借金の返済に困っている方々を対象として、返済期限の延長や返済金額を免除・減額してもらう方法が「債務整理」です。債務整理には大きく分けて、次の4種類があります。
- 自己破産
- 個人再生
- 任意整理
- 特定調停
ただし、債務者(借金をした人)が自由に4種類の方法を選べるわけではなく、利用に関して条件が設定されている場合もあります。
また、各債務整理の方法にはそれぞれにメリットや注意点があり、自分の経済状態やニーズに合った債務整理を慎重に検討する必要があるでしょう。
債務整理をするべきなのか、それとも債務整理をせずに借金の完済を目指すべきなのか悩みはつきないのではないでしょうか。
私達がリサーチした内容をまとめた本記事では、4種類の債務整理の特徴やメリット・デメリット、債務整理を弁護士や司法書士などの専門家へ依頼する必要性について解説します。
目次
債務整理の種類は4つ
消費者金融や金融機関(例:銀行等)から借金(クレジットカードのリボ払いや、カードローンなども含む)をしたものの、その後に返済が行き詰り、何とか返済期限の延長や返済金額を免除・減額してもらえないか、悩んでいる人は多いはずです。
そんな時に検討するのが「債務整理」です。この債務整理には次の4種類があります。
債務整理 | 自己破産 | 個人再生 | 任意整理 | 特定調停 |
---|---|---|---|---|
特徴 | 借金の免除 |
|
|
|
裁判所の関与 | 有り | 有り | 無し | 有り |
整理対象 | 全債務 | 住宅ローン除く全債務 | 選択可能 | 選択可能 |
資格制限 | 有り | 無し | 無し | 無し |
これらの債務整理を実施すれば、債務者の負担の免除・軽減が期待できます。ただし、債務整理には共通したデメリットもあります。
それは、債務整理を行った場合は、いわゆるブラックリストと呼ばれる信用情報機関に事故情報として登録されてしまう点です。登録された場合、新たなカーローン・住宅ローンの契約等やクレジットカードの作成は、5年〜10年ほど難しくなります。
信用情報機関とは、金融事故に関する情報を管理・登録し、金融機関・消費者金融・クレジットカード会社へ情報提供する機関です。
自己破産のメリット・デメリット
自己破産は債務者の借金をチャラ(免除)にできる債務整理の方法です。自己破産を行う際は裁判所に申し立て、手続きに問題がなければ、原則的に免責(借金全部がリセット)の決定が下されます。
(1)自己破産の特徴
自己破産は次の種類に分かれます。
- 管財事件
- 少額管財事件
- 同時廃止事件
債務者に破産手続き費用を支出できる財産があると認められたとき進められる手続き。ただし、予納金等を負担する必要がある。管財事件では破産管財人が裁判所から選任され、債務者の財産を現金化して、全ての債権者へ債権額に応じ、平等に分配する。
弁護士が代理人になると行える手続き。予納金は低額に抑えられ、弁護士と破産管財人が協働して手続きを進める。
債務者に破産手続費用を賄う資力の無いとき、破産手続開始決定と同時に裁判所の決定がなされる手続き。破産管財人が選任されず、財産が現金化されることもない。
(2)自己破産のメリット
自己破産の最大のメリットはどんなに借金の総額が大きくとも、裁判所から認められれば全ての借金が免除される点です。
多額の借金を抱えていても将来の見通しが立てられるようになり、破産後に得られた財産は自分のものとなります。後日、債権者が差押えを行うリスクもありません。
(3)自己破産のデメリット
想定される債務者のデメリットには、財産を処分されてしまう点があげられます。
基本的に債務者(破産者)名義の不動産や自動車等は現金化されてしまいます。
ただし、自由財産は、自己破産後も所有が認められています。
自由財産の例として、99万円以内の現金や残高が20万円以下の預貯金、差押えが禁止されている動産または債権等があります。
また、自己破産をすると一定期間就けない職業もあります。例えば弁護士・税理士・司法書士・行政書士等の士業資格の一部、貸金業や警備員等が資格制限の対象です。
その他、破産手続中は居住地を離れる場合、原則として裁判所の許可が必要となります。
個人再生のメリット・デメリット
個人再生とは、借金の大幅な減額が期待できる債務整理の方法です。個人再生を行う際は裁判所へ申し立てます。裁判所から再生計画が認められれば、借金の総額を最大1/10まで減額できます。
(1)個人再生の特徴
個人再生は2種類に分かれます。
- 小規模個人再生
- 給与所得者等再生
主に自営業者等が対象。
裁判所に申し立てる際、借金の総額(住宅ローン除く)が5,000万円以下で、かつ将来にわたり継続的な収入の見込みのあることが条件。
主にサラリーマンが対象。
裁判所に申し立てる際、借金の総額(住宅ローン除く)が5,000万円以下で、かつ将来にわたり継続的な収入の見込みがあり、更に収入は給料等でその金額も安定していることが条件。
小規模個人再生も給与所得者等再生も、減額された借金を原則3年間(特別な事情がある場合:最長5年)で分割し、返済する再生計画を立てなければいけません。
(2)個人再生のメリット
個人再生を申し立て、裁判所から認められた場合は次の上限まで返済金額が減額されます。下表をご覧ください。
借金総額 | 最低限返済しなければならない金額 |
---|---|
100万円未満 | 借金総額全部 |
100万~500万円以下 | 100万円 |
500万円超~1,500万円以下 | 借金総額の1/5 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 借金総額の1/10 |
更に給与所得者等再生の場合、上の表と可処分所得額(本人の収入の合計額から税金・最低生活費等を差し引いた金額)の2年分の金額とを比較し、その多い方の金額が最低限度の返済金額となります。
借金総額によっては1/10まで減額が可能となり、借金を返済しやすくなります。
また、自己破産のように財産を換価・処分されるおそれもないので、現在の生活水準をある程度維持したままで返済が可能です。
(3)個人再生のデメリット
個人再生の場合、一部の債権者に減額を希望し、その他の債権者には通常通り返済を継続する、というように柔軟な債務整理を行えない点がデメリットです。
つまり、個人再生を利用するならば、全ての借金(住宅ローンを除く)を整理対象とする必要があります。
また、個人再生は裁判所で手続きを行わなければいけません。その際に債務者(申立人)がたてた再生計画が審理されます。
裁判所から提出された再生計画案が非現実的で、返済は到底不可能と判断されてしまった場合、不認可となるケースも想定されます。
任意整理のメリット・デメリット
任意整理は債務者と債権者とで話し合い、借金返済の負担を軽減してもらう債務整理です。任意整理を行う場合、裁判所は関与しません。
(1)任意整理の特徴
任意整理の進め方は法律に明記されておらず、債務者の提案に債権者が応じれば、当事者間で話し合いが進められます。
債務者本人が直接債権者と話し合う場合、任意整理にかかる費用は債権者へ郵送する書類の切手代と、債権者との合意書に貼付する「収入印紙(※)」のみで足ります。概ね2,000円程度(ただし、交渉する債権者数により増加)という割安な負担で済むはずです。
※収入印紙:国に対する税金(印紙税・登録免許税等)や手数料等を支払う目的で発行される証票。印紙税法の課税文書(任意整理の場合は合意書)を作成した場合にも必要。
(2)任意整理のメリット
任意整理は債務者・各債権者の合意による柔軟な債務整理が期待できます。
例えば債権者が複数いる場合、債権者に借金の減額や返済期間の猶予を提案し、その他の債権者には通常通り返済を継続するという方法も可能です。
任意整理の場合、借金の減額を期待できるケースとして次の3つがあげられます。
- 遅延損害金
- 将来利息
- 経過利息
返済期日に返済しなかったペナルティとして課せられる損害賠償金
任意整理の和解成立後、完済するまでに発生する予定の利息
最後の返済日~任意整理の和解成立日までに発生した利息
なお元金自体の減額は非常に困難です。ただし、過払い金があったとき元金と相殺すれば、結果的に元金の減額ができたのと同じ状態となります。
(3)任意整理のデメリット
任意整理を債権者に提案する際、提出する返済計画案が通らないおそれもあります。返済計画案の提出が法定されているわけではないものの、交渉の際は債権者側から計画案を要求されるはずです。
債権者が納得できる返済計画案でなければ、和解に応じてくれない可能性が高くなります。そのため、任意整理に精通した専門家の力を借り、交渉を進めた方が良いでしょう。
特定調停のメリット・デメリット
特定調停とは、簡易裁判所の仲介を経つつ、債務者と債権者が借金の減額や返済期間の猶予を話し合う債務整理です。
(1)特定調停の特徴
簡易裁判所の調停委員が当事者の協議を仲裁し、返済条件・返済期間の延長等を決める債務整理です。債務者本人だけでも手続きを行いやすく、当事者が合意すれば調停成立となります。
話し合いに調停委員は関与しますが、任意整理のように借金の減額・返済期間の猶予を提案し、話し合いが進められていきます。
(2)特定調停のメリット
任意整理と同じく複数の債権者がいる場合、どの債権者と合意するのかを自由に選べる点がメリットです。
また、過払い金があったとき元金と相殺するよう提案できれば、元金の減額ができたのと同じ状態となります。
(3)特定調停のデメリット
特定調停は簡易裁判所を介した債権者との話し合いである以上、調停が不調に終わる可能性もあります。任意整理と同様に債権者が納得する返済計画案を出さないと、和解は非常に難しいです。
そのため、任意整理と同様に専門家の力を借りて、話し合いを進めた方が、調停が成立する可能性も高まるはずです。
債務整理を弁護士や司法書士に依頼するメリット
債務整理は債務者本人だけで進めても構いません。ただし、債務者が法律の素人である場合、裁判所への申し立てに手間取ったり、交渉の際に債権者がなかなか応じてくれなかったりする場合もあります。
その場合には法律の専門家である弁護士や司法書士に、サポートを依頼しましょう。
(1)弁護士や司法書士に依頼すれば手厚いサポートが期待できる
弁護士や司法書士は債務整理に関する幅広い知識を有している専門家です。サポートできる範囲は下表のようにそれぞれ異なります。
債務整理 | 弁護士 | 司法書士 |
---|---|---|
自己破産 | ◎ | △ ※書類作成・収集のみ可、代理不可 |
個人再生 | ◎ | △ ※書類作成・収集・再生計画案作成可、代理不可 |
任意整理 | ◎ | 〇 ※債権者(1社あたり)の主張する債権額が140万円超えの場合、代理不可 |
特定調停 | ◎ | 〇 ※債権者(1社あたり)の主張する債権額が140万円超えの場合、代理不可 |
弁護士に依頼すれば、全てのサポートが可能です。債務整理の書類作成・収集の代行、債務者の代理人として裁判所や債権者との交渉ができます。
なお、依頼を受けた弁護士・司法書士は、いずれも受任通知を債権者に送付してくれます。この送付をすれば、借金に関して弁護士・司法書士が担当窓口となります。
つまり、債権者は依頼者(債務者)へ直接連絡や書類を送付し、督促することができなくなります。債権者の執拗な督促が停止されるので、依頼者(債務者)や家族にとっては精神的な負担も軽減されるはずです。
(2)弁護士や司法書士に依頼した場合の費用・報酬の目安
弁護士や司法書士の費用は債務整理の種類等によって、下表のように差があります。
必ず負担する費用とは、たとえ弁護士や司法書士に依頼しなくても、債務整理を行うときにかかってしまう費用です。なお、債権者数や借金の総額によって、表の目安より大幅な費用負担となるケースも想定されます。
債務整理 | 必ず負担する費用 | 弁護士費用 | 司法書士費用 |
---|---|---|---|
自己破産 | 申立手数料・収入印紙・切手代・予納金数万円~ | 40万円~ | 30万円~ |
個人再生 | 申立手数料・収入印紙・切手代・予納金数万円~ | 40万円~ | 25万円~ |
任意整理 | 収入印紙・切手代約2,000円~ | 10万~30万円 | 10万~20万円 |
特定調停 | 申立手数料・収入印紙・切手代約10,000円~ | 10万~30万円 | 10万~20万円 |
まとめ
債務整理はいずれも債務者本人だけで手続きを進められます。
しかし、裁判所への申し立てや債権者との交渉には、少なからず法律的な知識が要求されるはずです。
そのため、債務整理を行う際は事前に法律の専門家である弁護士や司法書士へ相談し、助言やサポートを受けることをおすすめします。