借金の完済後または返済中、過払い金の発生に気付くケースがあります。
その場合は速やかに過払い金の返還請求を検討するべきです。
ですが、請求する際のデメリットと注意点を前もって把握しておいた方が良いでしょう。
そうしないと貸金業者に返還請求をした際、想定外のトラブルが発生する可能性もあります。
そこで過払い金返還請求のメリットやデメリット、注意点などを私達がリサーチしましたので、本記事で解説します。
過払い金の仕組みについて
過払い金とは、利息制限法の上限金利で算定される金利額を超え、余分に支払ったお金を指します。過払い金は長年にわたって、借金の返済を続けているケースで発生する可能性もあり、注意が必要です。
そもそも金利は「出資法」「利息制限法」という2つの法律で規定されています。ただし、貸金業法改正前の上限金利にはそれぞれ次のような違いがありました。
- 出資法:29.2%
- 利息制限法:15%~20%(貸付金額に応じ異なる)
双方の上限金利には9.2%~14.2%もの差があります。
この上限金利の差にあたる部分は「グレーゾーン金利」と呼ばれ、多数の貸金業者・クレジットカード業者がこのグレーゾーン金利を設定していました。
そのため、利息制限法の上限を超える金利が発生していたのです。
しかし、2006年1月13日の最高裁判所の判決で、グレーゾーン金利にあたる利息の支払いは無効と判示されました(出典:裁判例検索「平成18年1月13日最高裁判所第二小法廷判決」裁判所)。
その後、2010年6月18日に改正貸金業法が完全施行し、出資法の金利を20%までに限定、グレーゾーン金利は撤廃されています。
過払い金請求のメリット
改正以前の取引で過払い金が発生している場合、払い過ぎたお金を取り戻せる可能性があります。
また、お金を借りていた貸金業者・クレジットカード業者に、過払い金の返還を請求する場合、既に完済しているならば信用情報機関へ事故情報が登録されるおそれもありません。
返還されたお金は日々の生活費やレジャー、預金に回せます。
過払い金請求の3つのデメリット
過払い金があったならば、すぐに返還請求をしたいはずです。ただし、返還請求を行う前に次の3つのデメリットも確認しておきましょう。
- 信用情報機関に登録される可能性がある
- 膨大な手間と時間のかかる可能性がある
- 借金の事実を家族に知られてしまう可能性がある
ここでは、それぞれのデメリットを解説していきます。
(1)信用情報機関に登録される可能性がある
借金を完済しない内に過払い金の返還請求をした場合、信用情報機関に事故情報が登録されてしまうおそれもあります。
信用情報機関とは、金融事故の有無等の情報を管理し、クレジットカード会社・金融機関・消費者金融へ情報提供する機関です。
この信用情報機関に登録されると新規の借入の他、クレジットカードの作成もできなくなる可能性があります。
過払い金返還請求があった場合、貸金業者は債務整理と同じく一時的に事故情報として信用情報機関へ登録するケースがあるのです。
そのため、信用情報の登録期間中は借入、クレジットカードの作成が難しくなるのです。
一方、借金の完済後に過払い金返還請求をした場合は、信用情報機関には登録されません。
ただし、請求先の貸金業者のリストに過払い金返還の事実が記録され、同じ貸金業者で再び借入をするのは難しくなる可能性があります。
(2)膨大な手間と時間のかかる可能性がある
過払い金が発生しているのかどうかの計算、発生していた場合の貸金業者との交渉等、一連の返還請求手続きを自分一人で行うと、非常に手間がかかります。
①過払い金の計算方法
過払い金の計算方法は次の通りです。例をあげて算定してみましょう。
現在の金利は年20%なので、返済金額は360万円(300万円×20%=360万円)です。
したがって、返済額の差額である15万円が過払い金となります。
ただし、自分で計算した過払い金額が1円でも間違えていると、貸金業者から相手にされないケースも考えられます。
②返還請求したものの交渉が進まないおそれもある
過払い金額を正確に計算できたとしても、債権者である貸金業者と返還交渉で揉めてしまい、手続きがなかなか進まないケースも想定されます。
貸金業者は請求者が法律の素人だからと、返還に応じない等、強気の姿勢で対応する場合も考えられます。
また、請求先の貸金業者から電話や通知を通して、貸金業者に有利な和解案を執拗に提示され、精神的に追いつめられてしまうおそれもあります。
貸金業者と円滑な交渉を行うためには、過払い金返還請求に関して豊富な知識・経験を有する専門家の助力が必要となるでしょう。
(3)借金の事実を家族に知られてしまう可能性がある
債権者である貸金業者との交渉が順調に進み、書面上のやりとりを行っていたケースでも安心はできません。
家族にその書面を発見された場合、借金の事実が発覚してしまいます。
借金の事実を隠したまま、過払い金返還請求を行っていたならば、家族から借金をした目的や金額について問われ、不信感を持たれてしまうおそれがあります。
過払い金返還請求を行う前の注意点
過払い金返還請求を決断しても、主に注意を要するポイントは以下の通りです。
- すでに過払い金は時効となっている場合がある
- 過払い金返還請求の対象外となるローンがある
- 貸金業者が倒産している可能性もある
ここでは、それぞれの注意点について解説していきます。
(1)すでに過払い金は時効となっている場合がある
過払い金返還請求は、2010年6月17日以前に借金をしたケースが対象です。ただし、その期間に該当する借金全てが対象となるわけではありません。
返還請求には消滅時効があり、債務を完済してから10年が経過すると、もはや行使ができなくなります。
例えば2004年5月1日に借金をして、2019年に5月1日に完済した場合、過払い金は2029年の5月1日に消滅時効となります。
完済から10年も猶予があると安心し「いずれ過払い金があるかを確認して請求する。」と、確認を後回しにしてしまうかもしれません。
しかし、時効は確実に進行していくので、なるべく早く過払い金の有無を確認し、返還請求の準備を進めた方が無難です。
(2)過払い金請求の対象外となるローンがある
過払い金返還請求の対象となるのは、利息制限法の上限金利(15%以上)が適用される借金です。次のようなサービスが該当します。
- 消費者金融のカードローン
- クレジットカードのキャッシングサービス 等
低金利(15%以下)の自動車ローン・教育ローン・住宅ローンは対象外です。
(3)貸金業者が倒産している可能性もある
貸金業者といっても民間会社である以上、経営状態の悪化で倒産しているケースも想定されます。
①原則として過払い金請求はできない
貸金業者が倒産した場合、請求先がなくなってしまうのでもはや過払い金請求はできません。
ただし、請求先の貸金業者が倒産しても、別の貸金業者に債権譲渡がなされているなら、過払い金請求ができる可能性はあります。
つまり、たとえ倒産しても過払い金の事実が消えるわけではなく、倒産した貸金業者の債権を引き継いだ別の業者に返還を求められるのです。
②過払い金があるとき、配当金が出るケースもある
貸金業者が倒産した場合、過払い金があるときには配当金を受け取れるケースもあります。ただし、配当率は非常に低く1%〜3%程度と言われています。
つまり、200万円の過払い金があった場合、配当率が多くてもわずか6万円しか戻りません。そのため貸金業者が倒産する前に、なるべく早く過払い金返還請求の準備を進めましょう。
過払い金返還請求を弁護士や司法書士に依頼するメリット
過払い金返還請求を行う際は、正確な過払い金の計算と迅速な返還請求手続きが必要です。
そのため、自分一人で対応するのではなく専門家の力を借りて請求した方が、過払い金の返還に成功する可能性が高くなります。
(1)過払い金について相談できる専門家
過払い金を何とかしたいと考えた場合、相談できる法律の専門家として「弁護士」「司法書士」があげられます。
いずれも過払い金の返還請求に関して専門的な知識を有しています。それぞれの特徴を比較してみましょう。
専門家 | 弁護士 | 司法書士 |
---|---|---|
過払い金に関する制約 | なし。 どんなに過払い金があっても依頼者の代理人として対応可能。 |
原則として代理は不可能。 ただし、認定司法書士(簡易訴訟代理等能力認定考査合格者)の場合、簡易裁判所にて140万円以下の過払い金を扱える |
(2)過払い金返還請求を専門家に依頼するメリット
弁護士等の専門家に依頼すれば、面倒な貸金業者とのやり取りや、返還請求手続きを任せることが可能です。
①貸金業者とのやり取りは弁護士等が行う
貸金業者からの取引履歴の取り寄せ、引き直し計算、貸金業者との交渉もすべて弁護士等が担当します。弁護士等に依頼した場合、貸金業者が依頼者へ直接連絡や書類の送付はできなくなります。
また、借金を返済中、過払い金の返還請求をするならば、貸金業者からの督促の停止も可能です。
そのため、依頼者本人・その家族は過払い金返還請求をしている間、貸金業者から返済を迫られず、生活基盤の見直しはもちろん精神的な負担の軽減も図れるはずです。
②過払い金返還請求の裁判手続きがスムーズに行える
弁護士(140万円以下の過払い金ならば認定司法書士も可)に依頼すれば、過払い金返還請求の裁判手続きも任せられます。
もし、自分が裁判所に申し立てる際は、提出書類をどのように収集するべきか、手続きがどのように進められるのか、不明点が多いはずです。
しかし、弁護士等がスムーズに手続きを進めてくれるので、依頼者の手間や負担が軽減されます。
(3)弁護士等に依頼から返還請求までの手順
依頼したい弁護士事務所等が見つかったら、まずは過払い金返還請求の相談を行いましょう。
- 弁護士等に相談
- 取引履歴を取り寄せ
- 引き直し計算
- 過払い金返還請求書を送付
- 任意交渉開始
- 過払い金請求訴訟
返還請求の不明点や、手続きの流れ、報酬の見積もりを聞く。
依頼された弁護士等は貸金業者から取引履歴を取り寄せる。取引履歴で借金をしていた期間や金利は何%だったか、いくらずつ返済していたのかがわかる。
弁護士等が利息制限法の上限金利に合わせ引き直し計算。過払い金額を正確に算出する。
弁護士等が過払い金返還請求書を作成し、貸金業者へ送付する。
貸金業者と話し合いを行う(任意交渉)。これで合意ができれば過払い金の返還方法、期日等を決める。
任意交渉が不調に終わった場合、裁判所に訴えて過払い金請求を継続する。
もしも貸金業者が倒産していた場合は、倒産した貸金業者の債権を引き継いだ業者はどこかも弁護士等が調査してくれます。
また、貸金業者との調整・交渉は弁護士等が担当するので、貸金業者が依頼者宅へ押しかけたり、電話で執拗に強引な和解を求めたりはしないので安心してください。
(4)弁護士等に依頼した場合の報酬の目安
弁護士や司法書士に過払い金返還請求を依頼した場合、報酬等がかかります。報酬等は事務所ごとで自由に料金を設定できるので、相談の際に料金をしっかりと確認しておきましょう。
弁護士・司法書士の報酬の目安・相場は概ね下表の通りです。
専門家 | 弁護士 | 司法書士 |
---|---|---|
相談料 | 30分 5,000円程度 ※初回無料の事務所もあり |
30分 5,000円程度 ※初回無料の事務所もあり |
着手金 | 無料にしている事務所が多い | 無料にしている事務所が多い |
成功報酬 | 20%~22% ※過払い金請求訴訟の場合は27%程度に設定している事務所もある |
18%~22% |
また、返還請求に失敗したら、基本的に報酬を受け取らない事務所が多いです。
成功報酬も「一律〇〇万円」と設定されておらず、どのくらい過払い金が返還されるかで成功報酬も変わってきます。
例えば成功報酬20%の場合、100万円の過払い金が返還されたら、そのうち20万円は弁護士の報酬です。
なお、訴訟に進んだ場合、訴状に貼る印紙代・切手代・資格証明書の取得費用等、訴訟実費もかかります。
まとめ
過払い金返還請求をすれば、払い過ぎたお金が戻ってくる可能性はあります。
しかし、過払い金返還請求では信用情報機関に登録されるケースがあったり、時間や手間がかかったりします。
そのため、過払い金返還請求に実績のある法律の専門家へ依頼し、助言を受けつつ、請求の手続きを進めていきましょう。
過払い金返還請求に関して経験豊かな弁護士等は、そのホームページにて、過払い金の話題を豊富に掲載しているはずです。中には返還実績を掲示している事務所もあります。
まずは依頼したい専門家を選び、相談してみてはいかがでしょうか。