退職時に海外留学費用を請求されるか

User image 1 lu_e88b59e0さん 2018年12月16日 10時01分

御教示いただけますと幸いに存じます。
企業にて、ある分野の専門家として働いています。その分野の最先端の研究をするため、会社の海外留学制度を利用して大学で研究を行いました。帰国して一年経たないくらいです。事前に誓約書に署名しており、内容的には「留学に係る費用はすべて貸すが、3年働いたら免除する」というものです。裏返すと、3年以内に自主退職したらそのときの給料含め全部返して下さい」というものです。
他のHPを見ておりますと、返還する必要が生じるかは留学に業務性があるか否かが重要だと書かれてありました。私の場合、業務の中心となっている専門性についての最先端の研究を行なっておりましたので、業務性は十分あると思ったのですがいかがでしょうか?帰国後も同じ専門分野に従事しています。正直なところ、行なっていたのは最先端の研究であるがゆえ、その研究内容を帰国後に使う機会はまだないですが、必要な際に使える体制は会社内で整っております。
このような状況で自主退職した場合、費用返還を請求される可能性は高いでしょうか?また、請求された場合どこまで返す必要がありますでしょうか?ちなみに、学生として在学していたわけではないので受験料や授業料は一切生じておりません。引っ越し費用や新生活準備金も返す必要ありでしょうか?
宜しくお願い致します。

1 社員の海外留学費用の返還義務の問題は,有名な長谷工コーポレーション事件では労基法16条の損害賠償予約の禁止に違反するかどうかが争点となりました。
それ以降は,企業側も労働契約と別の賃貸借契約で条件付きの返還免除の体裁を取るようになっているようです。すなわち,貸し付けとして一定年数勤務すれば返還を免除するというものです。企業からみての人材育成と労働者の転職の自由のせめぎ合いで,なかなか難しい問題を含んでおります。ご指摘の海外留学の専門性あるいは業務性は判断において重要な要素であることは間違いありません。しかし,賃貸借契約で条件付きの返還免除であるとしても,紛争となることは多々あるようです。
2 学生ではなく,海外の大学で研究されたと言うことですが,在籍のままですから賃金の支払いを受けたのは当然としても,学生でないために,会社が代わって支払った費用というのはどのようなものがあるのでしょうか。例示されている引っ越し費用や新生活準備金以外に,大学での研究というのは研究所,研究室がイメージされますが,そもそも研究員として大学に対して支払うべき費用は何があるのでしょうか。また,海外の生活であるために,物価習慣の違いから支出も増加するので海外赴任手当に類したものも支給されていたのでしょうか。
3 私は,会社の海外「留学」制度を利用して海外で会社にいるときと同様に研究を指定我が,その内容が専門性のある先端性のあるものであって,業務性は満たしていると考えています。
また,返還義務の対象となるものは正確には留学とは異なり海外赴任に類したものである以上は,そもそも何が該当するのかが,不明です。返還義務は抽象的なものとして形式的な縛りに過ぎないと理解できそうです。
4 仮に,何らかの返還義務の対象となる貸し付け部分が存在するとして,問題となるのは,3年間という期間です。労働者の転職の自由を不当に拘束するおそれがあるからです。しかし,企業としては,専門性,しかも先端性のあるもので今後の開発を予定していたというのであれば,会社にとって期待権の侵害だけではなく,同業他社への流出を危惧するものと考えられます。海外研究として具体的なテーマを与えられていたかどうかと言うことに関係すると思います。もし,そのテーマが今後の事業展開のために必要不可欠であれば,事業の立ち上げ準備の段階まで在職を求めるために3年間というのはあながち不当に長いとも言えないからです。なお,余談ですが,そのような場合には,退職時に秘密保持契約を締結することも考えられます。
5 なかなか難しい問題ですが,通常の海外留学に伴う返還義務の側面もありつつも,新規事業の開発準備及び競合禁止,さらには分野は不明なので推測ですが特許権も関わる別の側面が大きな様な気がします。
断定的なことは言えませんが,もし,海外研究で得た成果を会社の先端の新規事業で活用する状況では到底ないのであれば3年間というのは意味もなく空文と言え,その前の退職も可能と思います。また,対象として例示されている引っ越し費用や新生活準備金の返還義務はないと考えます。そして,その他に返還義務の対象となるものを現段階では思い浮かべることができません。

2018年12月16日 11時56分
補足質問
User image 1

lu_e88b59e0 - 2018年12月16日 21時11分

岡田先生、早速のご返答ありがとうございます。本当に助かります。先生の1~5のナンバリングに準じて再度質問及び回答させていただいても宜しいでしょうか?

1については追加ございません。承知致しました。

2ですが、研究員として研究所に支払った費用は一切ございません。海外赴任手当という形での支給はありませんでしたが、毎月の給料は物価の違いを勘案して設定されておりました。10%程度の増加だと思います。あとは①航空券、②ビザ取得関連費、③海外での賃貸料、④家族の英語教材費、⑤渡航前の検診費(留学の際の義務)、⑥通勤費、⑦家や通勤車の保険代などです。これらで返還に該当するものはございますでしょうか?また、①~⑦以外の引っ越し費用や新生活準備金含め、該当及び非該当それぞれの理由をご教示いただけますと大変助かります。ちなみに、他社で詳しい方に伺ったところ①の航空券代は該当するだろうとのことでした。

3については追加ございません。有難うございます。

4についてですが、海外研究としてのテーマは、会社から具体的に与えられたものではありませんでした。やるなら最先端かつ利用有用性の高いものをということで自分が設定し、会社の了承を得ました。よって、今後の事業展開のために必要不可欠というものではありません。

5についてですが、研究内容は特許に該当するものでもないと考えられます。また、研究内容は会社の許可のもと、既に学会発表や論文として公表済みです。とはいえ自分が世界一その内容を扱える人間ではあると思う一方、分かる人であれば論文を見てその技術を適用可能と考えられます。このような状況で懸念点がありましたら、ご教示頂けますと幸いです。

以上、2及び5において追加質問をさせていただきました。おてすきでご教示いただけますと幸いです。宜しくお願いいたします。
補足回答
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岡田 正樹 弁護士 - 2018年12月16日 21時32分

2ですが、研究員として研究所に支払った費用は一切ございません。海外赴任手当という形での支給はありませんでしたが、毎月の給料は物価の違いを勘案して設定されておりました。10%程度の増加だと思います。あとは①航空券、②ビザ取得関連費、③海外での賃貸料、④家族の英語教材費、⑤渡航前の検診費(留学の際の義務)、⑥通勤費、⑦家や通勤車の保険代などです。これらで返還に該当するものはございますでしょうか?
→私は,基本的に海外留学と言うより海外赴任と言うべきだと理解をしています。
そう考えると,すべて海外赴任に不可欠なものであると考え返還義務はないと言えます。若干④については,議論の余地はありますが,家族同行を認めていたならば関連性があり返還義務を否定できると考えます。

4についてですが、海外研究としてのテーマは、会社から具体的に与えられたものではありませんでした。やるなら最先端かつ利用有用性の高いものをということで自分が設定し、会社の了承を得ました。よって、今後の事業展開のために必要不可欠というものではありません。
→そうなると,業務性はありつつも,会社からの事業展開のための拘束を受ける程度は低いと言えそうですね。

5についてですが、研究内容は特許に該当するものでもないと考えられます。また、研究内容は会社の許可のもと、既に学会発表や論文として公表済みです。とはいえ自分が世界一その内容を扱える人間ではあると思う一方、分かる人であれば論文を見てその技術を適用可能と考えられます。このような状況で懸念点がありましたら、ご教示頂けますと幸いです。
→そうなると,既に海外研究成果というか果実は会社に還元済みと言えます。他方では,会社からみると,他者への移籍が競合関係となり脅威に感じることも予想できます。しかし,「自分が世界一その内容を扱える人間ではあると思う一方、分かる人であれば論文を見てその技術を適用可能と考えられます。」という点の評価ですが,会社の研究を共にしている同僚や上司の方も技術の適用可能ということであれば,3年間の拘束は行き過ぎと言えます。

【結論】
条件付きの返還免除としての貸借関係というよりも,家族同行の海外赴任に当然に必要な費用を会社として負担に過ぎず,そもそも返還請求の対象となるものは全くないとまで断定できるかは議論の余地がありますが,ほとんどないと言えます。
したがって,支給したものを海外留学と同視して返還義務を負うとする主張を会社がするのは失当,さらに言えば違法の可能性さえもあります。
さらに,退職を3年間禁止して,その禁止解除の条件として返還義務を課していることは,不当に転職の自由,特に同業他社への頭脳流出に対する威嚇的効果をもたらすものであって,損害賠償予定の禁止を定める労基法16条違反であると言えます。

投稿時の情報です。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。

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