退職・解雇・雇止め

退職・解雇・雇止め。会社を辞めたり辞めさせたりする時の掟
職場を退職する理由はさまざまです。自己都合で退職する場合だけでなく、意に染まない形で会社に解雇されたり、雇い止めに遭って事実上解雇されるときもあるでしょう。
退職は、それまで勤めていた職場を去り、会社などとの法律的な関係が一変する手続です。労働者と会社などの使用者との、双方が決められたルールを守らなければ、深刻なトラブルに発展しかねません。
そこで今回は、会社を辞める時に最低限守るべきルールや、辞めさせる時の決まり、トラブルの対処方法について、詳しく解説します。
「明日退職します」とある日突然告げても、周囲に迷惑をかけるばかりか、法律上のルールにも反することになってしまいます。
自己都合で退職をするにも、守るべきルールがあります。
いつ退職を申し出ればいい?
会社を自己都合で退職するには、まず、直属の上司に対して退職の意思表示をする必要があります。では、いつ退職を伝えれば良いでしょうか。
会社の就業規則や労働契約には、退職に関わる決まりごとが定められています。その内容をよく確認し、定められた時期や方法で退職手続を採る必要があります。
多くの会社では、退職の1ヶ月前までに申し出るように定める場合が多いようです。この時期より遅れないように、直属の上司に対して退職の意思を伝える必要があります。
引き継ぎ等を考慮し、ある程度の余裕をもって期間を定めることには合理性が認められますが、これが6か月前とか、1年前に申し出なければ退職できないというのであれば、労働者の退職の自由を不当に制限していることになり、無効となる場合があります。
もしも就業規則の定めがない職場のときは、退職の2週間経過前までに意思表示が必要です(民法627条1項)。
退職願か、退職届か
通常、退職の意思表示は、退職願または退職届を提出して行います。
退職願は、退職したいと申し出をする書類で、原則として会社が承諾するまでは取り下げることも可能です。
退職届は、退職するという最終的な意思を明確に伝える文書なので、強要されたような場合を除き、後で撤回できません。
両者は法律的な効果が異なるので、用途を間違えないようにしましょう。どちらを提出するかは本人の意思次第ですが、退職願を出した方がよりソフトなやり方といえるようです。
有期契約途中での退職
有期契約、つまり、契約期間が定められた労働契約の途中に退職は可能でしょうか。
これに関する定めは労働基準法になく、民法の規定が適用されます。原則として退職はできませんが、やむを得ない事由があれば契約途中で退職が可能とされています(民法628条)。
会社に退職を拒否されたときは、退職の事情を充分に説明し、理解を得る必要があるでしょう。
会社が退職を認めない場合
正社員が退職の意思表示をしたところ、今は忙しいと言われ、会社が認めないときがあります。こうした退職の拒否は許されるでしょうか。
正社員のように期限の定めのない労働契約を結んだときは、労働者には原則として退職の自由が認められます(民法627条1項)。会社は拒否できず、申し出から2週間が経過すれば退職が可能です。
もしも直属の上司が取り合ってくれないときは、会社の人事部長などの人事権を持つ相手に相談することで解決出来るときもあります。
会社が頑として退職願などを受け取らず、他に方法がないときは、内容証明郵便によって退職を通知することも考える必要があるでしょう。
退職金について
退職の際には、退職金を受け取れることが一般的です。
しかし、実は退職金の支給は、法律で定められた制度ではありません。退職金の支給額や支給方法が会社の就業規則などに定められ、これに従って支給されることになります。退職の際には、就業規則の内容をよく確認しておく必要があります。
ただ、会社が様々な理由をつけて、退職金の支給を拒んだり、減額する例もみられます。
しかし就業規則に不支給や減額の規定がない限り、減額などはできませんし、たとえ規定があったとしても、許されるのはごく限定された場合のみです。会社の対応を鵜呑みにせず、支給を請求していきましょう。
会社側に突然理由もなく解雇されたり、業績の悪化を理由にリストラに遭うとう場合があります。こうした解雇は許されるでしょうか。
解雇(普通解雇)についての法律の定め
会社側は、解雇から30日前に予告をするか、又は、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うことで、社員を解雇することができます(労働基準法20条1項)
しかし、労働者を一方的に解雇することには制限があり、合理的理由のない解雇は、解雇権を濫用したものとして、無効とされます(労働契約法16条)。
また、次の様な理由による解雇は法律で禁止されています。
- 国籍、信条又は社会的身分を理由とした解雇(労働基準法3条)
- 特別な状態にある者(業務上の負傷や病気療養、出産前後)の解雇(同19条)
- 解雇予告期間や解雇予告手当のない解雇(同20条1項)
- 労働基準監督署に申告をしたことを理由にした解雇(同104条2項)
- 男女差別による解雇(男女雇用均等法6条)
- 女性の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業の請求を理由とした解雇(同9条)
- 労働組合員であることを理由とした解雇(労働組合法7条1号)
リストラについて
また、会社の業績悪化などを理由とする、いわゆるリストラ(整理解雇)については、裁判所は次の4つの要件を満たさなければ、解雇権の濫用にあたり無効と判断しています。
- 人員整理の必要性:やむを得ない措置だったのかどうか
- 解雇回避の努力:解雇回避の努力を尽くしたかどうか
- 人員整理基準と人選の合理性:客観的・合理的な基準により選考されたか
- 労働者との協議手続:会社側が整理解雇について説明をしたか
このように、会社が社員を解雇できるのは、ごく限られた場合のみです。
解雇にどう対処したらいいか
会社がこれらのルールを守っていなければ、解雇は無効です。
会社に対して解雇理由等の証明書を請求し(労働基準法22条)、解雇の理由を確認した上で、取消等の請求を行う必要があります。
会社との話し合いをもっても解決できないときは、行政の相談窓口(労働局の総労働相談センター、都道府県の労働相談窓口)への相談や、話し合いのあっせんを受けて解決を試みることができます。
または、裁判所に民事裁判を提起したり、社員の地位を保全する手続、労働審判の申立などによって解決を図ることも可能です。
有期契約社員に対する雇い止めが多く行われ、大きな問題になっています。会社に雇い止めをされたときは、社員は従わなければならないのでしょうか。
雇い止めとは
雇い止めとは、有期契約社員の契約期間を更新せずに契約を終了させることをいいます。
なぜこの雇い止めが問題になるかというと、次のような事情があるためです。
働く期間が決まっている有期契約社員であっても、やむを得ない事由がなければ会社は契約の途中で解雇できません(労働契約法17条)。1年の契約期間であれば期限が来ることで契約は終了となります。
ただ、契約更新が可能な契約で何度も繰り返し更新されたときは、実質的には正社員と同じように期限のない契約で働き続けている状況にあります。こうした社員でも、会社側は雇い止めという簡単な方法を採れば辞めさせることができてしまいます。
悪質な会社が解雇しやすい有期契約社員を長期に亘って雇用している例も聞かれます。当然次回の更新もあると期待して生計を立てている有期契約社員は大きな打撃を受け、生活が立ちゆかなくなってしまうでしょう。
こうした事情から、最高裁の判例では雇い止めに一定の制限を設ける判断が出されていました。これを反映する形で2012年には労働契約法が改正され、雇い止めについて新たなルールが作られました。
詳しい内容は下記のとおりです。難しい言葉が並んでいますが、要するに、使用者が正社員と同じように働いてきた有期契約社員に対し、正当な理由もなく雇い止めをすることは、解雇権の濫用として許されない、ということです。
労働契約法19条の内容次のいずれかに該当する状況の下で使用者が労働者の契約更新を拒絶しても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が同じ労働条件で更新されたとみなされます。
- 過去に反復更新された有期労働契約で、雇い止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できるとき
- 労働者が、契約期間の満了時の契約更新に期待することに合理的な理由があると認められるとき
雇い止めには予告などが必要
厚生労働省は雇い止めから労働者を保護するため、次のような基準を作成しており、労働基準監督署はこの基準に従って会社を指導しています。
有期労働契約の締結及び更新・雇い止めに関する基準- 契約締結時の情報開示
労働契約の締結時に更新の有無や判断基準を明示すること - 雇い止めの予告が必要
3回以上の更新や1年以上働く労働者に対して、雇い止めを30日前までに予告すること - 雇い止めの理由を明示すること
労働者からの請求により理由を明示した証明書を交付すること - 契約期間をできるだけ長くするように配慮すること
1回以上契約更新し、かつ1年以上勤務する労働者に対して更新をするときは、契約期間をなるべく長くするように努めること
雇い止めを無効にできる裁判も
もしも不当な雇い止めをされたときは、裁判などで争い、会社に対して雇い止めの無効を主張することも可能です。
裁判所は、実質的に正社員と変わらない状況にある有期契約社員の雇い止めは、解雇に準じて考えるべきと判断しています。つまり、会社が解雇と同様の手続をとらず、正当な理由がないままに雇い止めを行っても、無効になります。
もし雇い止めに遭ったときは、こうした事実を伝えた上で、会社に撤回を求めたり、行政のあっせん手続、裁判や労働審判などを利用して解決することもできます。早い段階で弁護士に相談し、力になってもらうことも考えましょう。
まとめ以上のように、職場を辞めるときには、法律の規定とも絡んで、複雑な決まりごとに従う必要があります。また、会社が解雇や雇い止めを行ったときも、法律の決まりを守っていなければ、後から裁判などで効力を無くすことも可能です。
解雇や雇い止めなどのトラブルには遭遇しないことが1番です。しかし不幸にも遭ってしまったときは、今回解説したように、さまざまな方法で保護を受けることができること、会社と争うことも可能であることを、ぜひ思い出していただきたいと思います。
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