2020年4月1日より中小企業にも適用|改正労働基準法の内容を解説
[投稿日] 2020年07月29日 [最終更新日] 2020年07月29日
相談窓口(労働基準監督署・労働相談センター)を得意としている弁護士
ここ数年、社会では働き方改革を推進する流れが強まっています。
今般の新型コロナウイルス感染症の影響拡大も、テレワークの普及などの面で、働き方改革にますます拍車をかけているといえるでしょう。
法制度上も、従来から働き方改革に関する法改正についての議論が行われており、2019年4月1日から、大企業向けに改正労働基準法が施行されました。
そして2020年4月1日から、改正労働基準法の適用範囲が中小企業にも拡大され、中小企業にも新法への対応が求められるようになりました。
この記事では、2020年4月1日から中小企業にも適用される改正労働基準法の新ルールについて詳しく解説します。
1. 改正労働基準法による新しいルールの内容改正労働基準法によって新たに中小企業に適用されるルールは、大きく分けて以下の5つとなっています。
1-1. 時間外労働の上限規制を法律上明文化36協定によって定められる労働者の時間外労働について、労働基準法上、上限時間などが明文化されました。
36協定を締結すると、使用者は労働者をして、「1週間あたり40時間、1日あたり8時間」(労働基準法32条)という法定労働時間を超えて労働をさせることができます(同法36条1項)。
従来は厚生労働大臣の告示によって、36協定において定めることのできる時間外労働について上限などの条件が設けられていました。
また、臨時的に上限時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を締結することによって、上限なく時間外労働を行わせることができていました。
今般の改正では、告示の内容が罰則付きで法律上明文化されたとともに、臨時的な特別の事情がある場合についても上限時間が設定されました(同法36条4項、5項)。
具体的には、36協定においては以下の範囲内で時間外労働の時間数を定めなければなりません。
<36協定における時間外労働の時間数の上限>
原則:月間45時間、年間360時間
臨時的な特別な事情がある場合:月間100時間、複数月の平均80時間、年間720時間
労働者が年次有給休暇を取得しやすくなるように、使用者に対して、労働者に有給休暇を取得させることが一部義務化されました。
具体的には、10日以上の有給休暇を得る労働者について、時季を指定して5日以上の有給休暇を与えなければならない/span>とされています(労働基準法39条7項)。
1-3. 高度プロフェッショナル制度の導入v高度な専門性を有する人材について、生産性向上を目的として、より自由な働き方を認めるための「高度プロフェッショナル制度」が導入されました(労働基準法41条の2第1項)。
具体的には、以下の条件をすべて満たす場合、当該労働者について高度プロフェッショナル制度が適用されます。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者については、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する労働基準法の規定が適用除外となります。
<高度プロフェッショナル制度適用の条件>
(1)労使委員会における5分の4以上の賛成により、高度プロフェッショナル制度の導入が決議されたこと
(2)労働基準監督署長に高度プロフェッショナル制度導入の届出を行ったこと
(3)対象労働者の同意を書面で取得したこと
(4)使用者と労働者の間の合意に基づき、職務内容が明確に定められていること
(5)労働者の年収の見込み額が1075万円以上であること
なお、高度プロフェッショナル制度の対象労働者について、使用者は健康管理などを目的とした一定の措置を講じなければならないとされています。
1-4. フレックスタイム制の自由度拡大フレックスタイム制とは、「清算期間」の範囲内における総労働時間をあらかじめ定めておき、始業時間・終業時間の判断を労働者に委ねる制度をいいます。
今般の改正では、清算期間の上限が1か月から3か月に延長され、より柔軟なフレックスタイム制の設計が可能となりました(労働基準法32条の3第1項第2号)。
1-5. 中小企業でも月間60時間超の時間外労働に割増賃金率を適用労働基準法37条1項では、労働者が1か月当たり60時間を超える時間外労働を行った場合、超過分については50%以上の割増賃金を支払わなければならないとされています(60時間以内の時間外労働については、割増率は25%以上)。
現状では、60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金率は、中小企業に対しては適用が猶予されています。
しかし今般の法改正により、2023年4月1日から、中小企業に対しても50%以上の割増賃金率が適用されるようになります。
改正労働基準法では、現代社会の実情に合った働き方を推進するための多くのルール改正が行われました。
改正労働基準法が中小企業にも適用されることにより、以下の効果が期待されています。
改正労働基準法では、時間外労働に関する規制の強化や、有給休暇を取得させる義務の明文化など、労働者の長時間労働を抑制する方向でのルール改正が見られます。
その結果として、年間での総労働時間を圧縮する、より短い期間に注目した場合の業務集中を緩和するなどの取り組みが期待されています。
企業の側から見ても、労働者の労働時間を抑制することにより、人件費を削減できるメリットがあります。
高度プロフェッショナル制度の導入や、フレックスタイム制の自由度拡大に見られるように、改正労働基準法では、企業が労働者に対してより多様な働き方を認めることが推奨されています。
これらの制度の導入は任意ですが、企業・労働者のそれぞれにとって、法律上採用し得る働き方の選択肢が広がったことは大きな意味を持つでしょう。
3. 中小企業に求められる改正労働基準法への対応について改正労働基準法の内容を踏まえて、中小企業が取るべき対応について解説します。
3-1. 従業員の勤怠管理を徹底するもっとも大きなポイントとしては、時間外労働に関する規制および有給休暇を取得させる義務に対応して、労働者の勤怠管理を徹底すべきということが挙げられます。
まずは、従来会社が定めていた就業規則その他の社内規則の内容が、改正労働基準法の内容と矛盾していないかをチェックしなければなりません。
その上で、労働者の勤務実態が、改正労働基準法の内容に照らして適法であるかを常にモニタリングする仕組みを整える必要があるでしょう。
さらに、改正労働基準法で新たに導入された制度の利用も含めて、労働者により柔軟な働き方を認めることを検討することが望ましいでしょう。
働き方改革の流れは、今後も加速するものと思われます。
そのため、 「労働者から選ばれる企業になる」という観点からは、多様な働き方を認めているということが大きなプラスになるでしょう。
働き方に関する法制度の内容を正しく理解して、実際に労働者に対して働き方の選択肢を提供することは、会社の今後の成長にとって大きなメリットがあるといえます。
4. まとめ今回の改正労働基準法の内容は、近年の働き方改革の流れを大きく反映したものになっています。
今後も同様の流れによる法改正が行われる見込みは大きく、中小企業としても、法改正の動きを継続して注視することをおすすめします。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
問題は解決しましたか?
弁護士を検索して問い合わせる
弁護士Q&Aに質問を投稿する
相談窓口(労働基準監督署・労働相談センター)を得意としている弁護士
久保 陽一 弁護士 大阪府
スター綜合法律事務所田中 友一郎 弁護士 福岡県
天神南法律事務所トップへ
雇用保険、社会保険に入ると給料減額される?
相談窓口(労働基準監督署・労働相談センター) 2020年06月13日
以前に労働相談した者です。美容室に勤めており、雇用保険、社会保険、労災に加...
不利益な取り扱い。有給休暇による減額の無効を訴えたら時短(実質減給)を言い渡された。
相談窓口(労働基準監督署・労働相談センター) 2020年05月28日
【相談者の状況】 2016年よりパートで9:30~15:00(29時間/週...
株式会社なのに社会保険、雇用保険、労災に入ってない。最低賃金払ってくれない。なんの保証も無い中どうしたら良い?
相談窓口(労働基準監督署・労働相談センター) 2020年05月01日
今の美容室で働いて10年目になります。全部で42店舗、従業員は200名近く...