派遣労働者に労働契約に基づいて給料を支払います。
以上のように、派遣労働者は、働く場所や指揮監督については派遣先から受けることになりますが、実際の雇用主は派遣元であり、給料も派遣元から受け取ることになります。
派遣先企業、派遣労働者、派遣元の関係について派遣先と派遣元、派遣労働者の関係を整理しておきましょう。
派遣先企業は派遣労働者に対して指揮命令権があるので、業務の遂行方法などについては労働者に対して指示することができますが、労働者の雇用主ではないので、雇用主としての権限はなく、できることが限定されています。
具体的には、以下のようなことを派遣先が行うことはできません。
- 派遣労働者を選考して受け入れるかどうか決定すること
- 派遣労働者に対し、就業場所の異動を命じること
- 派遣労働者の昇給等、賃金についての決定をすること
- 派遣労働者に対し、契約の更新、終了の意思確認を行うこと
派遣労働をしている場合に、派遣先から上記のような行為をされたら違法になる可能性が高いので、覚えておきましょう。
派遣と請負、業務委託の違い派遣とよく似た労働形態として、請負や業務委託があります。これらはどこが違うのか、確認しておきましょう。
請負とは、請負人が注文者に対して仕事の完成を約束し、注文者が仕事の完成に対する報酬を支払うことを内容とする契約です。請負契約をした場合、注文者が請負企業との間で請負契約をしますが、実際には請負企業の従業員が仕事をすることが多いので、派遣と似たような状態になります。
業務委託とは、企業と雇用関係になるのではなく、企業と対等の立場に立って、仕事の依頼を受ける働き方です。業務委託の場合にも、発注企業が受注企業に業務委託しますが、実際には受注企業の従業員が仕事をすることになるので、派遣と似た状態になることが多いです。
派遣の場合には雇用主が派遣元であり、指揮監督権限が派遣先にあるという3者間の契約になっているのに対し、請負や業務委託の場合には、労働者と注文者・企業の2者間の契約である点が根本的に異なります。
一般的に、派遣法による規制を免れるため、請負や業務委託という形をとることによって、法の適用を逃れようとすることがあります。しかし、契約の名称を請負や業務委託にしたとしても、注文者が請負企業や受注企業の労働者に直接指揮命令をするような場合、偽装請負であり、実質的には派遣労働とみなされる可能性があります。すると、派遣法の適用を受けたり、法律によって禁止されている「労働者供給事業」になってしまったりする(職業安定法第44条)おそれがあります。
派遣か請負、業務委託かについては、契約の名称ではなく、実質的な労働形態によって判断されるので、覚えておきましょう。
派遣先が派遣労働者を選定できる?派遣労働において、派遣先は基本的に、派遣労働者の受け入れを選定することはできません(派遣法26条第6項)。
派遣労働者を選定できるのは、雇用者である派遣元です。派遣先が派遣労働者を選定したら、派遣先と派遣労働者との間に雇用関係に似た関係が成立して、法律によって禁止されている労働者供給事業に該当してしまうおそれがあります。
派遣先に禁止される派遣労働者の特定行為として、以下のようなものがあります。
- 派遣予定者と事前に面接して、受入れるかどうか決定すること。複数の予定者と面接して選考することなどが特に禁じられる。
- 派遣先が派遣予定者に試験をして、受け入れの選考をすること。
- 派遣先が派遣元に対して派遣予定者の履歴書を要求して、選考すること。
- 派遣依頼のときに、派遣先が派遣労働者について性別・年齢等の条件を指定すること。
ただし、一定期間経過後には派遣先と派遣労働者が直接雇用契約を締結することが予定されている、紹介予定派遣の場合には、派遣先による派遣労働者の特定が認められます。
また、派遣労働者が、派遣前に派遣先の企業を確認して直接業務内容についての説明を受けてから仕事を受けるかどうか決めたいと希望した場合、派遣先の事業所訪問ができます。
このように、派遣労働者の自己判断によって事業所を訪問する場合には、派遣法によって禁止されている派遣労働者の特定行為には該当しません。
これに対して、派遣先や派遣元が、派遣労働者に対して事業所訪問を求めることはできません。今後派遣労働をする場合には役立つ知識なので、押さえておきましょう。
改正派遣法の概要派遣法は、制定以来何度か改正されていますが、2015年9月に最新の改正が行われています。そこで、この時の派遣法改正の概要を確認しましょう。
労働者派遣事業の許可制への一本化
改正前の派遣事業には、許可制と届出制の2種類がありました。
許可制の派遣事業のことを一般労働者派遣事業と言い、届出制の派遣事業のことを特定労働者派遣事業と言っていました。
しかし、労働者の権利を充分に保護するためには、すべての派遣事業を許可制にすることが好ましいとの判断から、改正後は、派遣事業の区別をなくし、すべての派遣事業を許可制にしました、
このことによって、今まで特定労働者派遣事業とされていた派遣事業でも許可制になるので、問題行動があれば許可を取り消すことなどが可能になり、コンプライアンスが徹底されることが期待されます。
派遣事業をより健全に行うことを目的にした改正です。
無制限の派遣期間を禁止する
派遣法の改正前は、派遣労働のうち、政令で定められた26業務についての労働者派遣には、期間の制限がありませんでした。しかし今回の派遣法改正により、すべての業務において期間制限が適用されることになりました。
派遣法が定める期間制限には2種類があります。
1つ目の期間制限は、事業所単位の期間制限です。同一の事業所に労働者を派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則として限度が3年になります。
派遣先が同じ労働者について、3年を超えて受け入れたい場合、派遣先企業の労働組合等から意見を聞かなければなりません。
派遣可能期間を延長しても、以下に説明する個人単位の期間制限を超えて、同じ派遣労働者を1つの派遣先に派遣することは認められません。
2つ目の期間制限は、派遣労働者個人単位の期間制限です。これは、1人の派遣労働者については、派遣先の同一の組織単位に対して派遣できる期間の限度を3年にする制限です。
組織単位を変えれば、同じ派遣先に1人の労働者を派遣することも可能ですが、そのためには、前提として、事業所単位の派遣期間延長ができていることが必要です。
なお、派遣労働者が派遣元に無期雇用されている場合や派遣労働者が60歳以上の場合、勤務日数が少ない場合などには、期間制限が設けられないこともあります。
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雇用安定措置とキャリアアップ制度の導入
改正前の派遣法では、派遣元に期間終了後の雇用安定を図る義務はありませんでしたが、改正後は、雇用安定措置をとることが必要になります。
具体的には、派遣元は、継続して就業する見込みが一定期間以上あって、継続就業を希望する有期雇用の派遣労働者については、以下のいずれかの措置をとる必要があります。
- 派遣先へ直接雇用を依頼する
- 新たな派遣先を提供する
- 派遣元での無期雇用をする
- その他安定した雇用の継続を計るために必要な措置をとる(有給の教育訓練や紹介予定派遣など)
キャリアアップ制度も導入されました。これにより、派遣元にはキャリアアップのための措置をとる義務が課されます。
具体的には、派遣元が派遣労働者に対して教育訓練をしたり、希望者に対して、キャリアコンサルティングを行ったりする必要があります。
派遣先は、派遣元の要求に応じて、派遣労働者の職務遂行についての状況や遂行能力が向上している度合など、キャリアアップ支援のために必要な情報を派遣元に提供したり、便宜を図ったりする必要があります。
以上のように、派遣法では派遣労働者を守るため、いろいろな規制や制度を導入しています。今、派遣労働者として働いていたり、今後派遣労働者として働く予定があったりする人は、是非とも押さえておきましょう。
パート・アルバイトという雇用形態
現代社会では、働き方がとても多様化しています。中でもパートやアルバイトの形態で労働をしている人は多いです。パートやアルバイトの場合、正社員のように拘束時間が長くないので、他にすべきことがある人などでも、片手間に働くことができて便利です。
よくあるのが、学生がアルバイトをしていたり、主婦がパートに出たりするケースです。
パートやアルバイトも1つの労働形態であり、パート労働者もアルバイト労働者も労働者としての権利を持っています。
しかし、これらの労働者の場合、どうしても正社員より待遇が悪くなったり保障が薄かったりして、差別的な取り扱いが行われることが多いという問題があります。
そこで、パートやアルバイトの労働者の権利を守る法律について知っておくことが大切です。以下で順番に見ていきましょう。
パート・アルバイトの労働者の権利をご説明する前提として、まずはパートとアルバイトの違いを確認しておきましょう。
パートとアルバイトの違いを聞かれたら、「パートは主婦、アルバイトは学生」などとイメージすることが多いかと思われますが、実はこの2者には、法律上の明確な違いはありません。いずれも短時間の労働者を指します。
会社によっては、パートとアルバイトという言葉を使い分けていることもありますが、法律上の意味はありません。
パート労働者でもアルバイト労働者でも、同じように労働基準法やパートタイム労働法などによる保護を受けるので、アルバイトだから保護されないなどと考える必要はありません。まずは押さえておきましょう。
パートやアルバイトの短時間労働者は、正社員に比べて待遇が悪くなることが多く、同じように働いていても差別的な取り扱いを受けることがあります。
そこで、パートタイムの労働者を守る法律として、パートタイム労働法が定められています。
以下では、その内容の概要をご説明します。
まず、パートタイム労働者とはどのような労働者のことを言うのか、確認しましょう。これについては、パートタイム労働法2条に規定されています。
具体的には、1週間の所定労働時間が、同じ事業所で働いている正社員労働者より短い労働者のことを、短時間労働者(パートタイム労働者)と言います。
パート、アルバイト、嘱託、契約社員などの名称にかかわらず、正社員よりも所定労働時間が短ければすべての労働者はパートタイム労働者になるので、一般に考えられているよりもかなり広い範疇になります。
パートタイム労働法では、パートタイム労働者保護のためにさまざまな措置を講じているので、順番に確認します。
入社時の労働条件の書面による明示
パートタイム労働者を雇用するとき、会社は雇用予定者に対して、以下の内容を明示する必要があります。
- 昇給があるかどうか
- 退職手当があるかどうか
- 賞与があるかどうか
これらについては、口頭で行うことは認められず、文書によって明示することが義務づけられています(パートタイム労働法6条)。
さらに、契約期間や労働時間、賃金や休日、退職などの重要事項についても書面で明示する必要があります。
そこで、パートタイム労働者であっても、労働条件についてわからない場合には、雇用契約書や労働条件通知書、就業規則などによって確認することができます。今まで意識していなかった場合には、一度確認するとよいでしょう。
正社員と同じ仕事をしているにもかかわらず給料が安いので不満がある場合などには、会社に説明を求めることもできます。
正社員への転換(パートタイム労働法第12条)
パートタイム労働法では、パートタイマーに正社員への転換権を認めています。
会社は、パートタイム労働者が正社員に転換しやすい環境を作る義務があり、具体的には、以下のような措置をとることが必要です。
- 正社員を募集する際には、雇用中のパートタイム労働者に周知する。
- 正社員のポストを社内で公募するとき、雇用しているパートタイム労働者に応募する機会を与える。
- 試験などによる正社員への転換制度を用意する。
- その他、正社員へ転換を推進する制度をつくる。
現在パートタイマーをしていて、正社員への転換を希望している場合には、具体的にどのような制度を導入しているのか、勤務先の企業に確認すると良いでしょう。
パート・アルバイトの社会保険パートやアルバイトの場合、社会保険に加入していない人が多いイメージがありますが、一定以上の労働時間働いている人の場合、パートやアルバイトでも社会保険が適用されます。
社会保険とは、会社で加入する健康保険や厚生年金保険などのことです。社会保険に加入すると、毎月社会保険料を支払う必要がありますが、半額を会社側が負担してくれるので、自分で国民健康保険に加入するよりも保険料が低くなることが多いですし、将来もらえる年金が多くなり、保障が手厚くなります。
現在では、基本的に週30時間以上働く労働者が社会保険に加入することになっていますので、パートやアルバイトの労働者でも週30時間以上働く場合には社会保険に加入します。
さらに、2016年10月からは、社会保険の適用対象が更に広がります。具体的には、従業員が501人以上の事業所においては、週20時間以上働く労働者も社会保険に加入することになります。そこで、これまでは労働時間が短くて社会保険に加入できなかった人でも今後は加入できる可能性があります。
社会保険に加入すると、保険料が給料から天引きされるようになるので、負担が増えるようにも思えますが、上記のようにメリットもあるので、正しく理解しておきましょう。
パート・アルバイトでも割増賃金の適用があるパートやアルバイトでも、深夜労働をすることがあります。
一般の労働者の場合、深夜労働をしたら割増賃金が適用されますが、これについてはパート・アルバイトの場合に適用されないという誤解があります。パートタイムの労働者であっても、深夜の割増賃金が適用され、25%以上の割増賃金を支払わなければならないことになっているので、覚えておきましょう。
また、パートタイム労働者であっても、法定休日に出勤して働いたら、やはり割増賃金を請求できます。この場合、割増率は35%以上となります。
就業先で、パートなので割増賃金が適用されないと言われたら、それは間違った理解ですので、正しい計算をしてもらう必要があります。
以上のように、パートやアルバイトの場合でも、労働者としての権利があり、正社員になる道も開かれています。今短時間労働をしている人は、この記事を参考にして、しっかり権利主張をしていきましょう。
参考コンテンツ:
パートは雇用保険に入れないの?
パートが裁判員に選ばれた!有給はもらえる?
パワハラについて
労働者が遭う可能性がある法的なトラブルに、パワハラがあります。
パワハラとは、パワーハラスメントの略で「職場において、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景にして、適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為や職場環境を悪化させる行為」です。
職場での立場上の優位性があることが前提なので、たとえば上司が部下に対して日常的に暴言を吐いたりするような場合にはパワハラになる可能性があります。
パワハラ被害に遭うと、職場で働くことが辛くなって辞めざるを得なくなったり、うつ病などにかかって体調を悪化させてしまったりするケースも多いので、注意が必要です。
パワハラに遭った場合の対処方法なども知っておくと役立ちます。
以下では、パワハラとその内容、対処方法などを順番に見てみましょう。
ひと言で「パワハラ」と言っても、その内容は様々です。一般的には、上司が部下に怒鳴るなどの高圧的な態度をとったり胸ぐらをつかんだりなどの暴力的な行為をすることをイメージすることが多いですが、実は、パワハラの範疇はもっと広いです。
厚生労働省によると、パワハラは、以下のようなタイプに分類されます。
身体などに直接攻撃をするタイプのパワハラです。たとえば殴ったり蹴ったり胸ぐらを掴んだりします。
タバコの火を近づけて脅したり、物にあたって威嚇したりするケースも含まれます。
言葉による暴力です。暴言を吐いたり罵声を浴びせたり、侮辱的な発言をしたり、脅したりする言動をすると、これに該当します。
人間関係から切り離すパワハラ職場において、無視したり仲間はずれにしたり、必要な仕事を教えなかったり、必要な会社の連絡事項を伝えなかったりする場合です。このようなこともパワハラの一例になります。
過大な要求型パワハラ部下に対して達成できるはずがないほどのノルマを課したり、終わらない量の仕事を与えたりして、過大な要求をする行為です。
過小な要求型パワハラ掃除や雑用などばかりをさせて、本来の仕事を与えてくれない場合などです。本人が不満を感じていると、パワハラになります。
個を侵害するパワハラ部下に対して執拗にプライベート情報を聞いてきたり、仕事後にしつこくメールなどで個人的に連絡して誘ってきたりした場合などにはパワハラになる可能性があります。特に、男性の上司が女性の部下に対してこの型のパワハラをした場合には、セクハラになる可能性もあります。
以上のように、パワハラと言ってもいろいろなケースがあります。一般的にはパワハラと思われていないようなケースでもパワハラになることがあるので、これを機会に抑えておきましょう。
パワハラに遭った場合、労災保険を申請出来る可能性があります。
労災保険とは、業務中や通勤途中に業務に関連して傷害や病気にかかった場合に申請出来る保険のことですが、パワハラも、業務中に行われるものなので、一定の要件を満たせば労災の申請が可能です。
パワハラを原因として労災申請をする場合、以下のような要件が必要です。
精神障害を発症していること
労災は、怪我や病気をした場合におりる保険なので、パワハラが行われても具体的に症状が出ていなければ申請することはできません。
たとえば、うつ病や心因反応、睡眠障害や適応障害などがあります。
うつ状態などと診断されるケースもあります。
発症前6か月間において、業務にもとづく強い心理的負荷がある
労災が認定されるためには、業務によってその症状が発症したことが必要です。そこで、うつ病などになった場合、それ以前の6ヶ月間に、とくに心理的な負荷がかかっていた状況が必要です。
これについては、発病前の6カ月間に職場で起きた出来事について、ストレスの強い順に3段階で評価して評価表に書き込む方法で判定します。
現在では、「退職の強要」だけではなく「いじめ、嫌がらせ」が高いレベルであるⅢと判断されるため、パワハラでも労災認定される可能性が高くなっています。
発病が職場以外の心理的負荷によらないこと
精神障害を発症しているとしても、それが業務と無関係であれば、パワハラによるものとは認められません。他の原因がなく、職場での心理的負荷が原因である必要があります。これについては、職場以外の心理的負荷評価表に記入することによって、判断されます。
このように、労災給付の条件を満たしていれば、パワハラでも労災を受けることができる可能性があるので、覚えておきましょう。
パワハラに遭った場合、ケースによっては被害届を出したり、相手を刑事告訴できたりする場合があります。
まず、パワハラ行為が名誉毀損罪に該当する可能性があります。
たとえば、第三者がいる前で誹謗中傷されたケースなどです。
また、事実を摘示せずに侮辱された場合には、侮辱罪が成立します。
さらに、脅迫的な言辞をされたら脅迫罪が成立する可能性がありますし、殴られたり蹴られたり等の暴力を受けた場合には、暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。
わいせつ行為をされた場合、セクハラ被害になりますが、同時にパワハラであるとも言えます。その場合には、強制わいせつ罪などが適用される可能性があります。
これらの罪で、相手を被害届や刑事告訴することができるので、覚えておきましょう。
職場でパワハラ被害を受けた場合、どのように対処すべきか抑えておきましょう。
この場合、まずは証拠を集める必要があります。どこへ相談するにしても、相手と交渉するにしても、証拠は重要です。
メールやボイスレコーダー、周囲の人の証言や病院にかかった際の診断書、メモなどをとっておきましょう。
そして、社内に相談機関がある場合には相談をします。
適切な機関があればそこに相談すれば良いですし、なければ人事部・上司の上司、社長、本部などに言います。
パワハラを受けたら、相手に対して慰謝料請求をすることができます。
上司に直接請求することができますし、それが難しい場合には、裁判手続きによって損害賠償請求をすることができます。
悪質なパワハラ行為があっても放置するなど、会社にもパワハラによる被害結果について責任が発生する場合には、会社に対しても債務不履行や不法行為にもとづいて、損害賠償請求ができる可能性があります。
以上のような法的手続きをとる場合には、弁護士に相談すると良いです。パワハラ対策のために具体的なアドバイスをくれますし、損害賠償の交渉や裁判などの手続を依頼してすすめてもらうこともできます。
以上のように、パワハラ被害を受けたら、我慢して泣き寝入りするのではなく、きちんと権利を主張して補償を受けるようにしましょう。
参考コンテンツ:
厚労省がパワハラを定義した!
パワハラ上司との会話を秘密録音。犯罪になる?
元部下の女性にセクハラとパワハラで訴えられそうです
自覚・悪気がなくても発生するセクハラ被害。予防と対処
セクハラは、パワハラと並んで、労働者が職場で被害に遭いやすいトラブルです。
セクハラ被害に遭うと、職場にいづらくなるので、仕事を続けることが難しくなり、無理をしていると、うつ病などの精神病にかかってしまうこともあります。相手に自覚がないため、我慢して仕事を続けているとセクハラ行為がどんどんエスカレートして、ときには強制わいせつや強姦などにつながってしまうケースもあります。
セクハラが起こった場合、労働者側に大きな被害が発生することはもちろん、加害者側も、多額の損害賠償請求をされたり、刑事事件になったりするので、やはり大きな不利益を受けます。
そこで、セクハラのことをきちんと理解して、そのような問題が起こらないようにする必要があります。
以下では、セクハラとはどのようなもので、セクハラを予防するためにどうしたらいいか、またセクハラに遭った場合の対処方法について、解説します。
セクハラの予防策や対処方法についてご説明する前提として、まずはセクハラとはどのようなものか、確認しておきましょう。
セクハラとは、職場における、労働者の意に反した性的な言動によって、その労働者が労働条件について不利益を受け、または就業環境が害されることです。
セクハラの加害者は、パワハラよりも広いです。会社役員、上司だけではなく、部下や同僚も含まれますし、顧客や取引先の社員等も加害者になります。
また、男性から女性に対する言動だけではなく、女性から男性に対する言動や同性間のやり取りも、セクハラになる可能性はあります。
セクハラが成立するためには、それを受けた労働者が嫌だと感じる必要があります。性的な言動をされた人の個人的な認識によって、評価が全く異なるので、難しい面があります。
同じことを言ったりしたりしても、それを受け止めた人が嫌悪感を持ったらセクハラになる事がありますし、それを受け止めた人が平気だったらセクハラにはなりません。
たとえば、職場での恋人同士であれば、性的な会話をしても、セクハラだと言われることはないでしょう。
このように、セクハラには相対的な側面があるので、ある人には言っても大丈夫なことが、他の人に言ったら「セクハラ」と言われてしまうおそれがあります。
自分が知らず知らずの間に相手に対して不快感を与えていないかどうかを常に考えて、職場での言動には慎重になる必要があります。
次に、セクハラには、具体的にどのような態様があるのか、見てみましょう。
セクハラ行為についての厚生労働省の指針によると、セクハラ行為には2種類があるとされています。
それは、対価型セクハラと環境型セクハラです。
対価型セクハラ
労働者に対して性的な言動をしたとき、それを受けた労働者が拒否や抵抗をしたことによって、その労働者を不利益に取り扱うタイプのセクハラです。
たとえば、性的な言動を拒絶した労働者を解雇、降格、減給したり、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象から除外したり、客観的に見て不利益な配置転換したりします。労働者はこれらの不利益を受けることをおそれて、セクハラ被害を我慢してしまうことになります。
典型例としては、事業所で事業主が労働者に対して性的関係を求めたけれども労働者が拒絶した場合に解雇すること、出張中の車の中で、上司が労働者の胸などに触ったところ、抵抗を受けたので、不利益な配置転換をすること、事務所内で、事業主が日頃からその労働者の性的な事柄を皆に聞こえるように発言していたところ、抗議されたので、その労働者を降格することなどがあります。
環境型セクハラ
特定の相手に限られず、会社全体の環境がセクハラになり、労働者の労働意欲が低下する場合です。
たとえば、事務所内において上司が部下の胸などを何度も触ったため、部下が苦痛に感じて就業意欲がなくなってしまったり、同僚が取引先で、本人についての性的な内容の情報を話し続けたため、本人が苦痛に感じて仕事が手につかなくなったり、事務所内にヌードポスターを掲示していることが原因で、労働者が苦痛に感じて仕事に専念できなくなったりする場合が典型的な例です。
その他、恋愛経験や結婚について質問をするケース、男性社員を無理やり風俗店に誘うケースなども環境型セクハラに該当する可能性があります。
環境型セクハラの加害者は、女性への差別意識を持っていたり、職場から女性を排除したいという気持ちやコンプレックスを持っていたりすることが多いと言われています。
セクハラ行為の加害者には、自覚がないことも多いです。そこで、以下では具体的に、どのような行為がセクハラになるのかを確認しておきましょう。
たとえば、以下のような言動をすると、自分では特に問題を感じていなくても、相手からセクハラと言われてしまうことがあります。
- 「彼氏いるの?」と聞く(異性との交際関係)
- 「好みの男性のタイプはどんな人?」と聞く(異性の嗜好)
- 「一緒に食事に行こう」などとしつこく誘う
- カラオケでデュエットを強制する
- 飲み会でとなりに座らせる
- スクリーンセーバーや壁紙を女性の裸の画像にする
- わいせつな本や週刊誌などを開いた状態で事務所内に置く
以上のような行為をすると、それを受けた側が嫌悪を感じたときにセクハラになってしまう可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。
法律によるセクハラ予防策法律では、セクハラに対してどのような規制をしているのか、見てみましょう。
セクハラの規制をしている法律は、男女雇用機会均等法です。
同法11条は、事業主に対し、セクハラ被害が起こらないように、被害者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整えたり、必要な措置をとったりしなければならないと定めています。
そこで、厚生労働省は、セクハラ防止のために事業主がとるべき措置の指針を発表しているので、以下でご紹介します。
- 職場でのセクハラや、セクハラがあってはいけないという方針を明確にして労働者に周知啓発すること
- セクハラ行為者を厳正に対処する旨の方針や対処の内容を労働者に周知啓発すること
- 相談窓口を設けること
- 相談窓口の担当者が、広く相談に対応し、適切に対応できるようにすること
- 事実関係を迅速、正確に確認すること
- 事実確認ができたら、速やかに被害者へ配慮する措置を適正に行うこと
- 事実確認ができたら、行為者に適正な措置を行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること
- 相談者や行為者等のプライバシーを保護するための措置を講じて、周知すること
- 相談したことや、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いをしてはいけないことを定めて、労働者に周知啓発すること
以上のように、法律は、事業所にセクハラ予防策をとらせることによって、効果的にセクハラ被害を予防しようとしているので、覚えておきましょう。
セクハラに遭った場合の対処方法最後に、セクハラ被害に遭った場合の対処方法をご紹介します。
セクハラ被害に遭ったら、相手にその行為を辞めさせなければなりません。
そのためには、拒否の姿勢を明確にする必要があります。自覚がない加害者の場合には、これによってセクハラ行為が止まることもあります。
拒絶したことを明確にするため、書面やメールなど証拠が残る方法で通知した方が良いでしょう。
次に、人事部や他の上司などに相談します。
それでも被害が収まらなければ、都道府県労働局雇用均等室や、各地の労働基準監督署などに相談しましょう。
相手が悪質な場合、相手に対して不法行為にもとづいて損害賠償請求することができますし、会社の対応が不十分な場合には、会社に対しても債務不履行や不法行為にもとづく損害賠償請求をすることができます。
そのためには、弁護士に相談すると良いです。弁護士であれば、とるべき措置を教えてくれますし、相手や会社への請求手続きを適切にすすめてくれるからです。
示談交渉の代理人をしてもらうことも可能ですし、裁判になっても安心して手続きを任せることができます。
以上のように、セクハラを防止するためには、会社や各労働者が自覚を持って、セクハラを許さない意識を持つことが大切です。
この記事をきっかけに、日頃の行動を、一度振り返って考えてみるのも良いでしょう。
参考コンテンツ:
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労働に関する悩み・問題は相談窓口へ
会社で勤務している場合など、自分が労働者の立場である場合には、労働トラブルに遭う可能性があります。自分は大丈夫だと思っていても、突然解雇されたり減給されたりすることもありますし、職場でパワハラやセクハラ被害を受けたりすることもあります。
労働トラブルを抱えた場合、労働者が自分一人で解決することは極めて困難です。
労働者は一個人であるのに対し、相手は大きな企業であったり職場の上司であったりするので、訴えていったことによりかえって不利益な処分をされたりするケースもあります。
労働者個人は、法律問題についての知識も少ないので、どのように対処すれば良いのかがわからないことも多く、泣き寝入りするケースもたくさんあります。
このような労働トラブルを上手に解決するためには、労働問題を誰かに相談することが必要です。適切な機関に相談をして、適切なアドバイスを受けることにより、問題が解決できることも多いです。
以下ではどのような機関で労働相談ができるのか、順番に見てみましょう。
労働問題は、誰にでも起こりうる身近なトラブルです。そう言われても、さほど多いとは思えないという方もいるかもしれないので、労働問題の相談件数が実際にどのくらいあるのか、見てみましょう
厚生労働省の発表によると、各都道府県の労働局や労働基準監督署に寄せられた労働相談の件数は、平成14年から毎年60万件を超えており、だんだんと増えて平成20年には100万件を優に超え、その後も毎年100万件以上の件数で推移しています。
このように、労働局や労働基準監督署への相談だけでも、毎年100万件以上の相談があるので、全国で多くの労働トラブルが起こっていることがわかります。泣き寝入りしている人や、別の相談機関に相談している人もいるはずですから、実際のトラブルの件数はもっと大きくなるはずです。
労働トラブルは決して他人事ではありません。
労働問題の相談をする場合、具体的にどのような内容の相談ができるのか、確認しておきましょう。
これについては、相談先の機関によっても異なりますが、基本的に労働トラブルに関することであればどのようなものでも相談できます。
多いのは、賃金未払や退職、解雇の問題、職場での嫌がらせ行為や労働契約に関する相談です。
賃金未払いの相談としては、残業代未払の問題や、給料、退職金が支払われないというものがあります。労働者は賃金によって生活をしているので、これが支払われないと大変な不利益を受けます。
次に、退職や解雇の相談としては、「退職後に利用できる制度はどのようなものか?」とか、「不当解雇されて困っている」「会社が退職を強要してくる」「雇い止めをされた」などの相談があります。
さらに、職場嫌がらせの相談としては、パワハラやセクハラの相談が多いです。「上司がパワハラ行為をするので精神的に参っている」「職場で仲間はずれにされている」「セクハラを告発したら、不当な配置転換をされた」などがあります。
労働契約の相談としては「長時間労働が続いている」「いきなり減給された」などがあります。
このような労働トラブルは、誰にでも起こりうるものですので、自分もいつ当事者になるかわからないことをしっかり認識しておきましょう。
労働問題の相談先具体的に労働トラブルをどのような機関で相談できるのか、確認しましょう。
厚生労働省 総合労働相談コーナー
厚生労働省がもうけている労働相談の窓口です。各都道府県の労働基準監督署と連動しており、労働条件やいじめ・嫌がらせ、募集・採用の問題など、あらゆる分野の労働相談を受けてくれます。労働者からも事業主からも相談でき、専門の相談員が、面談あるいは電話で対応します。
他機関とも連携しており、希望がある場合には、裁判所や地方公共団体等の他の紛争解決機関についても情報提供してくれます。紛争調整委員会によって、あっせん手続きをしてくれるケースもあります。
全国労働組合連合会(全労連)のホットラインでも、労働相談ができます。
フリーダイヤルに電話すると、全国の地域の労働相談センターにつないでくれて、相談を受けることができます(0120-378-060)。
どのような分野の労働相談も可能ですし、電話で相談できるのも便利です。
各都道府県の労働局や労働基準監督署で労働相談を受けることができます。どのような労働問題でも相談することができます。
雇用主側の問題も相談可能です。
過労死についての相談窓口です。過労死弁護団全国連絡会が運営しています。
日本労働弁護団 労働相談ホットライン労働者保護を目的にして、全国の弁護士が作っている団体です。労働問題全般についての相談を受け付けているので、どのような問題も相談可能です。
首都圏青年ユニオン東京都近辺の首都圏で、職場でのいじめやセクハラ問題などの相談を受け付けてくれます。秘密は厳守されます。
女性ユニオン東京東京で、職場で悩みを抱える女性の人権やセクハラなどについての労働問題の相談を受けてくれます。
日本労働組合総連合会 何でも労働相談日本労働組合総連合会が運営している労働相談窓口で、労働問題全般の相談を受けることができます。
(財)労災サポートセンター 労災年金支援センター労災年金などについての相談窓口です。財団法人労災年金福祉協会が運営をしています。
(財)労災保険情報センター(RIC) 相談窓口労災保険と労災医療についての労働相談を受け付けています。
派遣労働ネットワーク 派遣労働相談派遣労働について、全般的に相談に乗ってもらうことができます。
東京都労働相談情報センター ロードー110番職場でのトラブルなどについて相談ができる窓口です。アルバイトなどの問題も相談出来ます。
公共職業安定所 (ハローワーク)雇用保険の申請や受給について相談することができます。
NPO法人 労働相談センター創設27年目の労働相談窓口で、長年の信頼と実績によって問題解決のためのアドバイスをしてくれます。電話・メール・面談で相談できます。
労働問題全般の相談ができて、メールでも相談ができるので、便利です。
労働トラブルを弁護士に相談したいときに利用できます。
経済的に余裕がない人の場合、無料で弁護士に相談ができます。
法律に関わる労働問題全般を相談できるので、法的に対処をしたい場合などに便利です。弁護士を探している場合にも利用できます。
弁護士に直接相談することもできます。労働トラブルが起こって、相手に対して損害賠償請求をしたり、解雇の無効を確認したりなど、法的な対処をする場合には、弁護士のサポートが必要です。
ホームページなどで労働問題に強い弁護士を探して、一度相談に行ってみると良いでしょう。
以上のように、労働相談ができる窓口はたくさんあります。労働トラブルに遭ってしまった場合には、是非とも利用してみましょう。
今回は、労働問題について解説しました。労働問題は、誰にでも起こりうる身近な法律トラブルです。今は平穏に職場で働いていても、労働トラブルは他人事ではありません。
給料や退職、解雇、有休や育休、労災やパワハラ、セクハラなどその内容もさまざまです。
派遣労働者やパートタイマーの場合には、正社員とは異なる取り扱いがなされることがあることから、法的な問題が発生することもあります。
このような労働トラブルは、未然に防ぐことが重要ですし、実際に遭ってしまった場合には、適切な機関に相談することが重要です。
今回の記事をきっかけに、労働問題について一度しっかり考えてみることをおすすめします。
労働を得意としている弁護士
谷澤 悠介 弁護士 大阪府
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コロナの疑いがあり会社を休んだが、派遣社員なので休業手当の請求先がわからない。派遣元、派遣先共に休業手当を出してくれないことってありますか?