セクハラ

それってセクハラ?疑わしい言動は避けて正解。被害への対処も
日常生活のちょっとした会話の中で、「もう、それってセクハラですよ!」という冗談めかしたやり取りをしたことがある方は多いことでしょう。しかし、冗談ですませることができない深刻なケースも存在します。中には、民事訴訟に発展するケースもあります。法律上問題になり得るセクハラとはどういったものでしょうか。
セクハラとはセクハラとはセクシャルハラスメント( sexual harassment)の略語で、「性的嫌がらせ」の意味で用いられている言葉です。日本では1980年代から使われ始め、1989年の新語・流行語大賞にも選ばれています。
法律上、「セクハラ」という単語は登場しませんが、男女雇用機会均等法(以下、均等法とします)11条の「職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置」が、職場におけるセクハラ対策について定めています。職場におけるセクハラとは、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により職場環境が害されることです。これは、異性に対するものだけでなく、同性に対するものも含まれます。
セクハラとみなされる可能性のある言動均等法上の「性的な言動」
性的な言動とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指します。
性的な内容の発言とは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなどがあります。
性的な行動とは、性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を頒布・掲示すること、強制わいせつ行為、強姦などです。
セクハラの種類
職場におけるセクハラには、「対価型」と「環境型」があります。
「対価型」とは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の反応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。具体例としては、上司が部下に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇や降格とすることなどが挙げられます。
「環境型」とは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。環境型は、さらに「視覚型」「発言型」「身体接触型」に分けられます。具体例としては、職場にわいせつなポスターが掲示してあったり(視覚型)、職場内で性的な会話が行われたりして(発言型)、それを労働者が苦痛に感じて業務に集中できないことや、職場内で上司が部下の身体に度々触ったため(身体接触型)、その労働者が苦痛を感じて就業意欲が低下していることなどが挙げられます。
セクハラと判断される基準
苦痛の感じ方には個人差や男女差があります。そこで、「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境を害される」に該当するかどうかは、被害にあった労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性をもたせるため、「平均的な女性労働者(男性労働者)の感じ方」を基準に判断されます。
また、セクハラが行われる状況は多様ですので、個別の状況を斟酌して判断する必要があります。性的な言動が一回のみであったとしても、それが強い精神的苦痛を伴うものであれば、就業環境を害されたといえます。また、個々の言動がそれほど強い苦痛を伴わないとしても、反復継続して行われており、抗議しても中止されない場合には、就業環境が害されたといえます。
セクハラに対する処分や処罰職場内での処分
均等法11条は、セクハラが起きないように労働者からの相談に応じて適切な対応をするための体制を整備しなければならないと定めています。
就業規則にセクハラに関する規定が設けられている場合、それに基づき、加害者に対して指導・注意や配置転換・降格・懲戒などの処分が行われます。
民法上の不法行為責任(民法709条、710条)
違法な行為により他人に物理的・精神的損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負います。セクハラ行為により被害者に精神的苦痛を与えた場合、加害者は不法行為に基づく損害賠償責任(慰謝料の支払義務)を負う場合があります。
刑事責任
身体を執拗に触る、性行為を強要するなど、セクハラの中でも最も重大なケースについては、加害者が刑事責任を負う場合もあります。具体的には、強制わいせつ罪(刑法176条)、強姦罪(刑法199条)などが成立し得ます。
事業所に対する指導等
上記3つはセクハラ行為を行った本人に対する処分及び本人が負う責任ですが、事業所に対しても処分が行われる場合があります。
均等法11条は、事業所に対してセクハラ防止のための態勢をとらなければならないことを定めています。これに違反する事実の有無を確認する必要があるとき、厚生労働省は事業主に対して報告を求め、または助言、指導、もしくは勧告をすることができます(均等法29条)。事業主が勧告に従わない場合は、その事実を公表することができます(均等法30条)。また、厚生労働大臣の報告の求めに応じなかった、あるいは虚偽の報告を行った事業主に対しては、20万円以下の過料が科されることとなります(均等法33条)。
セクハラの被害にあってしまった時は相談窓口
被害にあってしまった時は、まずははっきりと相手に拒絶の意思を示し、セクハラだと相手に伝えましょう。また、セクハラは当事者だけの問題ではなく、職場全体の問題です。人事労務の担当者や、信頼できる上司に相談しましょう。労働組合がある場合は、労働組合に相談するという方法もあります。
職場で取り合ってもらえない場合や、外部に相談したいときは、都道府県の労働局や、労働基準監督署、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
相談をする際には、問題となる行為があった日時、場所、どんな言動があったかなどをメモにまとめておくとよいでしょう。また、会話を録音したものや、写真・動画などがあれば、裁判になった際に重要な証拠となります。
セクハラと労災
セクハラにより精神障害を発病した場合、厚生労働省が定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準」を満たせば、労災として認定されるケースもあります。具体的には、(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること、(2)精神障害の発病前おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること、(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害を発病したとは認められないこと、の三要件を満たす場合、労災として認定されます。
労災請求をするためには、まずは最寄りの都道府県労働局(セクハラによる精神障害の労災請求に関する窓口があります)または労働基準監督署に相談をしましょう。
セクハラに悩んでいていても、職場の人間関係の悪化を懸念して、なかなか相談できないという方もいらっしゃるかもしれません。ただ、我慢したり無視したりするだけでは、事態をさらに悪化させてしまう可能性もあり、また、新たな被害者が生じてしまう可能性もあります。自分一人で悩まず、誰かに相談することが、職場全体の問題を解決することにもつながります。まずは、勇気を出して相談してみることが大切です。
セクハラを得意としている弁護士
小原 望 弁護士 大阪府
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軽率な行動でセクハラとして訴えられそうです。