みなし残業制(固定残業代制度)違法なケースと正しい残業代の計算方法
[投稿日] 2019年07月22日 [最終更新日] 2019年07月22日
残業・休日出勤を得意としている弁護士
息子の会社がみなし残業制を導入するそうです。
私は聞いたことがない制度なのですが、よく使われているんですか?
はい、導入している会社は結構あります。
固定残業代制と呼ばれることもありますね。
それは違法じゃないんですか?
労働者にメリットはあるんですか?
確かに、違法に残業代を削減する手段として使われてしまうこともあります。
ではそれを防ぐためにもどんなケースが違法で、正しい残業代はどう計算すればいいのか、知っておきましょう!
目次 |
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私の会社にはこういう制度はなかったのですが、どういう制度ですか?
文字通り、残業したものとみなして残業代を支給する制度です。
詳しくご説明します。
1-1 「みなし労働時間制」の「みなし残業」
みなし残業代制度とは、あらかじめ一定時間の残業をしたものとみなし、その分の残業代を支給する制度です。
まずはみなし労働時間制である「事業場外労働」と「裁量労働制」における残業についてご説明します。
■事業場外労働通常、労働者は労働時間中、会社の具体的な指揮命令を受けています。
ですが事業場(会社)の外で働く外回りの営業担当者などは、会社が実際の労働時間の把握をすることが困難となります。
何時から何時まで実際に労働をしているか、明確ではないからです。
そこで事業場外労働については、労働時間の特別な算定方法が認められています。
この方法を適用するための要件は次の二つです。
- 事業場外労働であること
- 労働時間を算定し難いとき
「事業場外労働」には、1日のうち一部の時間のみ事業場外で働く場合も含まれます。
例えば朝9時に出社し、10時から外回りをするといった労働者も対象となります。
「労働時間を算定し難いとき」とは、会社の具体的な指揮監督が及んでいない結果、労働時間の算定が困難なときを意味します。
逆にいえば、会社の具体的指揮監督が及んでいる場合には適用されません。
例えば携帯電話などで上司から随時指示を受けている、展覧会での販売で働く場所と時間が限定されていて支店長もその場にいる、といった場合には、具体的な指揮監督が及んでいるため適用されません。
事業場外労働の適用があった場合、実際の労働時間とは無関係に、所定労働時間働いたものとみなされます。
例えば所定労働時間が午前9時~午後5時まで(休憩時間1時間)の7時間の会社があるとします。
この場合、8時間の労働をしたとしても7時間労働とみなされて、1時間分の時間外労働は認められないということです。
ただし所定労働時間を超えて働く仕事もあるため、そういった場合にこの原則を適用することは妥当ではありません。
そのため「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」は労働をしたものとみなされるという仕組みもあります。
この通常必要とされる時間は、労使協定により定めることができます。
例えば通常必要とされる時間を2時間とした場合、先の例で残業が2時間ではなく1時間で終了したとしても、9時間の労働をしたとみなされます。
裁量労働制とは、実際の労働時間とは無関係に一定の労働時間だけ労働をしたものとみなすという制度です。
弁護士や建築士、新商品の研究開発業務などのように、業務の遂行に大幅な裁量が与えられている労働者は、労働時間に対応した割増賃金を支給するのが適切ではありません。
むしろ労働の成果に応じて支払うのが適切であるため、裁量労働制が導入されています。
裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。
【専門業務型裁量労働制】専門業務型裁量労働制の適用対象となる専門業務は、法律により以下の6種類に限定されています。
- 新商品・新技術の研究開発または人文科学・自然科学に関する研究
- 情報処理システムの分析・設計
- 新聞・出版・放送における記事の取材・編集
- 衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新たなデザインの考案
- 放送番組・映画等の制作の事業におけるプロデューサー・ディレクター
- 厚生労働大臣の指定する業務(弁護士や建築士、弁理士など)
なおこれらの業務において裁量労働制を導入するためには、労使協定を締結する必要があります。
裁量労働制では実際の労働時間とは関係なく、一定時間労働したものとみなされますが、そもそもみなし労働時間が法定労働時間を超えている場合には、会社は割増賃金を支払う必要があります。
またそれが深夜に及ぶようなときにも、割増賃金を支払う必要があります。
企画業務型裁量労働制とは、専門業務型裁量労働制で法定された業務以外に、一定範囲のホワイトカラー労働者に対象を拡大したものです。
対象業務は法律で定められています。
対象業務が法定されている点、その効果の点では専門業務型裁量労働制と同じです。
導入の際は労使協定ではなく、労使委員会の決議、決議の労働基準監督署長への届出が必要となります。
1-2 「固定残業代制度」の「みなし残業」
割増賃金を支払うためには時間外労働を細かく把握・計算しなければならないため、会社側の業務が煩雑になります。
そこで1ヶ月○○万円というように、固定額の残業代を支払うという「固定残業代制度」が生まれました。
もっとも「制度」とはいうものの、みなし労働時間制と異なり、これは労働関係法令で定められている制度ではありません。
例えば毎月の固定残業代を月40時間の残業で5万円と設定し、実際の時間外労働が30時間で割増賃金4万円だった場合でも、会社は差額の1万円の返還を請求できないため、労働者の不利益となるものではありません。
労働者の不利益にならない制度を会社の判断で追加することは禁止されていないので、現在では広く採用されています。
ただし適法となるのは、現実の労働時間によって計算した割増賃金額が固定残業代を上回っている場合です。
先の例で実際の時間外労働が50時間、割増賃金が6万円であるにもかかわらず、固定残業代の5万円しか支払わないのであれば、それは違法となります。
会社は差額の1万円を支払わなければいけません。
固定残業代制度では、残業時間がいくら多くても割増賃金をいっさい受け取ることができないと勘違いしている労働者や会社も多いようですが、そうではないのです。
また割増賃金は、労働基準法24条2項の「毎月払いの原則」の適用を受けます。
そのため毎月決済をしなければならず、残業の少ない月にも固定残業代を支払っているとして、残業の多い月に固定残業代だけの支払いですませるということはできません。
みなし残業は面倒そうですが、導入するからにはメリットもあるんですか?
もちろんです。会社側にも労働者側にもメリットがあります。
具体的にご紹介します。
2-1 給与計算が楽になる
みなし残業制度導入のメリットとしてよく挙げられるのが、会社の給与計算業務が楽になり、効率化を図ることができるという点です。
例えば毎月のみなし時間を40時間とした場合、それを超えることがまったくなければ、会社は各労働者の残業時間を集計し残業代を算出しなくても済みます。
ですが通常、毎月の残業時間が40時間前後であることが多いために、月40時間をみなし残業時間としているはずであり、それを超えることもよくあるでしょう。
その場合には、差額の割増賃金を加算して支払う必要があります。
そのためには各労働者の残業時間を正確に把握していなければなりません。
つまり給与計算が楽になるというメリットは、多くの会社には妥当しないでしょう。
2-2 業務効率が上がる
みなし残業制を導入した場合、定められたみなし残業時間内に業務を終了させようとする労働者が増えます。
その結果、会社全体の業務効率もアップするというメリットがあります。
2-3 残業しなくても残業代がもらえる
業務効率アップさせて残業時間を圧縮する労働者にとっては、残業しなくても残業代を受け取ることができるというメリットがあります。
例えば所定のみなし残業時間を月40時間、固定残業代を5万円としたとします。
この場合、業務効率を上げて残業が0になったとしても、その労働者は固定残業代5万円を受け取ることができるのです。
息子はみなし残業制はそれ以上の残業代が出ないと思っているようです。
実際そうやって運用している会社もあるんじゃないですか?
確かに会社がその誤解を逆手にとって、残業代を支払わないケースもあります。
そのため労働者側もどのような場合に残業代が出るのか、知っておくことが大事です。
3-1 残業代発生根拠
残業には「法定時間外労働」と「法内残業」の二つがあります。
労働基準法は法定労働時間を1日8時間・週40時間と定めています。
これを超える労働を「法定時間外労働」といい、法定時間外労働に対しては法律上、必ず残業代を支払わなくてはなりません。
ただ会社によっては、例えば所定労働時間を午前9時~午後5時(休憩時間1時間)の、計7時間と設定しているところがあります。
この場合、午後6時まで残業をしたとしても8時間労働であるため、法定時間外労働とはならず、残業代は原則発生しません。このような法定労働時間未満の残業を「法内残業」といいます。
もっとも就業規則で所定労働時間を超えた分について割増賃金を支払うと定めてあれば、残業代が発生することになります。
このような定めをしている会社も多いようです。
3-2 まず1時間当たりの賃金を計算してみよう
違法なみなし残業については残業代の支払いを求めることができます。
そのためには残業代の計算方法を知る必要があります。
まずは1時間当たりの賃金を計算することから始めましょう。
給与明細には、基本給と固定残業代が分けて記載されている場合とそうでない場合がありますので、それぞれの計算方法を説明します。
給与明細に基本給と固定残業代が分けて書かれている場合には、次の式で1時間当たりの賃金を計算します。
「基本給 ÷ 月平均所定労働時間数」
「基本給」とは家族手当、扶養手当、教育手当、通勤手当、住宅手当、結婚や出産の際の臨時手当を除いたものです。
ただし就業規則でこれら手当も基本給とすると定めている会社もありますので、事前に確認しておきましょう。
「月平均所定労働時間数」は、次の式で求められます。
「(365日 − 年間所定休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12」
では具体例で計算してみましょう。
基本給20万円、年間所定休日数115日、1日の所定労働時間7時間とします。
この場合、1時間当たりの賃金は以下のようになります。
20万円 ÷{(365 − 115)× 7 ÷ 12 }= 約1371円
基本給と固定残業代が分けて書かれていない場合には、次の式を用います。
「支給額 ÷(月平均所定労働時間数 + みなし時間 × 1.25)」
これも具体例で計算してみましょう。
支給額30万円、年間所定休日数115日、1日の所定労働時間7時間、みなし時間が40時間とします。
この場合、1時間当たりの賃金は次のようになります。
30万円 ÷{(365 − 115)× 7 ÷ 12 + 40 × 1.25)}= 約1531円
3-3 支給されている固定残業代がみなし時間分の残業代に満たない
違法なみなし残業の一つとして、支給されている固定残業代が、そもそもみなし時間分の残業代に満たないというケースがあげられます。
例えば基本給と固定残業代が分けて記載されていて、固定残業代が5万円、みなし残業時間が40時間だとします。
この場合、1時間当たりの賃金は1371円で、1時間当たりの残業代は1.25を乗じた1713.75円です。
みなし残業時間40時間の場合には、正しい残業代は次の額になります。
1713.75 × 40 = 6万8550円
ところが支給されている固定残業代は5万円です。
つまり1万8550円少なく、違法なみなし残業ということになります。
3-4 みなし時間を超えても残業代を支払わない
違法なみなし残業で最も多いのが、みなし時間を超えた分に対して残業代が支払われていないというケースです。
これは会社も労働者もみなし残業制を誤解していたり、会社が制度を悪用して残業代を抑制していたりするために起こります。
みなし残業制を採用しても、みなし残業時間だけ残業したとみなすだけで、それより少ない残業であっても、会社は所定の固定残業代の支払いを免れることはできません。
またみなし残業時間を超過して残業をした場合には、会社はその超過時間に見合う残業代を支払わなければなりません。
その支払いがないことは、違法ということになります。
3-5 深夜手当・休日手当分が支払われていない
みなし残業には平日の残業だけでなく、午後10時~翌日午前5時の深夜手当(0.25倍)、週1回の法定休日労働の休日手当(1.35倍)を含むということもできます。
この場合には、固定残業代が実際の残業代・深夜手当・休日手当を計算した額を上回っている場合には問題はありません。
下回っている場合には違法であり、会社はその差額を支払わなければなりません。
例えば給料30万円、所定労働時間数170時間、平日残業時間30時間、深夜残業時間10時間としましょう。
1時間当たりの賃金は、以下の金額です。
30万円 ÷{(40 時間 × 1.25) + 170時間 + (10時間 × 0.25 )}= 約1348円
基本給や手当は次のようになります。
基本給:1348円 × 170時間 = 22万9160円
みなし残業手当:1348円 × 1.25 × 40時間 = 6万7400円
みなし深夜手当:30万円 − 基本給22万9160円 − みなし残業手当6万7400円 = 3440円
上記から、給料30万円のうち、固定残業代は次の金額になります。
みなし残業手当6万7400円 + みなし深夜手当3440円 = 7万840円
実際の残業手当及び深夜手当の額は
残業手当:1348円 × 1.25 × 40時間 = 6万7400円
深夜手当:1348円 × 0.25 × 10時間 = 3370円
残業手当6万7400円 + 深夜手当3370円 = 7万700円
となるため、適法な支給となります。
なお、みなし残業が深夜手当や休日手当を含んでいない場合には、会社はそれを支払う義務があり、支払わない場合には違法となります。
3-6 残業時間のカット
みなし残業制を採用していても、みなし残業時間を超える残業があった場合には、会社はその差額を支払わなければなりません。
残業時間の管理は、みなし残業制を採用したからといって不要となるわけではないのです。
労働者も残業時間が正確に把握されているか、しっかりチェックしなければいけません。
会社は残業時間を少なくして残業代を抑制しようとします。
その手段としてタイムカードなどの時間のカットもよく行われていて、これが合法だと認識している会社もあります。
例えば1ヶ月で20日の所定労働日数があり、毎日1時間、計20時間のみなし残業時間があるとします。
この場合、午後5時終業とされている会社では午後6時までの残業が可能です。
ところが「6時14分退社」と打刻されている場合、15分に満たないからとカットされるケースがあります。
ですが本来労働時間は1分単位で計算しなければならないため、これは違法です。
もし毎日14分カットされるとしたら、20日間で合計4時間40分にもなります。
みなし残業時間が20時間であるにもかかわらず、実際には24時間40分の残業となるため、会社は4時間40分に対する残業代を支払わなければいけません。
3-7 最低賃金を下回っている
労働者の経済生活の安定を目的として、最低賃金法に基づき、各都道府県では最低賃金が定められています。
例えば平成31年2月の東京都の最低賃金は、1時間当たり985円です。
支給額18万円、年間所定休日数115日、1日所定労働時間7時間、みなし時間40時間だとします。
この場合、1時間あたりの賃金は次の金額です。
18万円 ÷(250 × 7 ÷ 12 + 40 × 1.25) = 約919円
これは最低賃金を下回っており、違法なみなし残業です。
3-8 残業時間の上限を超えている
労働基準法は1日8時間、週40時間の労働時間を定めています。
つまり原則として、それを超える労働を認めていないということです。
ですが現実には法定時間を超える労働が必要な場合も多々あり、例外的に労使協定によってそれを認めるという制度があります。
労働基準法36条に定められていることから「36協定」と呼ばれています。
ただし36協定を締結したからといって、無制限の残業が認められるわけではありません。
上限は原則として月45時間(特別条項で60時間まで)とされています。
つまりこれを超えるみなし残業は違法となります。
3-9 他の名目で支給されている
固定残業代は「固定残業代」という名目で支払いをすべきであり、そうすることによって、どれが固定残業代なのかという労使間の争いを防止することができます。
ただし実際には他の名目で支払っている会社も多いようです。
例えば「〇〇手当」という名目で支払っている場合、それが形式的な名目で、実際に固定残業代なのかどうかが問題となります。
労働者はそれが名実共に「○○手当」であって、固定残業代ではないと主張・立証することによって、そもそも固定残業代制度が採用されていないことなります。
それは違法であるため、残業時間に見合った残業代を請求することができます。
その他によくあるのが「管理職手当」「営業手当」といった名目での支払いです。
例えば管理職に就くまでの間は残業代が支払われていて、管理職になって残業代がなくなり、代わりに管理職手当が支給されている場合です。
これは固定残業代とみることができるのでしょうか。
現実問題として、管理職となった後の方が給料がダウンしているのであれば、それを固定残業代とみることは難しいでしょう。
営業手当については、その算出方法が問題となります。
そもそも毎月営業手当が変動している場合には、固定残業制度が採用されていないと考えられます。
固定残業代は、毎月固定されているものだからです。
変動は営業実績に応じたものであると考えられるため、これは固定残業代ではなく名実ともに営業手当だとされます。
「歩合」という名目で支払われる場合も同様です。
営業手当や歩合が毎月同額であれば、固定残業代とみる余地が十分にあります。
第4章 みなし残業が違法だったときに請求できる残業代は?実際にどんなケースなら残業代を請求できるんですか?
大きく分けると、仕組み自体が違法な場合と、本来は支払われる分が違法に支払われていない場合とがあります。
4-1 制度自体が違法だった場合
以下のケースでは、採用されている固定残業代制度自体が違法無効となります。
- 支給されている固定残業代がみなし時間分の残業代に満たない場合
- 最低賃金を下回っている場合
- 残業時間の上限を超えている場合
- 他の名目で支給されている場合
したがって固定残業代制度は存在していないものとして、実際の残業時間に見合った残業代全額を請求することができます。
「他の名目で支給されている場合」には、営業手当名目で支払われていても、それは残業代ではないとされるため、残業代はまったく支給されていないことになります。
そのため残業時間に見合った残業代全額を請求することができます。
なお「支給されている固定残業代がみなし時間分の残業代に満たない場合」には、みなし時間分との差額について、「最低賃金を下回っている場合」には、最低賃金との差額について請求できるにすぎません。
また「残業時間の上限を超えている場合」には、みなし残業時間以上の残業をしていない場合は、差額は請求できません。
上限を超えてさらに残業をしている場合には次の「規定のみなし時間を上回る残業をしていた場合」と同様になります。
4-2 規定のみなし時間を上回る残業をしていた場合
既定のみなし時間を超えて残業をしていた場合には、その残業時間に見合う残業代を差額として請求することができます。
第5章 会社への請求方法未払い残業代があるとわかったら、どうやって会社に請求すればいいんですか?
様々な方法がありますが、まずは証拠を集めることから始めましょう。
具体的な方法や相談先をご紹介します。
5-1 必要な証拠は?
まず会社が固定残業代制度を採用していることを明らかにするための証拠として、「就業規則」などの労使協定書を準備します。
これらの書類は社員が閲覧できるように保管されているはずですので、その写しなどを入手しましょう。
また労働者側自ら、実際の残業時間を立証しなければなりません。
そのために残業時間が分かる資料を証拠として準備しましょう。
タイムカード、出勤簿記録、日報などがあります。
会社のパソコンを使用して仕事をしている場合には、そのパソコンの起動時間と終了時間のログも証拠となります。
ただしタイムカードや出勤簿記録、日報は、不正確な記載となっていることもよくあります。
例えば実際は午後7時まで残業していたのに、タイムカードを午後6時に打刻するように会社に命令された場合です。
このような場合には、パソコンの記録も補完資料とします。
差額精算をする場合には、実際の支払額との差額を求めるために、給与明細などが必要です。
「他の名目で固定残業としている」と会社が主張する場合には、それが毎月変動しているのであれば固定残業代とは言い難いため、過去の給与明細で立証できるでしょう。
5-2 どうやって請求する?
■裁判外で請求裁判外の請求とは、裁判所を介さず会社に直接残業代を請求する方法です。
労働者自身が行うか、代理人として弁護士に依頼し行ってもらいましょう。
証拠を用意して会社に請求するということになります。
ただし自ら行う場合にはなかなかうまくいかないこともあります。
残業代の問題については、相談窓口の一つに労働基準監督署があります。
会社を管轄する労働基準監督署に証拠書類を持ち込み相談しましょう。
労働基準監督署が会社担当者を呼び出し、会社側の主張も聞いたうえで、支払うように会社に是正勧告が行うことで、意外にすんなりと支払う会社も多いようです。
都道府県労働局が設置している総合労働相談コーナーを利用するという方法もあります。
都道府県労働局長の助言・指導、さらに紛争調整委員会によるあっせんにより解決を図ることになります。
■少額訴訟少額訴訟では、請求する未払残業代が60万円以下の場合に、会社所在地を管轄する簡易裁判所に訴えを提起します。
原則として1回の期日で終了します。和解で終了することもあります。
■労働審判労働問題の迅速な解決のために設けられた制度です。
会社住所地を管轄する地方裁判所に申し立てを行い、裁判官と労働審判員2名で構成される審判委員会の審理により、調停成立を目指します。
原則として3回の期日で終了させることになります。
期日が3回しかないため、最初から正確な主張とそれを裏付ける証拠を揃える必要があります。
この場合は弁護士に依頼をしましょう。
労働訴訟とは未払いの残業代の支払いを請求する、通常の民事訴訟です。
自ら行うにはかなり負担が大きいため、弁護士に依頼しましょう。
5-3 相談窓口は?
■労働基準監督署労働基準監督署では残業代の未払いなど、労働問題の相談を受け付けています。
匿名でも相談可能です。
会社所在地を管轄する監督署ではなく、どこの監督署でも相談できます。
都道府県の労働局では、総合労働相談コーナーを設けており、相談することができます。
■弁護士労働問題に強い弁護士に相談することもお勧めです。
各弁護士会の相談窓口で弁護士に相談することもできます。
会社の外部団体であるユニオンを利用する人も増えているようです。
ただユニオンは過激であることが多く、会社との関係が悪化することもよくあります。
報酬もかなり高額のところもありますので、事前によく調べてから相談するようにしましょう。
5-4 時効に注意
未払い残業代には消滅時効があります。
時効期間は毎月の給料支払日を起算点として、2年です。
この期間を経過した場合、間違いなく会社は消滅時効を主張してくるため、弁護士などの専門家に相談し、時効を中断する方策を取ったり、催告をして時効期間を先送り(6ヶ月)したりしましょう。
未払いの残業代請求について詳しくはこちらをご覧ください。
時代によって給与制度も変化しているんですね。
そうですね。
ただ働いた分はしっかりと受け取るという原則は今後も守られなければいけません。
日本ではかつてはサービス残業が横行していましたが、今はそのような時代ではなくなっています。
会社がハローワークを通じて求人をする場合も、固定残業代制度を採用している会社では、固定残業代についての労働時間数(みなし残業時間)と固定残業代の計算方法、これを除いた基本給額、固定残業時間を超過した場合には超過分に割増賃金を支払うことを、求人票に明示することが必要となっています。
労働者が労働時間に見合った賃金をもらうのは当然の権利です。
今は正当に受領する権利がある残業代を請求したからといって、会社や同僚から非難されることも少なくなってきています。
労働者自身も固定残業代制度とはどういうものか、残業代はどのように計算し、どこに依頼して請求するのかなど法的知識を身につけていきましょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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